「なん・・・・・・で」
自分の喉から、ひび割れ、つぶれた声が流れるのを、ハルユキは聞いた。
「なんでだよ・・・・・・・・・・・・、チユ」
ライム・ベルはその問いに答えることなく左腕のベルをダスク・テイカーに向け続ける。
そのうち降り注がれていたエメラルドの粒は消え、
完全に修復されたダスク・テイカーがライム・ベルの傍らに降り立つ。
ライム・ベルもダスク・テイカーを認め、その肢体を寄り添わせる。
ハルユキはいま自分が見ている光景に現実感を感じないまま、反射的に問いかける。
「能美、どういうことだ!」
「いいかげん僕を人を陥れる知恵だけに長けたキャラだと思うのは止めてくれませんか。
奪いとることに関しての労力は惜しまないんですよ、これでも。
たとえばですね、有田先輩、あなたがあの力を得る為にお山に篭っていたその間も
僕が犬が得物を取ってくるのをただ無為に待っていたとでも思っていたのですか?」
「まさか……お前……」
ハルユキの脳裏に、倫理的にはありえない、妄想さえも憚られる推測が浮かぶ。
「ええ、おそらく先輩の考えている通りです。
無制限中立フィールドではリアルの10分が1週間にもなります。
仮に午後9時から朝6時まで入っていたら・・・・・・およそ1年。
生意気なペットを躾けるには充分な時間だと思いませんか?」
「さっきの昼休みだって、ペットの分際で、僕を呼び出しておねだりしてきたんですよ。」
ハルユキは昼休みにチユリが珍しくフルダイブしていた光景を思い出す。
「こっちも先輩の相手だけをしている暇は無いんで断りましたけど。
どうです?可愛くなったでしょう?」
得意げに語りながら、ダスク・テイカーはライム・ベルを昨日の様に背後から抱締めた。
左腕は胸の下どころか、先日、事故とはいえ意外な量感を確認した乳房を鷲掴みにしており、
顎も右肩というより首筋を這うように乗せられている。
昨日の中庭での光景が怒りと共にフラッシュバックする。
だが、昨日よりも淫猥に抱き寄せられているライム・ベルからは
昨日のような、嫌悪も恐怖も感じ取ることができなかった。
むしろ心地好いという風に鼻先をダスク・テイカーの頬に摺り寄せ
右手を掴まれたままの手に胸を更に押し付けるように重ねてさえいる。
「いいんですか?有田先輩や黛先輩も見てるんですよ。」
耳元でダスク・テイカーが呟くと、一瞬の沈黙の後、
「いやぁ!」
我に返ったようにライム・ベルがダスク・テイカーから離れようとしたがそれは叶わなかった。
そのままダスクテイカーの右手がライム・ベルの体を這い回り始めると
指の動きに合わせて電流を流されているように体を震わせてしまう。
やがて、その動きが下腹部へ向けて蛇のように進み始めると、
「いや・・・・・・あんっ・・・ハル、タッくん・・・・・・見ないで・・・・・・っ、ああんっ」
甘い声と共にライム・ベルは再び拒絶の言葉をつむぐ。
が、それは先ほどとは違い、ダスク・テイカーの行為にではなく、
ハルユキとシアン・パイルの彼女への視線に向けられていた。
カラーン・・・・・・
ライム・ベルの左腕の肘から先を覆っていたベルが、腕から抜け落ち澄んだ音を立てるが、
その音に興味を示すものはこのフィールドには存在しなかった。
そしてダスク・テイカーの掌がライム・ベルの下腹部に達したとき、
――食欲、睡眠欲が満たされるなら性欲が満たされない道理はない――
ういん、と軽い音と共にダスク・テイカーの掌の隙間から覗くそれは
ライム・ベルの黄緑色で冷たい、硬質なプロテクターのそれではなく、
肌色で、熱く、柔らかく、濡れそぼり、更なる刺激を待つ・・・・・・倉嶋千百合のそれだった。
そのときハルユキは自分がバーチャルにもかかわらず勃起していることにようやく気がついた。