プロローグ ここに、一人の青年がいた。 『彼』は、現在都内のある大学に籍を置いていた。そこは、際だって有名というわけでも、人気があるというわけではないが、誰もが名を聞けば一応は知っていると応えるそこそこの知名度を持った学校であった。 『彼』は数校受験した中で、唯一滑り止めとして受けて合格したそこに入学した。特に望んだわけではないが、とにかく浪人するのが嫌だったからである。 大学では、特にどこのサークルにも所属しなかった。そのため、特に親しい友人もいない。 授業は卒業に足りるだけの単位さえ取れればいいので、その点は苦心した。特に、早朝に起きなければならない一時限目の授業は巧みに避けた。 空いている時間は、ほとんどアルバイトに費やしている。 バイト先は、自分の住んでいるアパートから少し離れた場所にあるレンタルビデオ店だ。大学に入ってすぐそこでバイトを始めたので、バイト歴はすでに3年近い。 チェーン店ではなく、個人で経営している店なので、常時店員は1人か2人くらいだ。オーナーは日がな競馬競艇に明け暮れ、店を空けていることが多い。 なによりも『彼』が気に入っているのは、無料でビデオを借り放題という点だ。バイトがある日は必ず、2〜3本のビデオを(勝手に)持ち帰る。 三年間に各ジャンルの主だった物はすでに見た。そうすると次に食指が動くのは、棚のスミにまとめて置いてあって、ふだん客の目に止まらないようなビデオの数々だ。その日も『彼』は返却されてきたテープをケースに戻しながら、持ち帰るビデオを物色していた。 閉店時間ぎりぎりなので、すでに客の姿はほとんどない。だが、アダルトコーナーだけはいつも一人二人の客がいる。『彼』はそんな客の様子を横目で見ながら、手際よく返却テープをケースへと戻していった。 (あれ…?) ふと、ひとつのパッケージが彼の目に飛び込んできた。タイトルもなく、ぽつんと棚のスミに放置されている。 パッケージには、1枚のスナップ写真が貼られている。そこには、どう見ても年齢十二〜十五才くらいの少女が被写体として写っていた。 少女は天真爛漫な笑顔を浮かべている。『彼』は一瞬のうちに被写体の少女に心奪われた。 (あれ…、こんなのあったけ…?今まで見たことないぞ…) 彼は珍しくドギマギして、そのパッケージを手に取った。 たぶん、ロリータ物であろう。 男女のからみは一切なく(肝心のモデルが十八歳未満の少女達ばかりであるからそれも当たり前であるが…)、せいぜいヌードをさらすぐらいである。 だが、そこに登場する少女達は初々しく、『彼』もそんな少女達を気に入っていた。 『彼』も、今までにその手の物は数本見た経験がある。内容も大方は見当がつく。 大体数本も見れば、飽きる。 だが、そのパッケージの少女の容姿には、奇妙に『彼』の心を惹きつける物があった。 「すみませ〜ん」 そのビデオに気を取られ、『彼』は客が呼んでることにもしばらく気付かなかった。慌ててカウンターへと戻り、貸し出し作業をする間にも、『彼』の頭の中はそのビデオのことで一杯だった。 結局、その日はそのビデオの他にアダルト1本、映画1本の計3本を持ち帰った。 帰り道にある二十四時間営業のコンビニで夕食用の弁当を選ぶ。ついでに、缶ビールとスナック菓子も買い込んだ。 彼が住んでいるのは、八畳一間で家賃が安いだけが取り柄のオンボロアパートだ。 部屋に戻ると、まず買ってきた弁当を電子レンジに放り込み、温めている間にテープをビデオデッキに挿入する。 一人暮らしが長いので、その辺の呼吸は手慣れたものだ。 TVの画面にカラーバーが出て、音声信号が鳴り続ける。数十秒続いたそれが不意に消え、映像が切り替わった。 場所は、どこかの森の中であろう。その中のぽっかりと開けた場所に、写真の少女は立っていた。 『彼』は、レンジからホカホカに温まった弁当を取り出すと、箸をつけた。だが、その視線は相変わらず画面に張りついたままだ。 フェミニンなイメージの白いワンピースを身に着けた少女は、森の中で自由に自然と戯れていた。 動きに合わせて裾がふわりと舞い上がる。折れそうなほど細い手足。軽快に身をひるがえすさまが、まるで子鹿のように躍動的だ。 「…!」 『彼』は、完全に画面の中の少女に魅入られていた。 この手のモノの場合、モデルはさまざまな理由から外国人(特にアジア系)の場合が多いのだが、その少女は明らかに日本人だ。 もちろん肉声は一切聞こえず、バックには当たり障りのない音楽が延々と繰り返し流れている。出来ることならば、この少女の声を聞いてみたい、そんな強い思いに駆られた。 そのまましばらく見ていると、少女は草むらの中で着ているものをゆっくりと脱ぎ始めた。そして、その場でくるりと半回転すると、細い腕を背中側へと廻し、背中のファスナーをゆっくりと引き下ろす。 ゴクリ、と『彼』は無意識にツバを飲み込んだ。ワンピースの背の開いたすき間から、雪白の背中の肌がのぞけた。 少女は軽く胸元を手で押さえながら、肩口からワンピ−スを脱いでいく。まず、細い肩があらわになり、徐々にワンピースが下へとずり下がっていく。 その下はまばゆいばかりに輝く純白のスリップだ。胸元を淡い膨らみが押し上げている。その映像が、彼の胸に奇妙な胸苦しさを与えた。 いつしか、『彼』の箸の動きは完全に止まっていた。 ワンピースが、音もなく少女の足元に滑り落ちた。 『彼』にとって、この上なく魅惑的な姿だった。その身体は発育途上で、ともすれば少年と見まごうかもしれない。だが、胸のかすかな膨らみや、稚ないながらも丸みを帯びた腰回りは間違いなく少女のものだ。 大人ではない。かといって子供でもない。微妙な時期に、彼女は生きていた。 そして、いつしか画面は変わっていた。 ひと気の全くない河原。サラサラと流れる清流。少女は、そこで遊び始めた。飛び跳ねる水の飛沫がスリップへとかかり、水に濡れた部分が透けていく。どんどんその部分は広がり、やがてスリップはぴったりと少女の肌に張りついてしまった。 細い身体の線がはっきりと認識できる。なだらかな胸の隆起や、その先端にポツンと浮き出た乳首。 いつしか『彼』は、画面にかぶりつくようにして、ずっとテレビの中の少女にのめり込んでいった。ボロボロにけば立った畳の上には、すでに冷え切ってしまった弁当が放置されている。 浅い川で水とたわむれる少女の姿は、確かに幻想的であった。 そしてついに、少女はビショビショに濡れたスリップを自ら脱ぎ始めた。その光景は、『彼』から魂を抜き取っていった。 部屋の電話が着信のメロディを鳴らしても、全く気がつかないほどだ。 幻想の中の美少女が、自ら濡れたスリップを脱ぎ捨てていく。 そして、ついに少女の柔肌が白日の下にさらされた。その肌は、象牙細工のように白く、絹のようになめらかだ。膝先から下がわずかに陽に灼けている。普段はいているスカートの長さの分、陽に焼けないのだ。 そしてスリップ越しに見てとったとおり、小さな豆ツブ程度の大きさの桜色の乳首が水に濡れたままその存在 を主張している。 そして、わずかにくびれたウエストから、まだ固さが残る柔腰へと続く。 彼女は、全裸のまま川の中へと入っていく。そして、再び水遊びを始めた。川は浅いので、せいぜい膝の辺り までしか浸からない。少女は小さな手で水をすくい、カメラの方へそれを浴びせかけるような行動をとった。 画面がガクガクと揺れた。撮影者が慌てているさまが手に取るように分かった。 ひとつひとつの行動の合間に、時折カメラから視線を外して何かを伺うような表情を見せるのは、撮影者が監 督として少女に対し動きの指示を出しているからであろう。 ツルンとした肌に飛び散った水滴がかかり、陽の光を反射してキラキラと輝いている。少女はまるで小動物の ように活動的に動いた。 画面上では、少女の無毛のスリットを隠すべく、円形のモザイクがかかっている。 『彼』は無意識のうちに苦笑していた。 そのモザイクが、まるで自ら意志を持っているかのように、必死に少女の『その部分』を押し隠すために移動し ているように見えたからだ。 考えてみればこのモザイクという奴は、、今の世の中の混迷ぶりを表しているよう に見える。大の大人達が少女のハダカひとつに対してたいそうに法律で規制している現れが、このモザイクなの だから。 (ん…?) 『彼』の目が少女の肌の表面に違和感を感じたのは、その時が始めてである。河原の砂利の上に横たわった 少女の肌の表面をカメラがアップで映した際に、その奇妙な痕を無数見いだしたからだ。 (何だ…?蚊にくわれた痕か?それにしては数が多いし…。やけど…かな…?) だが、当の少女はそれらの痕を気にする風でもなく、天真爛漫な笑顔を見せている。 目の肥えた人間が見れば、それはローソクによる火傷の跡だとわかったはずだ。 そのまま、数分間日光浴をする少女の姿を映し続け、そして気付いたときには映像は終わり、画面は真っ黒に なっていた。 『彼』は不動の姿勢のまま、放心状態で画面を見つめていた。 そして、ようやく我に返り、テープを止めて巻き戻そうとリモコンに手を伸ばした時、『それ』は起こった。 突然、TV本体のスピーカーから、けたたましい声が響いた。 『あんっ…!イッ…、イイッ…!』 突然のその声に、『彼』は心臓が飛び跳ねるほど驚いた。次いで、画面にかぶりつくように近づいた。 そこでは、信じられないような光景が展開されていた。 つい先刻まで、自然の中で楽しげに遊んでいた美少女が、正常位で激しく男に突きまくられていたのだ。 さっきまでの天真爛漫な笑顔はどこへやら、まるで別人のように激しくよがりまくって、幼い顔立ちを淫らに上気させていた。 「何だ…、何だ、これは…?」 『彼』は思わず声に出してそう呟いていた。『彼』が狼狽するのも無理はない。いわゆる地下ビデオでもない限り、この年頃の少女が性行為を行うビデオなど存在するはずがないからだ。 BGMもなくなり、あれほど聞きたいと思っていた少女の肉声が、あられもない嬌声でスピーカーを鳴らしていた。 相手の男の顔は巧みに画面から外れていた。 ただ身体の感じから、まだ若い男のようだ。たくましい筋肉のバネを存分に生かして、ひたすら少女を一方的に責めまくっている。 しかも、今度はモザイクが一切かかっていない。従って少女の幼い花芯が、グロテスクな男の肉棒に蹂躙されさまをバッチリと見ることができる。 少女は肉棒で突きまくられるたび、可愛らしい朱唇からあまりにも不釣り合いな声をあげていた。 『どうだ、理緒?感じるか?』 そこで初めて『彼』は、少女を犯す男の声と、そして、少女の名が『理緒』という名であることを知った。 そして、同時に男に対して凄まじい憎悪を覚えた。だが、それは決して義憤にかられてのことではない。 それが証拠に、彼の股間ではその分身が、熱をもってうずき始めていた。 男は悠然と幼い女体を犯し、そして秘腔からペニスを引き抜くと、少女の顔面めがけて射精した。 「あっ…!」 『彼』が思わず声をあげるほど、大量の精が少女の顔めがけて飛び散った。それは、あまりにも非現実的な光景であった。 「な…、なんて…コトを…」 口ではそう言いつつも、心中はうらやましさで一杯だ。 すでに彼の股間のイチモツはギンギンに充血してはち切れそうなほどだった。 『理緒』と呼ばれた少女は、細い首すじまでたっぷりと精にまみれていた。顔射を受けた際に、思わず顔をそむけたためだ。そして場面は変わり、少女は三人の全裸の男達に囲まれていた。 まわりを大人に囲まれて怯えているさまは、必要以上に少女を幼く見せた。 「お、お願い…、助けて…」 懇願も虚しく、少女はあっという間に男達に組み敷かれた。 絶叫が虚しく響きわたる。そして、そのあとは筆舌に尽くしがたい光景の連続であった。男達は、この年端もいかない少女相手に欲望の限りを尽くしていた。 そして、ボロボロになった少女の裸身をなめるように撮影し、テープの再生は終わった。今度こそ本当の終わりで あった。 「…」 『彼』はしばらくの間、まるで魂を抜かれたように呆けていた。 (このビデオは一体…) 一体どういう経緯で、このような鬼畜な内容のビデオが撮られ、そして流通ルートに乗ったのかは分からない。 ただ、『理緒』という名の少女の泣き叫ぶ顔が、快楽によがり狂う顔が、『彼』の頭の中にぎっしりと焼き付いていた。 実は、このビデオが撮られた裏には、あるひとつの事件があった。 一、復讐・誘拐される少女と家庭教師 十二月二十四日、クリスマス。 街中が喧騒に浮かれ、即席のカップルがあふれかえる頃。 ひとつの犯罪が、計画から実行に移されようとしていた。 通りに、一台の車が止まっていた。ワンボックスタイプの車内には、4人の人間が乗っていた。 「そろそろ、出てくるはずだ…」 4人の中で唯一眼鏡をかけた上村がつぶやいた。 車の中にいるのは、 上村 研人 (二十五歳) 茂原 秀一 (二十五歳) 浅野 伸 (二十七歳) 河村 信康 (二十四歳)という顔ぶれである。 この四人のうち、上村をのぞいた3人の共通点は、ついこの前まで同じ会社に勤めていたということだ。 そして、いまここにいる理由も、同じ目的のためであった。 4人の視線の先には、私立M学園小等部の正門がある。そこからは、ついさっき終業式を終えたばかり の生徒達がどんどん吐き出されてきていた。 彼らの目的は、私立M学園中等部1年、西崎 理緒 十三才、 その身柄を押さえ秘密裏に連れ去る、早くいえば誘拐することにあった。 その理由は、彼女自身にはなく、彼女の父親にあった。 理緒の父の名は藤野 健吾。その名を聞けば、国民の7割が知っている俳優である。 通称 ″フジケン″。現在四十七才。 妻と、息子が1人いる。 理緒の母である西崎 夕子は、藤野の愛人である。彼女が短大を卒業して、藤野の所属する芸能事務所に就職したのが関係の始まりであった。 事務所で普通のOLのような仕事をしていた夕子の美しさに目を付け、自分のモノにするまで二ヶ月とかからなかった。 藤野は当時から女遊びで浮き名を流していたから、そんな彼にしてみれば、社会に出たばかりの二十歳そこそこの娘を自分に夢中にさせることなど造作もないことだったに違いない。 だが、実際に夢中になったのは、藤野の方であった。 見栄っ張りの上に冷淡な本妻に対して、万事ひかえめで心根の素直な夕子に惹かれていくのは自然なことであったかもしれない。 二人の仲は水面下で永く続いた。およそ2年ほどが経過し、夕子は懐妊した。 堕ろすという手段ももちろんあっただろう。 だが、夕子はそれを嫌がった。今の関係のまま、生むことを選んだ。その時生まれたのが理緒である。 当時、日本はバブル経済の真っ最中であった。藤野自身も羽振りが良かった。出来る限りのことをしてやりたかったから、気前よく夕子に対して3LDKのマンションを買い与えたのだ。 藤野はそれからは一週間の半分はこのマンションで過ごすようになった。十三年があっという間に過ぎ、 理緒も来春は高校受験の年である。 そして、現在である。未曾有の大不況に、日本中が揺れている今、ささやかだが藤野の周辺にもその余波 が襲いつつあった。藤野は本業の俳優業の他に、芸能人にありがちなことだが、副業として和食割烹のチェ ーンを経営していた。もちろん、税金対策の意味も充分にあるのだが、いちおう会社組織にして、最盛期には 十ヶ所ほどにまで展開していた。 だが、この大不況である。 経営は徐々に悪化し、一ヶ所、また一ヶ所と店を閉めざるを得なくなった。 そうなると、当然膨れ上がった人員も整理せざるを得なくなる。そのリストの中に河村たち3人の名前もあった。 俳優としてはともかく、経営者としての藤野はワンマンであった。 退職者として選んだ社員に対しては、ささいなミスや個人の業務成績の悪さを口実として、ろくに退職金も出 さずに次々とクビにしていった。 無職となった彼らの前に上村が現れたのはそんな時であった。 上村は、3人に恨みを晴らす手段として 、藤野の娘・理緒の誘拐計画を持ちかけたのだ。初めはその申し出に驚き、次に躊躇する河村達であった。 普通ならば、そんな申し出に乗るはずがない。しかも、相手は正体不明の男である。 だが、ある話を聞いてから、彼らは急にのり気になっていった。 まるで、魔術にかかったようだった。 理由のひとつには、この不景気では次の職も容易に見つかりそうにないという理由もある。 こうして、理緒の誘拐計画が実行に移された。 そんな企ても知らず、理緒が正門から姿を現す。 「あのコだ…」 事前に入手した写真と、実物の理緒を見比べて、浅野がそう呟いた。 理緒は、細い肩にショルダーバッグをかけ、ゆっくりと塀にに沿って歩いていた。まわりには同様に、HRを 終えたばかりの理緒の同級生達が歩いているが、理緒の存在感はその中でも群を抜いていた。 とにかく目立つのだ。洗練された容姿は、CMモデルといっても通用するかもしれない。もう一〜二年たてば、 芸能事務所のスカウトがほおってはおかないだろう。 いや、最近はタレントも低年齢化が進んでいるので、今のままでも十分通用するかもしれない。 「河村さん、頼みます」 「任せろ」 短く応えた河村は、サングラスをかけると車から降りて生徒達の群れの中へと紛れ込んでいった。 理緒の姿を見つけ、あやしまれないよう数メートル離れてあとをつけていく。 その一方で、上村達の乗った車は路地を一本隔ててゆっくりと移動していく。ひとけの無くなるのを見計らって、一気に車の中へと連れ込もうという腹だ。 だが、あいにくというべきか、人の流れは一向に絶えることがなかった。 理緒が母親の夕子と共に住んでいる自宅マンションは学校から意外に近く、歩いても十五分ほどの距離にある。河村は辺りに注意を払いつつ、ゆっくりと歩いていった。 そうして機会を逸し続けるうちに、ついにマンションまで辿り着いてしまった。 理緒はエントランスに入ると、郵便受けをチェックする。いくつかの郵便物を手にしてエレベーターへと乗り込む。それを見届けて、河村は車へと戻ってきた。 「駄目だ、人が途切れたかと一瞬思うと、すぐまた人影が見えて…。やっぱ、昼間は難しいんじゃないか?」 河村は座席シートにふかぶかと腰かけると、顔にかかる前髪を手ではらいつつ、そう言った。 「まあ、こんな事もあると思ってた。そのため、別の準備もしてある」 4人の中でリーダー格である上村が言った。今回の計画は、全て彼の発案による。 彼は、後部荷室においてあるバッグの中から一着の服を取り出した。 そして十分後。 理緒の家の前に、宅配便の配達員の制服を身にまとった河村 が立っていた。インターフォンを押す。廊下のかどを隔てたところで、茂原と浅野の2人が息をひそめて待っていた。 インターフォン越しに、理緒が出た。今日この時間に夕子が不在なのはすでに確認済みである。 「あの、宅配便ですが…」 河村がそう告げると、理緒は玄関にやってきてドアを開けた。 だが、用心深いことにドアチェーンをしっかりとかけたまま、隙間から顔をのぞかせたのだ。 (くそっ…、しっかりしてやがる…) もちろん、彼が今着ている宅配便業者の制服は本物を入手したものであるし、念のため帽子を目深にかぶっているので、正体が露見する気遣いは全くない。 さらに言えば、こういう場合も想定してわざと配達する荷物(むろんダミーである)は、わざとドアの隙間からは入らない程度のサイズにしてある。 理緒も一応安心したらしく、チェ−ンを外してドアをゆっくりと開けた。 すかさず、河村は荷物の箱を持ったまま玄関に入り込んだ。 その動きがあまりに自然なので、理緒もにわかにその動きに疑問を抱かなかった。 河村は、まぶかにかぶった帽子の奥から、さりげなく理緒の全身を観察した。 彼は、自身には少女愛の性向はないと固く信じている。その彼が見ても、眼前の少女は充分に魅力的だった。まだ子供と呼んでもおかしくない年齢であるにも関わらず、男の欲望をそそるような何かがある。 そして、河村は一気に理緒の身体を捕らえようとして、全身に緊張をみなぎらせた。 「あら、どうしたの?」 澄んだ良く響く声が廊下の奥から聞こえた。河村が反射的に声のした方に振り向く。そこには、十九〜二十歳位の若い女性が立っていた。 心臓が飛び跳ねるほど河村が驚いたのは言うまでもない。それは、廊下のかどに身を潜めている茂原と浅野の二人も同様であった。 (おい、母親は出かけているはずじゃなかったのか…?) (いや、予定では確かに出かけたはずだ。美容院に予約を入れているんだから) 茂原・浅野はひそひそ声で会話を交わし、互いの脇腹をつつきあっていた。だが、実際のその女性の姿を目の当たりにした 河村は、すぐに彼女の正体に思い至った。 (そうか…、理緒の家庭教師だ…!名はなんといったか…) 目の前の女性はどう見ても二十歳前後である。夕子は三十四歳のはずだから、年齢的に合致しない。 「香里先生、宅配便屋さんが…」 (そうだ、村山とかいう家庭教師だ…) 河村は、相手に気付かれないよう相手の全身を盗み見た。 縁なしの眼鏡をかけているのが、理知的な印象を与える。くわえて、出るところは出て、引っ込むところはキュッと引き締まっているという、見事なプロポーション。それに、モスグリーンのすっきりとしたツーピースが見事に似合っている。 何よりも河村の欲望を惹きつけるのは、胸元を持ち上げるバストの量感であった。 どちらかといえば細身の身体に、そこだけがやけに不釣り合いだ。 河村のそんな視線には気付かず、村山 香里は1歩、また1歩と近寄ってきた。 「理緒、印鑑はどこにあるの?」 「はい、そこの上に…」 そう会話する2人は、実の姉妹のような親密感が感じられる。 シューズボックスの上に置かれた、三文判の入ったケースを理緒が指さす。 香里は印鑑を手にすると、河村に近づいてきた。 チャンスだ…!河村はそう確信した。それは他の二人も同様であった。 「すいません、どこに印を押せばいいの?」 ふんわりと香里の髪からいい香りがしてきて、河村は陶然となった。くわえてその心地よい声音が、河村の情感を揺すぶる。 ダミーの配達伝票を差し出し、無言で受領印を押す箇所を指 で指し示す。 「えと…」 香里が印を押そうと身を乗り出したその瞬間、河村はバランスを崩したように見せかけて、香里に体当たりをした。 二人は、もつれるように玄関の壁へとぶつかった。 それを合図に、隠れていた茂原達が飛び出した。玄関に飛び込むと同時にドアを閉める。 抵抗も出来ず、理緒はあっけなく男達に押さえ込まれた。それとは対照的に、香里は必死に抵抗を続けた。 空手を少々かじっていた河村は、固めたコブシを香里のみぞおちに叩き込んだ。香里はうっ、と腹の中の空気を一気に吐き 出し、そしてそのまま失神して崩れ落ちた。 「むっ…、むぅん…!」 それを見た理緒がパニックに陥った。だが大人二人がかりで押さえ込まれ、口を手で塞がれて声も封じられているため、 なすすべもない。 そして緊張のためか、あるいは恐怖のためか、不意にその全身から力が失われた。か細い神経が負荷に耐えかね、一気に 失神したのだ。 「気を失ったな。気絶させる手間が省けた」 河村が呟く。 「だけど、目撃者が出来てしまったな。どうする、この女?」 本来の計画では、あらかじめ運んできてある大きめのトラン クに理緒の身体を詰め込んで隠し、車まで運んでいくつもりだった。 「時間が惜しい。まず、理緒を運んでしまおう」 深夜ならともかく、今はまだ真っ昼間である。のろのろしてると、誰かに見られるかもしれない。彼らにはそれが怖かった。 ダミーの荷物の中から、あらかじめ用意していたロープと手ぬぐいを取り出し、理緒の手首足首を縛り、口に猿ぐつわを噛ま せる。 二人がかりで少女の身体をトランクの中に押し込む。トランクの大きさにはかなり余裕があり、少女の身体を収めてまだ空間 が空いた。 「じゃ、河村、先に行ってくれ。上村にこの女の処分をどうするかも聞いてきてくれよ」 海外旅行のトランクすら空港まで運ぶサービスがあるほどだから、配達員姿の河村がトランクを運んでいても、誰も不思議 には思わない。 ましてや、そのトランクの中に少女が入っているなど、誰が想像できようか。 河村を送り出して、残った茂原と浅野はようやく一息ついた。 二人は、いつの間にか全身汗でビッショリになっていることに 気付いた。犯罪とは、想像以上に緊張するものだ。 五分ほど休憩してから、茂原達は香里の手足を理緒と同様に縛り上げる。柔らかい女体に、きつく縄が喰い込む。 失神した香里の身体から、何ともいえないいい香りが立ち上る。 「柔らけえ…!ちくしょう、こんな女と姦りてぇなあ…!」 香里の足首を縛っていた浅野が感嘆の声をあげた。 茂原も同感だったらしく、彼らは、香里も一緒に連れていきたいと真剣に思った。 さらに五分ほどして、河村が戻ってきた。かなりあわてて戻ってきたらしく、息を切らしている。 「おい、大丈夫か?ヤツはなんて言ってた?」 浅野が尋ねる。 「…とりあえず…、一緒に連れていくってよ…!」 それを聞いた二人が、心の中で快哉を叫んだのは言うまでもない。 そうなると話は早い。再びトランクが活躍する時だ。 香里の女体が限界まで折り曲げられ、無理矢理トランクの中へと押し込まれた。それでも、細いからだが幸いして、トラン クの大きさギリギリで収まった。 「急ぐぞ。もう限界だ」 茂原と浅野、そしてトランクを運ぶ河村は、時間差をつけてそれぞれバラバラに車へと戻った。 「遅かったね。誰にも見られなかったですか?」 上村は馬鹿丁寧な口調で尋ねた。 「大丈夫だよ。そんなドジは踏まないさ」 河村が元の服に着替えながら応じた。 「これからどこへ行く?」 茂原が尋ねる。ハンドルを握った上村は、イグニッションを回し、エンジンをかけた。 「任せて下さいよ。絶対にばれない隠れ場所を探してあります。当分はそこが僕らのアジトになりますから」 車は4人の誘拐犯と2人の人質を乗せ、快調に走り始めた。 小一時間ほど走り、車はクネクネと曲がりくねった勾配を登り始めた。 「なあ、そのアジトってのはどこにあるんだ?」 ずっと車に乗り続けているとさすがに飽きるらしく、浅野が多少いらだたしげに尋ねた。 「どこって…、ここですよ」 何気なく答えた上村であったが、その口調が浅野の癇にさわったらしい。 「なんだよそれ?まだ走りっぱなしじゃないか。オレはいつその場所に着くのか聞いているんだ!」 「怒らないで下さいよ。僕は嘘を言ってはいません。あと五分ほどすれば分かりますから、もう少し我慢して下さいよ」 上村の言葉どおり、車は五分ほど走って止まった。 「さ、降りて下さい」 上村は運転席から後部座席の仲間に話しかけた。 車から降りた4人の目前に、大きな西洋館がそそり立っている。白い壁の表面に無数につたが這い回り、かなりの 歴史と風格を感じさせる。 「何だここは…?」 「ここは、藤野の別荘ですよ。この山全部が、彼の持ち物だそうで…」 上村は淡々と語った。他の3人は、なるほどと納得しかけ、次いで驚いた。 「なにーっ…!」 「この山全部?」 「バブル期には、資産価値は6億くらいあったんじゃないですか?その頃購入したらしいですが…。今は約2億くらい ですかね?3分の1に目減りしちゃうんですから、大変な時代だね」 「ちっくしょう…。会社がくるしけりゃ、クビ切りする前に手前の資産売り払って補填しやがれ…」 浅野が吐き捨てるように言う。 「それだけじゃないですよ。理緒たち母子に対して、生活費として藤野はざっと月に五十万近く渡してますよ」 「そうなのか…?」 全員、きょとんとしていた。 「それより、さっさと理緒たちを運び込んじゃいましょう。日が暮れちゃいますよ」 冬は日が暮れるのが早い。そろそろ太陽が西に傾き始めていた。確かにもう一時間もすれば暗くなってくるだろう。 「鍵かかってんじゃないの?」 「合い鍵、ありますよ」 何から何まで用意周到な上村に、3人は感嘆した。 男達は、人質を居間へと運び込んだ。照明の光が外にもれないよう、カーテンを完全に閉め切る。 シャンデリアに灯りがともり、まばゆい光が室内を照らした。 「なんかスゲエ豪華な応接間だな。こんなの初めてだ…」 庶民そのものの3人には、完全に縁のない世界だった。 「まさか、自分の別荘に連れ去られた娘が監禁されているなんて想像しないでしょう。ちょっとした盲点というわけです」 その毛足の深いカーペットの上に、乱暴に香里と理緒の身体が放り出された。 河村が2人に活を入れる。人質たちは、ゆっくりと失神から覚醒に向かった。 「ん…、む…」 「やあ、お姫様達のお目覚めかな?」 4人の男達は、理緒達を取り囲むようにして立っていた。 「何がなんだか分からない、っていう顔をしているな。猿ぐつわを取ってやろうか」 人質たちの猿ぐつわが外された。何か言いかける香里を制して、上村が口を開いた。 「では、順を追って今の状況を説明しよう。もう分かっていると思うが、君たちは『誘拐』された」 「…」 二人は身体を寄せあったまま無言だった。 「最終目的は、金じゃない。かといって、金が全く欲しくないわけじゃないが…」 「持って回った言い方はやめて、ストレートに行けよ」 上村が、半ばからかうように言う。上村は、軽く咳払いをして言葉を続ける。 「目的は、理緒ちゃん、キミのパパへの復讐だ。すなわち、藤野 健吾が苦しみにのたうつところを見たいのさ」 パパ。 それは理緒にとって最も縁とおい言葉であった。理緒も、もう十二歳である。自分の出生の前後の事情についてはある程度理解しているつもりだ。 だが、週に二〜三度家に来るだけの、むしろTVの中でその顔を見ることの方が多い藤野に対しては、父親という感じがなかなか湧いて来なかった。 最近は、彼が来ているときはほとんど部屋にこもっている。邪魔したくないというのも半分あるが、半分は父親として認めていないということなのであろう。 「あの人…何をしたんですか…?」 理緒は何気なく尋ねた。 「何をしたってか…?ふっ、その父親から出ている腐った金でのうのうと生活しているお嬢様が、軽々しく言ってくれるよなァ…」 河村が吐き捨てるように言った。 「俺達は、ついこの前までキミのパパの会社に勤めていたん だ…。そこを、あっさりと解雇されたのさ」 「そんな…」 まさに、いいがかりに近いものがあったろう。少なくとも、理緒には何の責任もないことだ。 そして、香里が横合いから口を挟んだ。 「でもそれは、今の世の中珍しくないわ…。そんなことくらいで誘拐までするなんて…!」 腕の中の理緒の身体を抱きしめる手にギュッと力をこめる。 「言ってくれるぜ。理屈ではそうかもしれないがな。だが、それだけじゃない。解雇は解雇でも、俺達は懲戒免職になったんだ。女性店員に対するセクハラの疑いをかけられてな…」 藤野の和食割烹チェーン『ふじの』の売りのひとつが、二十代で店長になれるということだった。河村達3人も、入社して同時に店長になったという間柄である。その3人が、全くおなじ理由で同時にクビになった。 「分かるか…?被害を受けたっていう女性店員達は、藤野にいわれて嘘の証言をしたのさ」 「まさか…」 理緒は下を向いたまま呟いた。 「信じられないか?だが、キミがどれだけあの男の事を知っている?」 それっきり4人の男達は黙ってしまった。しばし、部屋に無言の時間が流れる。 「そういうことだ。ヤツは、本業では外ヅラがいいから人気 があるがな。本当の顔を知ったらファンなんていなくなるぜ。まあ、あんな男の娘として生まれたことを不幸と思って、諦めるんだな」 「…駄目よ、理緒。こんな連中の口車に乗っちゃぁ…」 「え…?」 「確かに彼らにも同情の余地はあるわ。でも、誘拐って犯罪の中でも最も卑怯なものよ。たとえどんな理由があろうとそんな手段をとる人間の言葉なんて、徹頭徹尾信じられない」 未だ十四歳の理緒は、己の価値観というものを持ち合わせていない。 従って、周囲の言葉にたやすく判断基準を揺らがせてしまう。今も正直なところ、理緒は男達に対してわずかながら同情の念を抱いていた。 だが、香里の言葉で我に返った。 (そうだ、決して同情なんかしちゃいけないんだ…) いわば香里は、理緒にとって羅針盤のような存在であったのだ。 突然、河村が背後から香里の首に腕を回し、そのまま上にひっぱりあげた。香里は、首吊りのようにされて強引に立ち上がらせられた。 「何…をっ…!苦しい…!」 「余計な口をはさまんでもらおう、香里先生。あんたと理緒では価値が違う。単なるオマケのあんたが、出しゃばり過ぎってもんさ」 「香里先生…!」 叫んで立ち上がろうとする理緒を、茂原が制した。 「これ以上議論している暇はないな。これから、キミのパパへの脅迫状を作るんだから。それには、理緒の協力が欠かせないんだ」 「協力…?」 「より藤野を苦しめたいんでね…。囚われの身の君の姿を見せるために、ビデオに撮って送ろうと思ってるんだ」 茂原・浅野の2人が大量のビデオ撮影機材を運び込む。小型のデジタルビデオカメラ、三脚、照明、背景用の スクリーンと、ありとあらゆるものが運び込まれてくる。 「さあ、立つんだ」 強引に香里から理緒を引き剥がすと、手足のロープを解いた。 パイプ製の折り畳み椅子に座らせ、その背後にブルーのスクリーンをかける。 二台のカメラを三脚にセットし、適度に光があたるよう照明を調節する。 「で、あそこにカメラのレンズがあるだろ?そこを見て、この文章を読み上げるんだ」 理緒の傍らにいた上村が一枚の紙片を手渡した。イヤイヤながらそれに目を通し始めた理緒の表情がみるみ るこわばっていく。 「い、いやっ!」 理緒は叫び、紙片を放り捨てた。その紙片を河村が拾い上げた。 「どれどれ…。『娘を誘拐した。彼女の運命は我々が握っている。もし警察に連絡したりすれば、人質の身の 安全は保障しない。身代金は4億円。受け渡し方法はおって連絡する。』なんだ、大したことないじゃないか」 「もう一枚ありますよ」 上村が床に落ちたもう一枚を拾い上げて手渡した。 「どれ、『追伸 もし要求が受け入れられない場合、人質は人生で最悪の体験をすることになるだろう。娘の 将来を大切に思うならば、よく考えて返事されることだ』 …なるほど、そういうことか」 「文面はよくある物ですがね。これを愛娘が素っ裸で朗読している姿を見れば、かなりのインパクトありますよ」 理緒は椅子に腰かけたまま、じっと身を固くしている。上村はそれを冷たく見下ろして、言葉を続ける。 「念のために言っておくがね、自分が子供だと思って楽観視しない方がいいよ。そこにいる彼はね、キミのような 可愛い少女が好みなんだ」 上村は茂原を指さして、言った。 「さあ、これを読むんだ」 そう言って、脅迫文の書かれた紙を少女の胸に押しつける。 だが、理緒は恐怖に縮こまってしまい、その紙を受け取ることもしない。再び、紙は虚しく床に舞い落ちた。 「これじゃ、埒があかないし…。すこし、ムチをくれてやる かな」 上村が思案の末に呟いた。 「おい、いくら何でもそれはキツイんじゃないか?」 「もちろん、ほんとに鞭打つわけじゃないですよ。それを使うんです」 そう言って上村が指さした先に、香里がいた。 4人の男達は、集まって何やら打ち合わせを始めた。五分ほどして、ようやくそれが終わる。 「ひっ…、寄らないでよぉ…」 * 河村と茂原が香里のそばににじり寄る。二人がかりで手首を縛っていたロープをいったん解き、着衣をすべて剥ぎ取り、再びロープで緊縛する。先ほどとは縛り方を変え、手首は背中で高手小手に縛り、両脚は大きく開かせてあぐらをかかせたまま縛り上げた。 「痛いっ、お願い、許してぇ…、痛いんですっ…!」 「ずいぶん気弱になったな。さっきまでの偉そうな物言いはどこへ消えたんだ?」 「ごっ、ごめんなさい、謝ります!謝りますから…!」 ギリギリとロープが柔肌に喰い込む。カーペットの上にうつぶせに転がされる。あぐらをかいているので、自然とヒップの位置が高くなる。 「ふふ、丸出しだな」 浅野は好色さを満面に出して、恥ずかしい姿で緊縛された香里のそばへとかがみ込んだ。量感のある乳房を片手ですくい上げ、ゆっくりと揉みながらその感触をたっぷりと楽しむ。 「さてと、始めるか」 そう呟いた上村は、自ら香里の背後に屈み込んだ。さらけ出された秘肉をじっくりと観察し、両手を伸ばして優しく触れた。 「色もキレイだし、さほど形も崩れていない…。まださほど経験はないみたいだな…」 指がクルンと陰核の包皮を剥き上げた。肉真珠としかいいようのないそれは、まるで何かを期待するかのようにフルフルと小刻みに震えている。 「あっ、やめて!」 香里の秘芯に口を寄せ、ゆっくりと舌で嬲り始めた。たっぷりとツバをこすり付け、徐々に柔らかくしていく。 「ひっ…、くぅん…、いやぁん…」 香里の声が、徐々に甘やいだものに変化していく。理緒の目があるから我慢はしているのだが、それでもこらえきれない部分はある。理緒は顔を背けた。 「それ、取って下さい」 上村が言ったのは、入り口近くに飾ってある一本の細い花瓶であった。普段無人なので花は挿していない。 空である。河村がそれを手にとって手渡す。 直径4センチの円筒形のそれを握り直すと、香里の秘部に押しあて、ゆっくりと力をこめた。 「ひっ、いやっ!何する気…?」 香里のその部分は驚くほどの柔軟性を見せて、徐々に花瓶を呑み込んでいく。 「いっ、痛いわ…!お願い、もう許して…!」 上村は答えない。それどころか、花瓶を持った手にさらに力をこめる始末だ。 香里はノーブルな美貌を苦痛に歪ませ、全身を小刻みに震わせる。硬く冷たい花瓶は、じわじわと奥へ奥へと侵入していく。 なんといっても、無機物に犯されているというのが、香里にとっては屈辱だった。 「おお、すげぇ。見事に呑み込んでいくぜ」 「そりゃそうだ。ここから将来赤ん坊が出てくるんだからな」 そんな香里の思いはつゆ知らず、浅野達が残酷な感想を口に する。 秘芯は目一杯開ききっているように思われた。 裂けちゃう、と香里は真剣に思った。長さ三十センチほどの花瓶が半ば程まで秘肉に埋没する。その辺りで、 それ以上は中に入っていかなくなったようだ。 「おい、見てみろよ香里先生を」 理緒の側で見張っていた茂原が、そう少女に話しかけた。彼は最初からこの少女に目を付けていた。上村の 持ちかけた誘拐計画に真っ先に乗ったのが彼であるのには、そういう理由があった。 少女の髪を掴んで、ぐっと正面を向かせる。 「見ろよ。先生のあそこに入っているのを。あれは花瓶だぞ。 凄いよなぁ…」 そこでは、上村がすでに花瓶の抜き差しを開始していた。あまりの苦痛に、香里の口からケダモノめいた悲鳴 が漏れる。 「あんまり力を入れると、花瓶が割れるよ。割れたらどうなるか、想像はつくよな」 「怖えぇ〜」 上村が脅し、浅野がその光景を想像して恐れおののいた。 「ほうら、先生が可哀想だと思わないのか?あんな物をあそこに入れられて…。もしあのまま割れたりしたら、 先生の一生は台無しになる…」 茂原がネチネチと少女を脅す。だが、理緒はうつむいて黙ったままだ。茂原が上村の顔を見て、首を横に振った。 「香里先生、これじゃ満足できないんですか?じゃ、別の物に替えましょう」 わざと理緒に対して聞こえよがしに言う。 「えと…、何がいいかな…」 辺りを見回す上村たち。その視界に、ある物が入り、上村はニヤリと笑った。 「いい物がありますね。それですよ」 それは、ここに来る途中に茂原が飲んでいた炭酸飲料の入った、500mlのペットボトルだった。中には中身が半分ほど残っている。 上村は花瓶を抜き取った。それが入っていた部分がぽっかり と空洞になる。ペットボトルを受け取るとキャップを外した。炭酸が漏れてプシュッと軽い音がする。 指先で口部分を押さえ、上下に激しくシェイクする。ペットボトルの中で、はみるみるうちに炭酸の圧力が高まっていく。 「いきますよ、センセー」 ペットボトルの先端が、空洞の空いた秘肉にぐっと押し込まれた。勢いよく炭酸飲料が噴き出す。 「あっ?いやっ…!きゃああぁっ!」 さらにペットボトルが内部深くまで押し込まれる。噴き出した炭酸が媚肉の中に注ぎ込まれていく。香里は、炭酸が粘膜に与える刺激に悶え狂った。その狂乱振りは見ている理緒の方がつらくなるほどだ。 「…やめて…」 理緒が声を絞り出した。 その声は、今にも消え入りそうなほど弱々しい。だが、もう見てはいられなかった。 「先生を助けてあげて…、言うとおりにしますから…」 「よく言った。その言葉に二言はないな?」 茂原が念を押す。理緒は、こっくりと頷いた。 * その頃、某テレビ局の控え室では藤野が出番を間近に控え、そこで時間をつぶしていた。 自分が俳優であるという自負があるからなのか、バラエティ出演時はいつも不機嫌なのが常だ。 それ故にマネージャーもなかなか近づこうとはしない。火中の栗を拾わないようにするのが常だ この日も、いらだたしげにタバコをふかしては、短くなった吸いがらを灰皿に押しつけていた。おかげで、灰皿には吸いがらがうずたかく積まれている。 テーブルの上に置いていた携帯電話が、突然着信メロディを鳴り響かせた。これは完全に私的な物として使用しているので、番号を知っている人間はごくわずかだ。 「…もしもし」 『あの…、私です…』 電話をかけてきたのは、夕子であった。もちろんこの番号を知っている一人であるが、普段は全くかけてこないので、むしろ珍しいことといえる。 「なんだ、キミか…。どうした?」 『理緒が行方不明なんです。この時間になっても帰ってこなくて…』 藤野は小さく舌打ちした。 「それがどうした。どこか友達のところで遊んでいるんだろ う。電話してみたのか?」 『心当たりは全部…』 「事故の可能性は?」 『警察署に電話してみました。でも、あの年頃の女のコが事故にあったという報告は一件もないって…』 藤野は腹の底から唸った。チラリと時計に目をやると、出番の時刻が五分後に迫ってきている。 「オレの言うとおりにしろ。まず警察に届けるんだ。オレはこれから収録があるから、すぐにはそっちには行けない」 『でも、もし誰かにさらわれたのなら、警察に言うのは…』 「もしほんとに誘拐されたのなら、十中八九カネが目的だ。そうなら、うかつな真似はしないさ」 藤野はそう話して、電話を切った。 一方、夕子の方はすぐに来てくれない藤野に苛立ちを覚えつつ、警察に連絡を入れようとした。 その時である。電話機がけたたましく鳴り出した。 理緒か、あるいは藤野か。そう考えて受話器を取った夕子であったが、受話器の向こうからは声が聞こえなかった。 「もしもし…?」 『…』 「だれ…?」 『アナタノ娘サンハ預カッタ。トリアエズ、今ハ無事ダ』 その声は、まるで機械の電子音のような声だった。 「お願い…、娘の声を…」 『次ノ連絡ヲ待テ』 そう告げて、電話は切られた。 狼狽した夕子は、再び藤野の携帯電話にかけた。だが、電源が切られているため、すぐに留守電に切り替わってしまう。 それから、どういう経緯で行動したのか、夕子はよく覚えていない。気がつくと、リビングの電話に逆探知装置を取り付けている警察官と責任者らしい男がいた。 「大丈夫ですよ、奥さん。理緒ちゃんは必ず無事に取り戻して見せます」 国本と名乗った責任者が、力強くそう語った。 それから、長い戦いが始まった。数時間して、深夜に至った頃、ようやく仕事を終えた藤野がやってきた。 「すいません、ちょっと、こちらへ…」 藤野は、国本と部屋の隅で何やら話し込んでいた。おそらくは、愛人とその子供が巻き込まれたこの事件で、自分の名前が表に出ないよう、捜査に注意して欲しいとでも頼んでいるのだろう。 そんな藤野は、TVに出ている時とは別人のように小さく見えた。そんな様子を夕子は横目で見ながら、耐えがたい焦燥感に襲われていた。 そんな夕子の思いをよそに、夜は更けていった。 |
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