重苦しく張り詰めた空気が、さほど広くもない部屋に満ちている。  
それはこの部屋を訪ねてきた、一人の女性が醸し出しているものだ。  
夜十時を過ぎれば、桜庭館本館は男子禁制。  
時間厳守で追い出した張本人が、日付も変わろうかという時間に突然訪ねてきた。  
「薫殿、少しよろしいですか」  
 レポートの提出期限が迫っているので、部屋の住人“花菱 薫”はまだ睡魔の誘いに乗る気はなかったが、訪ねてきた以外な人物に多少困惑する。  
 ……雅さん、こんな時間になんだろう?……  
 疑問の答えは出てこなかったが、なんにしてもあまり女性をこんな時間にドアの外で立たせておくわけにもいかないだろう。  
「どうぞ」  
 
 
 ……このようにして、笑顔で招き入れたのが十二分前。  
それからというもの、目を閉じ、畳の上に正座をして、桜庭館の管理人“神楽崎 雅”は、沈黙を続けている。  
雅の凛々ししい顔は、表情をぴくりっとも変えない。  
こんな時間に訪ねてきたからには、なにかあるのだろうと、薫も正座で客人が口を開くのを待っているのだが、なんとも気まずい。  
彼女と二人きりになると毎回感じるのだが、なにも悪い事はしてないはずなのに、『すいませんでした』と  
謝りそうな衝動に駆られる。  
こちらから話しかけるのは、なんとなく気が引けるが、  
「…………………………」  
「…………………………」  
 そろそろ、この妙なプレッシャーに耐えるのも限界が近い。  
「あの、みや…」  
 意を決して、薫が声を掛けると、  
「薫殿は…」  
 それを遮るように、雅がやっと口を開いた。  
「薫殿は…………その、……女体に触れた経験はお有りですか?」  
「………………は!?」  
 部屋の住人が、間の抜けた顔で、間の抜けた返事を返すと、それまでの沈黙で溜まっていたものが、  
一気に噴き出したように雅はまくし立てる。  
 
「ですから、薫殿は童貞ですか!」  
 夜中の、日付の変わったばかりの狭い部屋に、麗人のハシタナイ発言が響く。  
「雅さん、声大きいですよ」  
「!? し、失礼しました」  
 言の葉に乗せてから、自分がなにを口走ったか理解できたらしく、その頬にはほんのりと朱が差している。  
どうやらこの話を切り出す為に先程から黙っていたようだ。でも……  
「なんで、そんな事知りたいんですか?」  
 そこがわからない。彼女がそれを知ってどうしようというのだろうか。  
雅の行動基準の第一位にくるのは常に薫の許婚であり、桜庭家の一人娘“桜庭 葵”なのは周知の事実。  
ならば今回もそれだろうか?  
「どちらなんですか!」  
 真剣な顔で迫ってくるが、いつものような迫力がない。真っ赤な顔で言われても威力半減だ。  
「殿方は、その、歳がいってから女遊びを覚えると性質が悪いと聞きます」  
……なんだそりゃ……   
「それに殿方は生まれながらにして浮気性な生き物!」  
 ……どこで吹き込まれてきたんだろう?……  
 この年上の、いかにも出来るといった、綺麗で格好いい女性は、外見を裏切らない知識と教養を、ちゃんと持っている。それを有効に使う知恵もある。  
しかし仕えている主人ほどではないが、どうも一般常識に、特に恋愛関係に怪しいところがある。  
庶民の常識から懸け離れた世界で育ったという意味では、結局彼女もなんら主人と変わらない。  
「他所に若い愛人を作り、本妻には目もくれない、そんな事になったら葵様が御可哀想です」  
「………はぁ…」  
……ああ、それでか……  
 情報源はワイドショーな気がする。それとも昼ドラか?  
 
「……初めて同士ですと、殿方が女性をリードできず、それがトラウマになって離婚する夫婦もいるとか…」  
 そこで一呼吸おく。この辺はさすがに、桜庭家が一人娘の教育係りに任命するだけあって、  
一流のネゴシエーターぶりだ。  
「そこで、もう一度お尋ねします、薫殿は……童貞ですか……」  
「………………はい…………」  
「………………そうですか…」  
 二十歳を越えた男にとって、屈辱ともいえる告白をさせられて、なんだか薫は気が滅入ってくる。  
女性経験は、男にとっては股間の大きさと同じ位見栄を張りたいところだ。それが人より早かろうが、  
大きいかろうが、それで人としての価値が決まるわけじゃない。それでも拘ってしまうのが男の悲しい性だ。  
「……………慣れてください」  
「え!?」  
「沢山の女性と……そういう事をなさって…若いうちに慣れてください…」  
「………………………………」  
 この人は、自分の言ってることがわかってるんだろうか?いまのは、浮気のすすめだ。  
「浮気は、本気ではありません。本妻にばれずに、ちゃんと戻ってくれば問題ありません」  
 大有りだと思う。いや、ばれないように浮気のできる器用さを持ってる男が一番性質の悪いような。  
「薫殿、一生ばれない嘘ならば、それは嘘ではありません」  
 さらりっと、雅は凄いことを言い放つ。彼女は信念で動いているので、心には一点の曇りもない。  
 
 ……でもそういう人が一番性質わるいんだよなぁ……  
 もちろんそんな事は口には出さないが、  
「でも、慣れろと言われても」  
「薫殿、一筋に葵様を見ていただけるのは、大変嬉しいのですが、たまには右や左も見てみることです」  
「右や左?」  
 本当にわかってなさそうな薫を見て、一瞬だけ微笑むと、雅は立ち上がって背を向けた。  
「そのくらいは御自分で考えてください。私は、葵様に御仕いしてるのをお忘れなく」  
“パタンッ”  
 ドアが閉じて、雅が去っても、薫は呆けたようにそこから動かなかった。  
「右や左?」  
 ………………それから明け方まで起きていたが、レポートは一行も進まなかった。  
 
 
“ちゅんちゅん”  
 庭に舞い降りた雀の鳴き声が、いつもと変わらない朝を運んでくる。  
薫は窓際に近寄ると、カーテンを勢いよく開いて、朝日を部屋に招き入れた。一日の始まりとしては悪くない。  
「ふぅ〜〜」  
 だがそんな清々しい朝も、薫の心の霧までは払う事は出来なかった。  
結局、雅から出された課題は、答えを見つけることができなかった。  
まったく思い当たらないというわけではないが、いくつか出てくる考えは“まさかね…”疑問符が付くもの  
ばかりである。そんな薫を茶化すように、  
 “ぐぅ〜〜〜っ”  
 オナカが鳴った。  
人間どんなに悩みが深かろうが、生理現象には逆らえない。食べなくては生きていけない。  
今朝もオナカは元気に活力源を要求する。  
「やれやれ」  
 そう言って困ったように首を振るが、顔は少し自嘲気味に笑っていた。  
 ……バカな事考えてないで、葵ちゃんの朝ゴハン食べたら、レポート終わらせなきゃ……  
 今朝の献立はなんだろう? そんな事を考えながらドアを開ける。  
にこにこ顔で、離れから本館へと続く渡り廊下を歩く。  
その顔が引きつっているのは、薫本人が一番よくわかっていた。  
 
 朝から顔の筋肉を酷使しながら食堂に入ると、今日初めて、自然に笑顔がこぼれる。  
お茶碗や箸の配膳をしているのは、艶のある黒髪を肩口で切りそろえた、お人形さんのような、  
端正な面立ちの美少女だった。  
「葵ちゃん、おはよう」  
 声を掛けると、顔を上げてにっこり微笑み、丁寧にお辞儀する。  
「おはようございます、薫様」  
 育ちというものは、こういうところに出るのかもしれない。  
礼儀作法というものは、姿形を真似ただけでは嫌味に見えるだけだ。葵にはそういったところが微塵も無い。  
「今朝は、薫様のお好きな焼き魚ですよ」  
「うわぁ〜 嬉しいなぁ〜」  
 本当に嬉しかった。献立が焼き魚だからではなく、葵の気遣いが嬉しかった。  
「すぐ用意できますから、皆さんが来るまで、ちょっとお待ちください」  
 もう一度お辞儀をして、パタパタと厨房へ向かう。と、クルリッと振り向いて薫の目を見る。  
さっきとは違った幼い顔で微笑むと、今度こそ本当に厨房の奥に消えた。  
葵の姿が消えた後も、“ぼけら〜”と緩んだ顔で立ってると、“むにゅり”右腕になにか柔らかな感触が……。  
「か〜〜お〜〜る、おはよう!」  
「ティ、ティナ!?」  
こんなことは“ティナ フォスター”との付き合いでは当たり前のことなのだが、油断していたところに、  
不意に刺激的なスキンシップを取られて、薫の声は裏返ってしまった。  
腕に押しつけられるふくよかな柔らかさは、流石は外国産、東洋人には出せないボリュームを持っている。  
顔を見る前から、声を聞く前から、薫には誰だかわかっていた。  
 
「おはよう♪」  
「お、おはよう」  
 目はどうしても、大胆に切れ込んだサマーセーターから覗く、深い胸の谷間に吸い寄せられる。  
 ……『慣れてください』……  
 頭の中から閉め出したはずの雅の言葉が甦ると共に、自分の腕に押しつけられて卑猥に形を変えている、  
柔らかいが、それでいて弾力のある乳房の感触に、薫は思わず“ごくっ”生唾を飲み込んでしまった。  
「どうしたと?」  
「え!?」  
「顔が赤いばい、熱でもあると?」  
 ティナは心配そうに顔を寄せる。  
“ふわ……”とティナの髪から漂うほのかなシャンプーの匂いが、薫の鼻孔をくすぐり、増々顔を赤くさせた。  
「いや、へい……」  
「まぁ〜大丈夫ですの!?、花菱様」  
 平気だと言おうとした薫の腕に、今度は左から、細く白い腕が絡められる。  
肘先にぷにぷに当たる心地よい柔らかさは、まだ固いしこりを残した可憐な乳房だ。  
ボリュームでは太刀打ちできそうもないが、発展途上(なはず)の小さなふくらみを、ティナに負けて堪るかとばかりに“美幸 繭”は身体全体を使って押しつけてくる。  
「おはようございます、花菱様♪」  
「お、おはよ…」  
 薫が挨拶を返す前に、繭に反応したのは、  
「このジャリッ子、また呼ばれもせんのに!」  
 もちろんティナだ。二人を強引に引き剥がす。まるで薫を守るように繭の前に立ちはだかる。  
ティナは自分を、姫を守る勇者だと思っが、繭には恋路を邪魔する大魔王に見えた。  
 
「ちゃんと昨日の夜、花菱様にお呼ばれしてますわ」  
「え?」  
 思わず“そうだけ?”といった声を薫は漏らしてしまった。それを聞いてティナは勝ち誇る。  
「ほ〜れ、みんしゃい、嘘までついてからに。大体昨日は私もずっと薫と一緒におったと」  
 もう鬼の首を取ったようだ。だが繭は、そんなティナを鼻先で笑うと、憐憫の眼差しで見やる。  
「あなたのような、ガサツなケモノ女にはわからないでしょうけど、花菱様の瞳は語っていたんですわ!」  
 そして繭は虚空へと自己陶酔気味の視線をさまよわせた。  
「『繭ちゃん、明日は二人っきりで朝食を食べよう。その後は美術館に行き、おしゃれなカフェでお茶をして夜景の素敵なレストランでディナーを楽しみ、そして…』あぁ、花菱様とだったら繭はどこへでも…」  
 恋は盲目とはよく言ったものである。  
祈りを捧げる乙女のように胸の前で手を合わせると、繭の瞳だけに映る薫に熱っぽく語りかけた。  
しかし、ずいぶんと説明調の瞳もあったものである。  
「な〜〜に、都合のいい妄想並べとるばい!」  
 ティナは妙にムキになって、半分夢の世界にいる繭を強引に現実へと引き戻した。  
せっかくのスィートな時間を邪魔されて、繭はムッとした顔をティナへと向ける。  
「それじゃ〜 花菱様の瞳はなんと語ってましたの!」  
「え? そ、それはその、あぁ〜あればい…」  
 予想もしなかった逆襲に、ティナはしばし考え込む。  
どんな想像をしたのか、その顔がみるみると、林檎のように真っ赤に染まっていく。  
「なに赤くなってますの? 御病気ですの」  
「あ、赤くなんて、……赤くなんてなっとら〜〜〜ん!!」  
 
 二人の喧騒をよそに、そのとき薫はというと、  
「す、すいません先輩」  
 人助けをしていた。  
なにもない場所で、前のめりに転びそうになった桜庭館のトラブルメーカー“水無月 妙子”を、横抱きに  
受け止める。  
お盆を両手で持って食堂に入ってきたときから、なにかやるだろうと思い、注意していてよかった。  
「はぁ〜〜 どうして私ってこうドジなんだろう」  
 薫の腕の中で、ガックリと妙子は肩を落とす。反省するのは悪い事じゃないが、まだ妙子は薫の腕の中だ。  
ズッシリと重みが腕に圧し掛かる。だが薫は自分から妙子に立つようには言わなかった。  
ティナとのスキンシップのとき浮かんだ考えは、早くも修正を余儀なくされる。…国産も捨てたもんじゃない。  
メイドエプロンの脇からこぼれる、もてあまし気味のふくらみは、ABCD…と、いくつ数えたらいいのか、男の薫には見当もつかなかった。  
その上妙子は餅肌というやつなのか、そのふくらみは手の平におさまりきらず、指と指の間から乳肉が  
はみ出してる。  
“にゅむ”  
 これが男の悲しい本能なのか、指が無意識に動き、豊かな胸にめり込む。  
「あ!?」  
 胸に感じる違和感に、驚いたように妙子がぴくんっと身体を揺らした。  
余程驚いたのか、それとも感度が良すぎるのか、妙子の手からぽろりっと、スローモーションでお盆が離れる。  
 
 ……ごめん、妙子ちゃん……雅さんには俺が謝るから……  
 心の中で妙子に詫びつつ、薫はこれから起こるオカズの惨状を脳裏に思い浮かべた。  
“ぱしっ”  
 しかし間一髪、二人が怒られる未来は回避される。  
「「ちかちゃん」」  
 二人を救ったのは妙子の姪っ子にして桜庭館のアイドル“水無月 ちか”だ。  
「てへへっ グットタイミング♪」  
 “にぱっ”と笑うのがカワイイ。走りこんでメジャー顔負けのナイスキャッチを披露してくれた。  
「ありがとう、ちかちゃん」  
 薫は妙子を起こしながら礼を言うと、ちかは頭を突き出してくる。撫でてほしいという事だろう。  
ちかの期待に応えて、薫は優しく、その小さな頭を何度も撫でた。妙子も半分涙目で撫でていたりする。  
「あ、皆さん揃いましたね」  
 朝から軽くホームドラマをしていると、葵がメインの焼き魚を持って入ってきた。  
 ……皆さん?……  
 見ると澄ました顔で、雅がすでに席に着いている。薫と目が合うと、ボソリとさりげなく小声で言った。  
「役者が揃いましたね」  
 
 
 “コンコン”  
「どうぞ」  
 遠慮がちなノックに、雅は目を通していた書類から顔も上げずに答えた。  
「失礼します」  
「これは薫殿、どうしました?」  
 仕事部屋に入ってきた薫に、雅は目線だけを向けて答える。  
「レポートで使う資料、貸してもらえませんか?」  
 多少ぎこちなく薫がそう聞くと、雅は目線を書類に戻して短く言った。  
「どうぞ」  
「それじゃ…」  
 部屋の壁を埋め尽くす本棚をザッと眺める。これだけあると、資料を探すだけで一苦労だ。  
とりあえず目についた本を、パラパラとめくってみる。  
でもいくら眺めて見ても、本の内容が頭に入ってこない。  
努めて冷静を装っているが、いま薫の頭を占めているのは、まったく別のことだ。  
「薫殿」  
「はい!?」  
 不意に掛けられた声に、形だけは本を見ていた薫は、弾かれたように顔を上げる。  
「相手は決まりましたか?」  
 そして雅は、聞きにくい事、言いにくい事をさらりと言葉にした。  
 ……『役者が揃いましたね』……  
 朝食の席での雅の一言は、薫が一晩中悩んだ課題の答え。つまり彼女達が浮気の対象という事だ。  
 
「そんなの……決まるわけないし、できるわけないでしょ」  
 薫の声が少し硬いものになる。  
「なぜですか?」  
「なぜって、葵ちゃんの為て言いますけど、それじゃあ他の子は遊びでもいいんですか!」  
 薫は思わず語気を荒げてしまったが、ハッと我に返ると雅に謝った。  
「…すいません」  
「薫殿」  
 雅の声は気にしたふうもない。  
「それでは言い方を変えましょう、本気にも優先順位を着けてください」  
 そしてまた、とんでもない事を言った。まるでわかってない。  
「ふぅ〜 いくら慣れたくても、ティナ達にその気がなければ無理だと思いますけど」  
「その点は心配いりません。薫殿が口説き方さえ間違えなければ、皆さんそうなる事を望むはずです」  
 ずいぶんと無茶な、薫からしてみれば自分勝手な論法に聞こえる。  
少しだけカチンッときた。  
「朝の席には雅さんも居ましたけど、いま服脱いでください、て言ったら脱いでくれますか」  
 役者が揃ったというなら、あの場に居た雅も当然対象に含まれるはずだ。  
薫は言外に『出来ないでしょ』というニュアンスを匂わせる。  
「…………………」  
「…………………」  
 黙ってしまった雅に、少し言い過ぎたかなとは思ったが、薫はわかってくれたんだと思った。…だが甘い。  
薫は桜庭家、いや葵に対する雅の忠誠心をまだまだ軽くみていた。  
 
「え!?」  
“シュ、シュル”  
 本棚と向き合っている薫の耳に、すぐ後ろから衣擦れの音が聞こえてくる。  
「薫殿、これで…よろしいですか…」  
 そんなに大きくはないが、無視できない声。暗示をかけられたように薫は振り返った。  
机の上にはブラウスやタイトスカートが、彼女の性格を現すようにキチンと折りたたまれている。  
雅は、何も身に着けてない。  
乳房と股間を手で覆っているが、豊満なふくらみは大半が手からはみだし、少しでも秘部を隠そうと前屈みになっている為に、谷間がより深く強調されて、かえって視線を誘う。  
彼女は決して言われた事を、ただ機械的に行うロボットではない。  
その証拠に、自分の身体を見る薫の視線を意識すると、その頬がうっすらと朱に染まっていく。  
薫と目が合うと、逃げるように視線を逸らした。  
雅の中に舌を噛み切りたいほどの羞恥心が湧き上がる。  
だが優柔不断な(雅から見てだが)薫には、いくら恥ずかしくても、もう一押し必要だろう。  
 ……葵様の為だ……  
「み、見ているだけで、よろしいのですか」  
 雅はコクッと唾を呑んでから、乳房を抱いていた手をゆっくりとおろした。  
口紅の色と同じ淡い桜色のの乳首は、ふるふると頼りなげに震えている。  
乳首まで露わにされたふくらみに、今度は薫が唾を呑む。  
続いて雅は股間から手をどけようとした。  
しかし羞恥心という鎖で秘部に縛り付けられた手は、容易に剥がれようとしない。  
まるで右腕の手首から先が、自分のものではなくなったようだ。  
苦労してどけた手の下から、艶やかな黒の恥毛に彩られた秘部が、成熟した女性にふさわしい自然な感じで  
繁っている。  
 
「好きにしてよろしいですよ」  
「…………………」  
 普段は冷たささえ感じさせる麗人の、恥じらいながらのお誘いに、薫の心臓が大きく跳ねた。  
いわゆる“据え膳食わねば男の恥”といったこの状況。  
なるほど、先人は旨いことを言うと、薫はこんなときだが感心してしまう。  
ごちそうが自分から食べてもいいと言っているのだ。ここまでされて断れる男はいない。  
心の隅に、葵に対する後ろめたさを感じつつ、それでも男の哀しい性には逆らえず、アル中患者のように  
震える手を、魅惑の乳房へ伸ばした。  
“ふにゅん”  
 薫の手のひらの下で、形のいいふくらみがつぶれる。雅の乳房は見た目どおりに柔らかかった。  
しかし、その柔らかさの奥に、意外なほどの弾力が秘められている。とろけるような感触なのに、ともすれば指が押し戻されそうだ。じっとりと汗ばんだ手のひらに、雅の肌のぬくもりが伝わってくる。  
女性の乳房に触ったのは、なにも初めてではない。  
だが相手が、こんな事になるとは想像もしなかった雅だからだろうか…。乳房をつかむ手に思わず力が入り、柔らかい肉に指が食い込んだ。  
“にゅぐ”  
「いッ」  
 小さな悲鳴を上げて、雅が顔をしかめる。  
「薫殿、そんなにキツクしては、女性の身体はデリケートにできてるんです」  
「あ!?、すいません」  
 薫はこの、童貞男の八割が言われるだろうセリフに、冷静さを取り戻す。  
 ……しかしこのセリフ、予想以上にキズつくなぁ……  
 今度は密かに隠し持っていたエロ本の知識を頼りに、円を描くように、優しくソフトに揉みしだく。  
「…そうです…そういう風に……優しく……」  
 薫の指が蠢いて、手のひらの下で、ふくらみが刻一刻と形を変える。  
 
「んンッ……」  
 雅は唇を噛んだまま、鼻に掛かったうめきを漏らした。  
だんだんと雅も興奮してきたのか、むっくりと身を起こした乳首が、下から手のひらを突き上げてくる。  
もう一方のふくらみは、触れてもいないのに乳首はすでに硬くしこり、刺激を待ちわびてるようだ。  
その期待に応えるように、薫はゆっくりと顔を近づける。上目づかいで見ると、雅と目が合った。  
“ちゅむ…”  
「あんッ!」  
 淡い桜色の突起を口に含むと、雅の唇から艶かしい声が漏れ、頭を掻き抱き、ふくらみに強く押し付ける。  
悪くない反応だ。舌先でくすぐると、雅の乳首はますます硬度を増してきて、それに軽く歯を立てる。  
「あッ……ンッ……ふぁッ……」  
 もう声を抑えるのを忘れたかのようだ。女体が淫らにくねる。  
拙いが、熱心な愛撫に、雅は自分の身体が本格的に昂ぶってくるのを感じた。  
腿が落ち着かなげに、モゾモゾとすり合わされる。  
まるでその心を見透かしたように、薫の中指が“すッ――”と雅の秘裂を撫で上げた。  
「んふぁ……」  
 羽毛のような優しいタッチに、火を点けられた身体は敏感に反応する。  
閉じられていた腿が、誘うように開かれた。薫は指先に感じたぬめりを塗りひろげるように、人差し指で  
秘裂を上下になぞりあげる。  
「気持ちいいですか?」  
「………はい…んぁッ……お上手…あッ……です……」  
 屈辱の言葉だった。これが薫と雅、二人だけの関係ならば、口が裂けても言わない。  
しかし薫には、葵と初夜を迎える前に、女性の身体を知って、慣れてもらわなくてはならない。  
 
海よりも深い忠誠心が、山より高いプライドを何とか押さえつける。  
その言葉に勇気づけられたのか、秘裂をなぞっていた人差し指を、粘膜の狭間にすべり込ませた。  
“ぬにゅ……”  
 薫の指先を、とろけそうに柔らかな感触が出迎える。さしたる抵抗もなく、指は第二関節まで入ってしまた。  
「んンッ……」  
 不意の挿入に、雅は軽くのけ反る。上を向いた顎を引いて、おそるおそる視線を股間に落とすと、  
《下の口》が指の先端をくわえているのが、目に飛び込んできた。  
あまりにも猥褻な光景に目を逸らそうとするが、魅入られたかのようにそこから離れない。  
“にゅるり”  
 膣内に溜まっていた愛液が、突き立てられた人差し指を伝って外へとあふれ出す。  
ぬかるみを不器用にまさぐる指先にヒダヒダがまとわりつき、にちゅにちゅと淫らな音をたてた。  
「あッ……んあッ…ああッ……ま…んンッ……待って…ください……」  
 雅は上ずり気味の声でそう言うと、蠢く薫の手をにぎる。  
「どうしたんですか?」  
「その、これでは……私だけで…薫殿は……」  
 頬を染める雅の視線の先には、ズボンの布地を突き破りそうなほど膨らんだ薫の股間。  
雅にとっては、薫が、女性の身体で気持ちよくならなければ、なんの意味もない。  
その意図は、薫もすぐに察した。雅の腰を抱き寄せると、お尻をすくうように持ち上げ、机の上に乗せる。  
「雅さん……いいんですね…」  
 薫も牡の本能を満たす為、いつもより積極的だ。その顔が、雅には凛々しく見えてしまい、一瞬戸惑う  
 
「……は、はい」  
 その返事に、薫はズボンのジッパーを下ろすと、勃起した牡器官をおもむろに取り出す。  
 ……と、殿方のものは……こんなに大きいのか……  
 赤黒く膨張したペニスが逞しくそそり立ち、ヒクヒクと蠢きまるで威嚇しているようだ。  
薫の優しげな顔と凶悪なモノとのギャップもありすぎて、一瞬思考が停止する。  
薫には女性経験がないが、慣れさせようとする雅には男性経験がなかった。しかし処女ではない。  
桜庭家の一人娘の教育係り、一度もつらいと思った事はないが、プレッシャーを感じていたのは確かだ。  
その反動かもしれない、年頃になり、自慰行為を覚えてからは毎晩のようにした。  
そしてその度に自己嫌悪に陥る。それがまた反動になり、自慰を行うという悪循環。行為はどんどん過激なものになっていった。  
バイブで処女を失ったのは、いつの事だか覚えていない。それを哀しいとも思わない。  
雅は自分が処女を捧げた相手は、葵だと思っている。しかしそんな麗しくも秘めやかな主従愛はともかく、  
本物の男性器は、入れたこともなければ、見たのも初めてだ。身体が緊張するのは仕方がない。  
童貞の薫には、もちろんそんな事を気づいてやる余裕はなく、ぬめらかな秘裂を割り開くと、一気に押し込む。  
“にゅぬぅ〜”  
 愛液の味を知らない勃起が、柔肉の中に根元まで呑み込まれた。  
「あふぁッ!」  
 脈動するこわばりで柔肉を押し割られる感覚に、雅はたまらず背を反らす。豊かな胸のふくらみが  
勢いよく突き出された。  
 
薫もヘタクソな抽送を繰り返すうちに、コツがつかめてきたのか、腰の動きが徐々にスピードを増していく。  
やがて、透明な潤滑液にまみれた結合部が、リズミカルな粘着音をたてはじめた。  
「あッ……ふぁッ……ンッ……はふッ……」  
 普段の雅からは想像もつかない、扇情的な声が口から数珠つなぎにあふれてくる。  
その声に煽られるように、薫は容赦なく本能のままに雅の柔肉をえぐった。  
「雅さん、もう、そろそろ…やばい…」  
 もっともっと、この身体を貪りたかったが、そろそろ薫は限界が近い。  
最後の一突きとばかりに、一際強く“ズンッ”と膣奥を突かれた時、雅は頭の中が真っ白になるのを感じた。  
「はひッ…はひッ……ふぁあッ!」  
 最奥にほとばしりを感じながら、雅は白い奔流に飲み込まれた。  
 
 
                             第一話 完  続く  

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