右肩の後ろから抱きつくように回された腕の律動が、一段と熱を帯びてきた。  
「このような事は、今夜限りの事です…」  
いつもの調子でそう言いながら、背中にぶつかる雅さんの吐息が異様に熱い。  
口を開くと欲望が飛び出しそうで、僕は何も言えなかった――  
 
何をしているんだろう……  
薫はぼんやり考えた。  
みんなで夕食を食べて……そう、ティナが「***のお祝いで****――」  
そう、お酒を出してきたんだ。誰もつきあってくれないから(というか、雅さんが止めたんだっけ……) 
暴れるティナをなだめて……それでも結局みんなで飲んで……  
それから……そう、浴場に――  
 
右肩辺りでさらさらと揺れていた長い髪の感触が消え、気配が背後に回った。  
 
腕が二本になる。  
左腰のあたりから、まるで見えてでもいるかのように「そこ」目指して指が伸びてくる。  
たちまち、僕の前でどうしようもなく強張った部分に、ふたつめの手指が巻きついてきた。  
 
――ためらいがない。雅さんらしいといえばそうだ……でも……  
 
石鹸に濡れていない、やわらかな手の感触が新たにペニスを捕らえ、こすり、先端のあたりを甘く締め付ける。  
今の今までヌルヌルと股間全体を泡で包み、執拗に勃起を促していた右手は当然のように下 
――袋の部分に移り、あやすようにマッサージを開始した。  
優美な手のひらでそこを転がされる感触に、たまらず性感が悲鳴を上げる。  
 
「くっ……あッ!」  
少し快感を逃そうとして動かしかけた腰を、雅さんはすごい力で後ろから抱きとめた。  
 
背中に、踊りだしたくなるほど柔らかい二つの感触が伝わった。でも僕はそれどころじゃない。  
右に、左に腰を逃がす。それでも雅さんは許してくれない。  
僕のささやかな抵抗の間にも、雅さんはペニスに執拗なしごきをくれるのを止めなかった。  
 
「このような……こらえ性の無い……」  
初めて声を上げてしまった事で、雅さんの声色が変わって来た。  
背中から股間に回した両手に、弄う様な動きが加わってくる。細い指が先端を何度もつつき、  
敏感なくびれを柔らかい指腹がこれでもかこれでもかとくじり回す。  
今までの快楽とは別の、切ない様な刺激がピリピリとペニスから伝わってくる。  
 
初めて会ったときの、この女性のサディスティックな態度を薫はようやく思い出していた。  
「このような様子では……当桜庭館は女性ばかり……女性の体と触れ合う機会も多うございます。 
葵様にも……」  
――言い訳だ!この人はいくつかの――たぶん復讐――をここで成し遂げるつもりなのだ。  
 
雅さんの手の動きが変わって来た。  
指の輪がしごき上げるように……根元から上へ。根元から上へ――射精させるつもりなのだ。  
まずい……僕は堪えるように背中を丸めた。  
両腰で腕を挟みこみ、耐えようとする。  
それでもしばらく腕の動きは止まず、僅かな隙間を縫ってもどかしいようにペニスへの攻撃が続けられた。  
そして――  
 
唐突にそれが止んだ。素早く腕が引き抜かれる。  
「――あ……?」  
一瞬のことに意識が集中できないうち、薫の肩が猛然と引かれた。  
そのままバランスを崩し、浴場の椅子から倒れこむ。  
 
かなりの衝撃に一瞬意識を奪われた薫の上に、甘い匂いのする肉体がのしかかったきた――  
 
情熱を叩きつけるように、僕の上で雅さんの肉体がバウンドした。  
体と体が触れ合うと、雅さんは熟れきった体を憑かれたように擦りつけてくる。  
全身を余すところ無く密着させると、どこまでも柔らかく発達した体を劣情に任せしきりに振り立てる。  
美しく張った乳房が、その動きに応え胸板の上で無様に形を変えていく――  
 
ねちっ――ねちっ――  
濡れた肉体同士が立てる淫靡すぎる音は、それでもどこか現実感が無い。  
 
目の端に、さっきまで雅さんが体に巻いていたレモンイエローのタオルが映った。  
とっくに脱ぎ捨てていたんだろう――今、僕の上で満足そうな呻きを上げるこの人は、  
これを脱いだときどんな覚悟をしたんだろう……  
 
「ふっ……ふっ……ふっ……」  
獣のような息が、下に組み敷かれた薫の首筋を規則正しく叩く。  
そこから、紛れもなく雅さんの匂いがすることが信じ切れない。  
 
雅さんが上半身を起こした。かわりに、密着させた下半身に回すような腰使いが加わってくる。  
ぬたっ……ぬたっ……  
ピチピチと張りつめた太腿が、甘く柔らかい下腹部の肉が、肉茎をくたくたにこね、もてあそび、  
薫を再び限界へと追い詰めようとする。  
「薫殿……けっして……我慢することはないのですよ……」  
腰が一周するたび、重たげな乳房がブルブルと揺れた。それも計算したかのよう――  
「このきたならしい物から……は…ぁ……早く……精汁をお漏らしになれば……終わるのです」  
 
こんなにいやらしい女性(ひと)だったんだ……そう思ってしまうと、もう性欲がこらえられない。  
射精してもいいんだ――そう思ってしまう。  
いつも澄ましているこの人の顔に、体に、欲望の証をぶちまけられたらどんなに気持ちがいいだろう。  
 
あっあっあっ――  
あっあっあっ――  
 
ペニスに発生した高熱がもうどうしようもない。出す。出すしかないんだ――  
(……葵ちゃん……ごめん!)  
心の中で全然意味のない謝罪をし、薫が欲望を解放しようとしたとき――  
 
突然、股間で快楽を生み出していた動きが止んだ。  
 
(あっ?あ……?)  
もう、何が何でも出してもらいたい。雅さんの方を見る。  
 
雅さんは、射精直前のケイレンにわななくペニスを、光るような目でじっと見つめていた。  
 
 
 
 
 

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