「……薫様……薫様ッ、薫様っ!!」  
 ハッと見開いた葵の瞳に映ったのは、何十年、いや何百年という年月を感じさせる  
木目の浮かび上がった天井だった。  
 (……今のは……夢?……)  
 とてもそうとは思えなかった。深々と貫かれた女の部分は未だに何か挟まっている  
かのような違和感を感じているし、薫の精液が降り注いだ部分は何かしらチリチリと  
むず痒い。  
 (此処は……)  
 上半身を起こそうとして、葵はようやく自分が身体の自由が奪われている事に気が  
ついた。  
 僅かに動かせる首だけを捻って自分の首から下へと視線を巡らす。  
 (何……?)  
 目に映った光景の意味を理解するのに幾許かの時間を費やした。  
 真っ白な裸身を縦横無尽に駆け巡るドス黒い縄。自分が縛られているのだという現  
実が理解出来なかった。そんな葵の足元から、聞き覚えのあるあの声が聞こえてきた。  
 「ふふ、うわ言で何度も薫の名を呼んでいたぞ。そんなにもあ奴の事が愛しいか?」  
 どっしりとした長方体の箱のようなモノの上に腰を下ろした花菱翁の姿が、葵の足  
元にあった。  
 
 「ひっ……ヒィッ!!」  
 葵は思い通りにならぬ身体を必死にくねらせて花菱源一郎から逃れようとした。  
老人の顔を見た瞬間に、あの暗黒の地下室での陵辱劇の一部始終が脳裏に再現された。  
 乳首を弄られ、乳房を嬲られ、肛門を穿られ、女陰を拡げられ、  
薄襞を捲られ、処女膜を引き裂かれて子宮の奥深くに精を放たれた。  
 身体の芯から震えた。全身の肌が粟立つ。一秒でも早く、1センチでも遠くに、この老人から離れなければならない。  
手足の利かない縛めの身ではあったが、それでも必死に遠ざかろうとする葵を激烈な感覚が貫いた。  
 「はッ……はうゥッ!!」  
 大きく拡げられた両脚の付け根から凄まじい電流が脳天に突き抜けた。  
だが、葵は仰け反りながらも尚も渾身の力を振り絞って花菱翁から逃げようとする。  
 「あっ……あうッ!!……くゥンッ!!」  
 先ほどよりも強烈な痺れが葵を打ちのめした。  
 「ふふふふふ、流石は日本一の縄師よ。良い仕事をする……よいか。その縄化粧は、お前が身体の何処を動かしたとしても、  
全ての動きがその股縄に伝わるようになっておる。大人しく観念せい」  
 「うっ……そ、そんなッ……」  
 老人の言葉に恐れをなしたのか、ゆっくりと首を捻りながら葵はあらためて己の躯の有様を見下ろした。  
 
 凄惨、としか言い様が無かった。  
 一番最初に目に飛び込んできたのは、まだ初々しさを残しながらそれでいて歳相応にたわわに実った乳房が無残に縊り出されている姿だった。  
膨らみの上下に渡された二条の縄が乳房を圧迫する。更に乳房の麓にまでも縄が幾重にも渦を巻いて柔肉をキリキリと締め上げて、  
その先端を不自然に前方へと突き出している。釣鐘型の美乳が見る影も無い程に変形させられてしまっていた。  
だが、そんな迫害を受けていながら自分の乳首が物欲しげにピンと勃起しているのを目の当たりにして、葵の頬が羞恥に真赤に染まった。  
 両手は腰の後ろで一纏めにしてきつく括られており、自然と胸を張るような格好になってしまっている。  
ギチギチに締め上げられた両腕は肩や肘、手首はおろか指先の一本すら微動だにしない。  
 そして、スラリと伸びた両の脚は脹脛と太腿が完全に密着する程に膝を目一杯に折り曲げられた状態で束縛され、  
さらに膝頭が乳房の両脇にくるような位置でしっかりと固定され、膝頭を閉じる事は絶対に不可能だった。  
つまり、葵の羞恥の源泉たる女の生殖器官と排泄器官の在り処をパックリと曝け出した格好になっているのだ。  
 僅かに視界の隅に捉える事の出来る両足には、一体何の趣向なのだろうか、真っ白な足袋だけが履かされているのだった。  
 
 もしも葵が今の己の股間の様子を目にする事が出来たなら、激しく取り乱すか、或いはそのまま卒倒してもおかしくない程の惨状が広がっていた。  
 漆黒の艶やかな草叢を縦真一文字に割る麻縄。本来ならば太縄さえも埋没しかねない程の繁り具合を誇る葵のアンダーヘアはキッチリと左右に撫で付けられており、  
雪白のヴィーナスの丘を麻縄が両断している様子を覆い隠してはいなかった。  
だがそれでも毛羽立つ縄の左右からは、ほつれた恥毛が数本後れ毛のように飛び出している。  
柔らかな恥丘には深々と縄が食い込んでおり、その縁にほんのりと桃の色を滲ませたふっくらとした大陰唇が荒縄を包み込んでいる。  
チクチクとする縄の刺激を和らげる為なのか、葵の媚肉が湧き立たせた蜜液が縄を黒々と濡らしている。  
 年頃の乙女がそんな股の褌を巻かれているというだけでも惨い仕打ちなのにも関わらず、くぐらされた股縄には更に凄惨な仕掛けが施されていた。  
 葵の股間を一直線に割る麻縄の上に、二箇所の大きな結び目の瘤が作られているのだった。しかもその瘤の場所は丁度葵の膣孔と肛門の上に位置している。  
丸い結び目はそれぞれ二つの孔に半ばまで埋没しており、  
葵が身じろぎする度に肌を這う無数の縄と連動して動く股縄がずれてしまわない為のストッパーとしての役割を果たしているのだ。  
 
 直径2センチ程の後ろの瘤を飲み込まされた裏菊は真赤に充血させられ、放射線状の皺をピクピクと震わせながらこの暴虐を耐え忍んでいる。  
 蜜壷の栓と化した前方の縄瘤はヌルヌルとした卑猥な液体にたっぷりとまみれてその縄目すら見えない程だ。  
 そして葵の躯の中でも最も鋭敏な感覚器官である肉真珠の上を通過する股縄にも、二孔に勝るとも劣らぬ程の淫猥な仕掛けが施してあった。上下に走る縄はお豆の前後で一つの金色の環に結び付けられている。  
内径数ミリ程の小さい金のリングの中央には葵の剥き出しのクリトリスがしっかりと収められていた。真性包茎の葵の女芯が被っている肉鞘はそのリングに阻まれて、  
ポッチリと尖り勃ったクリットの守護を諦めざるをえなかった。恥垢を老人の舌の先で舐め清められたクリトリスは本来の肉瑪瑙色に艶々と輝きながら、外気の寒さに慄いているかのように根元からプルプルと震えている。  
 「ふふっ……名人も今時の若い女子にしては素晴らしく縛り甲斐のある躯だと誉めておったぞ」  
 老人が口を開いた。葵は視線を恐る恐るその声のする方に向けた。此処はあの闇に満たされた陵辱の部屋ではなかった。自分は青畳の上にゴロンと転がされていた。部屋の広さは百畳を超えるだろうか。  
三方の壁はあの地下室とはうって変わった明るい白壁であり、老人の背後には障子すら見えた。此処も花菱邸のどこかなのだろうか。  
薄い障子紙を透かして明るい日の光が差し込んでくる。どうやら今は昼間らしい事が葵にもわかった。花菱の手の者にかどわかされてから時間の経過を失念させられていた葵にとっては、久し振りの感覚だった。  
 
 「骨と皮ばかりの最近の若い娘は細っこくてガリガリで縄を打っても似合わんとこぼしておったわい。あ奴には珍しく、  
お前は肉付きの良い部分と縊れている部分との按配が絶妙だとベタ誉めだったぞ。もう二〜三年も男の精をしっかりと吸わせれば極上の縄芯になると絶賛しておった。  
成る程、日本一の縄師が惚れ込むだけのことはある躯だ。小便臭い小娘だとばかり思っておったが、どれ、見違えたぞ」  
 老人の鋭い視線が葵の肢体を上から下までじっくりと舐めまわす。  
 「男を識らぬ未通女の初心なオマンコもなかなか面白いものだが、ワシは男を識ったばかりの、まだ初々しさを残した女陰を眺めるのが何よりの愉しみよ。  
貴様が達して気を失い、縄師に縛られている間にじっくりと堪能させてもらったぞ」  
 もうあの地下室で恥辱の泉の奥の奥まで覗き込まれたのにも関わらず、そんなあからさまな物言いに葵は喉を絞ってヒィーッと悲鳴を上げた。  
 「ワシも寄る年波には勝てん。流石にあれだけ精を放った後はなかなか回復してなくてのう。  
そこでだ、昨晩のお前が女になる瞬間の一部始終をビデオに撮ってある。それを二人でジックリと鑑賞しようではないか」  
 あの陵辱劇がビデオに納められている。葵は後頭部をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。  
最早、愛しい薫に合わせる顔も無い程に汚し尽くされた己が身ではあったけれども、それでもその様子が記録に残っているというのはやはりショックであるのは違いなかった。  
 
ブゥン。  
唸るような音と共に、源一郎が腰掛けている四角い箱の前面が明るくなった。花菱翁が腰掛けていたのは50インチ程のTVモニターだったのだ。  
 「嫌あああああッ!! 止めてええええええええッ!!」  
 モニターからは布を引き裂くような甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。画面には麻縄で吊り下げられた美少女が老人に身体を弄られている。  
 居たたまれなくなって、葵は顔を背けた。心に刻み込まれた陵辱のメモリー。忘れたくとも忘れられない、  
いや、例え忘れる事が出来たにしてもこの映像を見せられればあの時の全ての記憶と感覚が甦ってくるのだ。  
 顔を背け、瞼を固く閉ざしても、縛めの身であっては塞ぎ様の無い耳からあの時の声が入ってくる。  
 「ひィッ!!」「はゥッ!」「あひッ!!」  
 あの声を上げた時にはどの部分を弄られていたのか。あの悲鳴を上げた瞬間には何処を嬲られていたのか。  
 ズプッ。グチュッ。ドビュゥッ。  
 あのはしたない音をさせてしまった時には何をされたのか。あの恥ずかしい音が響いた時には前後のどちらの孔をほじくられたのか。  
 脳裏によぎる記憶を振り払うかのように、黒髪を振り乱して頭を振る葵。そんな動きまでもが股間の縄褌に伝わり、羞恥の源泉を三箇所も同時に責められて葵は顎を突き上げた。  
花菱翁はといえば己の腰の下のモニターには目もくれずに、そんな彼女の様子をニンマリと邪悪な笑みを浮かべながら見つめていた。  
 「どうじゃ。よく撮れているであろう。あの部屋には周囲の壁は勿論、  
天井や床にも無数のカメラがそれとは判らぬように仕掛けてあるのだ。ありとあらゆる角度からお前の姿を記録できるようにな」  
 
 その言葉に反応したかのように、画面に映る陵辱現場の映像のアングルが切り替わった。  
吊られた葵を俯瞰から捉えた場面。股間を見上げるカメラアングル。正面から老人に嬲られている最中の葵の尻のアップ。  
あまつさえ、独楽のようにクルクルと回転させられる葵を追従するシーンまであるのだ。  
あの暗闇の地下室で撮影したとは思えぬ程に画像は明るく、葵の恥毛の一本一本が数えられる程にまで鮮明な映像が途切れる間も無く流れていった。  
 「ふふふふふ、どうやらコレはお気に召さぬらしいな。それならこちらはどうだ」  
 老人が手元のリモコンを操作すると、モニターに一瞬灰色の走査線が走り、別のカメラの映像が映し出された。  
 「ヒィッ!! お、お止めくださいッ、花菱様ッ!!」  
 その声を聞いた瞬間、身体を固くしていた葵がピクンと身じろぎした。  
 画面の中では相変わらず嫌がる葵を責め嬲る花菱翁の姿が映っているようだ。長い睫毛を涙で濡らし、  
潤んだ円らな瞳をアップで捉えたカットから徐々にカメラが引いて行く。先程までの無機質な記録映像といった趣きではなく、臨場感溢れるナマの迫力がそこにはあった。  
 うつ伏せに組み敷かれた少女に背後から覆い被さる源一郎。  
 「ゆっ、許してッ!! 祝言を挙げるのはっ、来月なんですッ!!」  
 尻肉に指を食い込ませておんなの恥辱の谷間を露に曝け出す源一郎の頭髪は黒々としていた。  
 必死に頭を振る少女の、腰まで届くほどの長い黒髪が宙に舞った。  
 画面の中の少女は、桜庭葵ではなかった。  
 「……お母……様……」  
 葵と瓜二つのこの少女こそ、若かりし頃の葵の母親の姿だったのだ。  
 
 凄惨さが醸し出す「美」というものがあるのだろうか。自分の母親・弥生が陵辱されている映像から葵は目を離す事が出来なかったのは、  
その息を呑む程の被虐美に囚われてしまった所為なのかもしれなかった。  
妙齢の見目麗しい女性が虐げられている姿が放つエロスが心に訴えかけるのに、男女の別は問題ではないのだろう。たとえそれが若かりし頃の自分の母親の姿であったとしてもだ。  
 画面の中では必死に這いずって逃げようとする弥生が抗いも空しく、鷲掴みにされた尻を引き寄せられてゆく様子を映し出している。  
畳の上に虚しい爪痕を残して、源一郎の剛直の前に引き据えられる弥生。そそり勃った男根が弥生の羞恥の中心にあてがわれた。  
 「ひっ……そっ、それだけは、どうか堪忍し……ッ!!」  
 弥生の躯がグンと仰け反った。その様子で、まだ経験の浅い葵にも母親が背後から貫かれたのだと判ってしまった。  
 (お、お母様ッ!……)  
 「あっ……ああっ……ゆ……貴文様ァッ……許して……許してェッ……」  
 涙ながらに結婚の相手の貴文、つまり葵の父親に詫びる弥生。  
 
 「あふっ……お、巨きいッ……花菱様ッ、巨き過ぎますッ……」  
 どうやら弥生は初めてではないようだ。この撮影の時には既に花菱源一郎の毒牙にかかってしまっていたのだろう。  
苦しげに眉根を寄せるものの、葵の目には母が破瓜の激痛を堪えているようには見えなかった。  
たっぷりと源一郎の手に揉み込まれたに違いない、重量感のある乳房がタプンと揺れ、乳首の先端から汗の雫が滴り落ちた。  
 挿入の瞬間の弥生の表情を磁気テープに焼き付けると、カメラが二人の結合部へと回り込んだ。  
 「ふふ、この頃は今ほど良い機材が無くてのう。ワシの部下にカメラマンや照明をやらせたものよ。皆、お前の母親の艶姿に魔羅を硬くしておったぞ」  
 母は衆人環視の中で源一郎に犯されたのだ。女としてその屈辱たるや如何ほどのものであったろうか、想像するに余りあった。  
身震いする程の激しい憤りを感じながらも、葵の目はモニターの上に釘付けになっている。  
 ムチムチと熟れた牝尻が真っ二つに裂き拡げられて、ジットリと汗を滲ませた谷間の奥底までをもカメラのレンズの前に曝け出していた。  
濃いセピア色に沈色した肛門の周囲にまで柔らかそうな和毛が恥ずかしくそよいでおり、裏菊の縁取りを飾っている。  
その下には剛直を根元までズッポリと咥え込んだ弥生のヴァギナが見えている。ピッチリと密着した桃色秘唇と赤黒く淫水焼けした肉茎の結合部からはジクジクと恥液が滲んでいる。  
 
 (お母様ッ……濡らしているのっ?)  
 暴虐から粘膜を護る為に止むを得ずに潤ませてしまったものだと信じたい。悲壮な思いで母の姿を見つめる葵。  
 「おっ、お願いですっ、カメラを、カメラを止めて下さいッ」  
 そんな弥生の言葉など何処吹く風といわんばかりに執拗なズームアップのシーンが続く。捲れかえった秘唇の内側から鮮やかな紅鮭色のビラビラ肉がはみ出している。  
アヌスの周囲ではまばらだった陰毛は蟻の門渡りの途中から猛烈な繁り具合に変化しているものの、  
ヴァギナの縁だけはまるで剃り上げられたかのような無毛地帯となっているので恥丘の仄白さがヘアの艶黒と相まってことさらに強調されている。  
そんな真っ白なヴィーナスの丘に突き刺さった肉槍がズルリと引き抜かれた。  
蚯蚓の如き太い血管を浮かび上がらせた剛茎にはベッタリと恥汁が絡み付き、ライトの光を浴びてテラテラと輝いている。  
遠ざかる源一郎のペニスを引き止めるかのように、引き摺り出されたサーモンピンクの薄ラヴィアが肉柱にしがみ付くのを葵は複雑な思いで見た。  
 ズブッ、ズブズブズブ〜ッ!!  
 源一郎が腰を突き出すと、泥濘に杭を打ち込んでいるかのようにあっさりと弥生の胎内に埋没してゆく男根。淫らな潤滑油がピストンとシリンダの隙間から漏れ零れた。  
 「はっ、はおおッ!!」  
 黒髪を扇のように拡げて咽き叫ぶ弥生。膣を抉られた所為なのか、括約筋で繋がっている肛門がギュッと絞り込まれて皺々のおちょぼ口がチョンと突き出る。  
 
 苦痛の為であって欲しい。  
 快楽の所為ではあって欲しくない。  
 母親の苦しむ姿を見たいと思う筈も無かったが、犯されていながら悶える姿はもっと見たくなかった。祈るような気持ちで画面を凝視する葵の顔色は、源一郎の一突き毎に青ざめていった。  
 「こ、こんなのっ、激し過ぎますッ……」  
 「ああっ、裂けて、裂けてしまいますゥ……」  
 「おっ、奥に当たって……」  
 「や、弥生のアソコがッ、壊れて、壊れてしまいますッ!」  
 その声は徐々に苦痛の色を薄くして、それに取って代わったのは娘が耳にするのには余りにも酷な、尊敬してやまない母親の女としての媚声だった。  
 気持ち良いとも、感じるとも母は一言も漏らしてはいなかった。だが、抗いの言葉の端々には女の悦びが滲み出ていた。  
 繊細な膣襞や狭隘な肉壷を保護する為だった筈の潤滑材は、今や剛直をねだる浅ましい牝の涎と化していた。  
サラサラで透明な花蜜が岩清水の如くチョロチョロと湧き出していた女の割れ目は、泡立って白く濁った粘液がドロドロと溢れ落ちる洪水地帯へと姿を変えてしまっていた。  
 母・弥生が感じてしまっているのは、娘の葵から見ても明々白々だった。  
 地下室での己の陵辱劇の際に、心の中の母親に『女とは好きでもない男に躯を弄ばれても濡らしてしまう生き物なのか』と問うた事を葵は思い出した。  
その答えは其処にあった。このモニターの中で二十年以上も前に、母は答えを出していたのだ。  
一縷の希望も打ち砕かれ心の拠り所を失ってしまった落胆からか、葵はがっくりと首を折った。  
もうこれ以上モニターの中で繰り広げられている母親の痴態を見るのは堪えられないといった様子で、その瞼を固く閉じる葵だった。  
 
 そんな葵の表情の推移を見守っていた花菱翁の相好が崩れた。老人はやにわに立ち上がると、青畳をミシミシと踏み締めながら葵に近付いてゆく。  
それに気付いた葵は必死に身体を捩って逃亡を再開するのだが、四肢を束縛された芋虫の如きその身では如何ともしがたかった。  
 パックリと開脚させられた葵の股の間に仁王立ちになった花菱翁が腰を屈めた。  
そして淫裂深く食い込んだ股縄をしげしげと観察すると、葵に向かってニヤリと笑いながら冷酷に指摘した。  
 「どうした。母親が犯される姿を見て濡らしておるではないか」  
 「うっ、嘘ですッ!! そんな筈はありませんッ!!」  
 眦を吊り上げて抗議の声を上げる葵の股の間に手を伸ばした花菱翁が、その指先にネットリと絡みつく恥蜜を掬い取った。  
老人の指先はドロドロの粘蜜に塗れていた。葵の目の前にかざされたその先から糸を引いて滴り落ちる肉汁を見せ付けられて、彼女は顔色を失った。  
 「ふふっ、流石に犯される姿をビデオに撮られながら気をやる女の娘だ。お淑やかな顔をしておるが、とんでもない変態だわい」  
 丁度その瞬間、モニターの中の母が生々しいうめきを放った。  
 「はあああッ!! み、見ないで下さいましッ!! やっ、弥生、恥をかきますッ!!」  
 何時の間にか自ら振りはじめた腰を大きくグラインドさせて、母親が果てようとする瞬間を葵は見せつけられた。  
幾人もの男達の前で辱められて、それでもアクメに達してしまう恥知らずな女の姿が其処にはあった。  
 
 「イッ……イくぅッ!! イきますッ!! あっ……ああ〜〜〜〜〜〜ッ!!」  
 グンと肢体を仰け反らせて絶頂を迎える母親の姿が葵の網膜に焼き付けられた。その視界を遮るかのように、あらためて老人の指が目の前に突きつけられた。  
濡れていた。間違いなく濡れていた。咽返るような女の発情の芳香をムンムンを匂い立たせた指先はドロドロの牝汁で汚れていた。  
 葵の唇は衝撃に戦慄くばかりで、意味のある言葉を紡いではくれなかった。  
 「わ、私は……嘘……そんな……違いますッ……お母様……間違いです……」  
 精一杯に見開かれた円らな瞳に映る指先。呆然とする葵はがっくりと首を折った。女の浅ましさを思い知らされた。いや、世の中の全ての女が浅ましいのではないのかもしれない。  
陵辱される姿をビデオに撮られて果ててしまう女と、そんな女を母親に持ってしまった自分との母子だけがこんなにも浅ましく淫らなのだろうか。  
 幼い頃から、葵にとってはその母親こそが女としての理想を体現した女性だったのだ。  
家事全般をそつなくこなし、淑女としての嗜みを須らく身に付けた母親は、葵にとっては眩しいばかりの存在だったのだ。  
そんな母親のようになりたい、少しでも母親に近付きたい。女としての自分を磨くことが、愛する薫に受け入れてもらえる事に繋がるのだ。  
そんな思いで教育係の神楽坂雅の厳しい花嫁修業にも弱音も吐かずに邁進してきた葵の一日一日までもが木っ端微塵に打ち砕かれた。葵の心の中の母の姿は泥にまみれたのだ。  
 そして、そんな母親の姿を見ながらはしたなく女の部分をしとどに濡らしてしまう自分への自己嫌悪。こんな浅ましい女が薫様に相応しい筈があるだろうか。葵の心は今や絶望に塗り潰されていた。  
 
 「ふふふふふっ、このワシの指を汚しておるのは一体何処の誰のマン汁じゃ? 母親がレイプされるビデオを観ながら股座をビショビショに濡らすとは、このワシも開いた口が塞がらんわい」  
 「うっ……ううっ……」  
 泣いた。葵は声を震わせてさめざめと泣いた。  
 「……くくくくくっ、それほどショックだったか。なに、種明かしをすれば他愛も無い事よ。お前を縛めているその縄には、たっぷりと催淫剤が浸み込ませてある。  
一年もの間、じっくりとコイツの溶液に漬け込んだ荒縄がお前の汗に濡れる。すると催淫剤がじんわりと溶け出してお前の肌から吸収されるという仕組みよ。勿論、マンコ汁でも同じ効果があるがな」  
 花菱翁は懐から取り出した歯磨き粉のような大容量のチューブを取り出しながらそう言った。  
 「コイツはな、ワシが金に物を言わせてコンツェルン傘下の製薬会社に造らせた特製の媚薬よ。古今東西、ありとあらゆる場所から取り寄せた貴重な材料から気の遠くなるような行程を経て抽出されておる。  
量産の効くモノではないから、グラム辺りの単価は純金を遥かに凌いでおる。こんな薬を使ってもらえて身に余る光栄だと思うのだぞ」  
 そう嘯きながらチューブのキャップを捻る老人が葵に近付く。  
 「効果の方も覿面でな、コイツを局部に塗り込まれた女は例外なく性欲の虜となる。処女も非処女も、淫乱も貞淑も、干上がった婆ァも初潮が来たばかりの小学生も区別無しよ。  
マンコに魔羅を突っ込まれて三日三晩気をやり続けるまで疼きは治まらん」  
 歯の根が合わぬようなおぞましい薬効をとくと聞かされ、葵は心底震え上がった。  
 
 (そ、そんな薬がこの縄に……)  
 気のせいか、急に荒縄が熱を帯びたように感じられた。  
 「さて、そろそろ仕上げに取り掛かるとするか」  
 チューブの先端が葵の乳首に接近した。  
 チュルチュルチュル〜。  
 「ひッ!!」  
 チューブから捻り出された半透明のピンク色の軟膏が右の乳首を襲った。乳輪を縁取るように円を描き、渦を巻きながら中心までうず高く盛り上げられる。  
とぐろを巻いた蛇のような軟膏の塊がとうとう乳首を覆い隠してしまった。  
 「そ、そんな恐ろしい薬を使わなっ……はうゥッ!!」  
 薬効はすぐに表れた。右の乳首に電撃が疾った。股縄の刺激が女のシークレットゾーンを襲うと判っていても、肢体を仰け反らさざるをえなかった。  
乳首の皮が剥けて鋭敏な神経が剥き出しにされてしまったのでは、との錯覚に陥る程だった。  
 「わっ……はわ……ああああ……」  
 口を大きく広げて、唇をわななかせながら意味を成さぬ言葉を吐き出す葵。そんな葵の左乳首にまでもが軟膏の塊で覆い隠されてしまう。  
 「むはぁッ!!……」  
 緊縛の縄をギリギリと軋ませて、不自由な躯がブリッジを描いた。褌の如き股縄がより一層葵の陰阜に深々と食い込み、陰毛が一本残らず逆立った。  
たちまちのうちに、エクスタシーで桃色に染まった肌にびっしりと汗の珠が浮かび上がった。  
麻縄に押し潰された尿道口が決壊し、体内の水分の殆どが涙と汗と涎と愛液へと変化して排出されてしまった所為なのか、濃厚な山吹色に煮詰められた小水が縄を伝いながら畳の上に染みを広げた。  
 
 「これで終わりだ」  
 チューブの先がクリトリスを強制的に剥き出しにしている金冠に狙いを定めた。老人の指先に力が篭ると催淫の薬膏がムリムリと押し出されてリングを埋め潰してしまった。  
 「はっ……かはッ!……」  
 葵の躯が青畳から弾かれるように跳び上がり一瞬の間、宙に浮いた。汗の珠が飛び散ってキラキラと輝く。瞳の焦点は一体何処に結ばれているのか、或いは最早何も見えていないのか。  
花びらのように可憐な唇の端からはだらしなく涎が垂れ、糸を引いて畳を汚す。  
 「ほおっ!……はひィッ……いきッ……」  
 気が狂ったかのように悶え、発作のように躯を大きく痙攣させる度に膣孔に埋没した縄瘤を押し退けんばかりの勢いで吹き潮がブシュブシュと断続的に弾けた。  
だが、息も止まるほどの快楽の地獄は、葵を頂へと押し上げてはくれなかった。  
イきたくてもイけない、絶頂の一歩手前でお預けを食わされる寸止め地獄が葵を襲った。  
 文字通り、七転八倒の苦しみだった。縛められた身体で畳の上を転げ回り、乳房の先端を畳の目に擦りつけては絶望的な渇きを癒そうと試みる。  
だが、そんな行為で一時的に飢えを凌いだ所で薬の効果が消える事は無く、躯の疼きをなお一層昂ぶらせるだけでしかなかった。  
 乳首は痛々しい程に尖り勃ち、カチカチに硬くしこっている。肥大勃起したクリトリスはと云えば、小さなリングのなかでパンパンに膨れ上がっており、凝集した血の色で透き通るような真紅に染まっている。  
しかも心臓の鼓動にシンクロして、ズキンズキンと脈まで打っているのだ。  
 
 葵は女の本能で理解した。この疼きは、膣を野太いモノで満たされて、襞を掻き毟られて、子宮口を精液で撃ち抜かれない限り、けっして引く事はないのだ。  
葵の脳裏には自分を女にした花菱翁の、あの禍々しくもおぞましい男根の形がクッキリと浮かび上がっていた。  
 (ア、アレで抉られたらッ……)  
 そう思うだけで、子宮が蠢いて膣洞がキュンと疼いた。  
青畳の上で芋虫のようにもがきながら、葵の頭を支配しているのは女の秘め所を荒々しく突貫される事を欲する牝獣の欲望だけだった。  
 (ほ、欲しいッ!! アレがっ、アレが欲しいのッ!!)  
 それを口に出さないのは、流石は桜庭家の跡取娘としての矜持か。そんな葵を横目で見ながら花菱翁が縁側の障子を開け、そのまま部屋を出て行ってしまう。  
 残されたのは、発情した獣と化した桜庭葵だけであった。  
 
 葵にとっては無限にも等しい時間に思えたが、実のところはほんの二、三分にすぎなかった。再び障子を開けて戻ってきた花菱翁は、その左脇に日本刀を五,六本を抱えていた。  
そして鞘に収まったままのそれらを右手で掴んだ一本以外は全て畳の上に放り投げる。  
ドスンドスンと重い音がした。竹光であろう筈が無い。花菱という家柄の事を考えれば、模造刀というのもあり得ないだろう。即ち、真剣だ。  
 だが葵は、己の躯を焦がす官能の炎を揉み消すのに精一杯で、傍らの老人の行動に気を払っている余裕は無く、また当然の如くその意図に関して思いを馳せる暇すらも持ち合わせてはいなかった。  
 音も立てずに、老人が鞘から白刃を抜き放った。正眼に構えられた刃が禍々しい光を放つ。  
 「動くではないぞ」  
 果たしてその声が煩悶する葵に届いたかどうか。  
 抜身を逆手に持ち替えて大きく上段に振りかぶると、花菱翁は何の躊躇いも見せずにうつ伏せになっている葵の頭部目掛け、裂帛の気合で凶刃を振り下ろした。  
 ドンッ!!  
 葵のほんの目と鼻の先に、四尺以上もある刀身が一気に半ばまで畳に沈んだ。煩悩に支配され、虚ろな瞳をしていた葵の目が慄きに見開かれた。  
僅かに刃に触れた長い睫毛が一本、はらりと畳の上に舞い落ちた。  
 「あ……ああ……」  
 唇をパクパクとさせるだけで、意味にならない言葉の断片が葵の口から零れた。そんな葵に己を取り戻す暇さえ与えずに老人は次の日本刀を掴み、その鞘を背後に放り投げた。  
 ドスンッ!!  
 葵の背筋が総毛立った。一本目の白刃を見詰める葵の後頭部に、二本目の刀が深々と突き刺さった。葵の黒髪が一筋二筋、宙に舞った。  
 「僅かでも身体を動かせば大怪我をするぞ」  
 老人にそう言われた所で、身体の芯から湧き上ってくる胴震いを止める事は出来なかった。  
 「次じゃ」  
 
 ズドォッ!!  
 三本目の刃はM字開脚の中心に突き刺さった。恐るべき技量だった。三本目の凶器は、葵の股縄に作られた結び目の瘤をかすめながら畳に吸い込まれているのだ。  
いや、かすめるどころではない。僅か直径2センチ程の縄瘤は殆ど両断されているのだ。  
一歩間違えれば、葵のおんなの裂け目がさらに拡げられ、今度は破瓜のそれではない赤い血潮が滲みかねないギリギリの位置なのだ。  
 もう、とうに出尽くした筈の黄金水が今一度噴き出した。流石に勢いが良いとは言えぬその水流の力が麻の繊維の一、二本で僅かに繋がっていた股縄を完全に切断した。  
 ようやく縄の縛めから開放された葵だったが、今度は彼女を取り囲んだ三本の日本刀がその自由を封じていた。  
 
 

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