「あれぇ?」
山南が八木邸の廊下をしずしずと歩いていると沖田が後ろから声をかけてきた。
「…?」
振り返ると彼はその長身の体をちょっとだけ曲げて山南の下半身のある部分に視線をやっている。
「山南さん、怪我してるじゃないですか!」
バッと袴のおしり辺りをいきなり掴まれる。
「怪我…?そんなのした覚えは…」
「でも血、出てますよ!」
「血…?…!!」
袴に赤黒い染みが付いているのを見るやいなや、山南はサッと顔色が変わる。
「こ、コレは何でもないです!」
そう叫ぶと、裾を摘んでいる沖田の手を振り払って逃げるように去って行った。
取り残された沖田は山南の変な様子に首を捻って息を吐いた。
Man & Woman
「ね、怪しいと思わない?山南さん」
「確かに怪しいですけど…」
「あの慌てようからして絶対、アレだよ、ア・レ!」
「あれ?」
だからぁ、と藤堂に近付いてコソコソと耳打ちする。
「…お、沖田さん?!」
「ね、絶対そうだって」
「そ、そんな…だって山南さんは男ですよ?!」
「そうだよ」
「そうだよって、」
「平助、でも考えてもみて」
「え?」
「おひでちゃんのことだって最初はみんな男だと思ってたんだ。最初に男だって言われりゃ
誰も疑うことなんてないし、案外みんな気付かないもんなんだって」
「…そうなんでしょうか」
「そうに決まってる!山南さんって綺麗だし声高いし、なぁんか妙にイイ匂いするし…
それに、剣は強いけどあの人結構力弱いじゃん、」
「確かに云われてみれば…山南さんって私たちの前で脱いだりしないですよね・・・
お風呂も一緒に入ったことないかも」
「でしょでしょ?!」
沖田が嬉しそうに両手で藤堂の肩を揺すっていると。
「なになにー何かあったのー」
ヘラヘラした声が後ろから降ってきた。
「左之助さん、」
「お前ら楽しそうだな。俺も混ぜてくれよー」
「え〜別に楽しかないですけど、ちょっとねえ?平助」
「え…はい」
意味深な答えかたをする沖田。
「なんなんんだよー」
「知りたいですか、」
「知りたい知りたい!」
「じつはぁ…」
ごにょごにょ。
ごにょごにょ。
「…ね、そうだと思いません?」
「山南ちゃんが〜?」
うーんと考え込む左之助なんてはたから見ればかなりめずらしい光景である。
「でも試衛館の時とかよぉ、ずっと一緒に寝起きしてたんだぜ?普通わかるだろ」
彼にしてはめずらしくまともな事を言う。
「じゃあ左之助さん、山南さんの裸見たことあります?」
「そりゃあるんじゃねえの…、」
ん?
と大きな目をぎょろりと動かして。
「いや!」
そして目を丸くしてぽんっと手を叩いた。
「ないない!うわ〜マジかよ、そういや怪しいな、そりゃ!」
「平助も私も考えてみたら、山南さんの裸って見たことないんですよ。これだけ一緒にいるのに一度も
見たことないって逆におかしいでしょ」
「だよなぁ。何か見られたくねえ事情でもあるとしか思え…」
「何を昼間から騒いでるんだ」
「永倉さん!」
ハッキリとよく通る声の持ち主は半ば怪訝な表情で廊下に立っていた。
「またいらぬ悪戯でも考えてたんだろう、」
「違いますよ〜」
もう、酷いなあと沖田は頬を膨らまして反論するが、確かにこの三人組が集まっていれば
くだらない悪さを企んでいるとしか思えない。
「じゃあこんなところでいったい何をコソコソして話してるんだ」
「まあまあ。新八っちゃんちょっと聞いてくれよ」
突っ立つ永倉の袖を引っ張って無理矢理座らせる。
「お前さ、山南さんの裸見たことある?」
「!?」
「…あります?」
「な、何の話だ…!」
「いいから答えて下さいよ」
「私は山南さんの裸なんて…興味ない!」
永倉が珍しく目を泳がしてしどろもどろ受け答えするのを見て、思わず三人は笑った。
「ちょっとちょっとぉ。別にそんなこと聞いてないって〜」
「山南さんの裸を今までに見たことあるかって聞いてるんですよ〜?ねえ、平助」
「そうですよ。永倉さん」
平助にまで笑われるなんてちょっと悲しい、と永倉は思いつつじゃあ何なんだ?と疑問に思う。
「…見たことはないが、それがいったいどうしたっていうんだ、」
「新八っちゃん、耳かして!」
原田に言われるがまま耳をかす。
ごにょごにょ。
「っつーわけなんだよ」
「…まさか!!」
「そのまさか、」
「山南さんが女だなんて…」
「有り得なくはないでしょ、」
永倉は確かに否定出来ないと思う。
彼の佇まいは、およそ自分達の周りにいるむさ苦しい男衆から、あまりにかけ離れている。
それに。
男だろうと女だろうと山南さんには変わりないのだから、永倉にとってはどちらでもいいといえばいい。
けれどやはり、諸々の事情を考えると女だった方がむしろ有り難いのだ。
「やだなぁ、永倉さん深刻になっちゃって…」
「ショックが大きかったのでしょうか、」
「やっぱさぁ、ここは本人に聞いちまった方がいいんじゃねえの」
「ですね。このままだと気になって眠れないよ」
沖田の言葉に心底同意するようにウンウンと永倉も頷く。
「でも山南さん、ちゃんと言ってくれるかなぁ〜」
「私がどうかしましたか?」
「「「!」」」」
一斉に四人は振り替えると。
渦中の本人が首を傾げて立っていた。
「山南さん!」
驚いて固まっている4人をしりめに腕を組んでいつものように微笑んでいる。
「…あの、みなさん?」
「あ…えっと…」
「や、山南さんちょっといいですか?!」
沖田がさっきと同じように強引に腕を引っ張ってみんなの前に座らせた。
「今ここで、脱いでもらえませんか!」
「…は?」
ぱちくりと瞬きして今度は山南が固まってしまう。
「お願いします」
「頼む」
「山南さん、」
いきなり何を言い出すんだ、この人たちは。
と山南は怪訝な表情で眉をひそめた。
「…嫌ですよ、どうしていきなり」
そしてちょっと苦笑いして拒否する。
「…やっぱり」
「ああ。やっぱりそうなんだ」
「え?」
口々にいいだされる言葉に訳がわからない。
「山南さん、あなたはやっぱり女だったのですね!」
永倉が山南の肩口を掴んで真顔で言った。
「な、私が女?!」
「永倉さん、興奮しすぎ!山南さん怖がってますよ」
「す、すまん」
「ちょっと待って下さい!私は正真正銘の男ですよ?!」
「じゃあなんで脱ぐの嫌がるんですか?」
「え、」
「山南ちゃんさあ、俺らの前で裸見せたこと無くねえ?」
「…」
「別に私たち山南さんが女だったからって怒ったりしませんから」
「本当のこと言って下さいよ」
「…」
俯いて黙り込んでしまった山南を、四人はジッと見つめる。
しばらくして、山南は急に顔をあげた。
少し怒ったような顔でわかりました、と言った。
そして。
きっちりと閉じられた胸元の合わせめを両手で掴むとまるで切腹する時のように、一気に左右に割り開いた。
「「「!!」」」
四人の男は瞬時に顔を赤くしたけれど、布の隙間からのぞく山南の胸はぺったんこ。
例え極度に貧乳の女であっても、こうはいかない。
つまり、男の胸板だった。
「…これで、わかって頂けたでしょうか」
静かに笑う山南にえたいのしれない恐怖を感じた四人は揃ってコクコクと素直に頷く。
それなら、と云って着崩れた前を素早く元に戻すとパリっと立ち上がって。
山南の奇妙な威圧感を覚える笑顔に、ただ黙って四人は彼を見上げる。
「ちょっと用事を思い出したので、これで」
と山南は軽く頭を下げて足早に部屋をあとにしてしまった。
「やっぱり女の人じゃなかったですね」
山南を見送ってからどこかホッとしたように藤堂が口を開く。
「っつか、山南ちゃんかんなり怒ってたよなぁ」
「…失礼なことをしてしまった…」
「そりゃぁ私だって間違われたらいい気しないですもん」
「総司、もとはと云えばお前が変なこと言い出すから…」
「だってしょうがないですよ〜」
「しょうがなくねえよ・・・ったく」
あーアホらし、
と口々にに言いながら沖田以外の三人は立ち上がって散々に部屋を出ていった。
「…じゃあ山南さんのおしりに付いていた血はなんだったのかなぁ…」
取り残された沖田は一人呟いた。
「いてて!いてえな!」
「男だったらこれくらいでピーピー言わないで下さい」
蔵の裏側で山南は土方の耳を引っ付かんで大声をあげる。
「そう怒んなよ。悪かったって、」
なだめようとする相手にますます腹を立てて。
誰のせいで恥をかいたと思ってる。
おまけに信頼している仲間から女に間違われるなんて。
「あなたのせいですよ!!」
沖田たちといたさっきとは打って変わって、顔を真っ赤にしながら土方を睨んでいる。
「仕方ねえだろ。外だったし、立ちながらだったし、いつもみたいに慣らすような時間なかっ…」
「あんなとこでサカる君がどうかしている!」
相当憤慨して、山南はいつもの優しく下がった目尻がつりあがっている。
「もうあなたには付き合いきれません!」
「え?!ちょ、おい、やま…」
「知りません!」
「山南さん!」
「どうぞあなたの性欲に付き合える素敵な恋人を見付けて下さい!」
「悪かったって!」
ツーンとそっぽを向いて歩き出す山南を土方は慌てて追い掛けてゆく。
なあ悪かったってー!!
と、普段聞いたことも無いような情けない声を出して山南を追いかける鬼の副長の姿を
何人かの平隊士が目撃したとか、しないとか。
おわり。
40000HITお礼SSです。
書いていたら無駄に長くなってしまいました;
袴についた血は、土方さんと外でヤった時の傷ということでした。
バレるかバレないかひやひやしながらの行為だったので(笑)、充分に準備出来なかったんですかね。
ちなみに総司は女の人特有のアレだと勘違いしてました。
・・・下品なオチだな!
今後ともよろしくおねがいします(笑)