樺恋2

 

 どれくらい時間が経ったのだろう。腕時計すら盗られているし、部屋に時間を知らせる家具など無い。もちろん窓すらないから今何時など樺恋が知る事は出来ないでいる。

 諦めて部屋の壁によりかかっていると、ドアノブの無い扉が開いた。

 

 黒いスーツの男と派手な皮製の窮屈な衣装を身に着けた女だ。

 樺恋にはわからないが、女はボンテージと呼ばれるSMプレイで使われる卑猥な服だった。目のやり場に困った樺恋は頬を染めてうつむいてしまった。

「おいおい。今時随分とウブな娘じゃないか」

「はい」

 女は男に深々と頭を下げた。

 この怪しい男女の二人組みから一方的に宣告された言葉は、樺恋にとって何一つ有益なことはなかった。

 

 調教して売り飛ばされる。

 馬に代表される家畜を教育することだ。少なくとも調教なんて言葉を人間に向けて使うものじゃないことぐらいわかった。

 奴隷市。厳しい訓練。罰。従順。

 これから、厳しい訓練を受けて奴隷として売られる。

 冗談ではないのは嫌でもわかった。

 

「いやぁ。ダメです」

 樺恋は身体を丸めて抵抗しようとしても、女はプロの調教師なんだろう。

 関節を自在に捻り上げ、新しい獲物を後ろ手に縛り上げて転がしてやる。

 スカートのホックを簡単に外し、すべる様に足首から抜き取る。おとなしい柄の下着を指の力だけで引きちぎって捨てておく。

 わけが解らないうちに裸にされて樺恋はベットの上で丸くなるしかなかった。

 女は樺恋の腕を容赦なくねじり上げ、男に向かって胸を突き出させた。

「いたぃ…やめてください」

 女は関節を自在に操って樺恋を無視して立ち上がらせる。

 太股よじりあわせ、背中を少しでも丸めるようにして秘所を隠そうと無駄な抵抗を試みても効果はまったくない。見ず知らずの男に、素肌を見せるのは、内気な樺恋は気が遠くなるくらい恥ずかしかった。

 女は足元にあった麻縄を使って樺恋の腕を縛り上げる。

 まず、後ろ手に交差した腕を幾重にも縛り上げて、最初に両腕の自由を奪った。

 それから、小さい胸を強調するように胸を引き絞った。

「いやぁ…」

 自分でもびっくりするくらい大きな声を出した。

 女の動きは一切の容赦なく続いたし、男のほうは、事務的に樺恋の身体を見ていた。家畜や家具と同じ、哀れな少女の人権など考える様子はなかった。

 上半身を息が詰まるくらいきつく縛り上げられ、女は最後にほとんど無い胸の谷間に麻縄を通して一つにまとめ上げられた腕と結んだ。

 樺恋はうつむくことすら出来ないで胸を張った状態でベットに仰向けで転がされた。

 柔らかい髪の毛をつかんで頭を上げさせてから、ボールギャグという開口具を無理やり咥えさせた。SMで使うようなプラスチックの玩具ではなく、ゴム製の本物の拷問具。口の中から顎を固定させ声すら出せなくなる代物だ。

 穴だらけのゴムから延びた鋼線入りの皮ベルトをセミロングの髪を持ち上げて後頭部でしっかり止めてやる。

「んんんんっふぅぅん」

 うなり声しか出せない。

「これから奴隷として調教されるの。・・・ここへ連れてこられたらもう二度と普通の生活には戻れないし、戻ろうとも思わなくなるわ。最初にあきらめることを覚えなさい。そして肉奴隷にしろ性奴隷にしろ、玩具奴隷や家具奴隷になっても、奴隷としての歓びもあるんだからしっかり勉強なさい」

 女は樺恋を慰めたつもりだった。かつての自分と比べたのかもしれない。もっとも樺恋にとって何の慰めにもなっていない。

 女の手にごつい黒い首輪があった。

 鋼線入りで、女の手で持てばずっしりと重く、砂袋のような感じだった。樺恋も最初、それが何かを理解できなかった。おそるおそる目で追うと、ネックレスのように首から回して、三本の細いベルトを止めるとしっかりと固定して装着した。

 女は最後に樺恋の首輪に鎖を繋げた。

 自由を奪われた樺恋の首から伸びた鎖を引っ張って立ち上がるように命令する。

 よたよたと鎖につながれながら裸のまま引き歩かされた。

 下半身を覆うものを無く、足元には無残に引きちぎられた衣類が落ちている。嫌でも自分だけが裸でいるのがわかったが、恥ずかしいと思う前に恐怖で考える余裕すらない。

 立ち上がれば、小さな含まりを麻縄で強調され、絞られた胸はコンプレックスを感じるぐらい小さい樺恋の胸を若干だが大きく見せていた。その胸に涎が一筋落ちた。開口具によって強制的に顎を固定させられている樺恋の口は、閉じることがなく、立たされた拍子にたまった涎が落ちたのだ。

 素肌に落ちた水滴が身体を舐めて蒸発して、ゾクゾクと肌を刺激する。

 男女は樺恋が立ち上がるのを確認してさっさと背中を向けた。商品に欲情を覚えるわけでもなく、肉体にはまるで興味が無いようだ。

 開口具と麻縄でギチギチ固定されているので、満足に歩くことも出来ない。

 いくら、背中を向けたからといって全裸で歩くのは抵抗があった。

 細い腰ラインをまるめて、少しでも股間の茂みを見せないようにヨタヨタとついて歩く、くびれた胴に細い腰、女らしい体つきだが、成長が遅いのか、全体的に贅肉がすくなく、細すぎた。ふとももぜんぜん細いし、股間の茂みも薄く可憐の身体はまだまだ未発達だった。

 それが、よけいに貧弱な身体を見られるのを恥ずかしく感じさせていた。

 

 歩きながら樺恋はこれからのことを少し考えた。

 奴隷調教…。

 たしかにそう説明された。

 自分は誘拐された。

だが、捨て子である自分を心配してくれる人が世の中にいるのかを考えると絶望的になった。

今まで、面倒を見てくれた叔父は事業を失敗して、私の生活まで見ることができなくなった。もともと、血のつながりは無い。今までのことを考えれば感謝する気持ちの方が大きい、恨む気にはなれなかった。

肉親。兄弟。

わたしにはお兄ちゃんかおとうとの人がいる…。

だから、ココに来てこうなった。

自分の人生について考えてみた。

あの写真の男の子に会いたい…。

 

樺恋は絶望の中にわずかな希望にすがっていた。

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