桜子はひとり、あたりを見回しながら夕暮れの浜辺を歩いていた。 
 この日は海開きということで、桜子達は4人で海水浴に来ていた。というのも、今年はたまたま 
日曜日が海開きと重なっていて、彼女達の寮の責任者で教師でもあるつばめが、この日を心待ちにしていたからだった。 
 突然のことで三人は驚いたが、つばめのテンションは上がる一方だった。何しろ海開きの日に海水浴ができるとあって、 
つばめにとってこんなに嬉しいことはない。状況が理解できないまま、桜子・弓雁・桐乃の三人は 
否応無しに海に行くことになってしまったのだった。 
 しかしここで、なぜかハチベエが留守番をすることになってしまった。寮を空っぽにするといっても、ここは女子寮である。 
万が一に備えておくことは、責任者として当然だった。 
 つばめとしても、ハチベエを連れていきたいのはやまやまだったが、ハチベエ以外にこんなことを頼める人物は 
いないのだ。彼が上京してきてからわずかではあるが、これでもつばめはハチベエを信頼しているのである。 
 
(こーなったら、天幕の目!! 波に輝く天幕の目だけでも激写して……) 
 その向こうでは、物陰から桜子を覗いている見るからに怪しい人物がいた。その姿はつけヒゲにサングラスをかけ、 
メキシコ風の帽子を被っている。しかし何のことはない、その正体、ハチベエの変装だった。 
 憧れのパーツを持つ女の子達に囲まれて生活しているハチベエにとって、海水浴ともなればパーツを堪能できる絶好のチャンスである。 
それをみすみす逃してしまうなど、堪え難いことだった。 
 そうなれば、やることはひとつ。ハチベエは黙って寮を抜け出し、海水浴場に来ていたのであった。 
 
「わぁー、すごくキレイ! これなら喜んでくれそうね」 
 ハチベエが渋沢から借りたカメラが、夕日を反射して黒光りを放つ。レンズの向こうにいる桜子が見つけたのは、きれいな虹色の貝殻だった。 
 ハチベエが一人で留守番しているところに手ぶらで帰るのは抵抗があったのだろう、それに相応しいと思うものを探して、 
三人が海から上がったあとも、浜辺を歩いていた。 
 そのかいあって、桜子はようやく目的の物を見つけた。ある種の安堵感に包まれて貝殻に手を伸ばそうとする。 
しかし貝殻は、波に流されて遠くへ行ってしまった。 
「あ! ちょ……ちょっと待………」 
 貝殻は桜子からどんどん離れていき、気がつくと腰が水に浸かるところまで来てしまっていた。 
貝殻は意外に軽く、桜子が見失わない程度に水に浮かび、沖のほうへ流されていく。 
 それにつれて、桜子は知らず知らずのうちに沖へ出ていった。波の流れにそってその勢いは増し、貝殻とともに流れる。 
「えいッ………キャッ!?」 
 桜子が貝殻を拾ったときには既に遅かった。その瞬間、彼女は足を踏み外して、足がつかないほど遠くまで出てしまったいたのだ。 
 
(………?) 
 遠くから桜子を見守っていたハチベエは、ほどなくして彼女の様子がおかしいことに気づいた。日帰りだからだろうか、 
それともまだ遊び足りないのだろうかと思っていたが、だからといって一人で遊ぶだろうかという疑問が残る。 
昼間は弓雁と一緒に楽しそうに水のかけあいっこをしているくらいだから、少なくとも遊び相手はいるはずだ。 
 また悩みごとでも抱えているのだろうか……とも思ったが、そこへ着替えを終えたつばめ達が現れた。弓雁と桐乃は 
桜子が来るのを待ちくたびれて、何やら話し込んでいる。 
 弓雁が桜子の行方をつばめに尋ねてみるが、つばめも桜子の行方は知らないようだった。しかし次の言葉は、 
ハチベエを動かすには十分すぎるほどの衝撃だった。 
「だって桜子はめちゃカナヅチやもん。泳ぐどころか沈みっぱなしやから、浮き輪も無しで泳ぎに行くわけないわ」 
(―――――!!) 
 そのときハチベエは、直感で気がついた。もしかしたら桜子は溺れているのではないかと。 
 瞬間、彼は我を忘れて飛び出していた。 
 
 
 このときハチベエがもう少し冷静であったならば―――いや、桜子があの貝殻を見つけなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。 
 これから襲いかかってくる悪夢を、二人は知るよしもなかった。  
 
「大丈夫か!? しっかりしろ、天幕!」 
 案の定溺れていた桜子を、ハチベエは無我夢中で助けに行った。 
 沈みかけていたためか、彼女はだいぶ水を飲んでいるようだった。気絶している彼女をしっかりと抱きかかえ、 
ハチベエは全速力で浜辺へ向かう。早く応急処置をしてやらなければ、と焦りが生じ、とにかく真っすぐに浜辺を目指していた。 
 やっとの思いでハチベエが浜辺に辿り着くと、再び桜子を抱きかかえて体勢を整えた。桜子は依然として顔色が悪く、 
目を覚ます様子はない。 
 こうなれば、残された手段は人工呼吸ということになる。ハチベエは顔を赤らめながら、そんな不埒なマネはダメだと 
自分に言い聞かせて首を横に振った。 
 しかしそれでは桜子は助からない。ハチベエは心を決めて、桜子を一旦寝かせようとしたその瞬間、 
「よう」 
 ここで初めて、ハチベエは不穏な影が忍び寄っていることに気がついた。顔を上げると、見覚えのある髪型をした男が三人。 
この男たちは、昼間に桜子と弓雁をナンパしていた三人組だった。 
「お……お前らは………!」 
 ハチベエが三人のほうを向くと、三人は既にハチベエと桜子ににじり寄っていた。そしてその手にはそれぞれ、 
つけヒゲ、サングラス、メキシコ風の帽子を持っている。それは紛れもなく、ハチベエが変装に使っていたものだった。 
(し、しまった!) 
 今のハチベエの服装と、男たちが持っている変装道具をつけた男の姿は、完全に一致していた。 
 ハチベエは頭と服に手をやるが、持っていたはずのサングラスやつけヒゲは確かに持っていない。 
おそらく海に飛び込んだときに、浜辺に流れ着いていたのだろう。 
「昼間、俺らに絡んできたのはてめーか」 
「しかもその女、てめーの連れだったとはな。3人で俺たちをハメたってわけか」 
 三人の怒気を含んだ眼力で、ハチベエに戦慄が走った。先程、水鉄砲で熱湯を放った時とは比べものにならないほどの 
オーラが漂っている。 
 ハチベエはこう見えて、いざというときは強い―――のだが、それ以外ではめっぽう弱く、昼間もボコボコにされている。 
ただ彼は、それに対して引け目をとることはなかった。 
 だが、こっちには桜子がいる。迂闊に手は出せないとわかり、何も答えずにただ三人を睨んでいた。 
「昼間はよくも俺達に恥をかかせてくれたよなぁ」 
「俺達が火傷したらどうしてくれんの?」 
「当然、慰謝料払ってもらうことになるよなぁ?」 
 男たちは口々に言う。言いがかりをつけてハチベエをゆすろうと、顔を覗き込んでは眼力で黙らせようとしていた。 
「ふっ……ざけるな! お前等に用はねえ!」 
 
 ドゴッ―――! 
 
「……………っ………!」 
 震える声でハチベエが抵抗するも、それは腹部への制裁となって返ってきた。 
その衝撃でハチベエは後ろに倒れこみ、波に飛び込んでいく形となる。 
 腹部を押さえて痛みを緩和しようとするが、その衝撃は重すぎてまったく動けなかった。また、桜子を抱えて浜辺まで 
泳いできた疲れもあって、立とうとしても体が言うことをきかなかった。 
「お前さあ、自分の立場分かってんの?」 
 一人がハチベエに言い放った。さげずむように見下ろして、男は浜辺に唾を吐きかけた。 
 屈辱に満ちた眼で、ハチベエは男を見上げる。男は一人しかいなかった。 
 ―――一人? あとの二人は―――まさか! 
 ハチベエがそこまで考えたとき、男の後ろからあとの二人の声が聞こえてきた。 
 
「なぁ、この女どうするよ?」 
「ギャハハハ、犯っちまうか。この女にもバカにされたことだしな」 
 
 ハチベエの最も恐れていたことが、男の口から出てきてしまった。その瞬間、彼のリミッターは瞬時に振り切れた。 
「てめえら……天幕に指一本触れんじゃねえッ!」 
 残った力を振り絞り、ハチベエは立ち上がった。しかしもう一発腹にパンチをもらい、再び海に沈んでしまった。 
「あん? なんだって?」 
 二度目の腹部への衝撃で、口から胃液を吐き出してしまった。それはすぐさま海水に溶け込んでいったが、 
腹の痛みが紛れることはなかった。 
 男たちはハチベエを足蹴にして海へ放り込むと、浜辺に残された桜子を三人で取り囲んだ。 
彼女が気絶しているのをいいことに、じろじろと体を見回している。 
 一人が体を起こして、もう一人は脚を広げてみせた。それを見ているハチベエは、自分の無力さを心底悔やむ。 
そこへもう一人がハチベエのところへ来て、立ち上がろうとする彼の背中を思いっきり踏みつけた。 
「ぐ……はあっ……!」 
 ハチベエの声は波の音と重なり、小さい水飛沫の割に浜辺に響く。その音は、数メートル離れている桜子の目を覚ますには十分だった。 
「ん……ここは………キャアッ!?」 
 目の前には、昼間にナンパしてきた男たちがいた。突然のことで桜子は訳がわからず、いきなり悲鳴を上げる。 
 それが気に入らなかったのか、桜子を起こしていた男は突然声を荒げて、勢いのまま彼女を押し倒した。 
「てめえっ!」 
「いやあっ!」 
 押し倒された桜子は、うち震えながら顔を背けた。何もわからずにこんな状態で半分パニックに陥っていたが、 
ハチベエに海から引き上げられたことがおぼろげに頭に浮かんだ。まさかとは思いながらも彼が近くにいることを 
期待して、横を向いたままあたりを見回す。 
「……てん……まく………」 
「ハチ………、―――――!!」 
 ハチベエは確かにそこにいた。だがそれは、桜子の期待とは裏腹な、普段からは想像もつかない、痛々しい姿だった。 
(そ、そんな………!) 
 目の前でハチベエが倒れている姿に、桜子は愕然とした。抵抗する力は一気に抜けて、男に身を任せる形となる。 
「おらあっ!」 
 男は力任せに、桜子の水着を剥ぎ取った。弾力性に富んだ胸は水着から解放されてたぷんと揺れ、海水に濡れて輝いていた。 
 
「いやあああっ!」 
「や……やめろぉぉっ!」 
 桜子は大声を上げて必死に抵抗しようとするが、逆に男たちを刺激してしまった。もう一人が桜子を 
羽交い絞めにして、水着の下も剥ぎ取った。 
 ハチベエの叫びも空しく、一糸纏わぬ姿にされた桜子は、さっそく胸を揉みしだかれていた。一人が胸を揉んでいる間に、 
もう一人が後ろから手を回して、頬にキスを繰り返している。桜子は男の口から離れようとするが、後頭部を押さえつけられて 
それはできなかった。 
 もう一人はハチベエの背中を踏みつけたまま、桜子と二人の男を傍観していた。ハチベエが抵抗しようとすると 
足に体重をかけられ、砂地に面した腹部に痛みが走る。時折、横を向いていると顔を蹴られて、桜子のほうを 
向かせられることもあった。 
 ハチベエはそこから目を逸らそうと、必死で抵抗を試みていた。しかし砂をかけられてそれすらもできず、 
ただ桜子が全身を晒しているのを、見続けるしかなかった。 
「どうよ? 目の前で彼女がヤられるのを見るのは」 
「っ……ざけんじゃ……ねえ………!」 
 二人が桜子を弄って愉しんでいる一方で、もう一人はハチベエを弄んで優越感に浸っていた。 
だが、いつまで経っても屈伏しないハチベエに苛立ったのか、足で顔を蹴り、頭を踏みつける。 
「オラ! 口の聞き方がなってねえなぁ?」 
 鈍い音とともに、背中に電撃が走った。 
「ぐあああああっ!」 
「ハチベエ………!」 
 ハチベエの悲鳴に、桜子は思わず叫んでいた。入居してきたばかりの彼が出ていこうとしたときのことを思い起こし、 
今更ながらに責任を感じながら、自分のされている恥辱をじっと耐えていた。 
 自分のせいで、ハチベエがあんな目にあっている。自分がハチベエを、あんな目にあわせている。 
あのとき自分は、彼にそんなことをしようとしていたのかと思い、桜子は罪悪感に駆られていた。 
 しかしそれも、一瞬だけのことだった。さっきまで桜子の胸を揉んでいた男がいつの間にか海パンを脱いでおり、 
天を仰いでいる“モノ”を彼女の顔に近づけていたのだ。 
「次はこれだ、くわえろ」 
「イヤ……いやぁっ」 
 桜子は目を逸らしながら、必死に顔を背けようとしていた。しかし頭を押さえつけられて、何もできずにいる。 
刺激臭とハチベエへの責任感に苛まれながら、目に涙を溢れさせていた。 
「あいつがどうなってもいいのか?」 
 男は桜子に下半身を近づけながら、選択を迫る。 
 桜子はハチベエのほうを見た。ハチベエは依然として砂浜に倒れ伏したままだったが、何か不自然だ。 
ぎこちなく身をよじらせながら堪え忍んでいる姿が、とても痛々しかった。 
 ハチベエが桜子のほうを振り向く。彼は、口から血を流していた。 
「ハチ………む゙っ!」 
 ハチベエの身を案じて叫ぼうとするも、桜子の口はすぐに“モノ”で塞がれてしまった。はがいじめにされているので 
身動きが取れず、抵抗しようとするほどにくわえているものを程よく刺激し、口の中で力強く脈打っていた。 
 口の中一杯に広がる不快感を逃れようと、口をつぼませながら手を使って男の“モノ”を口から引き抜こうとする。 
しかしそれは、逆に男の快感を煽るだけで、桜子にとって何の助けにもならなかった。 
「なかなかうめえじゃねえか……」 
「そろそろ下の方も濡れてきたんじゃねーの?」 
 桜子はその言葉に、純潔を奪われる危機感に追い込まれていった。このまま抵抗を続けていれば、男たちを勢いづかせることは 
必至である。そう悟り、桜子は抵抗をやめた。 
「どうした、続けろよ!」 
「んんー……っ!」 
 しかしその選択は、桜子にとって有利に転じることはなかった。抵抗をやめることは即ち男たちの言うことに逆らうことになり、 
彼女は口に入っているものをさらに押し込められる。 
 竿の先端が喉の奥に達し、その衝撃で桜子はむせた。これもまた男への刺激となり、口の中に入っているモノは体積を増した。 
 抵抗すれば行為は先へ進み、抵抗をやめれば行為は中断されて男たちに苛まれる。どちらを選んでも汚されることは 
確定事項で、もはや桜子に為す術はなかった。 
 
「やめろ……っ、やめてくれぇ!」 
 ハチベエが渾身の力で叫ぶも、それは空しく海にこだまするのみであった。それは桜子に響いて、少しづつ彼女の心を 
揺さぶっていく。誤解とはいえハチベエを追い出そうとしたしたばかりか、さらに自分のせいで彼をこんな目に 
あわせてしまっていることがどうしようもなく悔しくて、涙はとめどなく溢れ出る一方だった。 
「よし、そろそろいくか」 
 男がそう言うと、桜子は舌を使って亀頭をこねくり回しながら、手で根元を擦りはじめた。自分から求めてくる様子に 
満足気な男は気を良くしたのか、先程までのとげとげしい口調が次第に柔らかくなる。 
 桜子にはもはや、この恥辱から解放されることだけしか頭になかった。一番手っ取り早いのは男たちを満足させる以外には 
ないと考え、先程までとは打って変わって積極的になる。 
「……て……天、幕………」 
 桜子のその姿に、ハチベエは抵抗する気力をも失った。絶望感に打ち拉がれて、目からは光を失ったように覇気が薄れている。 
こんなのは本当の桜子ではないとわかっていても、目の前で繰り広げられている悪夢のような出来事に、ハチベエもまた 
悔しさを拭い去ることはできなかった。 
「おーおーいい具合に濡れてんじゃん」 
「いやぁ……私……そんなんじゃ……」 
 後ろから桜子の秘部を弄っていた男はそう言うと、桜子から手を離した。手には銀色に光った糸がまんべんなく 
指に絡みつき、シロップのように桜子の下腹部に爛れ落ちる。 
 それを見せつけられた桜子は、思わず目を瞑った。自分が否応無しに感じているという事実を突きつけられ、 
逃げ出したい気持ちで一杯だった。 
 しかしそれを頭で否定しようとするほどに、奥のほうから何かが疼いてくるのを感じた。それは桜子の中で止めることはできず、 
無意識のうちに脚をもじもじさせていた。 
「じゃあその脚は何だ」 
「こ、これは……ちが……」 
「感じてんだろ? 素直にそう言えよ」 
 何が違うものだろうか。桜子は秘部から愛液を分泌し、体はだらしなくそれを示す動きをしている。 
 そしてそれが暗示しているものは、もはやその答えを待つまでもなかった。 
 
「しゃーねえ、ちっと早えけど行っとくか」  
「ちゃんと俺らの分も残しとけよ」  
「わかってるって」  
 それは桜子にとって、死の宣告にも等しかった。ここまででも十分すぎるほどの精神的な苦痛だったというのに、  
それ以上の苦しみがあるというのだろうか。  
 桜子がそんなことを考える暇もなく、男は彼女の脚を開かせて秘部に“モノ”をあてがっていた。愛液がローションのかわりとなって  
意外にもあっさりと膣内に挿入され、彼女はそれを目の前にして恐怖を覚えた。  
「いやあ! いやっ、やめてぇ!」  
 半ば錯乱状態の桜子はひたすらに抵抗しようとするが、男二人の力にかなうはずもなく、すぐに押さえつけられてしまった。  
悔しさと恥ずかしさが入り混じった涙が目に浮かび、それとともに力は抜けていく一方だった。  
 しかし男は、それに構わず挿入を続けた。それまで閉ざされていた桜子の中は押し拡げられ、肉体的苦痛が上乗せされる。  
「ひぎいいいいいっ!」  
「おおおっ、締めつけてくるぜ!」  
 桜子は男に身を預けて、苦痛に顔を歪ませていた。ぐったりとした様子にはいつもの元気さは微塵も感じられず、生ける屍のように  
ただ腰を振らされるのみだった。  
 秘部からは、ひとすじの血が滴り落ちていた。  
「うあああっ! やめてくれ……頼むからやめてくれぇぇぇっ!」  
 ハチベエはそれを見るや、我を失ったように叫んだ。しかし男たちはまったく聞く耳持たず、桜子の耳にすらその悲痛な叫びは届いていなかった。  
 ハチベエを踏みつけていた男は、ことあるごとに彼を痛めつけていた。しかし叫ぶのをやめないハチベエに業を煮やし、思いっきり蹴飛ばした。  
「っせえんだよ!」  
「ぐああぁぁっ!」  
 ハチベエは脇腹を押さえながら、のたうち回る。  
 桜子の受けている苦しみに比べれば、こんなのは何でもないことだ。それだけを考えながら、ハチベエは耐えぬこうとしていた。  
しかしそれに耐えるのは彼にとってあまりにも酷であり、目の前の現実を受けとめるにはまだ幼すぎたのかもしれない。  
 悔しかった。惨めだった。あんな目にあわされている桜子に、そして何より彼女の瞳が血の涙で汚されようとしていることに、  
何もできない自分がただひたすらに情けなかった。  
 しかし自分にバカ正直なハチベエの体は、嘘をつくことができなかった。初めて見る桜子の苦痛に満ちた瞳は、痛々しいと同時に  
美しくもあり、哀しげな表情の奥に隠されたどこか官能的な魅力は、ハチベエ本人は立ち上がれないまでも、  
彼自身を奮い立たせるには十分だった。  
 桜子はこのことに気づいていないだろう。だが、こんな状況でもそんなことを考える自分が心底許せず、桜子から顔を逸らしてしまった。  
 
「おいあんた、彼氏がもうあんたなんかどうでもいいってよ」  
「ギャハハハ、それじゃあんたは俺達のモンってわけか」  
「いや……そんなの、いやぁ」  
 ハチベエに顔を背けられたのと誰も助けてくれなくなった二重のショックで、桜子は泣きながらその場でへたりこんだ。  
 もはや男たちに身を捧げるほかはない。しかしそれでも、桜子はハチベエを信じていた。  
 こんな姿は見られたくないが、ハチベエには見捨てられたくない。諦めたように男たちの為すがまま自分から腰を振って、  
もう一人の海パンを下ろして“モノ”をしゃぶりはじめる。  
「ああっ、ん……ふうう、んっ……」  
 既に汁が出ていた男のそれを根元から丁寧に舐め回し、頂点に達すると口で全体を包み込んでは唾で濡らして舐め回すのを  
繰り返した。それにつれて下の方も分泌量は次第に増え、太股を流れていた血は、いつの間にか愛液で流されていた。  
 桜子の苦痛はいつしか快楽へと変わり、ハチベエへ求めていた助けはやがて罪悪感へ変わる。それにつれて、光を失いかけていた瞳は  
再び輝き始め、漆黒の涙は白銀へと、その色を変えていった。  
 その感情を否定しようと心で言い聞かせても、それは言うことを聞くものではない。桜子の本能は、彼女の意思に反して理性までも  
従わせようとしていた。  
 後ろにいた男のモノに腰を沈めるにつれて、快感とともに本能が突き上げてくる。それに従って前の男のモノをしゃぶる口の動きも  
早くなり、その動きも巧みになっていった。  
「う………うおおっ」  
 懸命の桜子の奉仕に、男は不意を突かれたように声を上げた。桜子が口に含んでいるモノは少しづつ脈を早め、  
急速に硬度を増しながら唸りをあげていった。  
 いてもたってもいられなくなり、男は桜子に合わせて下半身を動かした。桜子はあらかじめ腰を押さえられていたためか、  
一気に絶頂が近づき、身体をこわばらせてそれに耐えようとする。  
 しかし一度押し寄せてきた絶頂の波を止めることはできなかった。  
「で……出るぞっ!」  
 
 ビュッ! ビュルルッ、ビュルルルル………  
 
 男がそう言ったのも束の間、思いのほかのテクニックに、あっという間にイかされてしまった。  
 余程嬉しかったのだろう、男はそのまま余韻に浸って顔を緩ませながら、その場にへたりこんだ。  
 桜子のほうはやはり嫌だったのか、男のモノを口から離すと周りに付いた精液を拭き取った。大半は飲み込んでしまって  
むせているが、胃の中に直接入ってしまったらしく、少し咳き込んだだけですんだ。  
 
「よし、そろそろ行くか」  
 後ろで桜子を掻き回している男が合図すると、桜子は思わず身構えた。自然と膣にも力が入り、それが包んでいるモノを締めつける形となる。  
 いきなりの締めつけに、後ろの男は桜子の臀部をしっかりと押さえて腰を振り、奥の奥まで突いてくる。それに呼応するように、  
桜子も自然と腰を振られた。  
「あっ、ああぅぅっ!」  
 桜子の腰の動きと男が自分のところへ桜子を引き寄せるリズムが一致し、二人は同時に恍惚へ酔っていく。  
彼女の中で次第に脈打つそれは、快感となって桜子に還元された。  
 それを貪るように求めるにつれて桜子の体は熱くなり、腰を振る勢いは加速する。それは男へのさらなる刺激となって、循環していった。  
 肉と肉のぶつかり合う音は次第に張りを増していき、それに合わせて桜子の中を駆け巡る快感は、声となって溢れ出た。  
「ふあっ、あん、はぁぁん、はああああん!」  
 腰の動きとともに桜子の声は艶を帯び、嬌声とともに瞳の色は輝きを増していった。理性を欠如した代償とも言えるその  
透明度は、宝石に勝るとも劣らない。  
 そしてそれは皮肉にも、桜子の瞳が最も輝いた瞬間だった。  
「……あ……て……天、幕………?」  
 ハチベエはその光景に、ただ茫然とするしかなかった。彼女を助けていいのかどうかすらもわからず、その場で見ていることしかできなかった。  
 無理矢理犯されながら、桜子はこれ以上ないほど瞳を輝かせているのだ。本当の彼女ではないとわかっていても、その瞳を  
濁すようなことはできなかった。  
 本来なら恥辱を受けて苦しんでいるはずの天幕桜子は、その瞳の魅力を最大限に引き出していた。その矛盾にハチベエは  
訳がわからなくなり、言いようのないショックを受けていた。  
「よ……よし、イクぞっ!」  
 男が合図をすると、桜子は誰に言われるわけでもなく、腰を激しく動かした。  
 理性を失った彼女には、この恥辱から解放されることすらも既に頭からなくなっていた。ハチベエに見せつけるかのように、  
本能のまま男に尽くすことだけを考えていた。  
 自我が侵食されていくのを感じながら、その先にある快感に溺れ、桜子は声を裏返しながら腰を振り続けた。ハチベエに  
どう思われるかもなりふりかまわず、ただひたすらに限界以上の瞳の輝きを振りまいた。  
 
「あん! あっ、あ、あ、ああん! はあああん!」  
「うおぉぉっ、だ……出すぞっ!」  
「はあああっ、あはあぁぁぁん!」  
 男が言うが早いか、桜子の膣には既に精が放たれていた。  
 瞬間、桜子は体をよがらせて、砂浜に倒れこんだ。その拍子に男のモノが引き抜かれ、注ぎ込まれた精を垂れ流しながら、膝から崩れ落ちた。  
 男は余韻に浸りながら、桜子を見ている。桜子は力尽きたのか、動かなかった。  
 同時に、砂浜に倒れ伏したままのハチベエの下半身が、一瞬だけ浮き上がった。ハチベエは茫然としながら顔を紅潮させ、  
桜子から目をそらすように俯く。  
 しかしそれは、何ら意味を為すものではない。むしろ逆に、自分が絶頂に達してしまったことを、暗に示していた。  
「おいおい、コイツ何もしてねーのにイっちゃったよ」  
「ギャハハハ、この女すげー良かったからな」  
「ほっとけ、こんな奴。それより俺にも早くやらせろよ」  
 男たちは口々にハチベエを罵り、何事もなかったかのように笑い飛ばす。  
 しかしハチベエには、それすら耳に入っていなかった。普通の人にはない彼の感覚が、桜子の異変を感じ取っていたのだ。  
 ハチベエの中に、言い知れぬ不安が襲いかかる。俯いていた顔を上げて、もう一度桜子を見た。  
 
 桜子の瞳の輝きは、完全に消えて―――――燃え尽きていた。  
 
(……っ……あ………あ……………)  
 あってはならない最悪の事態に、ハチベエはもはや言葉すら発することができなかった。  
 桜子は瞳の輝きどころか、生気まで抜け落ちていた。周りには男たちが野犬のように彼女に群がり、死体を貪るように体を起こして弄んでいた。  
 後の祭りだった。瞳が輝き出す前に、桜子の瞳に多少のリスクを負ってでも彼女を助けるべきだった。一瞬だけの輝きに  
気を取られてしまい、それに気づけなかった自分の愚かさに、目の前が真っ暗になった。  
 
 
 茫然自失のハチベエを尻目に、男たちは入れ替わり立ち替わりに桜子を犯し続けた。  
 守るべきものを失い、ハチベエは思考すら停止していた。男たちが桜子に何をしているのかも、わからなくなっていた。  
 それがどれくらいの間だったか、ハチベエにはわからない。気がつけば、三人はぼろ布のように桜子を捨てて、その場からいなくなっていた。  
 
………  
 
……………  
 
「桜子!? それにハチも!」  
「天幕先輩、ハチベエさん! しっかりしてください!」  
「ハ……ハチベエ、いったいどうしたんだ!?」  
 
 つばめ達が精液まみれの桜子と傷だらけのハチベエを見つけたのは、それからほどなくしてだった。  
 三人とも、ひどくショックを受けていた。先程まで一緒に遊んでいたはずの桜子は変わり果てた姿になり、ここにはいないはずの  
ハチベエも、かなりの重傷を負っていたからだ。  
 いったい何が、どうなったというのか。まったく訳のわからないこの惨状を、三人は信じることができなかった。  
「桜子!? どないした、桜子!」  
「ハチベエさん! しっかりしてください、ハチベエさん!」  
 つばめと弓雁が、二人に駆け寄って声をかける。桐乃もすぐに追いついて、様子を見た。  
 三人の懸命の呼びかけに、桜子がようやく反応した。  
「………ぅ……うわあああぁぁ〜〜〜ん、せんせぇ〜〜〜!」  
「桜子! いったい、どないしたんや」  
「わああああぁぁぁん、うわぁぁ〜〜〜〜ん!」  
 つばめが桜子に続けて問いかけるも、彼女は泣くばかりで答えない。ハチベエにも桐乃が呼びかけているが、まったく反応がない。  
三人は不安になりながら、ひたすらに呼びかけを続けた。  
 そのとき、弓雁がハチベエの近くに光りものが落ちているのを見つけた。何かと思い、ふと拾いあげてみる。  
 直後、弓雁は愕然とした。それは昼間の男が身につけていたシルバーアクセだったのだ。  
 
「………っあ……あ……………」  
 弓雁は瞬時にその意味を悟って、そのまま立ち尽くした。  
 そして、目の前の惨状に恐怖した。桜子は泣き続け、ハチベエは放心状態のまま、時間だけが過ぎていった。  
 
 夜の砂浜には、波の音が残された五人を哀れむように空しく響いていた。  
 
<終>  
 

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