「やだ」 「はぁ?」 「疲れてるし、寝る」 「お前」 「善徳も疲れてるやん…寝る」 (…ホンマに寝たか) 密着した身体を少しのけぞって表情を確かめる。 閉じられた瞼に添えられた長い睫を軽く唇で撫でるとしびれかけた腕を外してベッドをすり抜けた。 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して口に含むと、冷たすぎる感触が指先にも伝わる。 普段冷たい指先が人並み程度の熱を持って、その感覚に不思議と笑みが浮かんだ。 (体温高いなコイツ) 窓の外を眺めると猫の爪のような月が霞んでいて。 しばらくそれをぼうっと見つめているとベッドの影が動いた。 飲みかけのペットボトルを冷蔵庫へ戻し、足音を立てずベッドへ近づく。 「…んん」 拓磨はゆうるりと寝返りを打ち、布団を肩まですっぽりとかけ直すとまたすぅすぅと呼吸をはじめる。 ベッドの中に舞い戻ると、先程の寝返りで自分に背を向けた拓磨を後ろから抱え、二人を包むには小さな布団を かけ直す。 「…よしの…り」 寝言のようにくぐもった声が静かな部屋に響いて。 願わくば、疲れきって瞼を閉じ見る夢に映るのは自分だけでありたいと、 そう思った。 「寝言、言うてたで」 「なんて?」 「善徳ーって」 「言うてないし」 「言うてた言うてた」 眠気覚ましにシャワーを浴びて黒髪から水を滴らせる善徳がニヤニヤしながら近寄ってくる。 バスルームから出てきた音で目が覚めた俺はうとうとしながら善徳が差し出した飲みかけのペットボトルに手を 伸ばす。 (あ、コンタクトしてないんや) 不機嫌な時みたいに目をしかめて、でも機嫌は悪くなさそうで。 「メガネは?」 「してた方がええか?」 「どっちでも」 体制を起こした自分の後に善徳も腰を下ろしてきて、ふいに視界に入ってきた腕に抱かれた。 「善徳、髪つめたい」 ふぅ、と息を吐いて身を預けると、呼応するかのように首筋に水滴と唇が落ちてきて身を捩る。 指がシャツの下から胸に滑って、ひんやりとした感覚に焦ってその腕を掴んで。 「善徳」 「昨日やらしてくれんかったし」 「やることしか頭にないん」 「拓磨はない?」 「…ないこともないけど」 深く唇をあわせると頭がぼうっとして、寝起きの顔のままだし髪もぐしゃぐしゃだなぁなんて考えながら骨ばった背中に腕を回して。 せめて忙しなく回るコイツのスケジュールの中のたった数時間でもいい、今だけは思考すべてが自分だけでありたいと、 そう思った。