学校が終わった、僕は今日も入院病棟の最上階南東、ピンクのパジャマの黒雪姫先輩  
へのお見舞いにきたのだが、先輩は顔を不安に歪ませて、こう切り出した。  
「迂闊の極みだ、もうバーストポイントが3しかない。」  
一瞬何のことを言われたのか解らず「はひ?」と意味不明なつぶやきをした僕だったが  
「ちょっと待ってください先輩!」  
真っ赤な先輩とは対照的に冷や汗を顔一杯にかいて、その汗を拭くことも無く先輩に顔を近づける。  
いつもなら汗だくで見苦しい姿を見せるのはいけないとハンカチで拭き取るのだが、事態が事態だ。  
そんな僕の汗だくな姿を見た先輩は逆に冷静さを取り戻したのだろう、  
ポケットからタオル地のハンカチを出して僕の顔を拭いきながら続ける。  
「そんなに慌てなくてもいい、それよりもハルユキ君、キミはまだ私を名前で呼んでくれないのか  
なんだかよそよそしくて傷ついちゃうな。」  
照れ隠しのつもりなのか先輩がハンカチで汗を拭くついでに僕の顔全体を覆ってみたりしている、  
なんだかとてもむずむずする甘い香りがして、視界が桃色がかる気分だったが、  
異常事態じゃないか!と自分を正気に戻すつもりで話題を戻す。  
「それよりもどうするんですか、死活問題じゃないですか!」  
ポイントがそこまで切羽詰ってるとは思わなかった、あの事件以来ポイントの99パーセントを失ったとはいえ  
梅郷中周辺でのブラック・ロータス、先輩は次々と高レベルバーストリンカーを斬り刻んでいたから。  
「最近退院に備えての勉強、ハルユキとシアンパイルへの技術指導で  
かなりポイントを使ったからな‥‥そこでだ!ちょっとハルユキ君のポイントを分けて欲しい。」  
そういう事情だったのか、それに先輩はLV9バーストリンカー  
このゲームの性質上、格下相手に勝利してももらえるポイントは微々たる量だ。  
「勿論ですよ‥‥レベル差でポイントのほとんどが対戦用に流れて非効率ですが、背に腹は代えられませんね。」  
僕が即座に返答して、すぐに対戦するように思考発音でブレーンバーストしようとしたとき、それを先輩が止める。  
「加速は待ってくれ!まだ話してなかったな、ブレーンバースト無しでのポイントの移動はできるんだよ。」  
ブレーンバーストのバの字まで思考で叫んだ辺りで先輩の声を認識し、中止して僕は聞き返した。  
「できるんですか、対戦以外では奪えないって最初に聞きましたけど?」  
「対戦でのポイントの移動がまず大前提だ、だが以前にも言っただろう?  
レギオンのルールを破ったものには罰としてポイントを没収したりすることがあると。」  
「それはたしかに聞きました、でもそれってみんなでその人に対戦を行うとかじゃないんですか?」  
そう聞き返すと、先輩はチッチッチ、と右手人差し指を立てて左右に振ってこう答えた。  
「いや、このゲームのシステムの一つにレギオンルールというものがあってだな、  
たとえば我々の(ネガ・メビュラス)の持つルールの一つに『レギオンのリーダーを辱めるな』  
という規則がある、規則違反者がいた場合はバーストポイントの管理サーバーに伝達され  
早くて数日で自動的に違反者のポイントが減少する、減少分はそのレギオンのリーダーの預かりとなる。」  
「えーと、これって対戦中じゃなくても有効なんですか?」  
「勿論だ、本来は不正改造を行う等のブレーンバーストの趣旨から外れる行動を防止するため  
作られたからな、バーストリンク無しでも規定は有効だ。」  
そうか、それなら貴重なポイントを使う心配はいらないな、だけど辱めるとなると、程度はどのくらいだろう?  
「じゃあ、例えばここで先輩に悪口を言えばポイントが幾ら先輩に流れるんですか?」  
「いや悪口程度では処分されない。」  
きっぱりと先輩は言う、たしかに悪口や陰口程度を取り扱ってたらキリが無い、と、なると!?  
「えーとその‥‥辱めるっ、てことはつまり‥‥その‥‥」  
僕はしどろもどろで言葉を出す、なんだか顔に血が少しのぼってきた、ああこれじゃあ先輩に  
僕が変な期待をしてるみたいじゃないか。  
そう思っている僕の気持ちとは裏腹に先輩はしたり顔でこう言った。  
「ふふふ、その顔、そうだなもう解ってるな、つまりはそういうことだ。」  
スッと先輩はXSBケーブルを取り出し、首に接続しもう一方を差し出す。  
「流石に現実では私の体の負担が大きいのでな、さあ、チャンスだぞ、男を見せろハルユキ少年。」  
 
差し出されたXSBケーブルに僕の視線は釘付けになった。  
そして戸惑った、いや心の奥では戸惑うどころではなく、ものすごく逃げ出したい気持ちだけが渦巻いていた。  
「いや、その僕‥‥!」  
ああダメだ、僕はまた先輩に無理をさせた挙句またその場しのぎにもならない逃避に走る、  
そうだ、心の奥底では僕はここまで勝手な想像をしていたが、先輩の口からは何も言ってない、  
いや、もしかしたら僕が期待した行為そのものを行うことが、僕の心を繋ぎ止めるため、  
ポイントが少ない自分の現状の足場を固めるための虚言だったとしたら?  
「断るのか?私を‥‥だ、脱落、させたいのか!?」  
僕の心理状態が、先輩と心を通わせる前の暗澹とした胸の内に刻一刻と近づいく。  
先輩の搾り出すような声を聞いて、自分が分不相応な期待をしてしまったことを確信した、  
先輩が僕のことを好いていて?、直結でアバターを使ってバーチャルセックスをしたい?  
では自分のどこを見ればそこまで思える?容姿は?性格は?  
ただゲームがうまいだけの学園最底辺のこの僕のどこに、ゲームの駒以上の魅力があるのか?  
‥‥‥今、痛いほど、心の傷口は広がっていった。いつも備えていたはずじゃないか、なぜ僕はこんな  
心構えをするようになったのだろう?  
「いいんですよ先輩、無理しないでください」  
「いきなりなんなんだ、もう覚悟ができたのか?」  
「先輩、レギオンルールなんてものは存在しないでしょう?」  
先輩は無表情になって答えた。  
「どうしてそんなことを言う、さっき説明したばかりだろう。」  
「だって、先輩はこのレギオンルールが不正改造をさせないために存在するって  
いいましたよね、なんでタクムのポイントが減っていないんですか?」  
「それは‥‥青の幹部が全損処分になったではないか。」  
少しつっかかって答える先輩、多分僕が疑わないと思っていたのだろう。  
「じゃあ、先輩が言った不正改造のデータを使用したものを処罰するために作られた、という目的から外れませんか?」  
しまった、と先輩は表情をほうけさせ、僕を見て笑って答えた。  
「‥‥ははは!たしかに君の思った通りだ、軽い冗談のつもりでな、君がその‥‥その気にならないから。」  
「いいえ、もういいんです、先輩、そこまでしなくても僕は先輩を」  
「これ以上言うな!!ハルユキ!」  
ドン!と先輩はベット横のテーブルを叩いて僕を強引に黙らせて、そして  
「今度は声に出して改めてもう一度言う、私はハルユキ君、君を愛している!」  
先輩は泣きそうな、それでいてはっきりとした声で僕に告白をした。  
「愛して、愛し合って、君と本当に心の底から繋がりたい。  
そして君を包みたい、君を幸せにさせたい、そんなことばかり考えているのに退院する日はまだ先だ。  
もう我慢できない、愛するどうしになりたい、その証が欲しい、  
体の傷が癒えるまでと思っていたが待てないんだ!だから、せめて‥‥‥」  
ぐい、と先輩は身を乗り出し、僕にベットから襲い掛かるようにのしかかり、  
先輩の言葉に我を忘れた僕のニューロリンカーにXSBケーブルを接続した。  
 
仮想空間内、僕はピンクの豚のアバター、先輩はもちろんその黒く美しい漆黒の蝶、黒雪姫のアバター、  
空間内はそのアバターだけがその世界の構成の全てだった。  
「ふふふ、前回は返事を聞いていなかったな。」  
「勿論、僕も愛してます。先輩、そしてごめんなさい  
またつまらないことで悩んで、自分どころか先輩の気持ちさえ裏切って‥‥うあ?」  
どうやら、退院まで待てないと言ったのは本当らしい、先輩は僕の下を強引にまさぐり、  
下半身になんだかぎこちない手の感触が広がった。  
「‥‥すごいな、ここも細部まで作り込むとは、標準のアバターとは違うと思ってはいたが、  
エディターで細部を作りこんでいたのか‥‥うーむ、教科書の図よりはるかにグロテスクだな。」  
そういえばこのアバター、家で暇な時間を見つけて豚の生殖器をエディターで作って  
そのままつけていたんだ、通常はツールにしまってあったのに、  
先輩が僕のデータを探り装着してしまった。  
「その‥‥なんというかごめんなさい、というか先輩!勝手に探らないでください!」  
「いや年頃の少年ならあると思ってな、ふむ、螺旋状なのか、興味深いな。  
ン、あむ‥‥」  
僕のイチモツを先輩が頬張る。  
「あの‥‥無理はしなくても。」  
「いや君が気持ちよければいい、それにここでは痛いことは無い。  
‥‥ンん‥‥ぷはぁ、さてもういいだろう。」  
唾液と愛撫で痛いほどに勃起したそれを先輩は自分の秘部にあてがった。  
「では、入れるぞ‥‥ん!ふ‥‥深く‥‥入ってくる。」  
どんどん、先輩は僕のものを飲み込む、僕は仮想ながら、始めての  
感覚にすっかり翻弄され、声さえもまともに出なかった。  
そして、先輩は僕の股間に、完全に腰を下ろした。  
「‥‥んあ!全部入って‥‥まさか、もう子宮の入り口を‥‥そういう構造なのか‥‥これは!?」  
文字通り捻じ込む形で子宮の入り口に食い込んだ僕のイチモツに、先輩はすこしほうけていたが、  
やがて興奮した表情でまくしたてる。  
「いいぞ!痛いが‥‥すごく深いところまで繋がれて‥‥嬉しい。  
もうほとんど痛みは引いた、体に負担はかからないんだから徹底的にやるぞ!」  
そう言った先輩はぐっと僕を両手で捕まえ、下に敷いたままキスをする、  
ねっとりと体液と体液が交換される間に、  
下では先輩が喰らい尽くす勢いで貪欲に腰を上下に動かし続ける。  
時々左右や前後に動いて、翻弄された僕は情けないうめき声をあげるも  
それもキスで先輩の肺の中に送り込まれるだけ、  
結合部のいやらしい湿った音と、体と体をぶつける卑猥な破裂音、  
キスする合間の鼻息と鼻息だけが、バーチャル世界の中に響く、まるで先輩という  
黒い花蟷螂に、組敷かれた形で喰われる芋虫になったような錯覚さえ覚えるその状況に、  
僕の欲望の決壊は呆気なく訪れた。  
「うぁぁぁあぁ!」  
「んぁ!!」  
そして真っ白になった視界と共に、回線が切断される。  
 
 
ヵチリ、とケーブルを抜く先輩、  
「有難う、わがままを聞いてくれて。」  
「いいえいいんです!先輩と、き‥‥気持ちの確認できて。」  
いまだ気持ちの整理がつかない僕に、先輩は穏やかに答える。  
「気持ちの確認か、私はしつこいぞ、退院したら徹底的に確かめさてもらうからな。」  
唇を舐めてそういう先輩に「なんだか怖いですよ!」と僕は半分本気で戦慄しつつも、  
先ほどよりもはるかに近くなった心の距離に、とてもいい心地よさを感じていた。  
 
 

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