七、屈辱ドライブ 〜羞恥と涙まじりの逃避行〜 身代金の受け渡しが無惨に失敗し、犯人の足取りが完全に途絶えてからまる十日が経過していた頃。藤野のストレスは、頂点に達していた。 マスコミにより隠し子スキャンダルが大々的に報じられて以後、藤野はすべての仕事をキャンセルして、理緒の母・夕子のマンションに引き籠もっていた。 さいわいに、と言うべきであろうか、スケジュールをまとめて拘束されるようなドラマや映画収録の仕事は入っておらず、単発のバラエティ番組のゲスト出演のような仕事ばかりだったので、キャンセルも容易だった。 その間、ほぼ一日おきに犯人から宅配便が届けられた。 中身はむろん、愛娘の凌辱ビデオテープである。 犯人側も潜伏場所を悟られないよう、転々と発送元を変えており、いまだ東京近郊としか捜査範囲を絞れないのが現状だ。 ビデオの中身はテープごとに微妙に内容が違っている。 最初はもちろん、理緒の処女喪失シーンを収めたモノであった。 だが、その内容は徐々にエスカレートしていく。 たとえば、最初は一糸まとわぬ裸で男のモノをしゃぶらされていた娘が、(それだけでも親にとっては十分衝撃であるが)次のテープでは両手を後ろで縛られて同じ事を強要 されている。さらに次では、愛らしい乳首に無惨にクリップが喰いついている。そしてまた次では、秘部にバイブを挿入されている、といった具合だ。 藤野などは、最初の頃こそ震えながらもテープの内容に目を通していたが、途中から見もしなくなった。 代わりに、捜査を担当する警官達がそのビデオを穴が空くほど見る羽目になった。映像のひとつひとつが重要な手がかりになり得るからだ。 まず、最初のテープで理緒が連れ込まれた森の風景に注目した。そこにうつる風景、特に木々の種類により場所を特定しようとしたのだ。 日本列島は南北に長いため、地域により生息する植物や動物がかなり違う。だが、そのテープの映像から判断する限りは、残念ながらその森は関東地方に普遍的に生息する木々で構成されており、場所を特定するには至らなかった。 それでも、特に東京近郊に潜伏している可能性が高いため、地元警察と協力の上、しらみ潰しにローラー捜査を行うことも検討している。 このように、犯人からは嫌がらせのようにテープが届けられるものの、肝心の要求自体はまったくなしのつぶてである。 この誘拐自体が身代金目的のものではなく、怨恨によるものだという認識にようやくたどり着き始めたところであった。 そんな中、当事者の一人である藤野はといえば、マスコミの取材陣が待ち受けているため下手に外出も出来ず、なおかつ連日のように犯人からはビデオが届けられる。 しかも、来る日も来る日もあるかどうかも分からない犯人からの要求の連絡を待たなければならないのである。 ストレスが溜まらない方が、どうかしている。 もちろん、あてのない連絡を待たなくてはならないのは、捜査に従事する警官達も同様である。が、彼らには交代要員がいくらでもいる。 (これは、長期戦になるな…) 捜査陣の多くがそう思った。それは、ある意味で当たっている。なぜなら、上村の目的は、少しでも長くじわじわと藤野を苦しめることであったからである。 その藤野と、捜査の責任者である国本は、リビングのソファーに座して目の前のテーブルに置かれた電話器をじっと見つめていた。むろん、逆探知装置も取り付けられてはいるが、いまだ活躍する機会は巡ってきていない。 もちろん、次の連絡が電話でくると決まっているわけでもない。 藤野はたった数日間でずいぶんやつれてしまっていた。 おそらく、あまり眠っていないのであろう。単に理緒の身を心配しているだけではなく、スキャンダルが自分の仕事に及ぼす影響や、これから先に不安を感じているからであろう。 だが、もっとやつれているのは理緒の母、夕子の方である。いまだ若いにも関わらず、心労から体調を崩したままずっと床に伏せっている。 そんな中である。 その日も、犯人からの連絡が一切ない状態のまま一日が過ぎようとしていた。 そして、詰めていた捜査員達が人員の交代を告げて辞去しようとしたその時、突然、激しい音が響いた。振り返った国本の目に映ったのは、両こぶしで激しくテーブルを叩く藤野の姿であった。手首にしている高価な腕時計が当たって、表面のガラスに放射状にヒビが入る。 「ど、どうしたんです?」 あわてて国本と部下数人が藤野を取り押さえようとする。 だが、興奮した藤野はその彼らをもはねのけ、気が触れたように何度も何度もテーブルを叩き続ける。それこそ、手の皮膚がガラスの破片で傷がつくほど、幾度も幾度も。 だが、やがて体力の方が先に尽きたのか、息を荒げながら動きが止まった。 「…」 藤野が小声で何やら呟いた。その表情は、彼らが今まで見たことないほど暗く沈んだものだった。 「…は?何ですって?」 国本がうつむいた藤野の口元に耳を寄せる。次の瞬間、藤野の手が国本のエリを掴んで、激しくねじりあげた。 これには、乱暴沙汰に慣れきっているはずの国本もさすがに虚をつかれた。 「なっ…!」 「畜生…、一体どういうことだ…、いつになったら…」 藤野の言葉はそこまでで、あとは意味のない呻きになった。完全に我を失っているようだ。 (この人、ついにキレたか…。まあ、娘が誘拐されて平然としているよりは、よっぽど正常ってもんだが…) 国本は首を締め上げられながらも、あえて振りほどかずにいた。経験上、錯乱した人間は力の加減を知らないからすぐにスタミナ切れになってしまうことをよく知っていたからである。そして、実際その通りになった。 国本の胸ぐらを掴んだまま、荒い息をついている。 「…気が、済みましたか?」 国本が不思議なほど通る低い声で尋ねた。 「あんたら…」 「は?」 「…あんた達、何してるんだ。ただじっと待っているだけじゃないか…」 静まり返った部屋の中、荒い呼吸音だけが響いている。 理緒の痴態を収めたビデオは捜査のためと称して、捜査本部の幾人もの人間の目にさらされている。その中の理緒は、はじめこそ数々の行為を嫌がって拒否し、無理矢理やらされているという印象が強かった。それが、見る者に何ともいえない負い目や後ろめたさのようなものを感じさせた。 だが、途中からそれに変化の兆しが見えた。 あらがう様子は相変わらずだったが、男達の肉棒をしゃぶらされる段階になって、初めてその表情に微妙な変化を見せた。 まず、手際のひとつひとつが丁寧になった。まるで大切なものを扱うかのような、細心の注意を払うようになった。 表情にもどことなく雰囲気に酔っているような様子が見て取れる。その映像を見ていた警官達の方が妙な気分になってくるほどだ。 一本、また一本とテープが回を重ねるごとに、少女は徐々に禁断の領域に踏み込んでいくようだった。 一本のテープの尺はせいぜい十分程度であるが、その十分間以外のところで、この少女がいかなる目にあっているかは想像に難くない。思春期のガラスのように壊れやすい繊細な少女を、淫らな天使へと造り変えていく背徳の生活。 それは、決して十三才のの少女がいていい世界ではないはずだ。 一刻も早く少女をその淫欲の世界から救い出さなければならない。 だが、捜査本部の刑事達の受け取り方はいささか異なった。ビデオの中の少女の痴態が、およそ人質という言葉から受けるイメージとはかけ離れていたからだ。 そして、藤野や夕子に向ける目も自然に変わっていった。 最初は、愛娘を誘拐されたことに同情する雰囲気の方が強かっ た。だが、それも今は『淫乱な娘を持つと大変ですね』という、微妙に侮蔑の入り混じったものへと変わっていったのである。 それが、ありありと肌で感じられるから、藤野には余計なストレスとなった。 「…藤野さん、貴方は疲れている。ゆっくり休んだ方がいい。連絡があったらすぐに起こして差し上げますから…」 「…」 いまだ興奮さめやらぬ状態の藤野をなんとかなだめ、寝室へと押し込んだ。リビングにようやく平穏な空気が戻る。 こうして藤野の家で一幕あったその頃、犯人側ではあるひとつの大きな変化が起きつつあった。 * 「何かいやな予感がするんですよ。早々にここを引き払いたいと考えているんです」 唐突に上村がそう話したのは、朝の朝食の席においてであった。テーブルの上には、ハムエッグ、トースト、スクランブルエッグにサラダ、といった洋風朝食が豪華に並べてあった。 それらはもちろん、男達が人質の女達に用意させたものである。当の香里と理緒は、テーブルの下で犬のように皿に盛られたエサ同然の食事にありついている。 むろんハダカだ。 「…ここを出て、どこへ行くつもりだよ?」 「それに、へたに外に出ると警察に引っ掛かる可能性もあるぞ」 浅野と河村が口々に文句を言う。正直なところ、彼らはこの別荘での贅沢で安逸な生活が気に入っているのだ。 「その件に関しては、ちゃんと考えていますよ。それより、ここに居座る方がよっぽど危険です」 問題のひとつに、茂原の処遇である。このまま連れていけば、足手まといもいいところであるし、かといってここに残したままで仮に警察に捕まれば、口を割ってしまう可 能性が高い。 それに、これまで理緒を従順にコントロールできていたのは、瀕死の茂原の命を取引材料としていたからであって、みすみすその手段を失ってしまうことになる。 (いっそ殺すか…?) きわめて危険な考えが一瞬上村をとらえた。だが、すぐにそれをうち消した、彼の目的はあくまで復讐である。 「連れていくしかないだろうな、やっかいだけど…」 最終的にそう判断した 「まあ、上村に任せて今までうまくいってたんだしな。どうせ、段取りは完璧なんだろ?」 浅野のその言葉に、上村は応えなかった。ただ、肯定するようにニヤリと笑っただけだ。 いくつかの点を煮詰めるために話し合い、移動は翌日の昼間、二台に分乗していくことに決めた。 上村と香里、そして理緒。浅野と河村、そして茂原という組み合わせである。 行き先は、東京から南下して神奈川県に入る。詳しい行き先は、県境を越えた辺りで上村から携帯電話に連絡が入る手はずになっている。 「(おい、香里はどうするんだ?人質二人も連れていって、もし逃げられたら…)」 河村が小声で尋ねる。 「香里なら心配いりませんよ。なあ?」 「ええ…」 香里は、すっかり変わっていた。 正確には、変えられていた。さんざん三人がかりで嬲り回され、精神的、肉体的に極限状況まで追い詰められた彼女は、いわば洗脳されたのであった。もちろん、香里が狂わされたのはそれだけではない。 じつは、上村は密かに自分が抱くときにだけ、自分の指に覚醒剤の溶液を塗っていたのである。それが、特に上村に対して特別な感情を持たせる原因であった。 それは、クスリの中毒による擬似的な感情であったが、当の香里はそれに気付いてはいなかった。 ふいに上村が、どこに隠し持っていたのか、ナイフを取り出す。いかにも切れ味の良さそうな、刃渡り十センチほどの大ぶりのものだ。 それを香里に手渡す。一瞬どきりとした河村と浅野の前で、香里は立ち上がった。すらりとした全裸の肢体に艶のある黒髪がからみつき、まるでミロのヴィーナスの如く神秘的に美しい。 一瞬ドキリとした河村達の前で、香里は自らの長い髪をまとめると、そこへナイフの鋭利な刃をグッと押しつけた。 「あっ…!」 河村と浅野のどちらかが叫んだ。あるいは二人そろってだったかもしれない。まさに叫ぶ間もなく、長い髪を惜しげもなく断ち切ってしまった。 前髪をアップにして、カチュ−シャを使って抑える。 「ほおぉ…」 河村が簡単のうなりを漏らす。それまでは清楚なお嬢様 風の印象の強かった香里が、ショートカットにし、今時の遊び好きの頭の軽そうな若い娘へと、見事にイメージチェンジを果たしていたからだ。 「そら」 上村が細めのサングラスを手渡す。それをかけると、全くの別人だ。これなら、よっぽど親しい人間、たとえば香里の親とか、親友などが見ないと香里だとは見抜けないであろう。 そのあと、男三人はそれぞれ別の部屋へと引っ込んだ。 今日くらいは、明日の大移動に備えてゆっくり休んで、 英気を養っておこうと考えてのことである 香里は自然と上村についていった。そして理緒は、負傷したまま放置されている茂原の看病のため、その傍らへと残った。 上村の狙いは確かに当たっている。現在の理緒は、こんな状態の茂原を残して逃げ出すことは決してないだろう。 かといって、手に手をとって共に逃げ出すことも不可能だ。今の茂原は満足に立つことすら出来ないからだ。 もちろん八十キロ近く体重のある茂原の身体を担ぎ上げるわけにもいかない。つまり、生きた足枷となっているのである。 今の茂原はまさに緩慢に死に向かっている、といった状態である。生きるも死ぬも当人の運次第、といったところであろうか。 翌日、午前十時。 予定通り、上村はワゴン車に人質二人を乗せ、河村はセダンのハンドルを握り、助手席に浅野、トランクに茂原を放り込んで、それぞれ出発した。 朝の狂的なラッシュも終わり、ちょうど道がすき始めてすいすい車が進み出す頃だ。 上村の隣で、理緒は身を固くして座っている。大ぶりのベンチウォーマーに身を包み、なぜか顔には不自然なほど大きな風 邪用の白いマスクをかけている。 後部シートを占拠しているのは、すっかりイメージチェンジを遂げた香里だ。こちらは対照的に、悩殺的なボディコンワンピースの超ミニから、見事な脚線美をさらしている。 街の中を走ると、ずいぶんと制服警官の姿が目に付く。 念のため二台は全く別々のルートを通って、目的地へと向かっているはずである。さすがに、あらゆる可能性を想定して、危険のパーセンテージを下げるよう考えている。 道端に停めてある白黒の車体が目に入ると、自然と車内にピリピリと緊張が走る。 「まあ、ちょっとしたドライブだと思えば楽しいもんさ。なあ、河村?」 重い空気を払いのけようと、わざと明るく浅野がいい、河村の肩を叩く。河村にしてみれば、ちょっとのスピード違反でも目を付けられて車を止めさせられる気がするから、緊張は全くほぐせない。 そんな河村をあざ笑うかのように、道の前方に突然検問が現れた。 「…!」 さすがに絶句した二人である。 「なんだよ、あのまま別荘に隠れていた方がよかったんじゃないか!」 浅野がののしった。だが、実際には警察が周辺を捜索し、いつしか直接乗り込んできたであろう。この場にいない上村に文句を言っても始まらない。 「どうする?逃げるか?」 前方から近づいてくる制服警官に目を据えたまま、浅野が臨席の河村に問いかけた。 「いや…、こういう場合、逃げると逆にしつこく追って きて、あれこれ調べられるのがオチだ。ここは、俺に任せろ…。心配しなくても、警察は俺達の顔を知らないんだ…」 自分に言い聞かせるような河村の言葉である。 その時、車の窓を警官が手の甲でノックした。 そして、ほぼ同じ時刻、上村達の乗った車も検問に引っ掛かっていた。ルートを選ぶ際になるべく幹線道路はさけたつもりだったが、かなり細い道にまで検問が用意されていたらしい。 上村の予感は当たっていた。 実はこの日から、警察の大々的な捜索が始まっていたのだ。かなり広い範囲にわたってのローラーと、検問の設置など、人員を大量に投入し、まさに本腰を入れ始めたといえる。 だが、上村は突然の検問の出演に驚いた様子も見せず、車のスピードをゆっくりと落としていき、そして停めた。 運転席側のウインドウをゆっくりと降ろしていく。そこに顔を見せたのは、顔にまだ幼さの残る若い警官であった。 おそらく卒配したばかりであろうか、上村よりも年齢は下に見える。 「何かあったんですか?」 上村が落ち着いた口調で問いかける。表情にはまるで貼り付けたようにさわやかな笑顔があった。 この青年が、少女略取、強姦、脅迫などの誘拐事件のプランナーだとは、言われても信じられないだろう。 若い警官は軽く敬礼をしてから車内をのぞき込んだ。 「いや、単なる交通安全の為の取り締まりでして…」 言葉ではそう言うものの、車内を見る彼の目に浮かんだ緊張の色がそれを裏切っている。 車内は三人。運転席にいる二枚目の青年と、後部座席のその 恋人らしいセクシーな女性。そして、助手席に座っている少女。大きいマスクのせいで顔立ちはよく分からない。 「すみません…、免許証を…」 「あ、失礼…」 上村はそう言うと、上着の内ポケットに手を差し入れた。 ここでアメリカ映画なら、懐から銃を出して警官を脅し、検問を強行突破するところであるが、上村はもちろん違う。 指先に目的のものを探り当てた。上村は唇の端をわずかに歪めて笑うと、それを指先で触った。 それとほぼ同時である。助手席の少女が、突然苦しげなうめきと共に、座席の上で身をよじらせ始めたのだ。 「おっ…、おい、大丈夫か…!」 運転席の上村が慌てて隣席の理緒の肩を掴んで、揺すぶ った。突然のことだったので、不自然さは全く目に入らず、警官は見事にひっかっかった。 「どっ、どうしたんですか?」 尋ねるその口調にも、興奮が伝染している。 「いや、ちょっと妹が風邪気味なんで学校を休ませていたんですが、急に具合が悪くなったんで、これから病院に連れて行くところだったんですよ。…おい、大丈夫か?」 だが、少女の苦悶は激しくなる一方で、一向におさまる気配がない。 実はこの時、理緒のからだには秘肉にバイブが挿入され ていたのだ。それだけではない。身体の各所に、リモコンで作動する卵バイブが貼り付けてあったのだ。 それらはすべて、上村の懐に入っているワイヤレスリモコンで自在に操作される。つい先刻、警官に免許証の提出を促されたときに、リモコンをオンにしたのだ。 それらは、まるで自分の存在を声高に主張するように、小刻みな振動を延々と繰り返している。 少女の前髪が汗で額に張りつく。はた目には、確かに熱に浮かされているように見えるだろう。 そもそも、今回の移動でもっとも留意すべきは、理緒が第三者に対して容易に助けを求められる立場におかれているという点だ。 極端に言えば、人目のあるところで多少の行動を起こせば、救出される可能性があるということだ。 例えば、今。 だが、それが出来なかった。ひとつには、今ここで理緒 が助け出されたとして、茂原の身命が保証されないこと。 別ルートで移動している浅野たちが、上村が捕まることで暴走し、茂原に害を加えた上で行方をくらましてしまう可能性があることだ。 そして、もうひとつ理由がある。 上村が少女の全身に付けたのはバイブだけではない。ベンチウォーマーに隠された部分で、手首を頑丈にロープで縛り上げられ、マスクの下の口にもガーゼが押し込まれて声を封じられていた。 こうして身も心もがんじがらめにした上で、車に乗せたのだ。 もちろんそれで完全に少女の反抗を封じられるわけでもない。だが、上村が危険を冒してあえてこのような手のこんだことをしているのは、ひとえに理緒を精神的にギリギリのところにまで追い詰めたいからだ。 無数の振動が多角的に少女の身体を責めさいなんでいく。 「大丈夫ですか?」 心配そうに警官が理緒の顔をのぞき込む。肉体の敏感なポイントを、振動で犯されている理緒の顔は淫らに赤らんでいて、病人そのものだ。 「こりゃまずいな…ひどい熱が出たみたいだ。早く医者に診せないと…」 「よろしければ、パトカーで先導しますか?」 心配した警官が申し出たが、上村は丁寧に謝絶した。 「じゃあ、お気をつけて…」 こうして、特に怪しまれることもなく、検問を通過することが出来た。 再び走り出した車のルームミラーには、心配そうな表情で見送る、お人好しの警官が映っていた。 「クックク、ちょろいもんだ…。そうだ、理緒。大人しくいい子でいたご褒美に、いい物をやるよ」 上村は運転しながら、片手で器用に少女の顔の下半分を覆うマスクをはずし、ガーゼを吐き出させた。長い間口の中にあったそれは、少女の唾液をたっぷりと吸って重く湿っていた。 次にズボンのベルトを緩め、肉茎を引っぱり出した。そして、あとは決まっている。再び左手を助手席へと伸ばし て、少女の頭を掴み強引に運転席の方に引っ張ってくる。 「好きなようにしな。なにしろ、ご褒美だからな…」 少女の眼前に憎むべき肉塊がある。理緒は、さんざんためらったあげく、みずからそのものに舌を這わせた。 「おっ…」 自らのペニスが生温かい粘膜に包まれ、上村が満足の吐息を漏らす。それでも決して運転を誤ることがない。 みるみるうちに、少女の口中で肉塊がサイズアップしていく。先端が時おり喉を突き、理緒に幾度となく吐き気を催させる。 ふと、理緒のうちにある衝動が湧いて出た。 (もし、このままかみ切ったらどうなるかな…) ぼんやりとそんなことを考える。さぞグロテスクな結果をもたらすだろうが、今の理緒にはそこまで思考が及ばない。ただ漠然と、自由への欲求があるだけだ。 自然と、少女の顎に力がこもる。 それを、情熱的な行為とカン違いした上村は、少女の頭を掴んだ手に力を込める。 「んん…、ぐふっ!」 理緒はわずかに咳き込み、それで逆に正常な判断力を取り戻した。あらためて、不自由な手と、口を最大限に活用して、熱心なおしゃぶりを再開する。この辺は理緒自身にも理解できなかった。一刻も早く行為をお終いにしたいからか、それとも、知らず知らずのうちに淫靡な世界にどっぷりとはまってしまったのか。 なおもほっそりとした指がキュッキュと強く肉茎の根元をこすりあげる。 (くっ、たまらねえ…) 腰からじわじわとか快美感が広がり、射精欲求が急速に高まっていく。ともすれば、運転を誤ってしまいそうだ。 香里が後部座席から、事の成り行きを興味深げに見守っている。その目の前で、上村の落ち着きが徐々に失われていく。やたらと座席の上で腰をもじつかせ、ハンドルをひんぱんに持ち替えている。 「うっ…、うぉ…」 言葉にならない唸り声。腰を控えめに上下に動かすと、唇の表面と肉棒の摩擦が大きくなり、より快美感が増していく。 (娘のこんな姿を見たら、藤野め、怒り狂うだろうな…。ふっ、ざまあみろだ) そう罵りつつ、腰の上下運動をやや激しくする。 車は順調に走り、いつしか片側二車線の幹線道路に入り込んでいた。 かたわらに大型バスが併走していた。そこに乗っている乗客の幾人かが、上村達の車の車内で起こっている光景を偶然見て、驚いていた。 「おい、隣のバスに乗っている連中がお前を見てるぞ」 「…」 理緒は恥ずかしさに顔も上げられない。そんなことをするくらいなら死んだ方がましだ。ひたすら肉茎の根元を握りしめ、たっぷりと唾液で肉棒を濡らしていく。 上村はわざとアクセルを緩め、並走するバスにスピード を合わせ、より長く乗客に背徳の舌奉仕の光景を見せつける。 「ムッ、ムウゥン…!」 羞恥にまみれつつも、熱心におしゃぶりを続ける少女。 時折その表情を確認しながら、正面の道に視線を戻す。 そんな時に考えるのは、やはり藤野のことだ。 (藤野もかなりのダメージを負ったようだな。心配しなくても、理緒はもうすぐ返してやるさ) 少女の呼吸が次第にせわしくなっている。だが、上村は気付いてはいない。 (だが、元のままじゃない。手元に戻ってきた娘は、この年齢で、最低のメス豚、淫乱娘に変えられてしまっているんだ…) 一度肉の快楽を覚えてしまった肉体は、無意識のうちに快感を求めるようになる。男と見れば、その相手との交わりを想像せずにはいられない。朝から晩までそのことしか考えられなくなる。みたされない肉体のうずきを鎮めるた めに、街へとさまよい出て、見知らぬ相手に身を任せる。 だが、倒錯的なSEXの洗礼を受けた少女は、それだけでは 満足できなくなり、自ら性の泥沼へとはまっていく…。 上村は、最終的に理緒をそこまで変えた上で、藤野のもとに送り返してやるつもりでいた。 そんなことを考えているうちに、上村の射精欲求は何物にも耐え難くなってきていた。左手で少女の頭をガッチリと押さえつけ、せまりくる発作の瞬間へと備える。 「くっ、ぐおっ…!」 唸りと共に、一気に肉茎が爆発した。精液を理緒の口中にまきちらし、まるで熱い溶岩を直接口で受けとめたかのようなショックを少女に与える。その噴出は間欠泉にも似て、幾度も幾度も繰り返された。その度に、理緒は眉根をしかめつつもそれを受けとめる。 「言っとくが、吐き出したりして車内を汚すなよ」 そう言って、上村が左手でおさえこんでいた少女の頭を解放する。顔を上げた理緒は、泣き顔で頬を膨らませていた。むろんその内部には、嚥下しきれなかった白濁液がまだ残留している。 「ん…、良い表情だ」 上村は呟くとズボンを直し、アクセルを踏む足に力をこめた。グングンと車のスピードが上がり、並走していたバスを振り切った。取り残されたバスの乗客達はまるで白昼夢を見たかのように呆気にとられている。 「さ、急ごうか」 このペースなら、あと二時間もあれば目的地に着きそう だ…。上村がそう考えて、ハンドルを握りしめる横で、少女は口の中の精液を飲み下そうと必死になっていた。 その頃、河村達の車ではひとつのアクシデントが発生しようとしていた。 検問には引っかっかったものの、特に怪しまれることもなく無事通過しようとしていた。だが、予想外の出来事が起こったのはその時である。 まさに検問から走り出そうとしたその瞬間、トランクで突然物音がした。最初はかすかなものだったが、次第にそれが何かがぶつかるような音へと変化していく。 縛り上げた上でトランクに放り込まれていた茂原が、残された力を振り絞って、自己の存在を主張したのである。 怪我人と侮っていた河村達の見込み違いであったが、あきらかに警官はその異音に興味を示した。 「ちょっと待った。なんだろうね、今の音は…?」 上村達の場合とは違って、こちらは年配の警官が、いぶかしげに問う。いかにも猜疑心の強い目でじろりと河村の表情を伺っている。 「さあ、何か聞こえましたかね?」 再び、ごろりと重い音がする。 「ちょっと、トランクを開けてもらえるか?」 自然と警官の話しぶりが命令口調へと変わる。あからさまに疑いの目を向けてくる。 「へ〜い、へい。ちょっと待って下さいよ」 河村はトランクを開けるレバーを操作するかがめる動作を見て、警官がトランクの中身を確認しようと車の背後に回り込む。バックミラーで待ち受けていたその瞬間を確認した河村は、アクセルを一気に踏み込んで、けたたましく車を急発進させた。 タイヤがすさまじい勢いで回転しつつ、スキール音をあげて あっという間に走り出した。それこそ、反応する間もないほど一瞬の間の出来事であった。 警官達の怒号をあとに残し、車はどんどん急加速していく。数台のパトカーが後を追いかけてくる。 「まずいことになったな…」 満面に汗を浮かべ、運転しながら河村が呟いた。バックミラーに映るパトカーの数が一台、また一台と増えていく。 まるでドラマのカーチェイスの如く、クラクションとスキール音が鳴り響く場面が幾度も展開される。 スピード違反はもとより、信号無視、一方通行逆走、Uターン、あらゆる方法で振り切ろうとするが、どうやっても振り切れない。 「捕まったら、免停間違いなしだな」 浅野がふざけて言う。河村はは無言で、アクセルを踏む足にグッと力を込めた。だが、それから5キロ以上を走っても、追いすがるパトカーはどんどん迫ってくる。 「逃げきれん、な…!」 そう二人が観念したその時である。運命は彼らに味方したようである。少なくともこの時は。 河村達の車が信号を無視して通りを突っ切った。だが、パトカーはそのあと急停止を余儀なくされた。 脇道から止まりきれずに飛び出してきた大型トラックが、パトカーの行く末を塞いだからだ。 追跡する警官達が、早くどけとトラックの運転手を怒鳴りつける。だが、トラックの巨体はたやすく動かない。 たっぷりと一分間をかけてようやく道が開けた頃には、河村達の車は完全に消え去っていた。 「くっそおっ…!」 警官の一人が、ダッシュボードにこぶしを叩きつけた。 だが実際のところ、河村と浅野はさほどその場から離れていない場所に車を止めていた。 「降りるぞ、車はここに捨てていく!」 すぐにこの車のナンバーは手配されるはずだ。そうなると、このままにげ続けることは出来ない。車を捨て、電車 に乗り換えようということである。 二人は、上村から預かった携帯電話だけを持つと、車を近くの空き地に乗り捨て、手近の駅から電車に乗り込んだ。 乗り捨てた車のトランクに、瀕死の茂原を乗せっぱなしであることを忘れていたことに気付いたのはその頃である。 警察に追いかけられ動転した彼らは、そのことをすっかり忘れていたのだ。 さすがに、二人とも顔面蒼白になった。 その時である。上村から二人の持つ携帯電話に連絡が入ったのは。もちろん、彼らはすでに電車で移動中であり、車内で携帯を使うことは禁止されている。だが、そんなことに拘ってはいられない。 電話を受け、周囲の白眼視を無視して話し始めた。そこで、河村はこれまでの経過をすべて話した。 さすがの上村が言葉を失ったほどである。 『とにかく、一刻も早く合流しましょう。場所は、そうですね…私鉄のA駅の駅前で…』 こうして、数時間後に無事彼らは合流することに成功したのである。 「ドジを踏みましたね、お二人さん…」 上村に皮肉たっぷりにそう言われても、河村と浅野の二人は恐縮するしかない。だが、検問に引っ掛かった以上、他に選択肢がなかったことも確かである。 「と、ところで、目的地ってどこなんだよ。ずいぶん山の中にまで入ってきたじゃないか」 浅野のその言葉通り、かなり周囲の景色には山が目立つ ようになってきた。 「ここから少し行った先に、閉校になった中学校があります。取り壊しは少し先なんで、当分はそこに身を隠せますよ」 「なるほど…」 浅野、河村、そして香里は、感心したようにうなずいて、上村の顔を見た。それでようやく一安心したのか、浅野などは助手席に座った理緒にちょっかいを出し始めた。 上村からバイブのリモコンを借りて、振動に強弱をつけて少女の悶え苦しむ姿を見て楽しむ。 だが、そんなお気楽な浅野達をよそに、上村の胸中の不安は増すばかりであった。そして、それはすぐに現実化したのであった。 * 河村と浅野が乗り捨てた車が発見されたのは、意外にも日が暮れようとし始めた頃であった。その頃には、すでに河村達は上村達と合流を果たしている。 トランクの中の茂原は、密閉された空間に長くいたせいか急速に衰弱していった。意識のない状態のまま、病院へと搬送されていく。 検問を突破した不審者の乗り捨てた車に、腹部にナイフの刺し傷がある重傷の男がトランクに押し込められている。 これは立派な事件である。 だが、その怪我人からは事情を聞けない状態である。 緊急に手術が行われた。そして、茂原がようやく意識を取り戻したのは、夜になってからである。 そこで初めて警察による事情聴取が行われた。ただし、患者の容態に留意して、医者が許可したのはたったの十分間であった。 そこで茂原の口から語られたのは、今現在世間を騒がせている誘拐事件の犯人の一人であること。これまでの事件 のあらましなどが語られた。すぐに捜査本部から人間がやってきて事情を聞く。その話からは、犯人しか知り得ない事実が何点か出てきたので、彼の語る話が真実であるということが分かった。 急にすべての事実を告白する気になった茂原の胸中はい かなるものであっただろうか。それは本人にしか分からない。 それらの事実はすぐに裏がとられた。実際に人質が囚われていた、藤野所有の別荘にも捜査員が向かい、確かにそこに人がいたこん跡を見つけた。 さらに、犯人達の名前を藤野の会社の社員リストから確認し たところ、確かに浅野と河村の名前もあった。 そうなると、ますます茂原の話に信憑性が増す。 結局十分間の予定が、えんえん一時間近くも話を聞く結果となった。そのかわりに警察が得ることが出来た情報は、かなりの量に及ぶ。 捜査の責任者である国本は、その情報を持って翌朝はやく、藤野のマンションを訪れた。 「藤野さん、茂原 秀一、浅野 伸、河村 信康、この名前に聞き覚えは?」 国本は、会うなり単刀直入に尋ねた。藤野の答えは、元社員ということであった。それは国本の予想通りであり、また事実 でもあった。 「では、上村 研人という名に聞き覚えは?」 「上村…?」 藤野の眉がピクリと動いた。 「いや、知らないな。その男が何か?」 「今あげた四人が、娘さんを誘拐した犯人です。昨日、検問にひっかっかった車から茂原 秀一の身柄を確保しました」 「…」 予想に反して、藤野は何も言わなかった。てっきり怒りくるうかと思っていたのだが。そして、その予想が外れた 原因については、心当たりもある。 「藤野さん、なにか知ってますね…?」 藤野は、しばし考え込んでいたが、ようやく何かに思い当たったように、突然顔を上げた。 「隠すようなことでもない。二ヶ月前のことだ。私のもとに、上村と名乗る男が尋ねてきたんだ…」 藤野はそこまで一気に喋ったところでタバコを取り出し、火 をつけた。 「彼は自分に妹がいると言った」 「妹?」 「そう、妹だ。彼には、父親違いの妹がいるんだそうだ」 藤野の話はこうだった。 上村という若者がやってきたのは、秋の紅葉が散り、季節がそろそろ冬にさしかかろうという頃であった。空気が冷たく乾いてきていて、肌に突き刺さる。そんなある日、彼は藤野のもとへとやって来た。 どこで調べたのか、藤野の本宅に、しかもスケジュール上ちょうどオフの日にである。 彼は、一見して顔だちのととのった若者であった。藤野にとっては、その表情のいくつかが何となく既視感を感じさせるものであった。 それもそのはずで、彼が言うには、彼の母親の名は上村 喜美子といい、かつて、藤野と付き合いがあった女性だという。 古ぼけた写真が差し出される。 そこには、寄り添う一組の男女が写っていた。確かに、 藤野と一人の女性が写っている。藤野は、かなり今よりも若い。およそ十〜十五年くらい前のものだろう。 その写真を目にしたとき、徐々に藤野のうちになつかしい記憶がよみがえってきた。 「そうか…、キミが彼女の…。で、お母さんは今どうしている?」 「亡くなりました、二年前…」 藤野は、そうか、と短く答えた。あえて亡くなった理由は問わなかった。 確か彼女は、夫がいる身にもかかわらず藤野と交際し、約一年間付き合って、その後別れた。それから二年後に彼女の夫が亡くなったと風の便りに聞いた。 そして、臨終間際の母が彼に語った、ひとつの事実。 彼の十歳年下の妹、亜紀。 その妹の血縁上の父親が、藤野であるということ。これは、上村青年自身、寝耳に水の話であった。これまで、そんなことは想像したことすらなかったから。 不貞を働き、身ごもった。その事実を死んだ父は知っていたのか?その答えは、永遠に得られなかった。 答えを話す余力もなく、母はこと切れていたから。 そしてその妹が、現在病院に入院中だという。 上村の用件とは、妹の手術と入院にかかる費用を出してくれないかと言うことであった。必ず返すから一時的にでも貸してくれないか、そう青年は頭を下げた。 「その妹は、なんという病名だったんですか?」 「いや、覚えていない…なんとか言うややこしい病名だった…。二千万近く費用がかかると言ってたが…」 「で、貴方はなんと答えたんですか?」 国本が厳しい表情で藤野に問うた。 「…断った。」 「何故?」 「…よくいるんだよ。あれやこれや言って、人から金をせびり取ろうとするヤツが!こいつもその類だと思ったんだ!」 「…」 「それに万が一事実だったとしても、今の私には二千万の金を即座に融通する余裕はないよ…」 その言葉が、やけに力無く感じられた。 上村は藤野の返事を聞くと、何も言わずに帰っていったらしい。 「上村は他になにか言ってましたか?今住んでる場所とか…?」 藤野の答えは否であった。ただひとつ聞いていたのは、上村の妹が、高円寺付近の病院に入院しているようだという。国本はすぐに部下に病院の洗い出しを命じた。 同時に、似顔絵描きの得意な部下に、上村の顔の似顔絵の作成を命じる。約二時間ほどをかけて、藤野の証言から、上村 研人の似顔が出来上がっていく。 これで、藤野の会社の社員名簿の顔写真のコピーから、河村と浅野の物も手に入り、犯人グループ全員の顔写真がそろったとになる。 「こいつ等が…」 ついに、犯人達のの正体が割れた。テーブルの上に並べられた犯人の顔写真。 捜査員達の士気はいやでも上がる。 そこへ、上村 亜紀の入院していた病院が判明したという知らせが入った。だが、彼女は一ヶ月前に亡くなっていたという。 「上村 研人は、妹が死んで身内が亡くなると、そのまま姿を消したそうです。仕事を辞め、住んでいた家もそのままに、完全に行方不明だそうで…」 部下の報告を聞きながら、国本はじっと上村の似顔を見つめた。 「金が有りさえすれば、手術を受けることが出来て妹は助かったかもしれない。藤野さんが金を貸してくれさえすれば…」 国本が呟くと、藤野が血相を変えた。 「それなら、何故直接俺に仕返ししてこない?理緒には、なんの罪もないじゃないか…!」 「それは、こういうことでしょう。彼は許せなかったんですよ。理緒さんと自分の妹を比べて、同じ藤野さんの血をひいているのに、理緒さんは何不自由なく暮らしている。 一方で、自分の妹は満足に手術も受けられず、寂しく死んでいった…」 「しかし…!」 「いや、貴方が悪いとは言っていない。あくまで、悪いのは犯罪を犯した上村ですよ。たとえどんな理由があろうとね…」 「…」 国本は立ち上がった。 「それでは、引き続き捜査にあたりますので、これで失礼します」 徐々に、外堀が埋められていくのを感じる国本であった。 写真ではなく、実物の彼らに会う日も近いかもしれない。そう感じていた。 * 今や、警察によって完全にマークされている上村、河村、浅野、そして人質のはずの香里と理緒。 五人の目の前に、古ぼけた校舎がそびえ立っている。背 後には夕闇に照らされた校庭が広がっている。当然のことながら、ひとけは全くない。 「ここが…?」 「そう、子供の数が減って、廃校になった。管理がいいかげんで、ガス、電気、水道もまだ生きてますよ」 確かに周辺は塀に覆われていて、滅多に人も入ってこないはずだ。 「ん…どうかしたのか、理緒?」 少女の異変に気付いた浅野が、心配そうに声をかける。 真っ赤なベンチウォーマーに身を包んだ理緒は、立ちすくんだまま小刻みに身体を震わせている。顔面も蒼白で、かつては健康なピンク色だった唇も、色を喪っている。 上村が、少女の正面に向かい合わせに立つ。ベンチウォ ーマーの前を大きく左右に開く。 「くはっ…、すげぇ…!」 河村が感嘆の声を上げる。何ともいえない匂いが、周囲のオトナ達の鼻をつく。発情した牝の匂いだ。 理緒のベンチウォーマーの下は水着であった。紺色の、ナイロンで出来たいわゆるスクール水着である。その上から縄でしっかりと縛り上げられている。ところどころが丸く膨れ上がっているのは、バイブが貼り付けてあるところであろう。 特にすごいのが、スクール水着特有のローレグの脚の付け根から、細く長い脚をつたって足首に至るまで、ベットリと透明な蜜液に濡れている点だ。 いわば、ずっとバイブに犯されていたことで分泌された 大量の汗と蜜液。ベンチウォーマーがサウナ代わりになってその水分がずっと少女の身体を蒸し上げていたのだ。 よく見ると、身につけていた水着どころか拘束している縄までが湿り気を帯びている。 長時間にわたって、さんざん全身を責めあげられてきたのだ。 体調に変調をきたしても無理はない。その証拠に、顔は熱に浮かされたように真っ赤だ。 「どれ…」 浅野が股間に垂直に食い込んでいる縄に指を掛け、クイッと手前に引いた。それだけで縄が秘裂に食い込み、少女をさらに悶えさせる。 「こんなところでよせよ。どうせなら中に入って落ち着いてからゆっくりやろうじゃないか」 河村が浅野をたしなめ、五人は校舎の中に入った。何ヶ 月後かに取り壊しを控えているため、内部の備品はあらかた撤去され、残っているのはガラクタばかりだ。 廊下はしんと静まり返っている。一歩足を前に踏み出す都度、埃がまい上がるすさまじさだ。その中を、先頭を上村、その後にまともに歩けない理緒を両側から支えて歩く河村と浅野。そして、理緒の来ていたベンチウォーマーを持って、香里が最後 尾を歩く。 「すごいな…ほんとに、こんなところで暮らして大丈夫か…?」 しばらく歩くと、教員用の元宿直室へと到着した。なかに入り電気をつける。内部は、意外と広い十畳間であった。 しかも、埃もなくきちんと掃除されているようだ。 「へえ…、いいじゃないか…」 居住スペースとしては、これまで潜んでいた藤野の別荘には比ぶべくもないが、潜伏場所としてはなかなかのものである。 ぐったりと正体をなくした理緒は、まるで酔っぱらいであった。その身体を部屋の隅へと放り捨てると、浅野と河村の二人は探検をすると言って、懐中電灯を片手に部屋を出ていった。 「ねえ、これから…どうする気?」 知的美女から水商売風のセクシーな美女へ変身を遂げた香里が、媚態まじりに上村に問いかけた。 上村は片膝を抱いて座り込んだ。そのまま無言だった。 「怖い顔。あいつ等と話している時とは、まるで別人ね。 …いったい何を考えてるの?」 「この誘拐遊戯を、どんな結末にするかということさ」 一瞬の間。 「彼女、どうするの?」 「さあな…」 香里は、上村のすぐ隣にしゃがみ込むと、手際よくズボンのチャックを引き下ろした。開いた社会の窓にしなやかな指をもぐり込ませ、肉茎を引っぱり出す。 「アハン…」 鼻を軽く鳴らすと、指だけを絡ませて手の中で弄ぶ。尿道の辺りを指でクリクリとつつく。 「おい…、よせよ…」 舌先でチロチロと、先端部だけをつつくように刺激する。 ぴちゃ、ぴちゃと控えめな唾液の音だけが天井に吸い込 まれていく。 目の前で、逆ハート型のヒップがくねくねと淫らに踊っている。それがまるで独立した生き物のようで、上村の興奮は増していく。我慢できない欲望が彼を突き動かし、その手が胸元から手を差し入れさせた。天上の柔らかさを誇る香里のバストを、その感触を確かめるように握りしめる。 ピリピリと快感が神経を走る。自然ともう一方の手が香里の髪へと伸び、愛しげに黒髪を撫でる。 「どお…?」 顔にかかる髪をかきあげつつ、香里が上村の顔を見上げた。 「あ、ああ…。いい気持ちだ…」 「もっと気持ちよくしたげる」 美女の口腔にスッポリと肉茎がおさまる。肉棒には粘膜越しに、身体には密着した肌越しに体温が伝わってくる。 欲情しているせいか香里の体温は限りなく熱い。 「ちょ、ちょっと、待て…」 そう上村が言うと、香里はいったん口を離した。唾液まみれの極限まで充血した肉棒を、根元を握って前後に振ってあらたな刺激を与える。 舌先が裏筋にそって撫でるように這う。 「おい…、奴らが帰ってくる。はやく済ませないと…」 「わかってるわ。すぐにイカせてあげる」 香里の指と口の動きが、一層情熱的になる。肉棒全体に快楽のシャワーが降り注ぎ、瞬く間に上村に射精の熱い疼きがズンズンと沸き上がってくる。 「うっ…!」 続いて、生臭い液体が香里の喉奥にほとばしった。何度目かの直に口中に受けとめる精液を、香里は嬉しそうに喉を鳴らしてのみ下していった。 そのわずか一分後、浅野と河村が戻ってきた。 「お〜い、いい物見つけてきたぞ!」 浅野と河村がそう言って運んできたのは、体育用具室によく置いてあるボールの収納カゴであった。 「何にするんです?そんなもの?」 「まあ、見てろよ」 正体をなくしたまま寝入っている理緒の身体から、縄と水着を手際よく脱がしていく。胸の膨らみも、腰の丸みも香里に比べれば全く成熟していない。だが、間断なく性の刺激を与えられているせいか、奇妙に色っぽく見える。 「おい、河村そっち持ってくれ」 浅野と河村がボールカゴを持ち上げると、逆さまにして少女の身体の上にスッポリ覆いかぶせた。 「どうだい、この檻は?」 なるほど、確かに簡易型のオリが出来上がった。なかなかに少女にとっては、屈辱的な仕打ちというべきである。 理緒は自分を取り囲む鉄格子の存在にも気付かず、安ら かに寝入っている。他の四人も、檻を囲むようにしてそれぞれ眠りについた。翌日から、またあらたな日々が始まるからだ。 いよいよ、上村の考える誘拐遊戯の最終章が始まろうとしている。 。 |
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