「ふう……」
今日も一日何事もなく自室へと帰り着くことが出来、安堵の溜息をもらす。
ああ、いつまでこんな生活が続くんだろう、そんな憂鬱な気分を湛えながら、僕はトレーナーを脱ぎ捨てた。
その下から現れる薄手のクッション。僕は毎日、これを腰に巻きつけている。
そして僕の控えめな胸を包み込むスポーツブラ。
クッションはウエストのくびれをごまかす為のもの。ブラとともに男に必要であるはずがないものだ。
僕はもうずっとこうやって自分のことを男だと偽って暮らしている。つらいと思うこともままあったけど、さすがにもう慣れた。
邪魔なクッションを取り去り、次いで窮屈なジーンズに手をかける。
「ん……いつもながら、これが一番大変……」
年齢不相応な貧乳とは対照的に丸々と大きく育ったヒップは、強引に穿いたメンズジーンズから脱出させるのが一苦労。
四苦八苦しつつようやく脱ぎ去ると、やっと僕はひとごこちつくことができるんだ。
サイズの合わない服から解放されたお尻がショーツ越しに空気にさらされて気持ちいい。でも……
「最近またちょっと大きくなったんじゃないの? こっちはさっぱりなのに……」
同年代の女の子と比べてあまりにも慎ましい胸の膨らみを両手でさすりながら、僕は魅力のない自分の身を嘆いた。
まあ、こんな生活をおくるためには都合がいいのもたしかなんだけど……
そんなことを考えていると、突然書斎のドアが開き
「え!」
「…………」
ドアノブに手を添えた凌央が黙って僕のことを凝視していた。
「や、あの……その……」
「…………」
無言をつらぬく凌央の姿にとまどいを隠せない僕。えっと、僕はどうすればいいんだろう? 悲鳴をあげる? いや、でも同性だし。と言うより、バレちゃった? 口止めするべき?
僕が突然のことにパニックをおこしていると
「…………」
凌央はドアを開けた動作を巻き戻すかのように無言のまま再びドアを閉めてしまった。
「あれ?」
あとに残されたのは下着姿で呆然とする僕だけ。
助かったのかな? 凌央はこんなことを他人に吹聴するような子じゃないし、安心していいのかな?
甘かった。
凌央はなぜか文化祭で披露した女医ルックで再び現れると、僕の体を執拗に触りだしたんだ。
「違うから! これは病気とかそういうんじゃない……やっ!」
「……いしゃ」
窮屈な男物の服から抜け出したヒップはひたすら敏感で、凌央の柔らかな手の平で触られると……おかしな気分になってくる。
「だ……だめ。やめて。ンッ! 病気……病気じゃないの……」
「…………」
言葉とは裏腹に、僕は自分からお尻を凌央の手に擦り付けるように激しく左右に振っていた。
いけないことだとわかっているのに、どんどん自分を見失っていってしまう……
理性のタガが……保たないよぉ……
『と、いった感じの展開はないのですか!』
「あるわけないだろ、この馬鹿羊!」