……で、やっぱりというか何というか、あれからシルヴィアはわんわん泣きやがった。
今回ばかりは泣かせたのはきっと多分おそらく自分なので、ジゴージトクとか言うんだったか? ともかくそういうやつなんだろう。だから我慢して泣かれてやった。
今は時折しゃくりあげる程度にまで落ち着いている。それでもまだ、この腕を離すつもりになれなかった。対するシルヴィアも、離れる素振りを見せないどころか、泣きついたときのまま、俺に体重を預けっぱなしだ。
(……何でこいつ、こんな柔らけーんだ)
ということに、途中から手持ち無沙汰になって気が付いた。それはあの馬鹿力女からは予想できないほどのふよふよ加減。触り心地からいって、ぶよぶよの脂肪って感じはしない。
なんつーか、触ってて気持ちいい。
手が触れてるのはシルヴィアの二の腕と、もう片方が背中らへん。明らかに肉とかついてなさそうな背中ですら奇妙に柔らかいのだから、他の場所とかどうなってんだろう。
自分の体で柔らかい部分を考えてみる。頬とか。全部じゃねえけど腿とか。あーあとそうだ、耳たぶって一番柔らかかったよな確か。
シルヴィアの背中に置いていた手で、自分の耳をつまんでみた。確かに柔らかい。でも、シルヴィアの柔らかさとは何かが違う。
(何が違うんだ?)
それともシルヴィアの耳もこんな感じなんだろうか。そう思って耳を観察しようとしたが、抱きこんでいるのでちっとも見えない。
体を離せばいいことなのだが、どうにも面倒くさいというか――何か嫌だ。
ので、見ないまま直に指で確認してみることにした。つーか、最初からこうすりゃ良かったんじゃん。
「ひゃあ?!」
途端、シルヴィアが悲鳴とゆーか奇声をあげた。こっちもびびって思わず両肩を掴んで引き剥がして、どうした!と顔を覗き込む。
「っど……どうしたって、それはこっちのセリフ!」
やや怒ったような口調はいつものそれに近いものがあって、少しだけ嬉しくなって知らず口元が緩んだ。それを見たシルヴィアがきっと眉を吊り上げる。
「何笑ってるのよ」
「え、そうか? つーか、何怒ってんだお前」
「あんたがいきなり変なことするからでしょ?!」
顔を真っ赤にしてきーきーとわめかれる。正直うるせえ。
「ただ耳触っただけじゃん」
「そ、そうかもしれないけど! 何もこんなときにいきなりっ……」
語尾をどんどん収束させていき、やがてシルヴィアはあーとかうーとか、意味のある言葉を言わなくなった。
「何なんだよ」
「だからそれはこっちのセリフ!」
口篭もったかと思えば、一つ言っただけで即座に反応が返ってくる。
これはこれでちょっと面白いけど――いや、やっぱわけわかんねえから面白くねえ。
「だ……だいたい、何で耳とか触ってくるのよあんたは」
そういえば何でだっけ。何か色々考えてたらそうなったような。ああ、そうそう。
「どれくらい柔らかいのかと思って」
「……は? 耳たぶが柔らかいのは誰だってそうでしょ。比べるまでもないじゃない。っていうか、何でこんなときにそんな脈絡のないこと思いつくのよ」
「だから、俺のとどう違うのかって気になったんだよ。お前柔らかいから」
「ッな」
言ったきり、何故かシルヴィアが固まった。何だよ俺変なこと言ったか?
「シルヴィア?」
動かないところを覗き込んでみる。
見開かれたままの瞳に俺が映ってんな。とか考えた瞬間、シルヴィアは急に顔へ血を上らせて、
「……や、っバカ離してよこの変態スケベ!」
顔を思いっきり背けられた挙句、じたばたと暴れだしやがった。
「何だよ急に! いて、暴れんなこら!」
「ばかー!!」
シルヴィアの渾身の握り拳が迫ってくる。咄嗟に首だけで避けて、頬すれすれをびゅっとか風を切っていくそれを掴み取った。
もう片方もどうにか動きを封じたものの、いまだエッチだの変態だのわけわかんねーことをわめき続けられたので、
「何なんだよお前、はっ!」
力いっぱい掴んだ両手首をその場に固定。勢いをつけて頭突きをかました。
「がっ……」
うわ痛ぇ。普通に痛ぇ。何でこいつこんな石頭なんだよ。
ただ悲鳴すらあがってないところをみると、向こうもそうとう痛かったらしい。でも絶対俺の方が痛いぞこれ。ガンガンする。こんなん初めてだ。
「……な」
しばらくしてじんじんする痛みが少しだけ引いてきたところで、シルヴィアがようやく言葉を発した。
「なにすんのよあんたは――ッ!!」
涙目でマジギレ状態で抗議された。つーか、泣きたいのはこっちだ。
「うるせえ! こっちだって痛えんだよ!」
「何開き直ってんのよこのバカ! 変態! いいからその手離しなさいよ!!」
「離したらどうすんだよ!」
「殴んのよ!!」
「離せっか!!」
→
戻る