夏休み。古くから多くの学生たちが待ち焦がれる季節。  
宿題と言う制約はあるが、それ以上に学校から開放される自由な時間。  
人によっては部活動、勉強その他もろもろなどで制限されることもあるだろうが、学生にとってとても貴重な自由時間であるのは間違いなく、それは二〇四七年になっても変わってはいなかった。……はずだった。  
 
七月二十四日、水曜日。その日の夕暮れ、有田春雪は拘束されていた。それも物理的な拘束である。  
手を後ろに組まされ、手首同士をビニール紐で縛られている。腕と胴体は座っている椅子の背もたれに密着させられたままぐるぐる巻きにされ、完全に手は使えない。  
過剰なまでに縛られた上半身とは対照的に、足はまったく縛られていない。その気になれば立って動くことくらいはできそうなものだが、ハルユキはそうするわけにいかなかった。  
「……あ、あの、これから何を……」  
戸惑い混じりの問いに、目の前の人影が指を宙で躍らせる。  
ハルユキの視界の中に表示されたチャット欄に、桜色の文字が流れた。  
 
【UI>何でも言う事を聞いてくれる、と仰ったので、お言葉に甘えさせていただきます】  
 
――遡ること数時間前、梅郷中飼育小屋。  
ハルユキと四埜宮謡はこの小屋で暮らす住人のため、毎日夕方ごろには訪れることになっていた。  
本来の飼育委員はもう二人、浜島と井関というメンバーがいるのだが、浜島は最初の顔合わせ以来まったく小屋を訪れず、  
真面目に仕事をしてくれる井関さんについては『ごっめーんイインチョ!期末ひっかかって最低七月いっぱいは補習!』というメッセージを本人から聞いていた。  
仕事には慣れたので多少人手がなくとも問題はない。この日もすべての作業を終えて、あとは帰るだけという状態……だったのだが。  
「……四埜宮さん、遅いなぁ」  
御手洗いに行く、という旨を残して校舎へと消えた彼女を見送ってからそろそろ十数分は経とうとしている。荷物をそのまま置いていってしまっているため、迂闊にここを離れてもいいものかという迷いが生まれていた。  
荷物を小屋の中に置いて帰ってしまうか……それとも、彼女のバックを持って校舎の中を探したほうがいいか……などと迷っていた時。  
 
【UI>あの、有田さん】  
チャットの文字列がしばらくぶりに更新された。言葉を話せない彼女と会話する場合、突然チャットが更新されることに驚くことも多々あったが、今では急に話しかけられてもスムーズに会話できるようになっている。  
「あ、お帰り。ずいぶん時間がかかっ……て?」  
振り返って、その光景を認識したとき――ハルユキはおや、と思った。謡の姿は校舎入り口のすぐ傍に見つけることは出来たが、その様子が普段見たことがないものだったからだ。  
いつもはまっすぐにこちらを見据えてくる瞳は謡の足元数センチ先ほどにまで下に向けられ、落ち着きのない子どものように身じろぎを繰り返している。  
もしかすると自分や同級生よりも大人びているのではないかという雰囲気はすっかり消えており、普段の凛とした姿からは少し想像できない光景が、そこにはあった。  
「ど、どうしたの?何か具合でも悪い?」  
【UI>体調の問題というのは間違いないのですが、その……少しお願いが……】  
「うん……な、何をすればいいの?」  
【UI>私を、どこかおトイレへ連れて行ってもらえないでしょうか……?】  
「何だそんな……へぇっ!?」  
 
少し前、第二校舎一階のトイレへと向かった謡であったが、ゲスト扱いでログインしていた学内サーバーから現在設備点検のため利用不可というメッセージを受け取った。  
現在利用できるトイレには活動中の部活動生らが列を作っており、その列に並んではいたもののなかなか先へと進まない。  
徐々に我慢の限界が近づき、このまま並んでいても間に合わないと判断した彼女は列を抜けた。  
どこか別の場所で点検の終了した場所はないかと第一校舎と運動棟を回ってみたがどこも利用できず、第二校舎はどうかと足を向けたところで限界がきてしまった――と、簡潔な文章で説明された。  
そういえば一学期最後のHRの際になにやら学校設備の大規模メンテナンスがあるとか話をしていたような……とハルユキの思考が飛んでいるあいだにも、謡の説明は続く。  
 
【UI>ゲストユーザーでは利用可能な場所を案内されるだけで、進捗状況を問い合わせても教えてもらえないのです。……でも、生徒のアカウントであれば……】  
「わ、分かった。試してみるよ」  
デスクトップから校内マップを呼び出すと同時に設備情報も呼び出し、マップと照らし合わせる。  
利用可能と表示されるのは利用者の多い第一校舎ばかり……かと思いきや、目の前である階のステータスが≪利用不可≫から≪利用可≫へと変わった。  
「あった!ここから近いけど、動けそう?」  
【UI>あともう少しだけなら、なんとか】  
了承の意味を込めて頷くと、謡の手を取って走り出すハルユキ。  
 
人間の脳、とはかなり習慣に縛られているものである。日々同じ動作を繰り返していれば脳は学習し、特別に意識を向けなくとも同じ行動を取ることができる。  
そして、体に染み付いた反応というのはそう容易く変更することはできない。  
 
この緊急時に、ハルユキが謡を連れて第二校舎三階の男子トイレに飛び込んでしまったのも、それはある意味仕方のないことだったのかもしれない。【UI>有田さん。ここは男性用のトイレですが、私が入ってしまっていいのでしょうか……】  
「う、うん……大丈夫、だと思うよ。ここは誰も通ることないし……もし問題になっても、どうしようもなかったことを説明すれば分かってくれるよ……うん」  
――実際、職員室で先生に囲まれてもちゃんと言えるかなぁ。  
などという不安は心の中に留め、「じ、じゃあ僕は外で待ってるから」と個室の扉を閉め、内側からロックがかかったことを音で確認した後、男子トイレ入り口の廊下で待つことにする。  
 
ハルユキにとってかけがえのない存在であり、今ではともに体と心を重ねた恋人であり、加速世界では彼の≪親≫たる黒雪姫が少し前、彼に対してこう評していた。  
――ハルユキ君。君の状況処理の能力は胸を張っていいレベルにあると、私は思っている。  
だがな、君はどうもその力を現実で活かしきれてないときがあるぞ。  
あちらとこちらの境など関係なくその力が発揮できれば君はもっと素晴らしくなる。あ、いや、別に今が素晴らしくないとかそういう意味では……  
 
当の本人にしてみればこの後に続いた惚気話のほうばかり記憶に残り、とても重要であるはずの前半部分は今の今まですっかりどこか遠いところへ行ってしまったのだが、この緊急時が訪れて長旅をようやく終えたようである。  
 
先達の指摘をいまさらながらに実感しつつも、現在の状況に問題がないかを確認する。  
この第二校舎は現在ほとんど使われておらず、生徒の出入りは少ない。  
もちろんソーシャルカメラはあちこちにあるので何台かのカメラに姿は映ったろうが、軽微な違反や警告――たとえば、空き教室に許可なく入ろうとするなどの行為を取っていなければ教師が駆けつけてくることはまずない。  
こんな場所に来る人間はまずいない、というのは一時期ここを隠れ家のように利用していたハルユキの経験から明らかだ。  
 
あとは何食わぬ顔で階段を降り、普段どおりに帰れば問題はないだろうという結論に達すると同時に、トイレ内からコンコンとノックの音が響いた。  
「は、はぁい」  
小学生の頃に見た怪談もののビデオに似たようなシーンが――厳密にはハルユキが返事をする側ではなくノックをする側なのだが――あったことを思い出しつつ返事を返す。相手はもちろんトイレの花子さんではなく、四埜宮謡である。  
 
【UI>たびたびご面倒をおかけします。トイレットペーパーが切れてしまっているようなので、取っていただけませんか?】  
「分かった。ちょっと待ってて……」  
学内サーバーにアクセスし、掃除用具入れロッカーにトイレットペーパーがあることを確認すると使用許可を申請。すぐに許可のレスポンスがあり、ロッカーの扉を開ける。  
日用品の補充程度であれば特別な権限も必要ないのであるが、この申請が手間だから、と事前に紙があるかを確認してからトイレに入るという輩もいるらしい。  
「……いっそ、紙がないなら最初に案内とかしてくれたら便利なのに……」  
……などと、思考をそらしながら動いていたのが失敗だったのかもしれない。  
何の気なしに、本当に何も考えずに、個室の扉を開いてしまった。  
 
トイレの個室、というのは大体座ったとき、真正面に扉が来るか左右どちらかに扉がくるかという状態になる。  
梅郷中の場合では大体扉が右側にくるようになっており、座ったままで鍵をかけられるくらいには扉との距離が近い。  
 
それほど近くの距離で、ハルユキと謡は対面した。  
まず目に飛び込んできたのは、きょとんとした表情を浮かべる謡の瞳。思考ペースが超低速にまで落ちたハルユキの脳内は、それでも状況整理へと働く。  
彼女の着ている松乃木学園初等部の指定制服は、そのスカート部分をお腹あたりまで引き上げられており、ふっくらとしたやわらかさを感じさせつつも引き締まったお腹は丸見えの状態。  
若木のように細くしなやかな両脚の膝あたりには薄い水色の下着が引っかかっている。  
そして、少し開かれた脚の付け根の部分には、まだ何も覆うものがない一本の縦スジが……  
そこまで思考がたどり着いたのと、ハルユキの手からトイレットペーパーのロールが取られたのはほぼ同じタイミングだった。  
 
 
後から思い返しても、ここからの記憶はどうもところどころはっきりと回想できない部分が多い。  
顔を紅潮させた謡が扉を閉めるまで処理速度はまったく回復せず、水の流れる音でようやく事態を飲み込みきったハルユキは「すすすすすみませんわざととかそういうんじゃなくてそのちょっとぼーっと」と貧弱な語彙をフル回転させて謝ろうとしたところを手で制され、  
「よければお家でゆっくりお話しませんか?」と謡の提案で彼女を自宅に連れて行き、そこで頼りない言語エンジンからほぼ定型句となっている謝罪をあらかた述べたところまでダイジェスト形式で記憶していた。  
 
 
そして、有田家にて。  
【UI>有田さんがうっかりしている方なのは存じていましたし……私も、鍵を早々に解除していたのは迂闊でした】  
「いや……それでも僕が悪いよ……お詫びに何でもしたっていいくらい……」  
【UI>何でも、とは。多少無茶なお願いでも聞いていただけるということですか?】  
「そりゃ、出来ないことは出来ないっていうけど……それでも精一杯努力はするよ!」  
ここまで言い切ったのは、申し訳なさのほかにも謡への信頼がとても厚いこともあった。少なくともかつて自分をいじめていた集団に強要されたような、辛いことはないだろうと信じて。  
もっとも、その予測はすぐ裏切られることになるのだが。  
 
目を閉じてほしい、という謡の要望に目を閉じ、自分に何かしているらしい彼女の動向を気にしつつも忠実に守ったハルユキが見たものは……すっかりぐるぐる巻きにされた、己の肉体であった。  
 
【UI>何でも言う事を聞いてくれる、と仰ったので、お言葉に甘えさせていただきます】  
椅子から離れられないハルユキの膝元にしゃがみこむと、躊躇いなくズボンのファスナーを下に――  
「ってちょっちょっちょっちょっちょっ!?ししししのみやさんなになになななななな……」  
【UI>私だけ恥ずかしいところを見られて、有田さんが何もなしというのはずるいです。こういうのは有田さんも見せておあいこだと私は考えます】  
いやそんなそれにしても心の準備というものが、と言いかけて、ようやくハルユキは気付いた。  
先ほどからずっと顔がほのかに紅潮していたのは気付いていたのだが、普段との違いがもう一つある。  
謡の瞳に、何か黒い影が覆っているような雰囲気……普段とはまったく違う表情。  
表現をするなら、熱に浮かされてまともな判断ができていないような……。  
 
「のひゅっ!?」  
考えることができたのはそれまでだった。もうすでにファスナーは全開、最後の砦のトランクスも下ろされて、ハルユキの分身は完全に剥き出しになっていた。  
非戦闘状態である相棒を、謡の小さな手が優しく触れていた。新感覚のおもちゃでも弄ぶかのごとくふにふにと揉み続ける。  
最初こそこらえていたハルユキも、悲しいかな肉体に与えられる刺激には  
【UI>男性の方は徐々に硬くなる、とは聞いていましたが……最初さわったときからは信じられないくらいなのです】  
「いやぁそれほどでも……ってそうじゃなくって!」  
一人身ならまだしも現在は恋人のいるハルユキにとって、この状況は非常にまずい。不貞などという生ぬるいものではない。  
せめて息子が完全な臨戦態勢になるのを避けるため、出来る限りの対策は行っておくべきだ。  
 
「ほ、ほらさわったしおっきくなったとこまで見たしもう満足……」  
いじるのを右手だけにし、左手が宙を舞う。  
【UI>まだまだなのです。準備万端になるともっと大きくなることくらい知っているのです】  
「さ、さいですか……」  
残念ながら、流れはすっかり謡が優勢である。  
他に、ほかに何か方法はないのか!?と焦るハルユキの思考を読んでいたかのように謡がぴたりと手を止める。  
終わってくれるのかなと思ったのも束の間  
 
【UI>そういえば有田さん。サッちんとえっちをしたご感想はいかがでしたか?】  
 
「!!?!?!?!?!?!!!!?」  
とんでもない爆弾が投下された。  
 
「な、な、ななんのこ……」  
【UI>とぼけなくても分かっています。ちょっと前にサッちんの雰囲気が変わったことぐらい、私とフーねえは気付いてましたから。その後にお二人から交際宣言が出た、となれば察することぐらい簡単なのです】  
確かに二人はそういう関係になっており、レギオンメンバーにはきちんと話をつけてはいたのだが……そこまで見透かされていたとは思っていなかった。  
【UI>サッちんはそれはもう幸せそうで、きっととても気持ちの良い時間だったと思うのですが、有田さんはどうでしたか?】  
「ど、どう、……って……初めてのことばっかりだったからドキドキしっぱなしで……」  
――あのときは先輩も顔まっかにしてて……ああでも服脱いだときってめちゃくちゃきれいで……きれいっていっても初めてデュエルアバターを見たときとはぜんぜん違ってて……お互いおそるおそる触ったり触られたり……  
 
【UI>こんな感じですか?】  
「そうそうちょうどそのくらいの力加減で……ってうわぁっ!?」  
脳内メモリの思い出フォルダを閲覧しているうちにも刺激を与えられた片割れは、その思い出効果も相まって完全な戦闘態勢に突入してしまっていた。  
【UI>……やっぱり我慢していたのですね。これまでとは大きさも太さもぜんぜん違うのです】  
 
 
すっかりそそりたったソレは、謡の手で包みきれないほど大きい。心臓が鐘を打つたびに細かく震えるその様は、まるでソレが一つの生物であるかのようだ。  
今までホロキーボードに添えられていた左手を、ハルユキの竿に当てる謡。  
そのまま竿全体をゆるやかに上下へ擦る。この硬さを揉み解そうとするかのように極めて優しく揉むことを忘れない。  
しかしそのマッサージはむしろ血流をさらにかき集め、硬さはほぐれるどころかより強化されているフシさえある。  
完全にに主導権を奪われたハルユキは「手、汚れるから、気をつけて……」とせめてもの気遣いをするのが精一杯だった。  
 
いわゆる先走り液がハルユキの竿と謡の手を濡らすまで、それほど時間はかからなかった。  
最初は驚いた様子の彼女も特に気にすることなく触りつづけ、指先や竿はコップでもこぼしたかのように濡れていく。  
数分に渡り色々な触り方を試していた謡だったが、突然両手を離した。  
 
――終わったんだ。  
ちょっと残念な気もするけど、と邪なことを考えるハルユキが体の力を抜くことが出来たのも束の間。  
 
【UI>私の手ではここまでが精一杯のようですね。……ちょっと緊張しますが、こうするのです】  
同時に、ハルユキの分身にこれまでとはまったく違う刺激が襲い掛かった。  
相棒の先端を、小さな少女の口がぱっくりとくわえ込んでいる。亀頭と呼ばれる部分は口の中にすっぽり入り、しかも謡はさらにその奥まで飲み込もうと――  
 
「ちょっ、ストップ!四埜宮さんストップ!」  
虚ろな目に疑問符を浮かべながら、ホロキーボードが軽やかにタイプされる。  
【UI>なんでしょう?】  
「いや、あの、えっと……そ、そこまでしなくてもいいよ」  
【UI>でも、有田さんのココは物足りないみたいなのです。私の手では最後まですることが出来ませんでした……】  
「そんなことないよ!さっきだってもうちょっとしたら……」  
【UI>もう少しだったのですね。……もう咥えてしまいましたし、続けさせてもらいます】  
言うやいなや、先端に舌と思われるやわらかいものの感触が触れた。時折当たる硬い感触は恐らく歯だと思われる。  
顔を小刻みに揺らすたびにじゅぷじゅぷと音がする。揺れるたびに先走り液と唾液の混ざった雫がハルユキのトランクスやズボンに染みを作っていく。  
サイズの限界か先端を飲み込むのが精一杯のようだが、それでも女性経験の少ない……どころかそもそも一人しかいないハルユキには、充分すぎる刺激だった。  
 
「しのみや……さん。その、もうそろそろ……出ちゃいそう……だからさ…………は、離れたほうが……」  
という言葉を聴いて、謡は離れるどころか一呼吸間をあけ、そして  
 
じゅるるるるるるるるるっ!  
 
一気に、吸った。  
空気の吸い付きと舌の感触、これまでの我慢の限界が相乗効果を生み出し、ハルユキの限界を破る。  
脈打った分身はそのまま4回、5回……と謡の小さな口の中で脈動を続ける。  
大きく目を見開いた謡はそのまま動くこともなく、ハルユキの精を受け続けた。  
 
 
 
竿の部分は緩やかに硬さを失い、謡の唇から離れる。  
その間に真っ白な架け橋が生まれるが、ハルユキの分身が萎えていくにつれて橋の長さは長くなっていき、ぷつりと途切れる。  
「あの……しのみや、さん……?」  
しばらく惚けていたらしい謡は、呼びかけにぴくりと体を強張らせる。  
左、右、そして真正面のハルユキの顔を見て、先ほどまで自分が弄んでいた性器に目をやり、もう一度ハルユキの顔を見る。今度はお互いの瞳を見据えて。  
 
謡の首筋あたりからみるみる肌が紅く染まり、頬が染まり、目にはっきりとした輝きが戻った――と思った途端、急に謡が立ち上がった。  
「あ、あの四埜宮さん?」  
顔をそらしつつ、叩きつけるようにホロキーボードに言葉が紡がれていく。  
 
【UI>変なことをしてすみませんでした忘れてください明日もまた小屋に来てくださいごきげんよう】  
その一文を残し、自分の荷物を掴むと脱兎のごとく走りだす。  
「え!?ちょ、ちょっとまって……」  
ハルユキの言葉すら届いていないのか、数秒の合間にリビングから玄関へたどり着き、待ってと声をかけるときには無情にも玄関の閉まる音が響いた。  
 
 
「……これ、外してもらわないと、動けない……」  
その声を聞き届けるものは、誰もいなかった。  
 
 
巫女と鴉:前編「縛り鴉」 終わり  
 
 

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