『初夜』  
 
 「遅くなっちゃったな……」  
 駅の改札を出て、そう呟く薫の息が白くなって冷たい冬の夜空に吸い込まれていった。  
 ゼミの後の飲み会に付き合わされ危うく終電を逃す所だったが、すんでのところでなんとか乗り込む事ができたのだ。  
 とはいえ既に時計の針は0時を回っており、新しい一日がもう始まっている。駅前にいつもの喧騒はなく、  
薫以外の人間はと云えば酔客を待つタクシーのドライバーの他には誰もいない。  
 (さて……帰らなきゃ、な)  
 以前の薫であれば、こんな時間まで飲んだ時にはゼミ仲間の誰かの下宿に泊めてもらうのが常だった。  
寒々とした空気が澱んだ一人暮らしの狭いアパートには誰も薫の帰りを待つ人間はいない。  
中学校を卒業し花菱の家を出奔したあの日から、孤独には慣れているつもりだった薫でさえあの部屋に深夜に帰るのは気が重かった。特にこんな寒い日なら尚更だ。  
 だが、今は自分には帰るべき場所がある。自分を迎え入れてくれる暖かい光がある。  
自分を待っていてくれる人達がいる。そして、何よりも自分を愛して、必要としてくれている彼女の存在がある。  
 (……葵ちゃん……葵ちゃん……葵ちゃん!))  
 その彼女の名前を心の中で連呼しつつ、帰路を辿る足が小走りになる。  
彼女の顔を思い浮かべるだけで寒さの事さえも忘れてしまえる。今、薫は自分の幸せを噛み締めていた。  
 
門灯の光の下、その前に佇む人影がこちらを振り返った。  
 「あっ、薫様……お帰りなさい!」  
 「葵ちゃん!!」  
 薫は小走りに駆け寄った。  
 「葵ちゃん……こんな時間まで外で待っていなくても……」  
 「そんな、気になさらないで下さい……私が待っていたかっただけなんですから」  
 「……いつから待ってたの?」  
 「え?……つ、つい先程から……」  
 薫の掌が小さな葵の手をそっと握った。まるで氷のように冷えた細い指先。  
 「こんなに冷たいじゃないか……本当はいつから待ってたの?」  
 こちらの顔を見上げて微笑む葵。  
 (かっ……可愛いッ!!)  
 「薫様?……きゃっ!?」  
 桜庭館の門の前、いくら深夜で人通りが無いとはいえ公の往来の上だと云う事も忘れて薫は葵を抱きしめた。  
 「……葵ちゃん……」  
 「かっ……薫様……こんなところでっ……」  
 恥じらいながらも薫の胸に顔を埋める葵。紬の着物の襟足からは闇の中でも仄白いうなじが覗け、葵の芳しくも甘い香りが薫の鼻腔をくすぐった。  
 自分の腕の中にすっぽりと収まってしまう葵の身体。寒空の下でさえ、ずっとこのままでいたくなるような抱き心地の良さ。  
あとほんの少し、力を込めただけで折れてしまいそうな脆さと、ピチピチと飛び跳ねる若鮎のように弾けるしなやかさ。  
二つの相反する感触を内包した許婚の身体をその両腕に包み込める事が出来る、何物にも変えがたい幸せ。  
 このまま、溶け合って一つになってしまいたい。さらに強く葵を抱き寄せようとした瞬間、薫の面にうろたえた表情が浮かび上がった。  
 (まっ……マズイ!)  
 その抱き心地の良さが仇になったのか。花菱薫の肉体が、男性として至極当たり前の反応を表し始めてきたのだ。  
ドクンドクンと力強い脈動が股間の一点に大量の血液を送り込んでくる。ミチミチと音を立てんばかりの愚息の急膨張。  
 いつまでもこのままでいたいのを堪え、後ろ髪を引かれる思いで葵の細い肩を掴んで抱擁を解いた。  
コートの下、パンツの内側のペニスは既に痛くなるほどの勃起で窮屈そうにしている。  
 「……薫様?……」  
 頬を赤らめて小首を傾げる葵の仕草に、己の股間の変化をも忘れて再び掻き抱こうとしてしまいそうになる自分の手を押さえつけるのに薫は必死になった。  
 「そ、そういえば雅さんは?」  
 桜庭館の方に泳いだ視線を向ける。みんなの集うリビング以外には明かりが灯っている様子は無い。  
 「ふふっ、薫様ったら……うふふふふふっ……」  
 「な、何? 俺、何か変な事でも言ったかな?」  
 「だって……まるで薫様ってば、お母さんに怒られないかビクビクしてる小さい子供みたいなんですもの」  
 「あ……あは、あははははは……確かに」  
 「今晩は大丈夫ですよ」  
 「え?」  
 「何でも急な仕事が入ったとかで、今晩は私の実家のほうに泊り込みだそうです……  
あ、ティナさんと妙子さんは新入生歓迎コンパで終電を逃したので友達の家に泊まるって連絡がつい先程……」  
 「そ、そっかー……二人きり、だね……あははははは」  
 照れ隠しに薫は頭を掻いた。  
 「さ、外は寒いですわ。早く中に入りましょ」  
 「……そうだね」  
 葵の細い指先が薫のコートの袖を掴む。彼は微笑みながら葵の手を取った。門から玄関までの短い道程を、二人は手を繋いでゆっくりと歩いた。  
 
 浴槽から溢れ出した湯がタイルに落ちて音を立てた。  
 「ふぅ〜っ……」  
 湯船に浸かった薫は大きな溜息を吐いた。自覚はしていなかったが、夜道を歩いてきた所為で身体の芯がすっかり冷え切ってしまっていたようだ。  
適温に保たれた湯の温もりが体中に浸透してゆく。  
 (……それにしても……)  
 薫は湯の中でゆらゆらと蠢いている己の愚息を睨み付けた。  
 (……ったく、堪え性のない困ったヤツだ)  
 先刻のあわやという場面を振り返って苦笑いする薫。既に勃起は収まっており、今は湯の中で弛緩しきってだらしなく揺れ動いている。  
 目を閉じて、湯船の中で足を伸ばす。以前の安普請のアパートでは考えられなかった贅沢さだ。  
 薫の腕に葵を抱いた時の感覚が蘇ってくる。薄く華奢な細肩。折れてしまいそうに括れた柳腰。うなじから立ち昇る芳しい香気。  
 湯が揺れた。  
 (…………)  
 みるみるうちに勃起してゆく己の股間の有様が閉じた瞼の裏にありありと浮かんだ。  
 (……こりゃ、部屋に戻ったら一本抜いておかないと寝れそうにもないな……)  
 薫も聖人君子ではない。若い雄のエネルギーは定期的に処理をしておかないと暴走してしまいかねない程の危うさを秘めているのだ。  
薫のオナニーは一日平均、約五回。あっというまにティッシュの箱は空になり、生臭さを放つ丸めた紙がゴミ箱から溢れた。  
 ところがここ数日はゼミのレポートを仕上げる為に禁欲状態が続いていたのだ。  
 妄想の対象はいつも葵だった。彼女が絶対にとりそうもない痴態を思い浮かべては、空想の中の彼女に思いっきり欲望をぶちまけて穢した。  
空想の世界で愛を語り合いながら彼女を抱くこともあれば、嫌がる彼女を組み伏せてレイプ同然に無理矢理犯すこともあったが、あくまでもその対象は葵だけであった。  
  薫が脳裏に葵の痴態を思い浮かべたその瞬間だった。  
 「ん?……」  
 脱衣場の方で音がしたような気がした。視線を向ける。湯煙と擦りガラスに阻まれてしかとは確認できないものの、確かに影が動いているような気がした。  
 (おいおい……)  
 ひょっとしたら仕事を早めに片付けた雅が帰ってきたのかもしれない。  
 「すいませ〜ん。俺が先に頂いてます」  
 浴室独特のエコーを響かせて、薫の言葉が脱衣場の人物に投げかけられた。  
 だが。  
 ガラガラッ。  
 聞こえていなかったのだろうか。ガラス戸の開く音がした。薫はとっさに頭に載せていたタオルで湯の中で勃起している逸物を隠した。  
 「……雅……さん?」  
 
 ひた、ひた、ひた、ひた……  
 湯煙の中、誰かがこちらに歩んでくる。  
 「……誰?」  
 「……私です、薫様……」  
 換気のために僅かに開いてある窓の隙間から風が吹き込んできて、湯気がすうっと流されてゆく。  
 そこには、バスタオルだけを身にまとった葵が立っていた。  
 「……お風呂、ご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」  
 湯船から口をだらしなく開いて見上げる薫の瞳にバスタオルの裾から太腿と太腿の間の昏い翳りが見えた。  
 薫は慌てて目を逸らした。  
 「い、いや……か、からかわないでよ、葵ちゃん」  
 (鎮まれッ、鎮まれぇ〜ッ!!)  
 必死に股間をなだめようとする薫。  
 「……お背中、お流しいたしますわ。さあ、薫様……」  
 背後から聞こえる葵の甘い囁き。  
 (ど、どうしちゃったんだ? 今日の葵ちゃん……雅さんが居ないから?)  
 許婚と一つ屋根の下にありながら、厳しいお目付け役やその他諸々の邪魔の所為もあって、薫と葵の関係はキス止まりなのだ。  
近くにいながら手が出せない今の生活はお預けを食わされている犬にも等しい、塗炭の苦しみだ。  
背中を流してもらうぐらいの小さな幸せがあっても許される筈だ。薫は自分にそう言い聞かせた。  
 「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……」  
 股間をタオルで隠しながら薫は湯船から出た。  
 
 「……痛みますか?」  
 「……え?」  
 悶々とする薫は背中を流す葵の問い掛けに気付くのが遅れた。  
 「……まだ背中の傷は痛みますか?」  
 「……そう言えば……」  
 久しく忘れていた。特に寒くなる冬場にはズキズキと痛覚を刺激してしばしば薫を眠れなくさせたあの痛み。  
一体いつの頃からだろうか。記憶の糸を手繰り寄せてもその答えは見つからなかった。  
 「……葵ちゃんが癒してくれたのかな……もう全然痛まないよ」  
 一瞬葵の手が止まったが、次の瞬間には何事も無かったかのように薫の背中を流し続ける。  
 「……そんな……私は何も……」  
 「……葵ちゃんが側にいてくれるだけで、心が安らぐんだ……何もしてくれなくてもいいから、ずっと……俺と一緒に……」  
 「薫様……」  
 薫からは見えないが、葵の細い肩が震えていた。俯いているその表情を伺う事は出来ない。  
葵は何かを振り切るように二度三度頭を振ると、湯船から手桶にお湯を汲んで薫の背中に付いた泡を洗い流した。  
 
 「さ、薫様。こちらを向いて下さい」  
 「こ……こちらって……」  
 「こちらを向いて頂かなくては……前の方が洗えません」  
 (前? 前? 前ぇ〜ッ!?……もしかして、前っていうのは……)  
 「ほら、薫様。早くなさって下さい」  
 「い……いや……あの、その……前の方は自分で……」  
 薫は小さい声でごにょごにょと訴えた。  
 「え? 何かおっしゃいましたか?」  
 「い、いや、だからね……」  
 「判りました。私がそちらへ回ります」  
 言うが早いか、葵はすっと立ち上がり薫の目の前にやってきた。  
引き締まった足首から程よく発達したふくらはぎへと流れる優美なカーブが膝の部分でキュッと括れ、そこから再びムッチリとした太腿へと続いてゆく。  
こんな素晴らしい脚が普段は着物の内側に隠れているというのは勿体無い話だと薫は思った。  
いつまでも眺めていたいような美脚が二本、交互にすれ違いながら薫の目の前を通り過ぎてゆく。  
 そんな彼女の脚線をじっくりと観察する暇もなく、葵が自分の前でしゃがむのを呆然と見つめる薫。すると今度は彼女の胸の谷間が彼の視界へと入ってきた。  
 身体に巻かれたバスタオルの内側で窮屈そうに身を寄せ合っている両の乳房はその谷間をより一層深く際立たせている。  
うっすらと汗ばんだ胸元から汗の雫が一露、転がり落ちて胸の谷間の奥に吸い込まれていくのを薫はまじまじと凝視してしまう。  
 「……そんなに見つめられると困ります……」  
 「ごっ、ごめんっ」  
 言われてからあたふたと視線を逸らす薫。  
 「それでは……」  
 顎の下から胸板、脇腹と薫を洗う葵の細腕が徐々に下へと下がってゆく。  
 (ま、まさか……まさか……)  
 再び元気を取り戻し始めた己の分身を、薫は左右の太腿で挟み込んで押さえつけた。  
 しかし薫の期待と不安をあっさりと裏切って、葵の手は手拭いで覆われた部分を通り越して薫の脚を洗い始めた。  
 (そ、そうだよな……ははは……一体何を期待してたんだか……)  
 「……薫様?」  
 「…………え? な、何? 葵ちゃん?」  
 「脚を開いて頂かなくては内側が洗えません」  
 (まず〜〜〜〜〜い!!)  
 いまだに太腿の間で元気一杯な息子の状況。いま脚を開けば天を突くが如くそそり勃つのは間違いない。  
 「さ……」  
 葵が薫の膝頭に手を掛けた。  
 (……ええい! ままよ!!)  
 薫は目を閉じて、脚を広げた。  
 ビィィィィィィィンッ!!  
 見事な勃起ぶりだった。重く湿った手拭いを物ともせずに下腹にぴったりと密着する程の仰角だ。  
幸い手拭いはズレなかったので葵の視線からはかろうじてその身を隠す事が出来ている。  
だが亀頭を頂点にしたテントはその内側に包んでいるモノの姿を余りにもあからさまに象っていた。  
 
 (……ああ……終わった……)  
 心の中で滂沱の涙を流す薫だったが、葵は全く気にする素振りも見せずに脛の内側を丁寧に洗っている。  
 (……ひょっとして……気付いていない?)  
 そして膝から内腿までもが石鹸の泡で覆われると、葵の手がぴたと止まった。見上げる葵と薫の視線が交錯した。  
 頬が赤らんでいる。浴室の熱気の所為か、はたまた薫の身体を洗って息が上がっているのか……あるいは、羞恥の為か。  
 「それでは、失礼致しまして洗わさせていただきます」  
 (うわわわわわ〜っ! や、やっぱり……駄目だ……)  
 葵は両手の親指と人差し指とを使って手拭を摘み上げる。薫の逞しい勃起が葵の前で御披露目をされた瞬間だった。  
 立派な一物だった。根元から亀頭の先端まで、垂直に天を突く棹の長さは約20センチと日本人男性のソレの平均を大きく上回っている。  
大きくエラの張ったカリの部分においては直径5センチを越える堂々たる巨根だ。しかもそれが日本刀にも似た優美な反りまで併せ持っているのだ。女泣かせの業物といえよう。  
 だが悲しいかな、薫のペニスはそれだけの威容を誇っているのにも関わらず、凄味というものを全く感じさせなかった。  
幹の部分は太い血管こそ浮かび上がってはいるものの生白く、亀頭さえも初々しいピンク色という有様で淫水焼けの跡が全く無いのだ。  
 そう、薫は童貞だった。中学を卒業してからは学費と生活費をアルバイトで稼ぐのが精一杯という経済状況の中で、風俗に行って童貞を捨てる金も暇さえも無かったのだ。  
ようやく多少なりとも自由になるお金が持てるようになったのもつい最近の事だったのだ。  
 心の中はいざ知らず、表面上は何も気にしていない様に見える素振りで黙々と石鹸を泡立てる葵。その葵の指が陰茎の根元、睾丸へと伸びた。  
 「い、痛かったらおっしゃって下さい……」  
 それだけを言い、自らの掌でやわやわと睾丸を揉み洗いし始める葵だった。  
 (うっ、ううっ、うおおおおおおおおおッ!!)  
 声が漏れそうになる。叫びだしてしまわないのが不思議な程だった。葵の方には格別、それと意識した技巧を凝らしているわけでもない不慣れな手の動きの全てが薫を歓喜の渦に叩き込んだ。  
 「あっ……強過ぎましたかっ?」  
 「だっ……大丈……夫ッ……」  
 思わず天井を見上げて必死に言葉を搾り出す薫。そんな彼に葵は更なる追い討ちをかける。勃起の根元のジャングルをワシャワシャと指で掻き洗う葵。  
 (うわわわわわああああああっ!! 根元がっ! 根元がッ!!)  
 そして、遂に葵の細い指先が薫の若茎をそっと握った。  
 (おおっ! うおおおっ!)  
 知ってか知らずか……葵の掌がゆっくりと上下に動く。まるで棹を扱くように。  
 石鹸の泡のおかげで滑りのよくなった柔らかい掌で分身を上下に擦られる快感に薫は身悶えした。  
 (あ、葵ちゃん!!駄目だっ!! そんな事されたら……)  
 (俺……我慢出来ないッ! で、射精ちまうッ!!)  
 指先がカリをくすぐった。鈴割れをなぞるように丁寧に亀頭を磨き上げる葵の細指。丹念な指使いが薫の陰茎のありとあらゆる部分を微妙なタッチで這い回った。  
 決壊の瞬間がすぐそこに迫ってきていた。  
 
 ジュクジュクと噴き出す先走りのカウパー腺液は幸いにも石鹸の滑りと混じり合ってなんとか気付かれずに済みそうだ。  
 だが、あとほんの二擦りか三擦りで達してしまう危機的状況は何も変わっていない。若い牡の精嚢が二十四時間フル稼働で作り出すザーメン。  
数日の間に溜め込まれたそれが暴発すれば葵の手はおろか、その顔にまで飛び散るのは火を見るよりも明らかだ。  
ドロドロとした白濁液に塗れた葵の美貌を思い浮かべる薫。その妄想が破滅へのカウントダウンを一擦り縮めた。  
 (もう駄目だッ!! 出っ、出るッ!!)  
 醜態を覚悟した。汚らわしい汁液を放出する薫を目の当たりにして、彼女はどのような反応を示すのだろうか。  
一瞬にして陰茎が萎える筈の想像する事さえも恐ろしい最悪の事態が脳裏を掠めたが、それも最早手遅れと思われた。  
 だがそれは何の前触れもなく不意に遠ざかっていった。薫の苦悶を知ってか知らずか、葵の指先は陰茎を離れて手桶に汲んだ湯で薫の身体を流し始めたのだ。  
 (たっ……助かった……)  
 すんでのところで射精を堪え、ほっと胸を撫で下ろす薫だったが、  
その心の何処かではあのまま葵の手で絶頂に導かれてザーメンを思う存分ぶちまけてみたいと思うもう一人の自分がいる事に気が付いていた。  
 (へ、部屋に戻ったら二発……いや、三発は抜こう)  
 あの手の感触を思いおこすだけで当分の間ズリネタには困らない筈だ。  
 体中の泡が洗い流される頃には勃起も半萎えぐらいまでには収縮していた。  
 (ま、まさか次は……)  
   
 『今度は私の背中を流していただけませんか?』  
   
 (……そんなうまい話、ある訳ないか……)  
 「どうですか? 気持ちよかったですか?」  
 「あ……ああ、うん。凄く気持ちよかったよ」  
 (寸止めじゃなけりゃ、もっと気持ちよくなれたんだけどな……)  
 お互いの「気持ちよさ」の意味には若干の食い違いはあったものの、二人の会話はなんとか噛み合っていた。  
 「お風呂を出たら髪の毛をしっかり乾かして下さいね。風邪は万病の元ですから」  
 「あ、ありがとう……」  
 (やっぱり……)  
 心の中で肩を落とす薫。  
 (じ、自分から言ってみるか?)  
 
 『じゃあ今度は俺が葵ちゃんの背中を流す番だね』  
 『そんな……薫様に洗っていただくなんて……』  
 『ほらほら、さっさと腰を掛けて』  
 『あっ……こ、困りますっ……あっ、そこはっ……』  
 『あれぇ〜。この柔らかいものは何かなぁ〜?』  
 『い、いやっ……おふざけにならないで……あんッ』  
 『あれあれあれ〜。先っちょがコリコリしてきたぞ〜』  
 『か、薫様の意地悪ッ!』  
 『さ〜て、今度は下の方だ』  
 『あっ、そこは自分でっ……ああっ』  
 『遠慮しない遠慮しない。さ、脚を拡げて』  
 『だ、駄目……ここだけは、駄目なんですっ……』  
 『ほら、もっと拡げなきゃ奥が洗えないよ……』  
 
 「……薫様?」  
 「……えっ……な、何かな?」  
 「どうかなされたのですか? 私がさっきから声を掛けているのに、  
ぼうっとされて心ここにあらずという感じでしたけれど……ひ、ひょっとして湯にあたったのでは……」  
 葵はそう言いながら心配そうに薫の顔を覗き込んだ。  
 「な、何でもないよ、何でも。はは、ははははは……」  
 ニヤついて緩んだ口元を薫は慌てて引き締めた。彼女がこちらの表情を伺っているのがせめてもの幸運だった。  
今の妄想で手拭いの下の薫のペニスがまたもや隆々とした勃起現象をおこしているからだ。  
 「それなら宜しいのですが……それで、先ほどの件はいかがでしょうか?」  
 「へ?」  
 「もう……薫様ったら……もし薫様がお疲れでなければ少々お話したい事がございますので、  
お風呂から上がられたら私の部屋で待っていていただけないでしょうかとお願いいたしましたのに……」   
 「あ、ああ……そうそう、そうだったね。いいよ、レポートは今日……もう昨日か、提出しちゃったし、明日もそんなに大事な講義もないし」  
 「……良かった……」  
 バスタオルの上から胸に手を当てる葵。  
 「では私もなるべく早く上がりますので、薫様はしばらく部屋で待っていてください」  
 そう言われてはこれ以上浴室に留まる訳にもいかないだろう。  
 「う、うん、判った」  
 妄想が実現しなかった落胆と、一体何の話があるのかという漠然とした不安とほのかな期待とが入り混じった複雑な心境で薫は浴室を出た。  
 
 (こっ……これは〜ッ!?)  
 葵の部屋に入った瞬間、目に飛び込んできた物に薫は思わず声を上げそうになる。  
 畳の上に一組の夜具が敷かれている。それ自体は別に不思議でもなんでもない。  
 問題なのは枕の数だ。  
 二つ。目の錯覚ではない。確かに枕が二つあった。  
 (落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け……)  
 (何もそういう意味だと決まった訳じゃない)  
 (でも、でもなあ……)  
 (やっぱりこれは……誘いを掛けられているのか?)  
 (待て待て待て待て……)  
 (そういえば葵ちゃん、寝ると何かに抱きつく癖があるって……)  
 (そうそう。そうに決まってるさ。一つは普通の枕で、もう一つは抱き枕)  
 (ふぅ〜、早とちりして一線を越えちゃう所だったよ……)  
 (でも……)  
 (その可能性もゼロじゃないかも……)  
 (期待するな、期待するな、期待するなよ……)  
 (そうじゃなかった時には落胆が大きくなるからな……)  
 「薫様?」  
 「うわわわわわわあ〜ッ!!」  
 いきなり背後から声を掛けられて薫は飛び上がった。  
 「どうなさったのですか? 部屋に入って待っていらして下されば宜しかったのに……」  
 「い、いや……ははは……」  
 視界の片隅の二つの枕を気にしつつも、葵の屈託の無い表情を見ていると彼女がそんな事を考えている訳などある筈も無いと思えてくる。  
 (やっぱり抱き枕だな……)  
 「さ、どうぞ、薫様」  
 言うが早いか、葵は座布団を一組出してきて夜具の傍に一つだけ置いた。  
 そこに座れと言う事なのだろう。葵に主導権を握られたまま、薫は座布団に腰を下ろした。  
 当然、葵は向かいに座ると思い込んでいた薫だったが、なんと彼女は彼の座布団の横に自分のものをぴったりとくっつけて横に並んで座ったのだ。  
 
 「あ……あの、葵ちゃん? 話があるんじゃ……」  
 うろたえながら葵の顔を覗き込む薫。そんな彼に葵はにっこりと微笑んで、  
 「朝ご飯は何が食べたいですか?」  
 と訊ねてきた。  
 「へ?」  
 拍子抜けする薫。  
 「明日の朝ご飯は腕によりをかけて、うんと美味しいものを作って差し上げたいんです」  
 「あ、ああ……そうだな……」  
 内心の動揺と落胆を悟られぬように薫は取り繕った。  
 「葵ちゃんの作ってくれるものなら何でも美味しいから、選ぶのも困るなあ」  
 「まあ、薫様ったらお上手なんだから」  
 「そ、そんなんじゃないってば。ホントなんだから」  
 「うふふふふふっ、ありがとうございます……」  
 「でも……あえて選ぶなら……シンプルな、豆腐の味噌汁が飲みたいな……」  
 「判りました」  
 一体自分は何を考えていたのだろうか。邪な欲望を胸に秘めていたことが恥ずかしくなってくる。  
何よりも大事なのは、葵と一緒に過ごすこのひと時ではないか。今現在、これ以上の何を望むのか。  
互いの心さえ繋がっていれば、いずれ身体を重ねる時も来よう。今はまだ、その時期ではないのだ。  
強張っていた薫の笑みが徐々にほぐれてゆき、屈託の無い本物の笑顔になった。  
 「でも……明日は何か特別な日だっけ?」  
 「うふふふふっ……そうなるかもしれませんね」  
 謎めいた台詞を呟くと葵は小首を傾げて、薫の肩にチョコンと頭を載せた。  
 「……二人きりになるのも久し振りですね……」  
 そう、たとえ一つ屋根の下で一緒に暮らしているとはいうものの、  
賑やかな桜庭館では絶えず誰かしらの邪魔が入り、おおっぴらに手を握る事さえも叶わぬ状況なのだ。  
 
 「ホントにそうだね……」  
 「……薫……様……」  
 葵が薫の方を向いて、その顔をじっと見つめた。諦めた筈の展開が唐突にやって来た事に再び戸惑う薫。  
 (い、いいのか?)  
 暫し無言の時間が流れた。どちらかが言葉を発しただけで壊れてしまいそうな、脆い硝子細工のような緊張。  
 葵が長い睫毛をそっと伏せた瞬間、薫は呪縛が解かれたかのように彼女に顔を近づけた。  
 (葵ちゃん……やっぱり可愛いなあ……)  
 唇と唇が接近する。  
 薫も目を閉じた。  
 そっと、唇が触れた。  
 (うっ……柔らかい……)  
 ほんの数瞬、互いの温もりを確かめ合い、そして触れた時と同じようにすぅっと遠ざかってゆく二人。  
 二度目は、最初のキスよりも長く。  
 三度目は、更に時間をかけて。  
 ここまでは、これまでに幾度となく二人で来た道だった。  
 四度目のキス。薫は葵を怖がらせないように、そっと舌の先で花びらの様な葵の唇をなぞった。葵も薫の意思を察したのか、唇がふわっと綻んだ。  
 (……いい……んだよな?)  
 薫は舌の先で彼女の唇を割る。瞬間、甘く熱い吐息が薫の口にふぅっと流れ込んできた。  
 (嫌がってない……よし……)  
 おずおずと舌を伸ばす。葵の歯列を越えて、初めて彼女の口の中へと侵入を果たす。葵をかき抱く両手に力がこもった。  
今までの、壊れ物を扱うような優しい抱きしめ方ではない。力強い抱擁に葵の柳腰がキュンと括れた。おずおずと遠慮がちに薫の背に回されていた葵の手にも力が入った。  
 (うわっ……熱い……)  
 (それに……なんて柔らかいんだ……)  
 初めて入った葵の口中。薫にとっては全てが未知の世界だ。  
 (あっ……)  
 (これが……葵ちゃんの、舌……)  
 薫の舌先が葵のそれに触れた。奥に縮こまっている彼女の舌をそっと突付く。  
舌を使って愛を交歓しあうなど葵には想像もつかないのだろう。薫の舌が優しくエスコートするようにそっと葵の舌に巻き付いて二人の未踏の地へと誘う。  
 
 おっかなびっくりと云ったぎこちない葵の舌を翻弄するように、薫のそれが半ば強引なリードでぐいぐいと引っ張ってゆく。  
されるがままの彼女の舌は、とうとう薫の口の中にまで引きずり込まれていた。  
 薫の歯が葵の舌を優しく甘噛みした。  
 余程びっくりしたのか、反射的に舌を引っ込める葵だったが未知の領域への好奇心が恐怖に勝ったのか、今度はおずおずと自分から舌を挿し入れてきた。  
 (……葵ちゃん!)  
 愛しい許嫁の甘く柔らかい舌を思う存分に吸う薫。  
再び薫の舌が葵の唇を割って侵入を果たすと葵も心得たのか、さっきのお返しと云わんばかりに整った歯列で薫のそれを優しく噛み返してくる。  
 互いの唇を貪り合い、舌を吸い合い、唾液を啜り合う。  
今までに無い激しい口付けを交わす二人の固く抱きしめあった身体がゆっくりと布団の上に折り重なって倒れた。キスはまだ止まない。  
薫が身を捩り、組み敷いた葵から半身をずらす。背に回していた手がゆっくりと肩甲骨の下を通り脇腹をくぐって、実り豊かな葵の乳房へと移動してゆく。  
一瞬、葵の身体が強張った。絡み合っていた舌が動きを止めた。薫の手も硬直して凍りつく。  
 (不味……かったのか?)  
 「…………」  
 暫しの沈黙の後。動きを再開させたのは、なんと葵の方からだった。  
薫の舌にリードされがちだった熱いベーゼが、おずおずとした控えめな動きではあったが確かに葵の舌が薫のそれに自ら絡み付いてきた。  
 薫はそれを彼女の承諾のサインと受け取った。ゆっくりと指先に力を込めてゆく。寝巻き  
の生地に皺を刻みながら、薫の指が布越しの葵の乳房にめり込んでいった。  
 (やっ……柔らかいッ!)  
 今までもアクシデント的に葵の乳房に触れた事はあったものの、はっきりとした明確な意志を持ってその膨らみに手を伸ばすのは初めてのことだった。  
 
続く  
 

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