つれてこられたのは、見覚えのあるマンションの一室だった。ユニットバスつきのワン  
ルーム。ベッドがぽつねん、とおいてあるそこは、以前ハルユキが最初に行為を経験した  
場所……でもある。来るのは二度目だった。大きめの窓から射す、初夏の陽がまぶしい。  
 おそるおそるとなりに立つ女性を見つめる。最初にハルユキとここに来た女性ではない。  
ナチュナルロングの髪に半袖ブラウス。プリーツスカートに空色のオーバーニータイツ……。  
 ハルユキの師匠、スカイ・レイカー/倉崎楓子。  
 不安げに見上げるハルユキをベッドに促した楓子は、ハルユキがとろとろとベッドへ座  
り込むのを見届け、自分はその隣に腰掛けた。  
 甘い香りがハルユキの鼻孔にとどいた。  
 シャンプーの香りかな? と、頭をぽわんぽわんさせるハルユキに楓子は微笑みながら  
言った。  
 
「だって……鴉さん。鴉さんはみんなとエッチしてスキルアップしてますし、たまにはフ  
ィードバックしてくれないと、おいて行かれた気がして不安で……」  
「し、師匠――」  
 
 質問しようとしていたことが、ほとんどすべて看破されていた。  
 台詞の指し示す意味にびっくりしながらアレ? と内心首を傾げる。実のところさっき  
車の後部座席で搾取されたばかりだ。後部座席に横たわった制服姿の楓子を犯し、存分に  
性をそそぎ込んだ――ソレが終わったのが一時間前。楓子のプリーツスカートに、皺がき  
ざまれているのはそういう理由からだ。楓子の喘ぎ声が車外に漏れていないか気になって  
仕方なかった。  
 
――でも……最後に渡された車のスペアキーって何に使うんだろ……僕、車の免許もって  
いないんデスケド……。  
 
「なんとなく……用件は理解出来ましたけど……で、でもここはプロミネンスの緊急避難  
先じゃ……」  
「そのとおりです。だから……ほら、来たみたいですよ」  
 
 がちゃんと電子錠が回る音がした。玄関でなにやらごそごそと布ずれの音が聞こえ、十  
秒後くらいにやっと人物が現れた。  
 
「ぱ、パドさん」  
「……Hi、クロウ」  
 
 かっこよく指先を振ったブラッド・レパード――パドさんは、ベッドから立ち上がろう  
としたハルユキを制した。楓子とは逆側、すなわちハルユキをサンドイッチするようにベ  
ッドへ腰掛ける。  
 
 ――ど、どういう状況なの、コレ!  
 
 制服姿の女性ふたりに――一種の畏敬すら抱いている異性二人に左右から引っ付かれる  
という体験は、ハルユキを大いに混乱させた。  
 
「あ、あの、パドさんまで……どうして?」  
「ひさしぶり……だから。クロウはぜんぜん、会いに来てくれない」  
 
 やや拗ねた口調でパドさんが言った。  
 またしてもハルユキは首を傾げた。パドさんとはつい一昨、埼玉の山奥で俗に言う青姦  
をした。エレキバイクのシートにしなだれかかる制服姿の彼女を、ハルユキは情動にまか  
せたまま貫いた。めくれあがったスカートの下、腰をぶつけるたびに波立つお尻をよく覚  
えている。  
   
 ――帰って確認したらアルバイトのタイムカードが鞄の中にはいってたけど……パドさ  
んがくれたん……だよなぁ……。何に使うんだろ……。  
 
 どちらにしろ、二人とも現実での時間経過を無視するきらいがあるようだった。  
 ハルユキはうへぇ、とため息をついた。  
 
「あら……お姉さんたちに囲まれて、鴉さんはため息をついちゃうんですか?」  
 
 ふにん。  
 夏物のブラウスに包まれた柔らかいなにかが、二の腕に寄せられた。  
 
「クロウ……それは許せない……」  
 
 ふにゅん。  
 半袖のセーラー服に包まれた好ましいなにかが、二の腕と接触した。  
 
 ハルユキは理性をあきらめた。  
 
 
 
 
 
 
 ふ、二人とも大きいとはおもってたけど……。  
 並ぶとその圧倒的な大きさについつい頬がゆるんでしまう。制服姿も魅力的だったが、  
メリハリの利いた二人の裸身には、匂い立つような色気がある。  
 二人の首には、ハルユキのニューロリンカーからのびたケーブルが挿入されている。行  
為のためにケーブル長は長めのものを利用しているが、そもそも直結というのは……。  
 
「あの……鴉さん? 見とれてくれているのは嬉しいんですけど……」  
「はずかしい」  
 
 女性二人がそんなふうにいいつつ、頬を赤らめるにつけて、ハルユキはいまさらながら  
目を離した。  
 が、脳裏に刻まれた二人の裸身が、ハルユキの脳内で勝手にループ再生される。  
 ユニットバスでシャワーを浴び、お互いにドライヤーの温風を当て合った二人だったが、  
栗色のロングヘアとコシのある黒髪は、まだしっとりとぬれて輝いていた。  
 裸の肌は、お湯のせいか薄桃色にかわっていて、赤みをもった胸元がなんとも色っぽく  
艶っぽい。  
 二人とも理想的なスタイルの持ち主でもあるため、横座りになってベッドに座りしなを  
作る様は、半端なヌードモデルが逃げ出すほどの美しさだ。  
 そーっと視線をもどして、脳内の光景と実際の光景が合致するか確かめてみる。  
 
 ――寸分違わない!  
 
 脳内に焼き付いた映像がはたしてそこにあった。年上の女性二人は、わずかに呼吸をあ  
らげて熱っぽい視線をハルユキへ向けていた。  
 誘われるようにふらふらーっと、ハルユキはふたりに近づいた。  
 
「ふふ……いらっしゃい、鴉さん……」  
「K」  
 
 それぞれの返事を聞きつつも、ハルユキの視線は乳房へと釘づけられていた。拭いがた  
い欲望とともに、右手を楓子へ、左手をパドさんへ近づけた。ハルユキの太り気味の指が、  
スポンジケーキのような乳房に埋まる。弾力はつきたてのお餅のようだ。  
   
「あんっ!」  
「んっ――!」  
 
 それぞれ短い悲鳴を響かせる楓子とパドさんにかまわず、円の動きで乳房をもみほぐす。  
手のひらに収まりきれない乳房が、指の動きにあわせ、ふるえて踊った。触った感触が違  
うのは、乳房の大きさではなく形に理由がある。パドさんの胸はいわゆる釣り鐘型で、楓  
子の胸はお椀型――のようだ。どちらも美乳であることは変わりないが、両方をいっぺん  
に楽しめる状況にハルユキは知らず、胸を踊らせた。  
 
――じゃ、じゃあ……これは……。  
 
 調子に乗ったハルユキは、人差し指と中指の間に乳首を挟み込んだ。挟んだ淡い桜色に  
は、確かな弾力がある。指二本の隙間を狭めて、きゅっ、きゅっ、と刺激すると、  
 
「あ――んっ!」  
「っ――!」  
 
 楓子とパドさんがほぼ同時に反応し、普段は絶対にしないような反応をする。  
 それがおもしろく、ハルユキはさらに指を動かした。乳房をつかんでもみしだき、時折  
先端を親指で転がしてみた。そういえば乳首の形も違う。パドさんの乳首はやや上向きで  
しこりも強い。逆に楓子の先はパドさんに比べて尖りが淡く、幼い感じがした。  
 
「はあっ、あんっ…鴉さん……最初の頃より、手つきがいやらしくなりましたね……」  
「……クロウ……っ、くっ――、うまく、なってる……」  
 
 息を漏らしてあえぐパドさんと楓子にそんなことを言われ、恥ずかしいやらくすぐった  
いやら、不思議な感慨にとらわれる。  
 が――。  
 
「じゃあ……お返し、ですね……」  
 
 へ――?  
 加速世界では反応力を武器とするシルバー・クロウ/ハルユキは、乳房への愛撫に夢中  
で、二人がのばした手に気がつかなかった。気がついたのは、二人の手のひらが男根の縁に接触した、瞬間だった。  
 あわてて自分の下腹部を確かめる。  
 
「ああ……師匠……パドさん……そ、そんなことしなくても……」  
「でもういういにはしましたよね? シックスティナイン……それにもう懐かしいですけ  
ど、私との初めてのときだって……」  
「……」  
 
 まったく反論できなかった。ういうい――との情事は、先週四埜宮家に招かれ、一晩と  
まったときのことだ。両親や彼女の一番上の兄が帰宅しないのをいいことに、ハルユキと  
謡は一晩中むさぼりあった。たしかそのとき――。  
 口をパクパクさせるハルユキを尻目に、楓子とパドさんの瞳が悪戯っぽく輝やかせた。  
 
 血塗れ子猫、鉄腕などといったおっかない二つ 名をもつ女性二人に、大事なところを  
握られるのは、ややおっかない気がしたが、それも行為が始まる前までだった。楓子とバ  
ドさんの指が肉茎の縁をしっかりとつつみこみ、カサの上やカリの下を摩擦する。  
 ――む、胸まで……揺れて……。  
 腕を上下させるわずかな動きだが、年不相応にみのった白い果実が、ハルユキの前でぷ  
るぷる揺れた。  
 
「ああ……鴉さんの……流れてきてますよ……」  
「……かわいい」  
 
 二人して熱い視線をむけられた性器は、ハルユキの意志から離れて大きく身じろぎする。  
適度な圧力でつくられる手筒へ夢中になっていると、覚悟を決めた表情で、パドさんが上  
半身をおった。ハルユキの太ももに乳房が着地し、結果としてパドさんの顔は、性器から  
数センチと離れない場所にまで下りてきている。  
 
「は……あ……クロウ……」  
「う……」  
 
 至近距離から吐き出された息が、指の筒からはみでた亀頭へあたる。性器は熱風の刺激  
でひくんひくん揺れる。  
 
「あ、あっ、パドさん、なにを――!」  
 
 まさか、と身体を凍り付かせるハルユキの前で、パドさんは少し照れたような微笑をう  
かべた。水蜜桃のような唇が上下にひらき、先端の丸みを――含んだ。  
 
「――ぐうっ!?」  
 
 性器のさきから生まれた快感が、腰骨を貫通し、脳髄をゆさぶった。  
 膣とも、指とも、全く違う感触を持つ唇の粘膜と、ちろちろと行き来する舌が生む刺激  
に、ハルユキはあやうく射精しかけた。  
 
「んっ……ふっ、ちゅっ……んん――っ!」  
「うわ……ああっ、ぱ、パドさん……!」  
 
 腰から力が抜けおち、ハルユキは背中からベッドへ倒れてしまった。自然と天井にむか  
った視線を、あわててパドさんと楓子の元へと戻した。  
 驚いたように目をみひらいたパドさんと目があった。口腔いっぱいにハルユキを含んだ  
パドさんは、上目遣いでハルユキをみつめている。墨黒の三つ編みが肩から落ちてきてい  
て、パドさんの口戯にあわせてハルユキの肌をすべっていた。乳房が太股の上にのってい  
るので、彼女の息づかいまでよくわかる。  
 
「レパード……ずるい……」  
 
 そしてあろうことか、楓子までハルユキの性器に顔を近づけた。前にかかってきてしま  
った栗色の髪を、細い指でかきあげて耳にのせる。赤く、ぷっくりとした――いつもはた  
おやかにハルユキをしかりつける、健康的な唇がゆっくりとひらいた。  
 
「ふふ……鴉さんにいたずら……しちゃいますね……」  
 
 ぞくりとするほど色っぽい声音でいい、楓子はちろっ、と小さく舌をだした。パドさん  
がしゃぶりつく先端ではなく、側面へと顔を近づける……。  
 
「し、しょ――。くうぅ――!」  
 
 健康的なピンクの舌が、そーっと性器表面をなぞった。  
 無意識下……本能的な反射で、ハルユキの性器が大きく跳ねた。  
 
――し、師匠まで……!  
 
 二人の唾液が潤滑を助ける。指ははげしくなるばかりだった。  
 性器の根本をしごかれ、唇と舌が這い回る。  
 はじめこそ戸惑いがちだったパドさんと楓子の舌づかいも、すこしづつ大胆なものへと  
かわっていった。  
 
「んちゅ……ぢゅっ、ちゅる……んっ、くっ……」  
「ちゅる……ぺろ……ちょっとしょっぱい……」  
 
 パドさんが亀頭を口に含み、唇をすべらせる。指の筒のせいで、あまり深くまでくわえ  
込め無いようだが、亀頭を包む唇とカサの上を這い回る舌が呼ぶ快楽は無類のものだった。  
 腰のうしろに耐え難い快感がたまり、男性器がびくびくとうごめく。根本にたまった射  
精感が爆発する予兆だった。  
 
「あ、あの……二人とも、そろそろ……」  
「ちゅる……んっ……ふふ。だめですよー。赦してあげません」  
「最後まで……イって……」  
 
 パドさんと楓子が左右から亀頭にキスした。そこから延びた舌は、カサの下をはいまわ  
り、雁首をくすぐった――。  
 
「あ……う、うわぁ――!」  
 
 根本を固定されたまま、ハルユキは精液をふきあげた。天井までぶつかりそうな勢いで  
白濁液が放出される。  
   
「あっ……」  
「んっ……」  
 
 それぞれ目を見開いた少女二人の美貌を白い粘液が汚していった。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 頬や鼻のあたまにべっとりと付着した精液を拭い終わった二人は、性を解放したことで  
ぼんやりとしたままのハルユキを、艶っぽい瞳で見つめていた。  
   
「さ、鴉さん……どちらと先にセックスするか、選んでくださいね」  
「あの……ど、どちらが……さき……?」  
「……クロウが選べばいい」  
 
 射精後の怠惰でうまく回らない思考のギアは、ハルユキを大いに焦らせる。  
 
「え、ええっと、でも……」  
「ふふ。鴉さんが、気持ちよさそうって思うほうでいいですよ……?」  
「そ、そんなこと言われましても……」  
 
 救いをもとめるべく、二人の顔を交互に見るが、助け船はいつまでたっても出てこない。  
 
 ――選ばないと……。  
 
 しかしそれだと片方が悲しい思いをするのではないか。光景がさっと脳裏にうかんだ。  
 楓子をえらんだことで、目をふせまつげをふるわせるパドさんと、パドさんを選んだこ  
とで残念そうに唇を噛む楓子。  
 
 ――ど、どっちかなんて選べない……。でも……選ばないともっと悪いし……。  
 
 どうして「二本」ないんだろう。二本あれば悩むことなんてないのに……などと具にも  
つかない想像が働き、それが現実逃避だと気が付く。  
 頭をぶんぶん振る――。  
   
 ――だ、だめだ。良いアイデアが出てこない!  
 
 時間がほしかった。  
 はっと脳裏にひらめいた言葉を、ハルユキはつっかえながら口ずさんだ。  
 
「ば、ば、ば、バースト・リンク……!」  
「「あ」」  
 
 パドさんと楓子の唖然とした声が、最後に聞こえた気がした。  
 
 
 
 
 
 ――この部屋には電磁波シールドが張られているので、外からの干渉は無い。だが、ハ  
ルユキの首から延びるXSBケーブルは二本ある。そしてそれはそれぞれ、楓子とパドさ  
んへつながっている……。  
 
 実のところ、逃げ道はどこにもなかった。  
 現実世界にとりのこされた少女二人は、すぐさまハルユキを追った。  
   
 バースト・リンク――!!  
 

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