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「ちか、さっきは悪かったよ」  
 
薫がちかの部屋の前でそう言った。だが中からはなんも答えもない。  
今、それぞれが仕事で、また別の意味で忙しく動いてる桜庭館の住人たち。  
それが薫とちかの間だけは異様な静けさに見舞われていた。  
ちかは相当なショックからか、布団に顔を疼くめたままだのようだ。  
気になるので仕方なく了承なく扉を開ける薫。その彼の目に飛び込んできたのは  
何も着ぬまま布団に寝そべってるちかであった。とっさに少女の肩をつかんで  
「ダメじゃないか!こんな格好のままいたら。風邪をひくだろ?」  
と叱責する。少女は突然薫に素肌を触れられドキッとしたがすぐに背を向け  
「出てって、お兄ちゃんはわたしのことなんかより薫姉ちゃんの方が大事なんだでしょ?  
わたしなんかほっといてお姉ちゃんのとこにいけばいいじゃない」  
そう言った時パンッと乾いた響きの音がちかの部屋に響いた。突然の平手打ちに頬を押さえて  
呆気にとられるちか。それを厳しい目で見張る薫。だが、次の瞬間にいつもの優しい彼本来  
の笑顔に戻りちかを抱きかかえ  
「そんなわけ、ないだろ?ちかちゃんはオレにとって大切な人だよ」  
「・・・・・・・本当、なの?」  
「こんな時にオレは嘘なんかを言う男だっけ?・・・・違うでしょ?」  
そんな短いやり取りの後、二人はいつものじゃれ合ってるような笑顔  
に戻っていた。  
 
「あの・・・おにいちゃん・・」  
「ん?・・・・ああっ!ご、ごめん!ついとっさのもんだったから、その・・」  
自分の今してたことに気づき思わず離れようとする彼をちかが引っ張って戻す。  
「ううん、いいの。おにいちゃんとならどんな姿見られても平気だし、それに・・・」  
「??」  
「それに・・・今すごくあったかぁい」  
と嬉しそうに彼の胸へと身を委ねるちか。  
薫はそれを聞いて困惑してしまった。  
 
「あ、あのさもういいよね?」  
「いや〜〜っもっとおにいちゃんといたい」  
「こらこら、さあティナや葵ちゃんたちのとこに行こう」  
「・・・おにいちゃんもきてくれる?」  
「もちろん」  
「・・じゃ行くっ!」  
少女は元気よくそう返事すると薫に全てを晒した羞恥など微塵もない  
ように服を着ていく。そして半ば引っ張られるように連れられていく薫。  
ところが二人とも自分の部屋にはいない。出かけたのかなと  
思うがティナの部屋で香ばしい匂いが残ってたのでもう少し探してみた。  
 
居間をはじめ館内あらゆるとこを探したが、もう残る場所は浴場のみと  
なりさすがにいないだろうと悟りちかに部屋へと戻ることを促す薫。  
でもここで薫と別れるとまたとないこんな機会を逃すと本能的に  
感じた少女は浴場にも行こうと薫を強引に引っ張るちか。  
行ったら驚くことに人の入ったような形跡が、気になり中に入る2人。  
ふと目に付いた床には、ティナと葵の服と下着がしどけなく脱ぎ散らかしてあった。  
 
それに気づき慌てて出ようとする薫。だがその足取りをちかが彼の服を掴み制す。  
そして指を口に当ててから目先を浴場の方へと促すちか。  
2人はそこから微かに聞こえるくぐもった喘ぎ声に気付いた。  
 
(・・・ぁ・・・・っっ!・・・・・ぅぁぁ・・)  
葵のものであろう細く高い声。  
(えっ?葵ちゃん、何やってるの!?)  
視線を浴場内に凝らし、奥歯を噛み締めて葵は耐える。  
(・・そう・・これさいいんかい・・・・ふふっ・・・)  
艶めかしいアルトが喘ぎ声に混ざり漏れ聞こえてきた。  
 
彼は顎を引いて目を閉じ、眉間に皺を寄せて閉じた瞼に力を込める。  
浴場内の出来事の大よそがわかったであろうか  
より一層、身を固くして拳を握り締める薫。  
そしてちかより先にそこを出て自分部屋めがけて一目散に走る。  
部屋へ付くなりこみ上げてみたものを抑えるように壁に拳を叩きつける。  
「ぐぅぅぅぅ・・・嘘だ、嘘だー!」  
まるで手負いの獣のような唸り声を小さくあげて、しばらく我を忘れて  
自分の見たものに畏怖する薫だった。  
 
信じたくなかった。でも見てしまった。さっきは子供の戯言だと括ってたけど  
ちかの言うとおりだったら、本当にティナと葵は・・・・・。  
全身を嘗てない衝動がほど走る。信じたくないけど、それはまぎれもなく  
現実だったのだ。  
 
   
              戸惑い  
 
 
「おにいちゃん・・・どうしちゃったの?急に飛び出したりなんかして」  
少し遅れて追ってきたちかがひょこっと顔を出す。  
彼はちかを睨むような視線で見やり、しばらくして再び壁の方にと目をやる。  
ちかは驚いたがそのまま歩み寄り薫の下にやってくる。  
「あ、あの・・・」  
「・・・・・・・・・・・・・ちかちゃん、今は一人にしてほしいんだ」  
やっと消え入りそうな声を発す薫。表情はそれとは反対に唇をかみ締め氷のような目をしているが。  
幼い少女は部屋の隅までさがり、身をすくめて叱られた子供のように上目遣いで彼を見ていた。  
「あの、さっきのお姉ちゃんたちね、きっと部屋の続きのことをしていたんだよ、言いたかったのはそれだけ・・・」  
と呟き部屋を立ち去ろうとすると、今度は薫がちかに近づいてしばらく黙ったまま見下ろす。  
「そのこと、詳しく話してくれないか」  
彼は顔をしかめて威圧するような態度でちかに問うた。  
萎縮してたちかだがしばらくして自分の見たことをありとあらゆる事を  
薫に打ち明けた。最後の方は薫の態度に怯えちかは泣きながら話して続けた。  
「そう・・・怒鳴ってごめんな・・ありがとうもう帰ってもいいよ・・・」  
薫は顔面蒼白、生気のないような表情で言ってその後は上の空のような状態だった。  
そして涙でクシャクシャにした顔のちかは動けないのかその場に泣き崩れたまま居座ることしかできなかった。  

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