僕の心は雨のち晴れ。
ザァアア…
冬の足音が聞こえてくる、木枯らしが吹き荒れる11月。
まるで止む事を知らないような、そんな雨の日。
僕は、薄暗い路地裏に一人佇んでいた。
何も考えずに、澱んだ空を見上げる。
そして、激しく僕の顔を打ち付ける雨。
その雨は、負けてはならない裁判でボロ負けした僕への戒めのようだ。
「あぁ、このまま…僕の涙も一緒に洗い流して…。」
顔に似合わず臭い台詞で何を語っているんだろう。
自嘲交じりの溜息が出た。
暫くしてその雨が、僕の所だけ止んだ。
「…よぉ、コネコちゃん。雨に打たれながら浸ってるのも乙だが…風邪、ひいちまうぜ?」
サッと傘を僕に差し出してくれたのは…ゴドー検事だった。
「あっ…ゴドーさん…」
「…まぁ、理由は兎も角。俺のウチはすぐそこだ。付いて来な。」
返事を言う間もなく、ゴドー検事は僕の手を半ば強引な形で引っ張り、
そのまま引き摺られるように彼の自宅へと向かった。
少し歩いた所で高く聳え立つ、高級そうなマンションに着いた。
「俺の部屋は最上階だ。結構眺め、イイぜ?」
「こんな高級なマンションに住んでたんですね…羨ましい限りです。」
「コネコちゃんも検事の資格、取ってみるか?」
「ハハ…遠慮しておきますよ…」
他愛もない談笑を交えつつもゴドー検事は、
雨に濡れて冷えた僕の身体をぎゅっと抱き寄せて、エレベーターを待つ。
チン、とエレベーターのドアが開いた。
すぐにエレベーターに乗り、最上階のボタンを押した。
ゆっくりとドアが閉まる。
1階、2階…と静かにエレベーターは上がって行く。
エレベーターの中での沈黙が、やけに長く感じた、
その時だった。
ゴッゴゴゴォオッ……ゴウン!
「!!…地震!?」
強い揺れと共に、エレベーターは止まり、電気も消える。
しかし数秒後には、辛うじて非常用のライトが点灯した。
「じ、地震でしたよね?…久々にこんな激しい揺れ体験しましたよ。」
「ワイヤーが切れて落ちなかっただけマシ、だな。」
「セキュリティー先に連絡してみましょうか。」
僕は非常用ボタンを押してはみたものの、いくら待てども何の反応も無かった。
「…あれ!?どうして繋がらないんだろう…このまま閉じ込められたままだったら…」
「慌てるな、まるほどう。多分、通信機器の中の電気回路が揺れでイカれちまったんだろう。そのうち救助は来るさ。」
「そうだと…良いんですけど…。」
「ま、気長に待ってようぜ。」
「は…はぁ。」
暫く沈黙が続いてしまった。
―――ゴドーさんとは何だか話し難いんだよな…何を話題に持ってくれば良いかわかんないよ。
…って、停電したからエレベーターの暖房も切れて、メチャクチャ寒くなってきたよ…うぅ…。
隅っこでカタカタ震える僕に大胆にもゴドーさんは僕の濡れた服を脱がし始めた。
「ごっ、ゴドーさん!いきなり何するんですかッ!」
「そのまま濡れた服着てたら体温奪われるだけ、だぜ?」
「そりゃそうですけど…」
「アンタ、このままじゃ本当に風邪引いちまうぜ。…ほらよ。」
「わっ!」
ゴドーさんは、自分が着ていたコートを頭からすっぽり僕に羽織らせた。
「そのコート着ていれば、下を脱いでもバレねぇぜ。」
そう言って、意地悪そうな表情で僕を見る。
「えー!嫌ですよ。それじゃあ変質者みたいじゃ…ッ!」
嫌がる僕を尻目に、ゴドーさんは再び僕の服を脱がす。
「ちょ、ゴドーさん!下は本当にいいですって…」
僕がゴドーさんを押し退けようとしても、ゴドーさんはビクともしない。
「ここには俺とアンタの二人きりしかいねぇんだ。…恥ずかしがる事、ねぇだろ?」
「ややや、やめて下さい〜〜〜!ここは二人きりですけど!誰かが助けに来るかもでしょう!?」
「クックック、俺は別に見られる方が萌えるんだけどな。」
「何ワケわかんない事言ってるんですかー!」
「年上の言う事には素直に従うもんだぜ。」
「───!!」
狭いエレベーターの中でねじ伏せられ、ゴドーさんは僕の両腕をネクタイで後ろ手に縛り付けた。
「もう!解りました!ズボンも脱ぎますから…ネクタイで縛るのだけはやめて下さい〜!」
慌てて体制を立て直そうとすると、ゴドーさんの顔が僕の下半身に忍び寄る。
「な…何するんですか…」
ゴドーさんは、僕のズボンのファスナーを口に咥えてゆっくりと下ろし始めた。
ファスナーを下ろしながらもカチャカチャとベルトまで外し始める。
「ちょっと、ゴドーさんッ!ファスナー下ろすならもっと普通に下ろしてくださいよッ!」
「男なら、ちょっとやそっとの事でうろたえるもんじゃねぇ。事の流れに身を任せていろ。」
「・・・・・・。」
暫く僕は、ゴドーさんに言われた通り事の流れに身を任せていた。
ところがゴドーさんの行為は常識を逸脱し始める。
僕のズボンを下ろすだけかと思っていたら、下着まで剥ぎ取っていった。
そして、僕の一番敏感な部分が露になる。
「――下着は勘弁して下さいよ!」
「へぇ…綺麗な色、してんじゃねぇか。とても発情期真っ盛りの20代のモノとは思えねェ。」
「しょうがないでしょう!僕はまだ…あッ…。」
―――しまった、余計な事を口走ってしまった…。
「ほぅ…以外や以外、だな。」
ゴドーさんは目を細め、僕の頭から足先まで嘗めるように見る。
そして、ゆっくりと僕の唇に口付けを落とす。
「な…に…するんですか…?」
「このまま美味しそうな初物を、俺が黙って見てると思うか?」
「は、初物って!」
身動きが取れない僕の後ろにゴドーさんは、覆い被さるように座り込み、そのままコートからはだけた僕の胸元を、後ろから愛撫し始めた。
「ちょ、ゴドーさん…このままじゃいつか救助の人達が来ちゃいますよ…」
「まぁ、見られたら見られたでいいんじゃねぇの?俺は別に構わねぇさ。」
「僕が嫌なんですよ!!恥ずかしいじゃないですか!男同士でッ!」
「今時珍しくねぇだろ?ホモなんて。」
「そういう問題じゃないでしょ…」
僕が嫌がるのをまるで楽しんでいるかのように、ゴドーさんは己の欲望のまま僕を弄ぶ。
ゴドーさんの舌で耳を愛撫される度、僕の身体はピクリと跳ね上がってしまう。
「ほ…ホントに止め…ましょ…」
「本当に止めて欲しいなら、もっと抵抗してみろよ。それに、今更止められねぇ…こんなに興奮するのは何年振りだろうな。
神経やっちまってから勃った事、無ぇんだ。―――まるほどう…俺のここ、見てみろ。」
「あ…」
ゴドーさんに言われるがまま、股間の辺りを見ると、ズボンの上からでもはっきりとゴドーさんのそれが主張しているのがわかる。
「なぁ、まるほどう…俺のこと、嫌か?」
「―――嫌だったら、本気で抵抗してますよ。というか、もう諦めました。」
「どうしてだい?」
「…恥ずかしいけど、ゴドーさんみたいな男前に迫られたら…男の僕でさえ嫌だなんて言えませんよ。」
「嬉しいもんだなぁ、まるほどうに男前なんて言われると。」
「成歩堂です!!」
再びゴドーさんと向き合って、唇を重ねる。
寒さの為か、乾燥気味な互いの唇。そんな唇を潤すかのごとく、僕達は何度も何度も口付ける。
高まる気持ちで、いつの間にか寒さなんて忘れかけていた。
「ゴド…さ…ん…僕、もう…」
「何だ、もうイっちまいそうなのかい?」
「だって…何もかもが初めての感覚で…それにゴドーさんってば上手いから…」
「フゥ、女に言われるよりもグッっとくる台詞だぜ。」
エレベーターの中という事を忘れて、僕たちは激しく抱き合った。
あぁ、こんなにもヒトの温もりって…温かかったんだ…。
ゴドーさんの腕の中で、暫く僕は余韻に浸っていた。
それから1時間後。
マンション付近を巡回していた救助隊の人達が、エレベーターに閉じ込められた僕たちを発見してくれた。
幸いにもエレベーター停止から割とすぐだったので、僕たちは無事だったが念の為、近所の診療所で診てもらった。
僕の体は雨に打たれ過ぎた為に体温が低くなっている状態で、このままだとタチの悪い風邪を引くといわれ、暫く診療所のベッドで休むことになった。
ゴドーさんはそんな僕を心配してか、そのまま付き添ってくれた。
「…なぁ、まるほどう。」
ベッドの横に、ゴドーさんが腰掛ける。
「何ですか?」
「今日の法廷で、ボロ負けしたんだってな。」
「ぐッ…!」
あまりの切なさに僕はちょっと涙目になってしまった。
「実はそのことで話があるんだ。」
「え…?」
「さっきオレの携帯に検察庁から連絡が来た。お前とやり合った検事が連れてきた、証人の証言に偽りがあったらしい。」
「え、それじゃあ今日の裁判は…」
「そう、被告人申し立ての元、再審になるとみていいだろう。」
ゴドーさんはニヤっと含み笑いしながら答える。
「良かった、やっぱり僕の依頼人は無実だったんだ…。」
ふと病室の窓の外を眺めると、いつしか土砂降りだった雨も上がっていて、夕日に照らされた町並みはオレンジ一色に染まっていた。
「夕日に照らされた町並みって…こんなにも綺麗だったんですね…さっきの地震の影響も無いようで良かった…。」
「オレは成歩堂のアレの方が綺麗だったと思うがな。」
「ギャー!ヘンなこと言わないで下さいッ!」
「クッ、…これでまるほどうの心も漸く雨上がりだ、な。」
ゴドーさんの大きな掌が、僕の頭を優しく撫でる。
「…そうですね。」
僕たちは暫く、余韻に浸りながら綺麗な町並みを見下ろしていた。
<了>
あとがき
な、長かった!(執筆期間が)
調べてみると、このファイルの作成日時が2004年12月7日になってるんだもん!
ほぼ1年じゃねえか!(笑)
しかも、相変らず意味不明な記述もあるし。
まぁ、そこは個々の妄想力でカヴァーして下さい。(他力本願)
気が付いたら2周年過ぎてたんで…これがじゃあ、2周年記念小説ってコトで…切腹ゥ!
(2005/11/11)