薄明り
シュッと空気が抜ける音と共に、ドアが開かれた。
宇宙へと出た戦艦の中では、時間の感覚に乏しいが
地球時間で言えば今は真夜中の3時ごろといった辺りだろうか。
マスクを取りながら、ふぅと軽く息をつきデスクライトの灯りを頼りに
愛しい者が眠るベッドへと近づいた。
軍の大佐という立場である為に、仕事時間という定まったものは無く、
当然眠りにつく時間も毎日まちまちで、戦況が落ち着いた頃合を見計らって
睡眠を取るという非常に不規則な日々を過ごしている。
以前は、オレが部屋に帰るまでは起きて待っていたのだが、
何せ何時部屋に戻れるか判らないオレを待たせるのは非常に忍びなかったので、
先に寝ていろ、と言ったのだ。
しかしある日のこと、その日も真夜中に自室に戻った時であった。
少々疲れていたことと、慣れないマスクを着けていた為に
オレは暗闇に目が利かず、デスクの脚部分に脛を打ったのだ。
いくら大佐とはいえ、痛いものは痛い。
思わず声を上げ、愛しい者の睡眠を妨げてしまった。
脛に残ってしまった青痣を見て、少し眠たい声で彼はオレを気遣ってくれた。
「デスクのライト、これからは点けて置きますね。」
そんなすこし間抜けなコトがあって以来、
どんなに真夜中に自室に戻っても、デスクライトの薄明りがついているのだ。
その薄明りに浮かぶ、栗色の髪の毛を梳く。
綺麗な紫暗の瞳を見られないのは些か残念ではあるが、
ずり落ちた毛布から除く滑らかな白い肌、それに浮かぶ鬱血を見ると
またどうしようもない愛しさがこみ上げてきた。
こんなところ、アイツらにはとても見せられないなとやや自嘲気味に笑いながら
ずり落ちた彼の毛布を掛け直し、髪に軽くキスをする。
「さて、と。」
寝る前にシャワーを浴びようと、ベッドから腰を上げようとしたとき、
くん、と軍服の裾が引っ張られた。
「おかえりなさい。」
てっきり寝ているとばかり思っていたのに。
俺が起こしてしまったのか?と聞けば、むくりと身体を起こしながら「違う」と答えた。
デスクライトの薄明りに、白く浮かぶ艶めかしい身体。
女のような豊満な胸も、柔らかさも無い平淡なものだけれども。
そんな細い腕を俺の首に廻し、抱きついてきた。
「…どうかしたのか、キラ?」
オレの問いかけには、ただ首を横に振り答える。
首への捲きつきを一層強くしたキラに目を細め、
オレはあやす様にキラの背中を撫でた。
「…戦闘に出たんでしょう?」
俺の肩口に顔を埋め、少しくぐもった声でキラは言った。
背中を撫でていた手が、一瞬止まる。
緊急時を除いては、ブリッジでの音声はここへは通ってないはずだ。
「どうして、俺が戦闘へ出たと?」
質問に質問で返すのは卑怯かもしれない。
といって、別にキラに嘘をつく気もないし、
オレがこういった聞き方をするということは、キラの質問にYESと答えているのと同じだと
いうことは、キラもわかっているはずだ。
「貴方のことで、わからないことなんてないですから。」
肩口から顔を上げ、俺の眼をまっすぐ見ながらキラはそう答えた。
薄明るい部屋の中でも、一層輝く紫色の瞳。
そこから目を離す事が出来ない、吸い込まれそうなその瞳で
見つめられたら、心の中でさえも読み取られてしまいそうだ。
「なーんて。ホントは。」
悪戯気に笑うキラ。
全てを見透かされそうな紫暗が、小悪魔のように惑わす色へと変化する。
汗のにおいがしたからです、と
オレが戦闘へ出たとわかった理由を吐露した。
「あ、スマン。シャワーまだなんだ、すぐ…」
「いいです。」
「え?」
「このままで。」
お互いを見詰め合ったまま。
唇を、触れ合わせる。
きっと、これから先もキラは「戦闘に出るな」とは決して言わないだろう。
言いたいのだけれど、言わないのだ。
宇宙を駆けることが出来ないオレは、翼をもがれた鳥と同然であることをわかっているのだろう。
本当に、オレのことなら何でもお見通しなんだな、と思い
キラをベッドへと押し付ける。
「デスクライト、消す?」
薄明るいとはいえ、灯りが点いているところでするのを嫌うキラを見下ろした。
その質問に一瞬考えるかのように間をおく。
オレの軍服の前を解きながら、キラは俺の首に腕を廻した。
「…このままで。ムウさんがまた、脛ぶつけると困るでしょう?」
からかうように、くすっと笑ったキラの唇に、
かわいくないなと、噛み付くようにキスをした。
オレだって、お前のことなら全てお見通しなんだぜ。
そう、愛しいキラの耳元へ囁きながら。
俺たちの未来は、眩しいくらいに明るいのだと。
今はまだ、この薄明るい部屋の中で、俺たちは二人でいることのシアワセをかみしめた。
end
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「薄明り」…ネオキラ話です。ずっとずっと書きたくて。
普通にフラキラでも良かったんですけど、せっかくだから旬なモノをと。
とにかく今ネオキラ祭りなんで、私自身が。
18歳と30歳ですか?…イケナイ感がより一層深まって萌えですねv
だって10代と30代…計り知れないジェネレーションギャップ(爆)
あ、でも性欲なら10代にも勝ちますね、ムウさんなら。 |
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