第二部
「そりゃあもう凄かったんですから。救急車と消防車とパトカーが何台も来て……」
その夜の桜庭館では程近い国道で起きた大事故の話題で持ちきりだった。偶然現場に居合わせた妙子が興奮醒めやらぬ口調で身振り手振りを交えてまくし立てる。
昨晩とはうってかわって勢揃いした館の住人が身を乗り出して聞き入る中で、葵だけが心此処にあらずといった感じで食器を洗い続けている。
これまでに幾度と無く繰り返されてきた団欒の風景。だが、それがもう昨日までのソレとは決定的に違ってしまっている事を知っているのは葵本人だけだった。
女の躯の中でも最も敏感な三つの尖端が痛いほどに勃起している。膣の中の玩具が絶え間なく振動して葵を責め苛むのだ。
悪夢だと思いたかった。だが、未だに股の間に残る鈍痛が昨夜から今朝まで続いた惨劇は葵の淫夢などではなかったのだとはっきり証明していた。
彼が館を立ち去ってから葵は目まぐるしく働いた。館の住人が何時帰ってくるとも知れぬ状況で必死になって陵辱の痕跡を消した。
男と葵が出した様々な体液やその他諸々のものを片付け、窓を開けて生臭い匂いを飛ばし、自分自身もシャワーを浴びて精液の臭いを消そうとした。
出来ることならば陰毛で縫い合わされたヴァギナの封印も解いてしまいたかったが、一本だけを解いたところで断念せざるを得なかった。
それでも精一杯に股を開いて、男が葵の胎内に注ぎ込んだものをなんとかシャワーで洗い流そうとしたが、左右の陰唇が縫い止められている有様では如何ともしがたかった。
陰毛の結び目から伸びるコードの先のピンクローターのコントローラーをパンティの脇に挟んで紬の着物を着て帯を締めた所で玄関の方で声がした。間一髪だったのだ。
それから半日。葵は生々しい陵辱の記憶に苛まれながら、膣洞の異物感とピンクローターが送り込んでくる甘美な刺激と闘いながら、なんとか平静を取り繕っていたのだ。
脇の下にはびっしょりと汗をかき、股の間からは淫汁を滴らせながら平素を装うのは並大抵の苦労ではなかった。
頻繁にトイレに駆け込み、内股をべっとりと濡らす恥汁をペーパーで拭き取らなければ着ている物を汚してしまいかねなかった。
せめてもの対策として生理用のナプキンを股間にあてがってもみた。しかしたちまちのうちに吸収量の限界を超えたナプキンがパンパンに膨れ上がるのには閉口してしまった。
こんなナプキンをトイレの汚物入れに捨てる訳にもいかない。雅やティナ、妙子がそれを見つけてしまったら不審に思われるかもしれないからだ。
葵は仕方なくそれをトイレットペーパーでそっと包んで懐に収め、自室に持ち帰って屑カゴの中に捨てた。あの男が館を後にした今でも陵辱は休むことなく続けられているのだ。
今日一日はいつ何時あの男から電話が掛かってくるのではないかとヒヤヒヤしながら過ごしたが杞憂に終わった。だが早晩のうちに呼び出され、膨大な写真をちらつかされてまた男の欲望の捌け口とされるのは明白だった。
もう薫とは顔を合わせる積もりは無かった。何も言わずに館を後にして、彼の手の届かぬ土地に行って一生独身で過ごすのだという彼女の決意はタイミングを逸してしまったのだ。
(どうして……どうしてこんな汚れた躯でおめおめと薫様の前に……)
だが気が付けばいつも通りに夕食を作り、葵が辱められたテーブルの上に並べられた料理を皆で囲んでいる。
(明日こそ……明日こそ、お医者様の所に行って……それで薫様とはお別れを……)
こみ上げてくる涙を必死で堪える。
「どうしたの、葵ちゃん?」
思いを馳せていた薫当人から声を掛けられてはっとした。いつの間にか洗い物をしている手が止まっていたのだ。
「なっ、何でもありませんっ。ちょっと目に洗剤の泡が……」
涙が零れかけていた眦を袂でそっと拭って取り繕う。
「おっ、もうすぐ始まるバイ!」
居間では大画面のテレビを皆が囲んでいる。薫と葵もティナの声に釣られてそちらに目をやった。いつもこの時間から始まるニュース番組だ。
今日は他に大きな事件も無かったことから、先程話題に上っていた大事故のニュースが最初に報じられている。
ヘリコプターからの録画映像だろう。連なった車の列から真っ赤な炎と黒煙がもうもうと立ち昇っている。
『物凄い事故です! 一体何台の車が絡んでいるのかも判りません! レスキュー隊も必死の救出活動に当たっていますが、遅々として作業は進みません!
車の中に閉じ込められた人が一体何人いるのかも判っておりません! 県警や消防署では近隣の自治体にも援助を要請しており……』
葵さえも暫しの間、件の陵辱を忘れるほどの大事件だった。その後の調べではこの事故に絡んだ車は35台。重軽傷者が運び込まれた各病院では懸命の治療に当たっているが、現在時刻で判っている死者の数は8名。
高速道路上での出来事ならばともかく、一般の国道で起こった事故としては稀に見る大惨事だ。
目撃者によると、事の起こりは一人の男性が信号も何も無いところで国道を横断しようとして大型トラックに撥ねられたのが原因らしい。
トラックの運転手は車の目に飛び出してきた人影を見て咄嗟にブレーキを踏んだようだが間に合わずに男性を撥ね飛ばし、トラック自身もバランスを崩して横転。
そこに後続の車が次々に追突。タンクローリーまでもが巻き込まれたのが事態をより悲惨なものにした。
しかもそのトラックに撥ねられた男性は対向車線にまで弾き飛ばされ、反対側車線を走っていた別のトラックに再び撥ねられて元の車線まで弾き飛ばされ、次々に追突する車の列に巻き込まれたらしい。
即死だったと思われるとニュースキャスターが淡々と告げている。
「……なお、記者会見での発表によりますと、事故の発端となった男性は左右の安全確認もせずにトラックの前に飛び出したとの情報を得ており、
地元警察では自殺の可能性も視野に入れて今後の捜査を進める方針という事です。では……えっ? 男性の身元が判明? たった今入りました情報です。男性の身元が判りました。男性は○○大学に在籍する……」
「ええ〜ッ!?」
薫、ティナ、妙子の三人が揃って声を上げた。
「う、うちの学校ですよ?」
「あ〜ッ!! この人! この人、見たことあるバイ!!」
同じ大学に通う学生が事故と関係があるという情報は彼女達を驚かせるには充分なニュースだった。おそらくは集合写真から男の顔だけを切り抜いたものだろう、粒子の粗い顔写真がテレビの画面に映った。
「あれっ……確か、俺、こいつと同じゼミを取ってた事があるよ」
「凄〜い!! 先輩、知り合いなんですか?」
「いや、お互い口も利いた事も無いし……顔見知りってレベルかな。名前だって今はじめて聞いたよ」
だが、テレビの画面に映った顔写真を見て一番ショックを受けているのは他ならぬ葵だった。葵にもその顔に見覚えがあったのだ。
膝がガクガクと震えた。シンクの縁を掴んでいなければその場に崩れ落ちてしまいそうだった。
鮮やかに甦る半日前の忌まわしい陵辱の記憶。間違いない。忘れたくても忘れられない、葵にとって初めての男性。あの男だ。葵を辱めて尊い純潔を奪った憎むべき陵辱魔の顔だった。
あの男が、死んだのだ。
もう彼の手に返る事の無いピンクローターが葵の膣内で振動し続けている。伝い落ちる愛液がナプキンに両脇から溢れ出して内腿を膝の辺りまでべっとりと濡らしている。
卒倒してしまいそうだった。だが、今ここで倒れる訳にはいかないのだ。皿を持っている左手が知らず知らずのうちに震えているのに気付いた葵はそれを右手で押さえ込んだ。
それでもまだ、全身が瘧に罹ったかのように小刻みに震えている。体温が一気に2〜3℃も低くなった気さえする。
葵は呆然としながら、自分で自分を抱きかかえる様にしながら画面に視線を釘付けにされてしまっていた。
脱衣場と廊下を仕切る扉を閉めるのと同時に、葵の中で張り詰めていたものが一気に萎んで行く。
あの男が、死んだ。
現実とは思えなかった。その場でクナクナと崩れ落ちた葵は半信半疑で先ほどのニュースの内容を反芻していた。
どうやら彼はこの館を後にしたその足で事故現場に赴き、トラックに飛び込んだようだった。
葵を犯したあの巨躯がトラックに跳ね飛ばされ、更に反対斜線を走っていたトラックに再び跳ねられ、追突する車列の中に突っ込んで炎に焼かれたのだという。
俄かには信じられなかった。旺盛な性欲で葵を穢したあの彼がもうこの世にはいないのだ。
葵としては、彼が撮影した様々な自分の肢体のデータがどうなったのかも気に掛かる。あんなモノが他人の目に触れるような事になればもう葵は生きては行けないだろう。
だが当面の問題は、今も自分の股の間に堂々と鎮座している。こんな状態のままでは医者に行く事も出来ない。葵は気力を奮い立たせて、着ている物を脱ぎ始めた。
「あっ……」
ブラジャーを外す時に、カップの内側に乳首が擦れた。まるで皮が剥けてしまったのではないかと錯覚してしまう程に敏感になっている。
怖いもの見たさの誘惑に勝てなかった。葵は恐る恐る指先を乳房の先端に伸ばしてみた。
そっと触れてみる。硬い。親指と人差し指で摘んでみる。まるでガラス玉のようにカチカチになってしまっている。
(こ、こんな風にさせられて……)
乳首だけではない。充血した乳房全体が生理直前の様に張り詰めている。ずっしりとした量感を下から掬い上げて、その重さを掌で確かめる。
ほんの少し肩が楽になった。おそらく妙子も雅もティナも毎日こんな思いをしているのだ。
初めて人並みの小さい乳房のありがたみを知った葵だったが、穢されつくした今となってはそれは何の慰めにもならなかった。
浴室に入った葵は、昨日までと全く同じように左右の肩から湯を浴びた。そして檜の椅子に座ったまま、膝を大きく割り開いた。
「ひ……酷い……」
改めて目の当たりにする己のヴァギナの惨状に思わず涙ぐむ葵。陵辱の直後に自分で結び目を一つ解いた以外は彼が悪戯をしたままの状態だ。
当然の事ながら、いくら彼が死んだからといっても、彼が葵の身体に残した陵辱の証が消えることは無いのだ。
結び目の間から細いコードが伸び、その先のコントローラーがぶらぶらと左右に揺れている。
惨めだった。葵は浴室の外に漏れぬ様に小さな声ですすり泣いた。用を足す為に和式の便器に跨るようにがに股になって腰を落す葵。震える細い指先が陰毛で編まれた縄の結び目を解きに掛かる。
しっかりと固く結ばれたそれは指先に余程力を込めなければ解ける気配すら感じさせなかった。葵の肌にたちまち汗がじっとりと滲み出す。
いっそのこと断ち切り鋏で全ての結び目を切断してしまおうかと思わないでもなかったが、その後で医者に行くことを考えるとアンダーヘアの手入れの仕方を知らぬ葵にはそこまでの踏ん切りがつけられなかった。
股間を覗き込む葵の細い顎の先端から汗の滴がポタリと落ちた。必死の努力が身を結び、ようやく二つ目の結び目が解けたのだ。
(でも……まだこんなにある……)
全部の結び目を解くのには一体どれだけの時間が掛かるのか。時は一刻を争うのだ。医者に見せるのが遅くなればなるほど着床の危険性が増すのだ。
葵が必死の思いで結び目を解いている間もローターは彼女の膣の中で遠慮なく震え続けている。肉の割れ目からジクジクと漏れる粘液。
ぴったりと閉じあわされた陰唇の奥でクリトリスがビンビンに勃起しているのが手に取るように判ってしまう。
昨日までは意識することも其処にある事さえも知らなかった感覚器官が葵の身体の中で重要な位置を占めつつあるという現実。まるでたった数時間で自分の身体が別の肉体に造り変えられたかのようだった。
(もう……死んでしまいたい……)
絶望に心を塗りつぶされた葵の脳裏に浮かぶ逃避の誘惑。涙に濡れた黒い睫毛をそっと伏せ、瞼を閉じる。
あの男の顔が浮かんだ。
はっと目を見開く葵。あの男が地獄の底から呼んでいるのか。死後の世界でも葵を嬲りつくそうと手ぐすねを引いて待ち構えているのか。死後の世界というものがあるのか無いのか、勿論葵が知る筈もない。
だが今しがた自分の心に浮かんだ自殺の誘惑はあの男が向こう側から誘ってきたとしか思えなかった。
魂だけの存在となって未来永劫、永遠にあの男に犯され続けるのか。そのおぞましさに葵は身震いした。いまや死さえも葵にとっては安住の地とはなりえなかった。
物思いに耽る葵の耳に、浴室の外から音が聞こえた。館の住人はもう皆入浴を済ませた筈だった。
誰にも邪魔される事無く浴室に篭っていたかった葵が最後に湯を使うようにあれこれと用事を作っては自分の入浴を後へ後へと廻したのだ。
股の間から伸びるコードの先のコントローラーをブラブラさせている姿を他人に見せられる筈も無い。
誰かが扉を開けて脱衣場に入ってきている。あの男が葵の入浴中に脱衣場に忍び込んで汚れた下着を盗んでいった昨日の今日なのだ。葵が必要以上に敏感になって気にするのも無理のない事であった。
「だっ、誰っ……」
(まさか……!!)
彼なのか。あの男なのか。死して尚、自分の体に未練があるのか。地獄からあの男が甦ってきたとでもいうのだろうか。
ガソリンで丸焼きとなり、全身の骨を砕かれて血と脂肪の詰まったズタ袋と化したあの男が今晩も葵を犯しにきたのか。
歯の根が合わなかった。夏場だというのに全身に鳥肌が立った。
「俺だよ、葵ちゃん」
薫の声だった。
(どっ、どうして薫様がっ!?)
もうとうに入浴は済ませた筈だ。大体、こんな時間に薫が本館にいること自体がおかしいのだ。一体雅は何をしているのか。
いつもなら甲高い声を上げて薫を締め出すのが彼女の日課ではないか。今日に限ってどうしたというのだろうか。
「な、何か御用ですか?」
焦りを気取られぬように務めて平易な口調で浴室の扉の向こうの薫に尋ねる。
「いや、今日の葵ちゃん、どこか心ここにあらずって感じだったからさ。疲れてるのかなと思って」
必至で普段通りの自分を取り繕ったつもりだったが、薫はいつもと違う自分を見抜いてくれたのだ。
こみ上げる嬉しさとともに、そんな心遣いの細やかな薫と別れなければならない自分の境遇に思わず涙が零れそうになる。
「あ……ありがとうございます。最近暑いから寝苦しくて睡眠時間が少なくなっちゃって……でも、もう大丈夫です。お心遣いありがとうございます」
一体、自分は何時から口から出任せの嘘をスラスラと吐けるようになったのか。葵は自分の事ながら驚きを禁じえない。
「背中を流してあげるよ、葵ちゃん」
葵が薫の言葉の意味を理解するまで数秒の時間を要した。
「えっ……そ、それは……」
曇りガラスの向こうに浮かぶ人影はどうやら着ている物を脱いでいるようだ。
今の自分の姿を薫にだけは見られる訳にはいかない!
葵は乳房と股間を手で覆い隠しながら浴室の扉に駆け寄った。足の間でローターのコントローラーがブラブラと揺れた。
薫の手が扉に掛かるよりも一瞬早く、葵が扉を押さえつけた。
「お、お心遣いありがとうございます。薫様のそのお気持ちだけで充分です!」
なんとか薫を追い返そうとする葵。だが、扉の向こうの薫は思い掛けない強い力で扉を開けようとしてくる。
「遠慮なんかする事無いさ。葵ちゃん、ここを開けてよ」
いつもの薫らしくもなく強引だ。一体どうしてしまったというのだろうか。
「こっ……困りますッ……」
背中を扉に預けて拒む葵。昨日までの無垢な自分だったら一体どうしていただろうか。薫の強引な求めにきっと流されてしまっていたに違いない。
だが、今日は、今日だけは駄目なのだ。股の間からこんなモノをぶら下げている自分の姿を見せる訳にはいかないのだ。
ジリジリと扉の隙間が開いていく。今日の薫の行動は明らかにおかしかった。葵が嫌がることをするような薫ではなかった。
今までとは違った薫の一面を見せつけられたショックを隠しきれない葵。一体薫の中でどんな心境の変化があったというのだろうか。
埒も無い考えが再び頭をよぎった。あの男の霊が薫に取り憑いて……
いつもなら一笑に付してしまう考えがどうしても脳裏から離れない。大声を上げて雅達を呼ぶべきだろうか。
いや、もしも薫が正常ならば、そんな事をしようものなら彼の立場が無くなる。薫は葵の身体を気遣ってくれているだけなのだ。葵は窮地に追い込まれていた。
「ヘンな事はしないよ、葵ちゃん。約束するよ」
男と女が力比べをしたところで。結局女が勝てない事は昨日の経験で身を持って知らされた。いずれは薫が浴室に入ってくるのだ。
これを、コントローラーをどこかに隠さなくては。葵は広い浴室をぐるりと見回したが無意味な行動だった。
コードの先の本体は葵の胎内にあるのだ。抜くことが叶わぬ以上、浴室の何処かにそれを隠す訳にもいかない。
(お、お尻の間に挟めば……)
ただ一緒に湯船に浸かるだけならそれで何とか誤魔化せるかもしれない。
だが薫は葵の背中を流そうと言っているのだ。尻の間に挟んでも隠しきれる筈もない。
(……やっぱり……アソコしか……)
葵は唇を噛んで最後の手段を実行するかどうか、逡巡した。その方法は一番最初に思いついたのだが、実際にやるとなると躊躇わざるを得ない。
「Hな事は絶対にしないよ。葵ちゃんの事が心配なんだ」
もう時間は残されていなかった。葵は心を決めた。
コントローラーを手にとって、余ったコードをその周囲にグルグルと巻きつける。直径は2センチ程度。長さは6センチぐらいか。
これぐらいの太さと長さなら物理的に大丈夫な筈だった。今朝、自分の手で始末させられた野太い塊の事を思えば、これぐらい何とも無い筈だった。
葵はコントローラーの先端を後ろの孔にあてがった。コントローラーを肛門の中に隠すつもりなのだ。彼の目の前にこんな惨めな姿を曝すぐらいなら、自分の指で肛虐の洗礼を浴びるのも厭わぬ覚悟を葵は決めたのだ。
指先に力を込めて異物を菊肛に押し付ける。疣一つ無いこじんまりとした可憐な裏菊が押し潰される。
(お願い……入って……)
だが、葵の意に反してアヌスはなかなか異物を飲み込もうとしない。今まで中から外へ排泄する事しか知らなかった器官が、逆に異物を挿入されようとして拒否反応を起こしているのだ。葵は焦った。
葵は物心付いてから一度も浣腸の経験が無かった。便秘らしい便秘を経験せぬまま健やかに育った葵の肛門にとって初めての試練だった。緊張と焦りが肛門括約筋を更に絞り込んでしまう。
(ウンチを出す要領で……お尻の穴を緩めなくちゃ……)
深呼吸をした葵は肛門に意識を集中した。血の気を失うほどに引き絞られていたアヌスがふわっと緩んだ。
(そう、その調子よ……)
下腹部に力を入れると、まるで蕾が開くように菊肛が拡がった。鮮やかな桃色の腸壁がちらりと覗けた。
ここを先途とばかりに、葵がローターのコントローラーを押し込んだ。
(は、入った……入っちゃった……)
ズブズブと肛門に沈んでゆく異物。肛門の内側に引き攣れるような痛みが走る。だが葵はそれに構わず強引にコントローラーを奥に押し込んだ。外に出すだけだった器官に外から物を入れるという違和感が葵の背筋を駆け抜けた。
(お、おかしくなっちゃうッ……)
我知らず背徳の愉悦に慄く葵。白い喉元がグウッと仰け反った。だが異物の姿が完全に体内に消えると葵の気が緩んだ。
次の瞬間だった。
「あっ……」
思わず小さな声を上げてしまった。折角飲み込んだ異物を肛門が吐き出そうとしているのだ。菊皺を裏返しにしながらムリムリと排泄されてくるコントローラー。葵の心を再び絶望の厚い雲が覆いつくした。
(む、無理なの?)
だが他に手段は無いのだ。葵は決意を新たにした。少しでも異物を肛門に馴染ませる為に溢れ出す愛液を指で掬ってコントローラーに塗りつける。
もう今にも薫は入ってくるのかもしれないのだ。自らの恥汁にヌラヌラにまみれたコントローラーが再突入を図る。
「くっ……くうッ……」
必死に堪えていても悩ましい声が漏れてしまうのを止める事が出来ない。肛辱の妖しい愉悦は最初の時にも増して葵の全身を貫く。
やはり葵の自家製ローションが余程腸に馴染むのか、或いは肛門が異物を受け入れる悦びに目覚めた証左なのか。初回よりもスムーズにコントローラーが菊孔の奥に消えてゆく。
(も、もっと奥までッ……)
果たしてそれは先の失敗に範を得て陵辱の秘密を限界まで腸奥に隠そうとしているのか、はたまたアナルでの快楽に目覚めつつある葵が無意識のうちによる深い悦びを求めるために異物を奥に挿入しようとしているのか。
最早、それは熱にうかされた葵本人でさえも判らなかった。
コントローラーが完全に腸内に姿を消しても、葵は尚もそれを押し込んだ。白魚のような中指の先が肛門の内側に沈んでゆく。
第一関節を過ぎてもまだ止まる気配も見せずにズブズブとめり込んでゆく葵の指先。知らず知らずのうちに尻が床から浮き上がる。
ゆっくりと、控え目にではあるが、葵の腰がくねりだした。全身から汗が噴き出している。恍惚、とも取れる表情で葵は熱い吐息をはいた。
既に指は根元まで埋まっている。それでも尚も奥に異物を隠そうとして葵は中指を精一杯に伸ばした。
次の瞬間。葵の腰がガクガクと痙攣した。感極まったのか、天井を仰ぎ見る葵。
(な、何?……一体、私の躯は……どうなってしまったの?)
突然訪れたオルガズムに困惑を隠しきれない葵。理性の全てを根こそぎ吹き飛ばすような強烈なアクメが葵の中心を貫いたのだ。
だがそれでもいまの危機的な状況だけは忘れていなかった。肛門と会陰部に煙る和毛の間に前の孔と後ろの孔を繋いでいるコードを隠す。
更にその上から結び目を解く事に成功した僅かな恥毛を被せた所で葵は力尽きた。ガックリと両の手を床に付く葵。
室内からの抵抗を失った扉がガラリと開いた。咄嗟に乳房と草叢を手で隠した葵が肩越しに振り返る。そこには長身の薫が腰にタオルを巻いただけの格好で仁王立ちになっていた。
「こっ、困りますッ、薫様ッ……」
上気した頬を朱に染めて抗議する葵。
「いやぁ、ごめんごめん」
朗らかに笑って頭の後ろを掻く薫の様子は普段と何の変わりも無いように見える。流石に葵の頭の中からあの男の霊が薫に取り憑いているなどという馬鹿げた妄想は霧散していた。
「ホントに背中を流すだけだからさ。ほら、葵ちゃん」
薫が手を差し出した。だが、自分の両手はどちらも塞がっている。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
薫に背を向けて葵は何とか立ち上がった。
「あふぅッ!?」
その瞬間、ローターが葵のGスポットを直撃した。強引に肛門の奥に押し込まれたコントローラーに引きずられて前の孔で暖めている卵の位置が変わってしまったのだ。
「やっぱり疲れてるんだよ、葵ちゃん。ほら」
薫が大きな掌を葵の細い肩の上に乗せた。促されるままに歩かされ、檜の椅子に腰を掛けさせられる。
手桶に湯を汲む為に身体を屈めた薫の腰から巻かれていたタオルがハラリと落ちた。
「ッ!!」
巨根だった。どちらかといえば肩幅こそ広いものの身長のわりには細身の薫だったが、股間に屹立する剛直は余りにも葵の想像とはかけ離れていた。
もっともたった一人の男の持ち物しか知らぬ葵にとっては比較する物も他にない。
それどころか、あの男の持ち物と比べられては男性の平均的なソレを遥かに上回る薫の持ち物さえちょっと小さく感じられる程だったのだ。
だが、股間の威容は決して見劣りするものではない。男性器の持つ禍々しい雰囲気ではむしろ薫のモノの方が凌駕さえしているとさえ言えた。あの男の持ち物と決定的に違うのはその色だった。
大きさこそ立派だったものの、生白くてブヨブヨとしたイメージは肥満体の彼らしいといえばらしかった。それに比べて薫の持ち物はどうだ。真っ黒である。
日に焼ける筈のない雄の生殖器官は、まるでその部分にだけ黒人の持ち物を移植したのではないのかと思わせるほどにテカテカと黒光りしているのだ。それに加えて先端の笠も大きく開いている。
所謂カリ高だ。茎胴の太さではあの男に一歩譲らざるを得なかったが、亀頭の広がりでは充分に彼を凌いでいる。しかも茎胴が胡瓜のようにきつく反り返っているのだ。
男性経験の豊富な女性ならば、その威容を一目見ただけで女を泣かせるために生まれてきたような逸物と、経験の豊富さを裏付ける淫水焼けして黒光りする茎胴に身震いさえした事だろう。
しかし処女を失ったとはいえ、初心な葵にそこまで看破する力があろう筈もない。只々、二人の男性の持ち物の違いに唖然とするばかりであった。
「おっと、ごめんごめん」
薫が謝りながらタオルを拾い上げる。葵は自分が薫の股間を凝視していた事にようやく気付いてさっと視線を逸らした。
(くくくくくっ、予想通りのウブい反応だぜ)
真っ赤になって顔を背ける葵の様子を見て、薫は心の中でニンマリとほくそ笑んだ。
(俺のモノの形はしっかり覚えたか? なに、そのうち嫌でも身体で覚える事になるんだ。その時の為に、今晩は俺が身体をしっかりと磨いてやるよ)
石鹸をタオルに擦り付けて泡立てながら悪辣な企みを練る薫。
(さあて、桜庭葵の身体検査だ。桜庭家のお嬢様がどんな御道具をお持ちあそばされているのか、花菱の妾腹がじっくりと検分してやるよ)
そんな薫の真意に気付く筈も無い葵は、薫に背を流してもらう心地良さに昨晩の出来事を一瞬だけ忘れた。
細い項から女性らしい柔らかな撫肩、肩甲骨の美しい造形が浮かび上がった背中を丹念に、丁寧に洗う薫の手には淫らな思惑など感じられない。一瞬でも薫を疑った自分を葵は恥じた。
ひょっとして、昨日の出来事を自分の胸にだけ仕舞っておけば、またやり直せるのではないだろうか。葵の心に浮かぶ逡巡。
陵辱の限りを尽くした当の本人はもうこの世にはいないのだ。勿論それは薫を騙す事に他ならない。もしも全てを告白したら、それでも薫は自分を受け入れてくれるだろうか。
其処までの自信は葵には無かった。とにもかくにもまずは産婦人科に行ってからの話だ。万が一にも妊娠していればそれどころではないのだ。
気が付くと、薫の手はとっくの昔に細く括れたウェストを通り過ぎてムッチリと張り詰めたヒップを磨くようにして洗っている。タオル越しにではあるが、薫の指先が尻の谷間に滑り込む。
思わず身体を硬くする葵。薫の指と秘密を隠した肛門は目と鼻の先なのだ。だが葵の懸念は空振りに終わった。それ以上先に薫の指が進む事はなく、そっと離れていったのだ。
「ありがとうございました……」
肩越しに礼を言う葵。
「ほら、葵ちゃん。腕も洗ってあげるよ」
葵は迷った。しかしこれまでの薫の行動にはなんら下心があるようには思えなかった。
「それでは……お願いします」
乳房を覆い隠していた手を後ろに回した。昨夜舐り尽くされた乳房が重たげに揺れた。頂点に鎮座する乳首は相変わらず勃起したままだった。
脇の下から指の股まで、まるで大理石の女神像を磨くかのような繊細な手つきで薫が洗う。腋窪を洗った薫の手がそのまま脇腹に滑り落ちてゆく。
先刻までは葵が腕で前を隠していたので洗えなかった部分だ。胸の膨らみのすぐ脇を薫の手が通過する瞬間、どうしても身構えてしまう葵。
(大丈夫……薫様を信じるのよ……)
「はい、今度は反対側」
流石に草叢から手を放すのには躊躇いもあったが、薫を信じる事にした。
左手と同じように右手も磨き上げられてゆく。薫の手で洗われた事によって、昨晩の汚辱がほんの少しだけ薄れたような気がしてきた。
「あ、ありがとうございましッ、きゃああああッ!?」
葵が礼を述べようとした瞬間だった。両脇の下から薫の大きな掌がぬうっと伸びてきて、左右の胸の膨らみを直に鷲掴みにしたのだ。
「おおっと、手が滑っちゃった」
悪びれる様子も無くぬけぬけと言い放つ薫。だがその指先は葵の乳房をしっかりと握り締めてムニュムニュと柔らかい膨らみを揉み捏ねている。
「止めてッ!!止めて下さいッ、薫様ッ!!」
大きな掌の中で泡にまみれた白い乳房が弾んだ。
堪らずに葵は身体を屈めようとした。
(駄目ッ!!)
すんでの所で思い止まる葵。もしも身を屈めてしまえば肛門が薫の視線の前に曝される危険を孕んでいる。
だが反射的に脇を締めてしまったので薫の手は抜こうにも抜けない。もっとも薫にその意志があるのかどうかも疑わしい。信じていた薫に裏切られた葵は激しいショックを受けていた。
「ふふっ、敏感なんだね、葵ちゃん」
押し潰される乳房の頂点でポッチリと屹立する乳首を薫の指先が摘んだ。
「俺に背中を流されて感じたのかな?」
「違っ、違いますッ!!」
そう。それは葵の言うように決定的に違っていた。葵の乳首が尖っているのは抱卵しているローターの所為であり、自らの指で辱めたアナルのオルガズムの所為なのだ。
「ホントかな?」
「ほ、本当……あふうッ!」
女の乳房を扱い慣れた薫の指戯が葵の乳房の上で炸裂した。欲望に任せた童貞のがむしゃらな愛撫とは桁違いの熟練した乳揉み職人の技が葵の乳房を捏ね回す。
葵の声に力は無い。薫の指先から葵の全身に、水面の波紋のように快感が広がってゆく。
充分に硬くなっていた乳首が限界を超えて勃起させられてゆく。
平常時より二周りも大きく膨らんだ先端に血液が凝集する。カチカチに硬化したニップルが左右同時に薫の指先で弾かれた。
「ひあッ!!」
黒髪を振り乱して仰け反る葵。すかさず薫の右手が葵の草叢に伸びてゆく。
「駄目ッ!!」
咄嗟に膝を閉じて片手で股間を隠す葵。間一髪だった。寸前で門前払いを喰わされた薫の右手は落胆した様子も見せずに再び乳房に舞い戻る。
残された一本の手で必死に薫の掌を乳房から引き離そうとする葵。その間、もう片方の乳房は無防備に揉まれるがままになっている。
ようやく薫の片手を引き剥がして揉まれ続けたもう一方の乳房の救援に向かう葵。だが悪戦苦闘している間に、さっき引き剥がしたばかりの薫の手が再び乳房を鷲掴みにする。
乳房を巡る終わりの無いいたちごっこは圧倒的に葵に不利だった。
ゴム鞠のような弾力で指先を押し返してくる葵の乳房の感触を思う存分に愉しむ薫。葵は全身から脂汗を噴き出しながら仰け反り悶える。
草叢を上から押さえつけた掌はドクドクと溢れる愛液でベトベトだ。葵は本気で自分が嫌がっているのかどうかも判らなくなっていた。
触られてしまえば、男なら誰でもいいのか。それとも、愛する薫に触られているからこんなにも濡らしてしまうのか。
判らない。判らない。判らない。
内心の逡巡を示すように激しく頭を左右に振る葵。もう薫の手を引き剥がす事も諦めて、薫のテクニックに翻弄され続ける。
もう限界だった。このままではあと幾らもしないうちに絶頂に導かれてしまうに違いなかった。
このまま達したかった。女の悦びを薫の手で教えて欲しかった。だがこのままアクメを極めてしまえば、力の入らなくなった身体は容易く薫の手で開かれてしまうだろう。
これだけはと、葵が頑なに死守している秘密までもが彼の目に曝される事になるのだ。
それだけは何としても避けなければならない。葵は最後の力を振り絞って上半身を捻り、乳房が露わになるのにも構わずに薫の胸を突き放した。
「ごめんなさいッ、薫様ッ!!」
「おおっ!? うわあッ!!」
か細い葵の腕で押されただけなら薫も全然こたえなかったに違いない。
だが、浴室のタイルの上の石鹸の泡に足元を掬われた。元々無理な体勢で葵の胸を揉みしだいていたのも災いした。バランスを崩した薫の身体はものの見事に転倒した。
「すいませんっ、薫様っ」
転んだ薫をそのままにしていくのは気が引けたが、この場合はそんな事を言っていられなかった。
さっと股間と胸元を隠して大の字になった薫の傍を駆け抜ける。濡れた身体の上に浴衣を羽織ると、帯も締めずに脱衣場を飛び出した。
急いで自室に駆け戻り、襖を後ろ手でピシャリと閉めると背中を預けた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」
息が上がっていた。心臓が早鐘を打つ。激しい運動の所為ばかりではない。心の底から信頼していた薫に裏切られたショックに動転しているのだ。
じっと耳を済ませて襖の向こうの様子を窺う。葵の部屋に鍵は付いていない。もしも先程の様に薫が強引に侵入しようとすれば、もう葵には彼を止める手立ては残されていなかった。
ガラッ。
脱衣場の扉が開いた。
ギッ……
廊下が鳴った。
廊下を軋ませながら足音が近づいてくる。間違いない。この足音は薫のものだ。
身体を固くする葵。足音が止まった。履物を履く音がする。玄関の扉が開く音がした。どうやら今夜はこれ以上の行為に及ぶつもりは無いらしい。
安堵した葵は大きな溜息を一つ吐くとズルズルとその場にへたりこんだ。一気に緊張が解けたのだ。
「私……これからどうなってしまうの?……」
葵は天井を見上げて小さな声で呟いた。
改めて、自分の股の間の惨状を見せ付けられて葵は目を背けた。鏡に映って二つに増えた葵の恥部が羞恥心さえも二倍に増幅しているかのようだ。
浴室での薫の乳房襲撃の衝撃から一時間余りも経過して、ようやく人心地ついた葵は中断させられたヴァギナ封印の解除にノロノロと取り掛かり始めた。
綺麗に敷いた夜具の上に二つ折りにしたバスタオルを二枚重ね、その上に腰を下ろして葵の持っている手鏡のうちの一つを草叢のすぐ前に置いた。
この手鏡は持ち手の角度が変えられるように作られており、立ち鏡としても使えるようになっているのだ。
鏡面に映し出された自分の恥毛。万事において慎ましくお淑やかに育てられた葵がこんな風にして自分の股間を覗き見るのは初めての経験だった。
濃過ぎる陰毛の事はいつも心の何処かに引っ掛かってはいたのだが、こんな風に股座を凝視するのは怖いような気がしてこれまでそうした機会を得なかったのだ。
(いっ、いやらしい……)
こんな淫らがましいモノを今まで股の間に付けてきたのか。自分の躯の事なのに、自分が何も知らなかったという事実をまざまざと突きつけられて愕然とする葵。
クリトリスの存在にしてもそうだ。自分の体にあんな敏感な部分があるなどとはあの男に教えられるまで露ほども知らなかった。それが今はどうだ。
目を閉じていてもはっきりとその部分が脈打っているのが判る。それどころかムズムズと疼くような痒みさえも伴って痛いほどに大きく腫れている様子さえも手に取る様に判るのだ。
それにも増して目を覆いたくなるのは肛門の惨めな佇まいだ。
入浴時に洗う指先の感覚で毛が生えているのは判ってはいたがこれ程みっともない姿だとは思っても見なかった。まさにみっともないとしか言い様が無い。
放射線状にくっきりと刻まれた彫りの深いアナル皺の周囲に、小菊を縁取るように和毛がそよいでいる。腋も脛もそれほど毛深い訳ではない葵だったが、こと股間に関しては異常に濃かった。
もっともどんな肛門がみっともなくないのかは葵には判らなかったが、自分のソコが他人と比べても酷い様子なのだろうという事を自覚しない訳にはいかなかった。
見なければ良かったと悔やんだが後の祭りである。
しかもそんな肛門の中心には前の孔から飛び出したコードが繋がっているのである。いくら自分の手で挿入した事とはいえ、その惨めさ、情けなさには目を伏せずにはいられない。
まず最初にしなければならないのは、後ろの孔に挿し込んだコントローラーを引き抜く事だった。
カモフラージュした陰毛を掻き分けてコードを探し出す。マニキュアを塗っていないのにも関わらず桜貝のような淡いピンク色に輝く爪の先をそれに引っ掛けてクイッと引いてみる。
「くうッ……」
前の孔と後ろの孔が同時に圧迫される。
だが。
(ぬ、抜けない……)
葵は焦った。前の孔は陰毛で封印されているのだから抜けないのは当然だ。何故、後ろの孔から挿入したものが抜けないのか。
葵は腰を浮かせて座ってみた。用を足すときのポーズだ。まさか自分の部屋で息むような事態になろうとは考えたこともなかった。
目を閉じて、下腹部に力を込める。コードを指で引っ張って排泄をアシストするのも忘れてはいない。
「……ッ……」
今までに数えられる程しか経験したことの無い便秘の苦しみにも似ている。すぐ其処に大便はあるののは判るのだが、どう踏ん張っても顔を出してくれない状況に今の葵も陥っていた。
深く挿れ過ぎてしまったのか。肛門の内側に居座ってびくともしない玩具のコントローラーを葵は心底恨んだ。
挿れる時にはさんざんあれだけ梃子摺らせてくれたのに、今度は一転して排泄を拒むわがままに絶望的な気持ちになってしまう。
半固形物と只の固形物との違いが上手く排泄できない理由なのだろうか。腸に消化物が溜まっていればそれがコントローラーを押し出してくれる事も期待できたのだが、流石に葵も今日は食事が喉を通らなかったのだ。
(……この姿勢がいけないのかしら……)
和式の便器を跨ぐ時と同様に、バランスを取るために前方に向かってやや猫背になりながら踏ん張る所為で腹部が圧迫される。
半固形物の本物の大便ならその形を自由自在に変えて出てくる状況でも硬いプラスチック製のコントローラーでは勝手が違うのかもしれない。
そう考えた葵は壁際に移動してその場で再びしゃがみこんだ。片手を壁について上体を伸ばした姿勢を取る。さっきよりは出てきそうな気がした。
「……ンッ……うんッ……」
時ならぬ息みが葵の部屋に響いた。肛門の真下に置いた手鏡をチラチラと見ながら踏ん張る葵。
グイグイとコントローラーと繋がったコードを引っ張るのだが、万が一にも切れてしまうのではないかという恐怖に駆られ、思い切って指先に力を入れる事が出来ない。
切羽詰った葵はピンと立てた中指を裏菊の中心にそっと添えた。
「くはッ……おっ……」
葵は自らのアヌスに中指の先を埋め込んだ。ヌプヌプと腸粘膜の肉路を突き進む白魚のような葵の指。
浴室での慌ただしい挿入の時には気付かなかった様々な感覚が葵の頭の中を駆け巡った。
しっとりとぬめる粘膜に指先を包み込まれると、内部が熱く火照っているのが判った。
奥は蕩けそうに柔らかい癖に、入り口の付近では指が鬱血してしまうぐらいにキュンキュンと締め付けてくる。自分の肛門に自分の指が食い千切られてしまいそうだ。
一方、肛門の方では外部から入ってきた腸温よりやや低めの温度を持つ細い異物をはっきりと認識していた。括約筋が半ば反射的に異物を押し返そうと蠕動した。
「あっ……」
指先から疾る快感の電流と肛門から拡がる愉悦の波紋が全く同時に脳に到達すると、我を忘れてしまうほどの悦びが葵の躯の芯を貫いた。
未知の快楽に耽溺してしまいそうになる自分を必死に叱咤して、葵は指先を更に奥に進めた。
その指先が異物を捉えた。
あった。あのコントローラーに間違いは無かった。
葵の中指は殆ど根元まで沈み込んでいる。つまり葵の必死の踏ん張りにも関わらず、異物は殆ど動いていなかったのだ。
恥辱に頬を染めた葵が、肛門の中の指を蠢かした。アヌスを内側から揉み解して狭隘な腸路を少しでも拡張しようというのだ。
クチュクチュクチュクチュと何の液体が発しているのか判らぬ湿った音を響かせながら、葵は必死に肛門をマッサージした。その甲斐があったのか、じわじわと中の異物が入り口に近付いてきているような気がする。
いや、間違いない。今朝の太便と比べれば余りにも細過ぎるとさえ思える葵の中指がゆっくりとした歩みで徐々に外界に姿をを現し始めたのだ。
排泄運動に弾みが付いたのか、その後は一気呵成だった。ムリムリと吐き出されてくるコードを巻き付けられたコントローラーの様子が鏡に映っている。
カコン、と音を立てて手鏡の上に落ちた異物は透明な腸液にヌラヌラと妖しく輝いていた。
葵は出し終わると布団に突っ伏して声を殺して咽び泣いた。今までの人生の中でこれほどまでに惨めな一日があっただろうか。
昨日まで、自分がどれだけ幸せだったのかという事を思い知らされた。たった一晩にして、自分は全てを失ってしまったのだ。
だが、どれだけ泣いていてもしょうがなかった。手を動かさなければ縛めは解けないのだ。葵は再び夜具の上のタオルに腰を落とすと睫毛を濡らしながら陰毛の結び目に指先を伸ばした。
続く