「退院おめでとうございます、先輩!」  
「ああ、ありがとうハルユキ君」  
 11月に似合わぬ快晴だった。ぽかぽかと暖かい昼下がり、病院の玄関で、ハルユキは少ない小遣いで無理して  
買った花束を黒雪姫に捧げた。梅郷中の制服の上に黒いコートを羽織った黒雪姫は、顔を綻ばせながらうやうやしく  
受け取る。ハルユキの他にも来ていた梅郷中の生徒から、羨望やらやっかみのため息が漏れた。  
 今日は黒雪姫が二ヶ月間の入院から退院する日だった。  
「みんなもありがとう。生徒会にも来週から顔を出すつもりだ。またよろしく頼む」  
 生徒達にそう言うのへ、女子生徒らからキャーと黄色い声が飛ぶ。飛びぬけた美貌のみならず、言葉遣いも  
含めた流麗かつ厳格な雰囲気から、黒雪姫は男子のみならず女子生徒にも人気が高いのだ。  
「ではそろそろ失礼しよう。迎えも来てることだし」  
 病院の入り口前には黒塗りのリムジンが停まっていた。窓はほとんどフルスモークで中は見えない。運転席  
(左ハンドルだ)のそばには、老紳士がピシっと背筋を伸ばして直立不動で待機していた。  
「あー、ハルユキ君」  
「は、はい?」  
 黒雪姫が乗り込むのをぼんやり見届けていたハルユキは、姫に突然呼ばれて小走りで駆け寄った。  
「ハルユキ君も乗っていこう。家まで送るよ」  
 まわりの生徒がざわざわと騒ぎだすのをハルユキは遠く聞いた。慌ててかぶりを振る。  
「と、とんでもないです!それに、退院のお祝いに来たのに送ってもらうというのもなんだか・・・」  
 ハルユキがそう言うのへ、黒雪姫は少し思案するように俯き、なぜか少し頬を染めて顔を上げた。  
「いや、それだけではなくて・・・あー、なんだ」  
「?」  
「その・・・寄っていかないか? 私の家に。少し話があるんだ」  
「せ、先輩の家にですか!?」  
 女子生徒の何人かがイヤーと悲鳴を上げるのが、また遠く聞こえた。  
 
 一体どんなサスペンションなのか、外を流れる景色はかなりの速度で移り変わっているというのに、そのリムジン  
はまるで空でも飛んでるかのように振動がなかった。ふかふかで柔らかい座席に大きい尻を乗せて、ハルユキは  
連れてこられた猫のように固まっていた。  
「おいおい、そんな緊張しないでくれ」  
 向かい合わせの席に上品に座った姿勢のまま、黒雪姫は苦笑を浮かべた。  
「なんというか、その、こういう車に乗るのはハジメテですから・・・」  
 見た目以上に室内空間は広いが、高級感溢れる装飾に彩られたリムジンはハルユキを緊張させるのに充分だった。  
「たんなるクルマさ。移動手段でしかないよ。何か飲むかい?」  
 グラスにそそがれたオレンジジュースを受け取るも、ハルユキは生きた心地のしないまま十数分の時を過ごすことになった。  
 
 リムジンは街の中を快走し、高級住宅地として有名な一帯を通り抜け、さらに奥まった場所にある巨大な門を  
通過したのち、これまた巨大な邸宅の前で静かに停車した。  
「さあ、ここが我が家だ」  
(家・・・? ていうか、城・・・?)  
 黒雪城、などというネーミングが頭を掠めるほどに、姫の『我が家』は巨大だった。黒雪姫はすたすたと扉に歩み寄り、  
手慣れた様子で掌をかざして指紋と静脈の証明を行うと、ゆっくりと音もなく扉が開いた。  
 広大なエントランスを通り、先がよく見えないほどのいくつかの長い廊下を通って、ある一室の前で黒雪姫が立ち止まった。  
「こ、ここが私の部屋だ。汚いところだが、入ってくれ」  
 よく見ると姫も多少緊張してるらしい。黒髪から覗く形の良い耳が少し赤みがかっていた。幼馴染のチユリ以外の女性の  
私室に入るという事態に今更ながら気付き、ハルユキも気恥ずかしくなってしまう。  
「は、はい、お邪魔・・・します」  
 
(き・・・気まずい・・・)  
 大きなソファに座り、淹れてもらった紅茶を啜りながらハルユキは思った。先刻から2人とも一言もしゃべらない。  
となりにちょこんと座る黒雪姫も硬い表情のまま微動だにしなかった。流石に何かしゃべった方がよいだろうか。  
ハルユキが口を開こうとしたところで、黒雪姫がハルユキに向き直り、先に口を開いた。  
「ハルユキ君」  
「は、はひっ!」  
「話があると言ったのは他でもない。私は2ヶ月前に君に告白した。君のことが好きだと。君がどう感じたのかは  
分からないが、私にとっては真剣に本心を打ち明けたつもりだ。その後色々あったというのもあるが、そろそろ  
返事を聞かせてはくれないだろうか?」  
 一息でそこまで言い切り、黒雪姫はまっすぐハルユキを見つめた。ハルユキは固まり、ごくりと唾を飲み込んだ。  
 ついに、来るべき時が来たのだ。  
 2ヶ月前、荒谷という梅郷中の元生徒によって起こされた殺人未遂事件。ハルユキが荒谷の車に轢かれそうに  
なった時に、黒雪姫がブレイン・バーストプログラムの力を使ってハルユキの身代わりになったのだ。その際、  
あの加速世界の中で聞いた姫の本心。ハルユキのことが好きだという姫の気持ちをハルユキは思い出した。  
 黒雪姫はその事件によって生死の境を彷徨うことになった。手術も再生術も完了し、体力回復のために入院  
していた約2ヶ月間。その間いくどもそのことについて話す機会はあった。黒雪姫が何かを言いたそうに見つめて  
いたことも何度もある。だがハルユキはレギオンの報告や姫の身の回りの世話をするという名目で逃げ続けていた。  
 だが、もう覚悟を決める時なのかもしれない。  
「私のような女に告白されても迷惑かもしれないが・・・」  
「そんなことないです!」  
 自分でも予想外にはっきりとした声でハルユキは否定した。黒雪姫は目をぱちくりとさせ驚いたが、やがて  
それは微笑に変わり、先を促すように、ハルユキの丸っこい手に自分の手を重ねた。  
「僕・・・僕は、こんなナリだし、先輩と吊り合う男だとは今でもとても思いません、でも・・・」  
 覚悟を決めろ有田春雪。ここが勝負処だ。ちゃんと伝えるんだ、自分の気持を。  
「でも・・・僕はあの戦いで、貴女を護るためのあの戦いで、自分を疑うことはやめにしようと思ったんです。それは、  
僕を信じてくれた貴女を裏切ることになるから」  
「ハルユキ君・・・」  
 ぎゅっと、ハルユキの手を握る黒雪姫の力が強まる。ハルユキは重ねられた姫の手に、もう片方の自分の手を重ねた。  
「だから、僕は貴女が信じてくれた自分を信じます。貴女が好きだと思う自分を・・・信じます」  
「うん・・・」  
「好きです、先輩。僕と・・・その・・・お、お付き合いしてください!」  
「・・・うん!」  
 満面の笑みを浮かべて、黒雪姫はハルユキの大きな身体に抱きついた。首に手を回し、頬と頬をすり寄せる。  
いきなりの行動と、ふわりと鼻をくすぐる姫の髪の香りにハルユキは目を白黒させたが、やがてゆっくりと慎重に、  
自分の手を姫の華奢な背中に回した。  
 
 
 どっどっどっどっどっ  
 早鐘のように鳴る心臓の音が自分のものなのか、密着する黒雪姫のものなのかハルユキには判断できなかった。  
「分かるかな? 私の心臓、壊れそうだよ」  
「ぼ、僕も・・・です」  
 心音のリズムによって思考が加速する。そんなブレイン・バーストの原理を体現するような時間感覚をハルユキは感じていた。  
ずっとこうしていたいと思える濃密な時間が流れている。  
「キス・・・してくれないか。今度は君から」  
 至近距離で見つめ合う黒雪姫がそう呟いた。黒雪姫からの告白を受けたあの加速世界で、アバター同士で  
行った仮想のキス。それを思い出して、ハルユキはごくりと唾を飲み込んだ。黒雪姫の瞳しか見えない。2人の  
距離はどんどん縮まっていく。  
 近付きすぎてやがて焦点が合わなくなり、自然とお互い目を閉じた。  
「ん・・・」  
 そっと唇を合わせる。一度離して、角度を変えてもう一度。小鳥がエサをついばむような軽いキスを延々と  
続けた。心音の加速が止まらない。どんどんエスカレートしていき、だんだん噛み付くようなキスになっていく。  
「ん・・・は・・・んむ・・・」  
 おそるおそる舌で黒雪姫の歯を舐めるように這わせると、姫は少し口を開き、ハルユキの舌を受け入れた。  
二人の舌は別の生き物のように絡み合い、唾液を交換した。  
「んふ、はむ・・・」  
 酸欠のような苦しさに音を上げて、ハルユキはそっと唇を離した。どちらのものと知れない唾液の名残が糸を  
引き、一瞬で消え去った。お互い荒くなった息を静めるようにため息をつく。  
「ふぅ・・・これは、凄い、な」  
 瞳をとろんと潤ませ、黒雪姫は微笑んだ。頬も耳も桃色に染まり、息も荒いその様は、ハルユキにはこの上  
なく扇情的に映った。  
「せ、先輩・・・」  
「ハルユキ君、私をベッドに運んでくれないか? ちょっとその・・・腰が抜けてしまったようなんだ」  
「べ、ベッドに運ぶということは、つまり・・・」  
「うん・・・私を、君のものにしてほしい」  
 やはりどこか扇情的な笑みをその美貌に浮かべながら、黒雪姫は両手を差し出した。  
 
 いつか加速世界でそうしたように、ハルユキは黒雪姫の背中と膝の裏に両手を差込み、両足を全力で踏ん張って  
持ち上げた。以前アバター“シルバー・クロウ”で“ブラック・ロータス”を持ち上げた時とは比べ物にならないキツさだ。  
黒雪姫の体重は自分の半分にも満たないだろうに。ハルユキは自分のなまり切った体が腹立たしくなった。  
「すまない、やはり降ろしてくれ」  
「いえ!大丈夫ですから!」  
 腕をぷるぷるさせてそう言い張ってもまったく説得力がないのは百も承知だが、ここでへこたれるわけには絶対  
いかない。無理矢理笑顔を作ってみせるハルユキを見て、黒雪姫は苦笑しながら彼の首にぎゅっと抱きついた。  
 永遠とも思える数mを歩き、黒雪姫を全力を持ってゆっくりと優しくベッドに横たえたところで、ハルユキは荒い息  
を吐いた。すると突然、首に手を回していた黒雪姫がぐいっとハルユキの首を引き倒し深くキスした。悲鳴を上げて  
いた腕の筋肉は突然の荷重に耐え切れず、あえなくハルユキの上体は寝ている姫の上に思いっきりのしかかってしまった。  
「んー!んー!」  
 このままでは黒雪姫が潰れてしまう!あわてて言葉にならない声で抗議するハルユキだったが、姫は離そうともしない。  
たっぷり10秒はキスをした後、ようやく手の力を緩めて唇を離した。ハルユキも慌てて腕で自重を支える。  
「せ、先輩潰れちゃいますよ! 大丈夫ですか!?」  
「ふふふ・・・そんなに重くなかったよ。それに、感じたかったのさ。君という人間の重さを」  
 今度はやさしく、ハルユキの大きな背中に指を這わせた。ハルユキも肘をついて、黒雪姫にあまり荷重しないように  
気をつけながら、そっと口付けた。やがて場所を移し、頬や耳、首筋にもキスをする。どこに口付けてもやってくる甘い  
香りと柔らかい感触にハルユキは夢中になった。  
 もっとキスしたい。もっと触れたい。  
 そんな衝動が後押しするかのように、ハルユキの手は黒雪姫の着た制服のブレザーにかかった。彼の意図を察した  
のか、姫はゆっくり起き上がり、ブレザーのボタンを外した。梅郷中2年生であることを示す青いリボンをほどき、ブラウス  
のボタンも外していく。ハルユキもそれに倣って、ブレザーを脱ぎ緑色のネクタイを抜き取った。  
 
「ああ・・・」  
 感嘆のため息が漏れるのをハルユキは抑えられなかった。お互い下着姿になり、向かい合うようにベッドに座って  
いる。黒雪姫は白いレースの下着に包まれた裸体の前で、恥ずかしそうに両手を交差させていた。  
「すまない、その・・・貧相な身体で」  
「そんなことないです!すごく・・・キレイだ」  
 確かに華奢ではあるが、貧相などという言葉は全く似つかわしくないほどに、黒雪姫は美しかった。控えめな胸も  
歳相応な丸みを帯びようとしているし、肌は触ったら溶けてしまいそうなほどに白かった。  
 だいたい身体を卑下すべきなのはこちらの方だ、とハルユキは思った。ぷよぷよとした段腹は自分でも視認したく  
ないほどに醜い。だがこの際そのことは脇に置いて、ハルユキはそっと黒雪姫の剥き出しの肩に手を置いた。  
「ん・・・」  
 中断していたキスを再開する。浅く深く、歯をなぞり、舌を絡ませ、一度離す。首に口付け、肩、鎖骨と少しずつ降りる。  
「ふ・・・ぅ、ん」  
 くすぐったいのか気持良いのか、黒雪姫はふるふると肌を震わせた。調子に乗ったハルユキは、ブラジャーの紐を  
そっとつまみ、ゆっくりとずり下げた。姫がビクっと一瞬震えたが、すぐに力を抜く。姫の身体の後ろに手を回して、  
奇跡的なことに一発でホックを外した。  
「あ・・・」  
 自身を守る鎧が剥がれたことに不安の声を上げる黒雪姫をよそに、ハルユキは現れた双丘に目を奪われていた。  
なだらかな膨らみに桜色の乳首がふるふると震えている。  
「あの・・・触っても?」  
「うん、や、優しく、な?」  
 そうっとやさしく、壊れ物を触るように、ハルユキは姫の乳房に触れた。黒雪姫の息が荒くなる。さわさわと撫で擦り、  
ほんの少し押すように揉む。キスも再開し、乳房を通って、乳首にも浅く口付けた。  
「ん、ふぁ・・・て、手慣れてるな、キミは。まさか経験があるのか・・・?」  
 ぼーっとなった頭にとんでもない言葉が浴びせられて、ハルユキは慌てて顔を上げてかぶりを振った。  
「と、とととんでもないです! あの、なんというか・・・知識だけというか、動画でちょっと・・・」  
 できたばかりの恋人に自分がそういう動画を見たことがあるのを吐露するのもいかがなものかと、言った後に気付いたが、  
黒雪姫はたいして気にしたそぶりも見せずにくすくすと笑った。  
「ふふ、冗談だよ・・・ん・・・そうだな、ここから先はキミに任せるよ。実は、私は残念ながらこういったことは知識  
すらあまりないのだ」  
「は、はい! が、ががガンバリマス」  
 
 黒雪姫の身体はどこにキスしても甘く、どこに触れても柔らかく、ハルユキは夢中で堪能した。  
 彼女の白い身体は興奮と多少の羞恥で桜色に染まり、エアコンで適温に設定されていながら、肌に玉の汗を  
浮かべている。  
ハルユキはターゲットをどんどん下に移し、へそ下や太ももにも指や唇を這わせていった。  
「脱がせ・・・ます」  
「うん・・・」  
 ブラジャーと同じく白いレースをあしらった下着に手をかける。黒雪姫も少しだけ腰を浮かせた。するすると脱がせて  
いくに連れて下着が丸まっていくのを眺めながら、ハルユキの興奮も最高潮になった。  
「キレイだ・・・」  
 本日何度目か知らないその呟きに、黒雪姫の閉じた脚がわずかに身じろいだ。頬は桜色を通り越して既に真っ赤で、  
いやいやをするように両手で顔を隠してる。ハルユキは恥丘部分にわずかにあるだけの茂りを撫でてから、少しだけ力  
を入れて脚を広げさせ、わずかに奥まったそこにそっと触れた。その瞬間、びくりと身体が震える。  
「はぁ・・・はぁ・・・あ、あまり、見ないで、くれ」  
 女性器の形はその手の動画や保健のテキストデータの添付画像で見たことがあるだけだが、黒雪姫のそれはどれとも  
違うように見えた。ぴたりと閉じて、まるで桜色の1本の線のようだった。陰唇やら尿道口やら膣口やらはほとんど見えない。  
もっと奥まった場所にあるのかもしれないが、無理矢理こじ開けて覗き見るのははばかられた。あまりに美しく儚いように  
見えて、力を入れれば壊れてしまう気がしたからだ。  
 手を当てて、全体を揉み込むように触る。時々びくっと震える姫の身体。暖めるように揉み、少しずつ桜色のスリットを  
指で擦った。やがてぬるぬるとした液体が指に纏われ滑りがよくなる。姫の息もどんどん荒くなる。少し指が埋まる箇所  
を見つけ、少しずつゆっくりと指を埋めていった。  
「ああ・・・はぁっ」  
 指に纏わりつく液体がどんどん増えていく。一度抜き、再びスリットをゆっくり擦り上げると、陰核と思われる部分で姫の  
身体が今までになく大きく跳ねた。  
「くっ!・・・そ、そこはあまり強くしないで・・・」  
「すみません」  
 ハルユキは姫のそこから溢れ出る液体をよく指につけ、再びそこに挑んだ。今度は触れるか触れないかの微妙な  
タッチで、周りの肉を押し付けるようにしてみる。今度は強すぎる刺激ではないようで、姫の小鼻から漏れる息にも甘みが  
含まれるようになった。  
「はぁ・・・ふっ・・・ふぅ・・ん!」  
 他の指を膣口にも這わせる。くちゃくちゃと水っぽい音が黒雪姫の広い私室に響いた。姫の声色がどんどん艶を帯び、  
時折ぴくぴくと薄い腹筋がわなないた。少しずつ指を擦るスピードを上げると、姫の嬌声も連なって高くなっていった。  
「ああ・・・ふぁあ・・・ああぁっ!!!」  
 びくっびくん!と黒雪姫の身体が大きく跳ね、全身の筋肉を硬直させた。膣口に軽く入れた指が痛いほどに締め付け  
られ、溢れた液体がびちゃびちゃと手とシーツを汚していった。女性のメカニズムについてさほど詳しくないハルユキにも、  
黒雪姫が果てたのだと分かった。  
 
「先輩・・・」  
「はぁ、はぁ・・・き、キツく、抱いてくれ、頼む」  
 黒雪姫の身体を起こし、汗で濡れた背中に手を回してぎゅうっと抱きしめた。姫はハルユキに首に顔を埋め、  
フーフーと荒い息を吐いていた。  
「ふ・・・ふふ、初めてイってしまった、のかな。生徒会の女子が話してるのをこっそり聞いたことはあったが、  
こんなにも凄いものとは思わなかったよ」  
 
 ハジメテイッテシマッタ  
 
 ごくり、とハルユキの喉が鳴った。下半身は最初にキスをしたくだりから、もうずっと全開で痛いくらいだった。  
自分が自分でないような、酩酊感にも似た(酒を嗜んだことはないが)感覚に戸惑う一方だった。  
「せんぱい・・・僕・・・」  
「ああ、すまなかったな、中断させてしまった」  
 続きをしよう  
 などと耳元で囁かれては、ハルユキにはもう自分を抑えられなかった。黒雪姫の唇を貪り、美麗な尻を撫で回す。  
もう片方の手で、もどかしげに自分の下着をずり下ろした。  
「これが・・・キミの・・・」  
 あらわになったハルユキの性器は歳相応の幼さを残すものの、立派に雄としての猛々しさも持っていた。ハルユキ  
はなんとも言えない気恥ずかしさがこみ上げたが、ここまで来て後に引くわけにもいかない。  
 黒雪姫は興味深げにまじまじとそれを見つめ、ほっそりとした指先で先端にそっと触れた。  
「あぅっ!」  
「す、すまない。痛かったか?」  
「いえ、大丈夫です。その・・・もっと、触ってください」  
 黒雪姫は、今度は根元の方からゆっくりと優しく握った。ひんやりとしたその感触にハルユキは身震いする。姫が  
そっと擦り上げると、腰が抜けるほどの気持ちよさが全身を駆け抜けた。  
「せ、せんぱいぃっ!」  
 叫び声を上げるハルユキに驚いて、黒雪姫は誤って強く握ってしまった。それがさらなる刺激となり、我慢の限界  
を超えてしまった。びくん!びくん!と性器が跳ね、粘っこく白い液体が飛び出す。  
「ああっ!あああ!」  
 断続的に、だが止まる様子もなく、ハルユキから飛び出た液体は黒雪姫の顔を白く汚していった。都合10度は  
跳ねた性器はやがて射精を止め、姫の手の中で少しだけ硬度を失った。  
「凄い・・・これが男性の・・・あれ、なのか?」  
 黒雪姫は顔に付着した粘っこい精液を指で掬い取り、指で擦り合わせたり、くんくんと小鼻を鳴らして匂いを  
嗅いだりしているのを見て、多少冷静さを取り戻したハルユキは狼狽した。  
「あああああごめんなさいごめんなさいぃ!!」  
「なぜ謝る? 気持ちよかったのだろう?」  
 心底不思議そうに黒雪姫は尋ねた。そのある種無邪気な顔と、その美貌に張り付いた自分の精液の対比に、  
なんとも言えない気分になってしまう。  
「で、でも顔にかけちゃって・・・。ホントにすみません」  
「気にするな。私もキミの手を汚してしまった。それに・・・キミのだと思うと、いとおしくもなるさ」  
 ぺろり、と手の精液を黒雪姫が舐めるのを、ハルユキは驚愕とともに見守った。なんて女性(ヒト)だろう。  
ハルユキは泣きたくなるほどのいとおしさを黒雪姫に感じた。この人のためなら、自分だってなんでも出来る。  
そう思った。  
「先輩!」  
 強く抱きつき、ハルユキは黒雪姫の唇を塞いだ。嫌な苦味が舌に広がったが、気にもならなかったし、舌を  
絡めるうちにやがてそれも消えた。  
「ハルユキくん・・・私を・・・女にしてくれ」  
 唇を離し、潤んだ瞳で黒雪姫がそう囁くのへ、ハルユキは再び唇を塞ぐ事でそれに応えた。  
 
「い、いれます」  
「うん・・・! く、ぅう」  
 熱い。すごく熱い。  
 気がつくと再び勃起していた性器を姫のそこにあてがい、先端を埋めたハルユキが感じたのはその一点だった。  
そのまま一気に押し進める。ぶちちっと何かが切れる感触が身体に響いた。  
「く、ぁああ!!」  
 顔をしかめ、歯を食いしばった黒雪姫の口から苦悶の声が漏れる。痛みに歪んだ顔なのに、その美しさは一片も  
損なわれることはなかった。  
「大丈夫ですか!? 一度抜いた方が・・・」  
 はっはっはっは、と短く荒い呼吸を繰り返す黒雪姫を見て、ハルユキは腰を引こうとしたが、ハルユキの背中に  
回した手を強く引き寄せることで姫がそれを防いだ。  
「いや、抜かないでくれ。最後までちゃんとしたいのだ。ただ、もう少しこのまま・・・」  
 玉の汗を額に浮かべ、黒雪姫は呟いた。ハルユキは少しでも苦痛が和らぐのを祈って、姫の長い黒髪を指で梳き、  
唇や身体にそっとキスをした。  
 腰はまったく動かしていないのに、今にも射精しそうなほどに熱く、気持ちが良い。他の事に集中していないと暴発  
してしまいそうだった。  
「熱い・・・こんなにも熱いのか・・・。だがとても嬉しいよ。キミとひとつになっているということが・・・キミを  
感じられるということが」  
 熱に浮かされたような黒雪姫の呟きに、ハルユキはもうまともな言葉で返す余裕がなかった。  
「せ、せんぱい・・・僕、僕もう・・・」  
「ああ、動いてくれハルユキくん・・・私を、感じてくれ」  
 少しずつ、ゆっくりと引き抜き、同じ速度でまた埋没していく。往復運動はだんだんと加速していき、それに伴い心臓  
の鼓動も加速される。もう、限界が近い。苦悶の表情が緩むことのない黒雪姫のためにも、これ以上我慢する理由は  
ない。  
「ああ! 先輩! せんぱいっ!」  
「ハルユキくぅ・・・んん!」  
 どくん!という音が、自分の心臓の音なのか、黒雪姫の中で爆ぜた自分のものが脈打つ音なのか、ハルユキには  
よく分からなかった。頭の芯が痺れて何も考えられない。  
「あ、はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」  
 少しずつ、少しずつ波が引いていくのをハルユキは感じていた。  
 鈍い痺れはまだ頭に残っているものの、思考は少しずつ現実に復帰していく。少し硬度を失った性器をゆっくりと引き  
抜き、気絶したように目を閉じている黒雪姫の身体をそっと抱きしめた。  
 
 しばらく抱き合い、呼吸も落ち着いてくると、黒雪姫はゆっくりと目を開いた。疲れが見えるその美貌に、幸せそうに  
微笑を浮かべる。  
「先輩・・・大丈夫ですか?」  
「うん、とても満ち足りた気分だよ・・・。セックスとは、いいものだな。身体は多少辛いが」  
 くすくすと笑う黒雪姫を見て、ハルユキも釣られるように苦笑した。  
「すいません、先輩。退院直後で病み上がりだというのに、その、こんな」  
「いや、いいんだ。君と中途半端な位置に落ち着くのだけは絶対に嫌だったからな。ただ・・・もう少しこうしててほしい」  
 寝そべったハルユキの丸い巨体の上に横たわるように、黒雪姫はハルユキに抱きついた。ハルユキもベッドと自分の  
身体に広がる姫の黒髪をそっと撫でる。ハルユキは、除けられてベッドからずり落ちそうになっていたシーツを足で  
手繰り寄せ、2人を包むようにそっとかけた。  
 
 お互いそのままうとうとしていたが、小一時間ほどしたところでハルユキは自分の腹の音で目が覚めた。腕の中の  
黒雪姫を確認すると彼女も目をぱちくりさせている。  
「あ、す、すいません・・・」  
「おはよう。ふふ・・・そういえばもう日が沈んでしまっているな。夕食を食べていってくれ。食堂にもう用意されて  
いるはずだ」  
 部屋に備え付けられたシャワーを交互に浴び、ハルユキは脱ぎ散らかした制服に再び袖を通した。シャワーを浴びて  
出てくると、黒雪姫は黒いセーターとジーンズというラフな格好に着替えていた。ハルユキはまだ夢でも見ているかの  
ような気分で、ふらふらと辛そうに歩く黒雪姫に手を貸し、長い廊下をゆっくり歩いた。ハルユキは、身体を鍛えよう、  
と真剣に思った。いつでも、何時間でも姫を抱いて歩けるように。  
 30人以上は楽に着席できそうな広い食堂に着くと、黒雪姫の言っていた通り2人分の料理が食卓に並べられていた。  
湯気が立つ透明感のあるスープ、色とりどりに盛り付けられた温野菜、焼きたてといった感じのふっくら柔らかそうなパンに、  
美味しそうな匂いを立たせた白身魚のムニエルといったあんばいだ。胃が空腹できゅうっと収縮するのを感じながら、  
ハルユキは勧められるままに装飾の多い椅子に座った。  
「ええと、お手伝いさんとかが作ってるんですか? これ」  
 ムニエルに舌鼓を打ちながら、ハルユキはおそるおそる聞いた。  
「朝食と夕食を作るコックが1人、洗濯や細かい掃除を行う家政婦が2人、それに常駐で雑務をしてくれる爺や・・・ほら、  
今日送ってくれた運転手が彼だよ。そんなところかな」  
「はぁ・・・」  
 これだけの豪邸で使用人が3、4人しかいないことに驚くべきなのか、身の回りの世話をするプロがいることに驚くべき  
なのか、ハルユキにはよく分からなかった。冷凍ピザやコンビニ弁当で日々の食事を済ましてるハルユキには、いずれ  
にせよ遠い話だ。  
「コックと家政婦は仕事が終わり次第帰宅させるから、夕食はいつも1人なんだ。こうやって誰かと食事をともにするのも  
いいものだな」  
 空腹を忘れて見入ってしまうような微笑を浮かべ、黒雪姫は呟いた。  
「僕も、誰かと食事するのは久しぶりです。母は帰ってくるのが夜中ですから」  
「ほぅ?」  
「だから、先輩と食事を一緒にできるのは・・・僕も、嬉しいです」  
 なんだか自分で言ってて恥ずかしくなってきて、ハルユキは誤魔化すように食事に手をつけた。対する黒雪姫は満面  
の笑みを浮かべている。  
「ありがとう、とても嬉しい。そうだな・・・これからもちょくちょく夕食を一緒にしようじゃないか。外で食べてもいいし、  
今日のように私の家で食べるのもいい」  
「は、はい!」  
「それにキミの家にも行きたいな。キミのお母様にご挨拶しておかねばならないし・・・」  
「はい!・・・ってえええ!?」  
 口の中の食べ物を吹き出しそうになるのを必死で堪えつつ、ハルユキは狼狽した。  
「正式に交際を始めたのだから当然だろう? 私の両親はなかなか日本に帰ってこないから、残念ながらキミに会わせる  
のはしばらく先になるかもしれないが」  
「そ、それはそうなんですが・・・」  
 黒雪姫を母親に会わせるというのは、ハルユキにとってはあまりに抵抗感が強かった。なんというか、それほど自慢の  
できる母というわけではないし、何より気恥ずかしい。自分の母親に「母さん、この人が僕の恋人です」などと紹介する  
シーンなんて想像もできなかった。  
「ええと、うちの母親も帰るのが遅かったりで、先輩とちゃんと会うのが難しいというか・・・」  
「ふむ。では仕方ない、か。今度お母様のお仕事が休みの日があったら教えてくれ」  
「はい・・・」  
 この問題は棚上げにしてしまおう、とハルユキは思った。いつか時間が解決してくれるかもしれない。そんなわけがない  
のは重々承知だが。  
 
 
 夕食を食べ終え、ハルユキは黒雪姫の邸宅をお暇することにした。来た時と同じように長ったらしい廊下を歩き、  
だだっ広い庭を抜ける。入ったところとは別の、それでも充分大きな、黒雪姫曰く勝手口の門(学校に通う時は  
この門を使うらしい)を出た。  
「先輩、ご馳走様でした。それに・・・」  
「うむ。私もとても嬉しかった。ありがとう、ハルユキくん・・・」  
 今更ながらに気恥ずかしさに襲われて、お互い顔を赤くして俯いた。黒雪姫が軽くかがむのを見て、背の低い  
ハルユキは首を伸ばしてそっと優しく姫の唇に口付けた。  
「じゃあ、おやすみなさい、先輩」  
「ン、おやすみ・・・」  
 名残惜しそうにもう一度口付け、ハルユキは黒雪姫に見送られながら邸宅を後にした。  
 
 
 
 
おわり  
 

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