冷えすぎたミルクみたいな、漠然とした甘さ。  
 それが、チユリの頭に浮かんだはじめてのキスの感想だった。唇どうしを重ねているだけなのに、どうして『甘い』のか。  
 疑問符が彼女の頭にひとつ、ふたつ浮かび上がるが、それさえも目の前の口づけという衝撃に押し流されていく。  
 つむった目を開くと、さきほどまでのチユリのように必死に目を閉じている、蒸したてのまんじゅうみたいなハルユキの顔があった。  
 ぷるぷると小刻みに震えていて、まんじゅうなんだか、ゼリーなんだかわかったものではない。  
「ぷはっ」  
 息が続かなくなったのか、ハルが唇を離し、肩を上下させながら息を吸い、吐いた。  
 唇だけじゃなく、息まで甘いんだろうか。  
 同じように酸素の足りない頭のせいか、チユリはまだ肺を酷使しているハルユキの顔をつかむと、  
「チ、チユ……?」  
 半開きの唇をこじ開けるように、斜めにくちびるを合わせ、強く口を吸った。心臓が跳ね上がるような驚きに、ハルユキの目が目一杯に広がる。  
 ちゅぅ、ちゅぅとハルユキの口内から息を吸い、チユリは息も甘いのだと知った。甘いということは、美味いという感覚に近い。  
 ふと気付いたら、お菓子をすべて食べてしまっていたようなものだろうか。チユリは貪欲に、もっとハルユキの空気を求める。  
 すべてを吸い尽くしても、チユリは離さなかった。ハルユキはまだ冷めない衝撃の内で、彼女がそうしていたのをはじめて知ったかのようにようやく鼻呼吸を覚えた。  
 余裕が生まれればすぐにでもその息をうばい、それでもまだ足りないと、チユリは甘い味を作り出す精製工場へと、文字通り舌を伸ばした。  
「んっ、んんんんっ……!?」  
 ねろ、ねろと口内を動き回る舌に、ハルユキは背筋から脳髄へと駆け上るような快感を覚えた。ぬるいはずの体温が、ひどく熱いという誤認すら生まれている。  
 ざらついた表面が上あごを舐め上げた。それがハルユキの理性が限界点を超えた瞬間だった。  
 自分からも舌を動かし、されたように仕返す。嬉しそうに目を細めながら、急かすように、挑発するように、カラダを密着させる。  
 豊かに育った乳房が、服の上からでもハルユキにやわらかさを伝えた。もう、すこしでも離れていられないとばかりに、チユリを抱きしめる。  
 香水のように作られたものではない、やさしい丸さのある少女の香りが、荒くせわしないハルユキの鼻孔から脳へ弾ける。  
 女性を知らないハルユキには、合わさった刺激は強すぎた。下着の中のものが震え、興奮をはき出していく。  
 絶頂の快楽を味わったあとのコキュートスのような冷え切った理性が、ハルの本能を締め上げた。  
 なんとかして体を離し、それでも口を吸おうとするチユリを抱きしめ、肩に顔を埋めさせると、  
「もう、死んでしまいたい……」  
 なのであった。  
 

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