視点の定まりきらないまま、キスをした。 触れるだけ、だったけど。 行為の前置きとしては十分だった。 善徳が欲しかった。 「んっ…ぁ」 「拓…磨、」 寂しかっただけだから。 善徳なら抱いてくれるって思ったから。 そう、ごまかして。 ああ。 そんな瞳をさせたいわけじゃないのに。 きっと。 もう耐えられないくらいに指先まで全てが善徳を欲しがってる。 でも。 善徳はまだ誰かを忘れていなくて。 ふとした瞬間の視線の先だったり、埃のかぶった合い鍵だったり。 それに気づいてしまう自分も嫌なんだけど。 もっと自分のことだけ考えて人を愛せれば、こんなに苦しくなんてないのに。 善徳の胸の奥を支配している誰かが居る限り、きっと、つらいままで。 そんな気持ちもごまかして笑っていることなんて出来ないんだ。 矛盾した感情の上に矛盾した行為を重ねて。 いつか善徳に感情の糸が絡まって動けなくなって助けを求めてくれるのを待ってる。