君ガ咲ク
















どれ程眠っていただろうか。

気付くと外はもう暗く夕闇が辺りに満ちていた。

斎藤君が去ってしまった後、呆然とさっきの事を考えていたらいつの間にか眠っていたらしい。

よほど疲れていたのか。

一旦眠ってしまえば夢の中の出来事のように思えてくる、彼の行動。

もしかしたら本当に自分の錯覚ではないのか、と思っていると、ドスドスと聞き馴れた足音が聞こえてきた。

足音とは対照的に静かに開けられた障子。

「土方さん、」

「起きてたのか」

「いえ、今起きたとこです」

そうか、と答えて側に腰を下ろした。

「どうか…なされましたか」

特に話す素振りも見せないので聞いてみる。

「あぁ、えっと…あんた探してたら寝てるって聞いて。熱でもあんのか?」

斎藤君はやはり私が稽古中に貧血で倒れたということは云わないでくれたらしい。

彼らしい。

ついクスリと笑ったから土方さんは怪訝そうにこちらを向いた。

「何だよ」

「いえ…斎藤くんに?」

「斎藤?違う、さっき八木さんとこの娘がお前に後でお粥持ってくって云われたんだよ」

「お粥?」

なんでおひでさんが…。

斎藤君が頼んでくれたんだろうか。


「斎藤が面倒見てくれてんのか、」

「ええ、まあ…」

「あんたな、いくら斎藤だからってそんな姿見せんなよ」

「そんなとは?」

「新選組の総長だろ。みっともねー姿晒してんじゃねーよ」

いつもにまして機嫌が悪い。

本当に困った人だ。

「わかりました。此れからは一人で何とかするように心掛けますから」

「そうじゃねーよ」

「は?」

目を丸くすると、ガシガシと頭を掻く彼。

「俺を呼べって言ってんの」

「土方君…」

彼の云いたい事がようやく判った。

全く、彼は優しいのかそうじゃないのか分からなくなってくる。

「…ご心配かけてすみませんでした。ですがあの、」

言い出しにくい。

ただの貧血だなんて。

「何だよ」

「実はただの貧血なんです」

「はぁ?!あんた…」

「ちょっと稽古中にめまいがしてふらついたのを斎藤君に助けてもらって部屋まで連れてきてもらったんです。

そのまま寝てしまったみたいで」

呆れたように溜め息をついて彼は私が被っていた布団を少し摘んだ。

そこから覗いた白くて細い武士らしからぬ腕。

「毎日部屋籠って個難しい本ばっかり読んでるから、ぶっ倒れんだよ」

ったく、と小さく毒付いて私の手首を就かんで持ち上げた。

「相変わらず細ぇな」

「放っといて下さいよ」

「もっと栄養取れ。あんたが倒れたら近藤さんが困んだよ」

「はぁ、すいません」

酷い云われようだが、素直に謝っておく。

現に躯の弱い自分は他人に迷惑を掛ける事が多い。

それに彼の棘のある言い方にも今は愛情を感じれる。

長い付き合いなだけあって、彼の言葉がどういう意図を持って発せられるのか何となく判る様になって来た。

「土方さんこそ、肌が女の人のようですね」

悪気なく言ったつもりだった。

むしろ、褒めているつもり。

色白で、すべすべしている。腕の毛がまた薄い。

すっとあいている右手で土方の手の甲に触れた。

「生まれつきなんだよ」

またムスッとする彼を無視して肌触りの良い彼の手の甲を撫でた。

「な、気持ち悪いことすんなって…」

焦ってかどもっている彼がおかしくて笑った。

「ちょっとだけですよ、我慢してください」

「くすぐってぇよ」

云いながらも土方はされるままになっている。

山南のひんやりした手は心地よかった。

土方も山南の腕を掴んでいた手を山南の手の甲に移動しようとした。

丁度その時、スッと襖が開いた。

慌ててお互い手を放り出した。

何で慌てるのか自分でも判ってはいなかったが何故かこの場を見られては不味いととっさに判断した。

見るとお粥を持った(あまりにも不釣り合いな)斎藤君の姿があった。



    








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 何が書きたいって、土方と斎藤の間で揺れる山南さんが書きたいんです。
 いいんです。自己満だから。
 書きたいものを書くんです。
  (ポーチュラカ)                                                              
























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