妙子のお仕事 30分版 提供 ぼんくら様 著 管理人
「おいこらねーちゃん。」
今時、スタジャンにピッチリとしたジーンズという一昔前のチンピラみたいな男に妙子は怒鳴りつけられていた。
「あ、あのすみません。すみません」
メガネがズリ落ちそうになるくらい頭を何度も下げて謝罪する。メガネの下にあるボリュームある肉球がバインバインと跳ねてチンピラの鼻の下が思わず伸びる。
信号待ちで買い物袋を見るからにヤ●ザ車に当ててしまい、チンピラが飛び出してきて詰問されているのだ。
「ゴクン」
迫力ある胸に思わず唾を飲みこむ。しかも胸を強調しているのか、元からそういうデザインなのか妙子が着ているメイド服は情欲をそそるのに足りた。
「お・・・おお、いやまぁ・・いいんだ。そ、そうだな・・・・ああ、ううう」
男が躊躇していると、車のサンルーフが機械音を立てて競り下がった。
「おい・・こんなところでも何だ。車に・・」
ドスの聞いた太い声。チンピラも表情が変わる。全面スモーク張りのガラスで中の様子が見えないが、声の質から言って、お腹が収縮する恐怖に襲われる。もちろん妙子は「ん?」という感じで気づかない。
「その、なんだ。傷がな、車に傷がついちまったんだよ」
「ああ、そ、そうでした。まことにもうしわけありませーん」
胸が・・・バインと・・・。
「いいんだ。それはいいんだ。とにかく車の中にな」
「えっと、今、お買い物中ですし・・・・」
「すぐ終わるからよぉ」
流される様に車の中に入ってしまった。これが人間としての妙子が世界からのお別れの扉でした。
「あのぉ? どちらまで・・・」
「黙ってろ」
太い声の主は、痩せた黒スーツでサングラスの男で一見して堅気の人間ではなかった。妙子が何を聞いても「黙ってろ」の一点張り、しまいには黙って座るだけなった。
しょうがないよね。車に傷をつけちゃったから、雅さんに怒られるなぁ・・・・と場違いな後悔をしていた。
車は商業地区からビジネス街へとすすみ、かなり人気の無い場所に有るビルの地下駐車場に下りていった。
丁寧に駐車場の一番奥の区画で車は停車した。
「降りな」
少し怪訝な顔をして妙子は車を後にした。
「お家に何も言ってないんでぇ・・」
妙子が口にしても黒スーツの男は睨みつけて制し、押し黙って男たちの後をついていった。
黒スーツ男、メイド服の妙子、最後にチンピラが続く。前後を固められ逃走を防いでいるが妙子の頭には遅れたことに腹を立てている雅さんの顔だけだった。
奥にあるエレベーターに乗ると、閉塞感が事態の深刻さを妙子は気づいた。
わなわなと膝が振るえて、声が出ない。
「何処に行くんですか?」
搾り出した声は既に震えている。黒スーツの男はやはり、「黙ってろ」それだけだった。
説明できない、納得できない何かをされてしまうのだろうか?
エレベーターは最上階で止まる。ロフトになった空間で、非常階段も無い。エレベーターから数歩で鉄扉の前についてしまう。部屋の中から無事に出られても今度はエレベーターが最上階に止まってないとこの階から降りることも出来ないのだ。
鍵がかかってないのか、ドアノブはあっさり回る。妙子は逃げ場も無いので部屋の中へ連れていかれた。
その、あまりの臭気に両手で鼻と口を覆った。
「んんぅ・・・すごいニオイ・・・」
家中に公衆便所のような臭気が充満していた。
「ひゃひゃ。旦那ぁ。新しい獲物ですかぁ?」
上半身裸、下半身がステテコの痩せた老人が奥のリンビングらしい場所から廊下に三人を招き入れた。
「おい。黙れ」
薄ら笑いを浮かべていた老人は、青い顔になって黙って部屋の奥に消えていった。
その後、脇の洋室に入るとニオイが幾分か楽になったが、コンビニのゴミやポルノ雑誌が散乱していた。妙子は雑誌の表紙に女性の裸に頬を染めて俯いてしまった。
「すまねえな。男所帯なもんで・・・」
黒スーツの男が初めて人間らしい会話した。
「座れや」
テーブルに散乱したゴミを足げにしてどけて妙子を奥のソファーに座らせ、黒スーツの男は向かいのソファーに座った。
「さて、お嬢サン。車の修理代なんだが・・・」
「あの、ほんとうにすいませんでした」 ゴンッ
勢い良く頭を下げてテーブルに額をぶつける。
「アイタタ・・・あの、すいません。すいません」
立ちあがって、両手を脚の間に揃えて背筋を伸ばしてから、何度も頭を下げた。
「お嬢ちゃんは、どっかのお金持ちの家で働いている人なのかい」
「あ、いえ、あの何というか・・・住み込みの家政婦なんです」
「ふーん。お金はあるの」
「あのぉ・・・実は・・・その、まったく・・・・ほんとうにすいません。修理代は必ず払いますから」
「そうかい。じゃぁ・・・ちょっと言いにくんだけど・・・・おい」
呼ぶとチンピラが男に紙切れを一枚持ってきた。
「うわぁ、こんなになったかい・・・こりゃぁ大変だ」
ワザとらしい口調で大げさに驚いて見せる。
「ホラ」
妙子は紙に目を通す。
「これって・・・・あの」
「800万だ。明日までに払ってほしい」
書類には、長々と法律やら何やら難しく書いてあるが、最後に請求額の欄に『800万』と書かれていた。
「払えません・・」
グルグルといろんなものが頭を回っても答えなんて出るわけがなかった。
「そりゃそうだよねぇ。無茶苦茶だこんなもん。お嬢ちゃんもそう思うよねぇ」
「そうですよ、こりゃ酷い」
チンピラもついしょうする。
「・・・・・」
妙子は青くなって書類を見たまま動かない。
「うーん。それじゃ俺の仕事を手伝ってもらえないかなぁ。ホラ、福引ってあるだろ。ああいうの手伝いをしてほしいんだよ。人手が足りなくてさぁ」
「福引ですか? あのぉガラガラ回して、一等とか出るとハワイ旅行ごしょーたいってカランカランってやるやつですよね」
「そーうそうソレソレ」
男がサングラスで表情がわからないが明るくなったので妙子もつられて表情が緩む。
「用意した『道具』が壊れちゃってねぇ。新しい『道具』を大至急用意しなくちゃいけないんだよぉ」
道具という言葉を強調する。
「手伝ってくれたらちょっとした傷だもん。我慢して乗っちゃうよおじさん」
「あの、お願いします」
願っても無い誘いに妙子は頭を下げて懇願した。
「いいのかい? こっちこそ弱みにつけ込むみたいで申し訳無いなぁ」
「いえ、そんあ。悪いのはこちらですし・・・」
「そうかい、じゃぁ。これにちょちょいとサインして貰えるかな。税金関係がうるさくて書類を用意しなくちゃいけないんだよ」
履歴書と契約書を渡されて妙子は読みもしないでサクサクと書いた。
契約書には、殆ど人権を無視した文章が並んでいた。
「終わりました」
「ありがとう。お嬢ちゃん・・・」
何とも言えない複雑な顔をして男は部屋の外に出た。
次の日、桜庭の家に郵便が届いた。雅さんは一晩中、帰らない水無月妙子を心配して一睡もしてなかった。便箋の中身は、退職願と新しい職場に向けて書かれた履歴書が同封されていた。
退職願とワープロに書かれた文と『水無月』の印鑑。それに新しい職場の履歴書。他に何も無い。退職理由も連絡先は元より、手紙一つ無い。
凄く悪い予感がしても、コレだけでは警察は捜査はしないと雅は、その優秀な知能でさっし、妙子が事件に巻き込まれたのを悟った。
解説
強制リクエスト受けシリーズ第2弾でした。
えろは? 今度な?
で、調教、福引と続くデス。