カチカチカチ。
カチャリ。
「はぁー、」
とけい
「何してるんですか?」
背後の声に思わずビクリと肩を揺らした。
土方らしくもない。
「何だ。お前かよ」
「何だって失礼ですねーっ」
振りかえると頬を膨らませる沖田がそこにいた。
自室で何やら閉じ籠ってこそこそしている副長のニオイをかぎつけて、からかってやろうと思ってきたのだ。
「また、例の俳句ですか?」
「ちげーよっ」
沖田の笑いを含んだ声に何時ものように怒鳴る。
「じゃ、何隠してるんですかぁ。見せて下さいよー」
ずいっと肩越しに土方の手元を覗く。
手には真鍮の丸い物体。
金色にキラキラ鈍く光っている。
「何ですか、其れ」
「これか?…まぁ当ててみろよ」
ちょっと照れ臭そうに鼻を擦った土方。
「中になんか入ってそうですよね。裁縫道具とか?」
「ばーか。俺が裁縫なんてやるか」
「じゃあなんなんですかぁ、」
馬鹿よばわりされて沖田は唇を尖らせている。
しょうがねーなぁと言いながらも嬉しそうにその真鍮の物体を沖田の前に見せてやる。
パカリと開いたそれは。
「時計だ」
カチカチと音をたてながら動いている。
「時計?あの時刻が判る機械ですか」
「そうだ」
自慢げに笑う土方。
「凄い。私初めて見ましたよ!こんなに小さいもの。」
「なんでも西洋のものらしい。大阪に行った時見付けてよ。で、つい買っちまったんだ。」
「へー。土方さんも結構新しいもの好きなんですね」
「うるせーよ」
「でもそれ何に使うんですか?」
「ぐっ…」
確かに。
高い金を出した割に使い道を考えていなかった。
ついこの時計というものに魅せられて、フラフラと買ってしまったのだ。
首に掛けて持ち歩ける、なんとなくそれが格好良く思えて。
「ねぇ土方さん。それ山南さんに見せてあげたら喜ぶんじゃない?」
「山南に?」
「あの人ああ見えて珍しい物とか大好きみたいだし。土方さんと案外似てますよね」
「あ?」
「ミーハー」
「おい!!コラッ待て総司っっ」
云うが早いか沖田は土方を置いて部屋を出て行ってしまった。
くそ。
逃げ足の速い奴。
山南は新しい物が好き。
そんな事は知ってる。
だって。
彼が云っていたのだ。
「土方さん。これからの組織をまとめる人間は時間を正確に把握出来ないと駄目ですよ」と。
いつもの様に微笑みを浮かべて。
どうせ何かの本で目にしたんだろう。
懐中時計が欲しい、とうわ言の様に呟いていた姿を思い出す。
今まさに、自分の手元にある小さな時計の金の鎖を首にかけた。
さあ、彼に見せに行こう。
きっと羨ましがるに決まってる。
あの細長い首を伸ばしながら俺の手を覗きこむのだ。
「どれどれ」などと云いながら、
目を輝かせて。
end
「燃えよ剣」の土方さんが時計を嬉しそうに見ていたのを思い出して。
別に恋仲ではないけれど、何故か山南さんの言葉を気にする土方さんの話でした。