僕の中で生きる。
オレが…あの時見た幻影は確かに千尋だった。
表面的にはお前のことを吹っ切ったつもりでいたが
…やはり、心の奥底ではまだ…諦め切れていないとでも言うのか?
クッ…オレも随分と湿っぽくなったもんだぜ。
――――なぁ、千尋。
綾里舞子殺害容疑で有罪判決を受けたゴドー検事は、裁判長の情状酌量の
余地もあると言う計らいの下、6ヶ月の懲役となった。
あの事件から8ヶ月ほど経っただろうか。
僕は、ゴドー検事が出所したとの噂を耳にした。
…気にならないと言えば嘘になるが…今更僕が会いに行っても何も話すことなんてないから――。
それに、僕も弁護士生活4年目に突入して、事務所も段々と依頼人が来るようになった。
だから、今は自分のことで精一杯なんだ。
気が付くと夜の11時過ぎ。
事務所のデスクで、資料を読んでいるとインターホンが鳴った。
「?こんな時間に誰だろう。」
一体誰だろうと思ってドアを開ける。
すると…目の前に薄暗い中妖しく赤く光る3本線が入ったゴーグルが飛び込んできた。
「よォ、久方ぶりだな、まるほどう。」
「ごっ、ごっ、ゴドー検事!」
「おいおい子猫ちゃん。オレはもう検事でもゴドーでもねぇ。神乃木荘龍、だぜ。」
「…僕だってまるほどうじゃありませんってば!」
深夜の思い掛けない人の来訪に、僕の鼓動は早まっていった。
会いたかったような、会いたくないような…。
「立ち話も何なんで、中に入って下さい。」
「じゃ、失礼するぜ。」
彼の名はゴドー…じゃなくて、神乃木荘龍。
昔、千尋さんの先輩弁護士だったと言う。
星影事務所切ってのナンバーワン弁護士だったのに、ある事件で彼は深い深い奈落の底へと突き落とされた。
そして、神乃木さんが奇跡的に目覚めた時には…既に千尋さんは居なくなっていた。
―――彼にとって、千尋さんは何よりも掛け替えのない存在だった。
それなのに…さらに綾里家を巻き込んだあんな悲しい事件が起こってしまった。
僕がもっと早くに気付いていれば…最悪の結果だけは免れたかもしれなかったのに…。
今頃後悔したって、どうにもならないことくらい解ってるけど。
でも、これらの事件に関しては、僕が全て決着をつけたんだ。もうこれ以上、深く考えるのは止めよう。
「あ、そうだ…今、お茶でも煎れてきますね。」
僕がソファーから立ち上がった瞬間、神乃木さんが僕の腕を掴んで引き寄せた。
「な、何するんですか!」
「オレはお茶よりもコーヒーの方が嬉しいぜ。…まぁ、もっとも自分でいつも持ち歩いているけどな。」
そう言って、神乃木さんは自分の鞄の中からコーヒーの入ったシルバーの水筒を取り出した。
「アンタもどうだい?オレのブレンド、とびきり美味いぜ?」
「じゃあお言葉に甘えて…。―――あッ、これ貴方との最初の法廷で奢って貰ったのと同じ味がする…。」
「そう、ゴドーブレンド102号だ。懐かしいだろ。」
「えぇ…懐かしくもあり、苦くもある味ですよ。」
「……そう言えば千尋がこの事務所の所長だったんだよな。」
「――――――えぇ。千尋さんの後を継ぐような形で僕が今…」
僕はふと、彼と千尋さんとの関係を思い描いてみた。
きっと、傍目からは美男美女のカップルだったんだろうな、と。
神乃木さんと千尋さんの関係については、真宵ちゃんから少しは聞いていた。
しかし、羨ましく思いながらも…僕の心のどこかが、チクリと痛む。
何で?
どうして?
僕はもしかして…嫉妬しているとでも言うのか?
ならば…一体、誰に?
暫くカップの中のコーヒーを、険しい顔で睨み付けていた成歩堂に気がついたのか、
神乃木は成歩堂の顔を覗き込む。
「…成歩堂?オイ、大丈夫か?」
「へ?…あ、すみません。ちょっと考え事を…。」
「――――千尋の事だったら、その…申し訳なかったな。当たったりして。」
「え!?いや…そういう事じゃないんで。その…」
顔から火が出るくらい僕の顔は紅潮していたと思う。でも、幸いなことに彼の世界には赤は存在しない。
最新鋭のあのマスクを持ってしてでも赤いものは全て見えないという。
それなら僕の気持ち、感づかれてはいないだろう…。
そういえば…一度だけ、僕は神乃木さんがマスクを取った所を拝見したことがあった。
あの綾里舞子殺人容疑での法廷後だ。彼が負った傷口からの出血がなかなか止まらず、
マスクの圧迫の所為で悪化する恐れがあったからだ。
マスクを取った彼の顔は…男の僕が見ても惚れ惚れするような凛とした、
どこかオーラを感じる顔だった。そして、彼は最後、僕にこう言った。
「アンタは確かに千尋の後継者だよ。お前と千尋が…重なって見えたぜ。
アイツの信念は…アンタにもちゃんと受け継がれていたんだな。
――――じゃ、行って来る。またいつか会おうぜ……。」
そして彼はイトノコ刑事に手錠をはめられ、法廷係官と共に法廷を去って行った。
僕は多分…この人に惚れている。
彼もまた、きっと僕のこと…好きなんだと思う。
―――自惚れって訳じゃない、彼は僕の中に在る千尋さんの記憶に興味があるだけなんだと思う。
これで解った。
さっきの心の痛みは千尋さんに嫉妬していたからだ。
千尋さん、ごめんね。
でも、今度は僕が千尋さんの代わりに彼を――――支えていくから。
「…千尋の後継者が、アンタで良かったよ。
もし、他の奴だったら…今頃オレはまだゴドーという名前の検事だっただろうぜ。」
「そんなこと、ないですよ。ここまでこれたのも、全部千尋さんや真宵ちゃんのおかげなんですから。」
「クッ、そういう控えめな所がアンタのイイ所だぜ。」
暫く僕達は他愛もない話をしていた。
彼の声のトーンはこのコーヒーのように渋みがあり、耳に響く。
「そう言えば…今日はどうして此処へ?何か用事があって来たんじゃ…?」
僕の言葉に、彼の表情は一瞬曇った。
神乃木さんは、少し間を置いて僕に語り始めた。
「用事…そうだな。―――実は、ここに来る前に千尋の墓に行って来た。」
「千尋さんの…墓?」
「千尋に伝えたいことがあってな。先日出所して…オレ自身の過去にけじめを付けて来たって、
そう伝えたんだ。…だが、まだ心のどこか片隅で千尋への未練が捨てきれねぇでいるのさ。
未練タラタラなヘタレな男だ。―――だから、オレは千尋のことを吹っ切る為にここへ来た。
悪かったな、突然。」
ふぅ、と溜め息交じりで語る神乃木さんを僕は、気がつくと抱きしめていた。
「!?成歩堂…?」
「少し…このままでいて下さい。貴方は見掛けに寄らず、繊細な人だったんですね…。
―――そんなに、自分を追い込まないで下さい…見てるととても悲しくなるんです。
もっと自分を…大切にして下さい。神乃木さんが悪い訳じゃないんですから。」
「………。」
神乃木さんと抱き合う僕の腕に、ぽたりと雫が零れ落ちてきた。それは…彼の流した涙だった―――。
「神乃木…さん?」
「何年振りだろうか…人の温もりを感じたのは。人と触れ合うってのはこうも、
温かくなるものだったんだな……。これじゃ、千尋のことを忘れたくても忘れられなくなるぜ。」
止まる事を知らない彼の涙を、僕は優しく受け止めた。
「全てを忘れるなんてできませんよ。…それに、忘れたらきっと千尋さん怒りますよ。
貴方の記憶の中で千尋さんは…懸命に生きているんですから。
だから…せめて現世では僕が、貴方の支えになってあげたいんです。
それくらい、いいですよね――?」
「成歩堂……アンタ、やっぱり千尋と重なるわけだ。」
「…え?どういうことですか…?」
「あの時…オレが法廷を去る時、アンタに言った言葉覚えてるか?」
「確か…千尋さんと僕が重なって見えたって…」
「そう、オレはあの最後の瞬間…千尋の幻影が見えたんだ。
口調から仕草まで全てがアンタと重なったんだ。過去の千尋がフラッシュバックしたかと思った。
さっきアンタに言われた通り…確かに千尋は生きている、オレの記憶の中以外にもな。
―――それは…アンタ自身さ。姿形は違えども、千尋の信念はアンタの中でちゃんと生き続けている。
そしてアンタはたった今、何もかも千尋を超えてしまった―――最高だ、成歩堂…。」
「神乃木さん…」
ふっと神乃木さんの顔が近づく。そして彼は僕の顎を少し持ち上げて…ゆっくりと深い口付けを落とした。
「ん……。」
息が続かずに思わず吐息が漏れる。歯列を割り、舌と舌を絡め合う。
彼の口付けが妙に巧くて僕の意識は飛びそうになっていた。
やがて、彼の愛撫は首筋から胸元へと行き…気がつくとシャツのボタンを全て外されていた。
「――わっ…なんか恥ずかしいな…。」
「クッ、今更恥ずかしいことなんか無いだろ。男同士だしな。」
「男同士でも恥ずかしいのは恥ずかしいですよッ!」
「じゃあ、オレも脱げば良いのか?」
神乃木さんは着ていたシャツを勢いよく脱ぎ始めた。
日焼けした肌に弾力のある胸板…惚れ惚れするほど、見事に引き締まっていた。
「どうだい、これで。」
「ますます恥ずかしくなりましたよ…僕、自信無くなりそう…」
肌の色だって白い方なのに。
そこまで逞しい身体見せられたら僕は…どうすればいいんだろう。
もう少し、鍛えておけば良かったのかな。
「プッ…。俯きながらブツブツ言う姿、なかなか可愛いぜ。」
「か、可愛いって…そんなトシじゃないですよ、もう。」
「クッ…アンタと居ると退屈しねーな。じゃ、続きやろうぜ。」
「ちょっと…わッ!」
半ば強引にソファーに押し倒された形で僕らは、じゃれ合っていた。
僕も、久々の行為だったので…神乃木さんには何度も達せられてしまっていた。
それにしても神乃木さん…貴方、相当なヤリ手ですね。そしてタフ過ぎますね。
さぞかし千尋さんも困ったんだろうな。(苦笑)
―――冗談はさて置き、神乃木さんはまた弁護士の仕事に戻ると言う話をしていた。
彼なら、大丈夫だろう。僕もできるだけサポートしていこうと思う。
あれ以来、彼は千尋さんの話をしなくなった。彼なりに気持ちの整理ができたみたいだ。
これからは、成歩堂龍一としての弁護の信念を貫いて生きていこうと思っている。
<了>
あとがき
え?メッチャ中途半端ですYO!…何か書いてて自分でもわかんなくなっちゃった。
日記と言うことでHシーンは割愛。(本当は早く終わらせたかったと言え)
日記で書くとダメね、推敲がメンドイよ。この前なんて書いたっけ〜?状態に。
この話、見なかったことにして下さい。っつーか、ゴドナル難しいんですが。(滝汗)
次のゴドナルでリベンジしますわ。次はあるんだろうか…小説侮る無かれ…。_| ̄|○||| スンマセンした。