チョコより甘く
苦い君。 (1)
愛機のゼロと、地球用戦闘機・スカイグラスパーの整備をようやく終え、
少し遅めの昼食を取るために、食堂へと向かった。
今日のメニューはなんだろうな?と、ポケットに手を突っ込みながら考える。
食堂に近づき、本日のメニューを予想しようと鼻をひくつかせたが、
料理の匂いよりも、食堂からの喋り声が先に耳をついた。
軍艦にはあまり似合わない少年少女たちのお喋り。
不幸にもザフト軍との戦闘に巻き込まれ、地球軍の艦に乗ることになってしまった学生たちだ。
初めは彼らの存在に違和感を感じたものだったが、今となっては彼らの明るさは癒しとさえなっている。
それにしても、今日の会話は一段と盛り上がっているようだ。
本日のメニューを予想することよりも、彼らの会話の内容が気になって仕方がない。
んーオレもまだまだ若者だね、と自嘲的な笑みを浮かべつつ、食堂の入り口をくぐった。
「何の話で盛りあがってんの?」
カウンタで受取ったランチプレートをテーブルに置き、
俺はキラの向かい側でトールの右横に座る。
「あ、少佐。今から昼食ですか?」
「ああ、整備に少し手間取ってね。」
トマトサラダを頬張りながら、問いかけてきたミリアリアにそう答えた。
プチトマトのヘタを口から出しながら、俺はさっきの質問を再び繰り返すと、
ミリアリアが真剣な顔をして身をテーブルから乗り出し、こう言った。
「…少佐。もうすぐ何の日かわかりますか?」
あまりに神妙な面持ちのミリアリアに噴出しそうになるのを堪えつつ、
なんか特別な日でもあったか?と思考を巡らせた。
2月。
寒いということくらいしか思いつかないな…
アジアのどこかの国で2月には季節の節目を祭る日があるというのを聞いたことはあるが、
そんな行事は全世界にとってメジャーであるはずがない。
しばらく悩みに悩んだ挙句、俺は答えた。
「…猫の、日…か?」
「「「「…」」」」
「ぷっ…」
沈黙を破ったのはトールだった。
一瞬静まり返ったテーブルが、一気に笑い声の渦に巻かれる。
流石に俺だって「猫の日」が正解だとは思ってないが。
ひとしきり笑い終えたらしく、目じりに笑い涙を残したトールがすこし呆れたように言った。
「バレンタインデーですよ。」
「…あ。…そういわれれば、そんなモノもあったなぁ。」
すっかり忘れていた。
日々戦闘への緊張感に包まれているこの軍艦の中では、
カレンダーは単なる日付にしかすぎず、このようなイベントはおろか季節感さえもあまり感じることはない。
パンをかじりながらそんなことを考えていた時。
「…ヒドイ」
「へ?」
「…バレンタインデーって言ったら、女の子にとっては一年の内で最大のイベントなんですよッ!」
あまりのミリアリアの気迫に圧されて、噛り付いていたパンをプレートに落としてしまった。
「まあまあ、落ち着きなよ、ミリィ。」
学校で言えば学級委員肌なサイが、肩をわなわなと震わせているミリアリアをなだめている。
そんな微妙の険悪ムードを察知してか、はたまた無意識なのか、
相変わらずのマイペース口調でトールが言った。
「フラガ少佐って、たくさんチョコ貰ってそうですよねー?」
「そ、そうですよね!少佐ならお返しも仕切れないほどに貰ってたんじゃないんですかー?」
この雰囲気を少しでもよくしようと、サイがトールの質問に便乗して、話題転換をはかろうとしているのがよくわかる。
彼らの努力に報いてやろうと、俺も調子をこいて答えてやることにした。
「んーまぁね。でも貰う也の辛さってモンがあるんだぞ?
お返しはもちろん、一応は食べないとまずいワケだし?
それで虫歯になって歯が食いしばれなくて、戦闘中困ったこともあったかなv
それから…」
ガタンッ。
突然席を立つ音がした。
「ん、キラ?どうしたんだよ?」
不審に思い、トールが問う。
既に、食堂の出入り口へと歩き出していたキラが、少し俯きがちにこちらを振り返り、言った。
「あ、…ボクまだ整備が途中だったから…戻るよごめん。」
それだけ口にすると、キラは早々に食堂を出て行ってしまった。
「どうしたんだろうな?キラ。」
キラの行動に疑問を持ち、目を合わせるトールたち。
俺にはキラの行動の意味が分かってしまった。
コレだから、アイツは…。
「…かわいいなぁ」
「え?なんですか?少佐。」
ミリアリアが今度はこちらへと不思議そうな瞳を向けてくる。
口に出したつもりはなかったのだが、どうやら思っていたことが出てしまったみたいだ。
「ん、いんや。なんでもない。…さーて、俺もそろそろ整備に戻るかな?」
だいぶ前に食べ終えてしまったランチプレートを持ち、席を立つ。
お前らもそろそろ仕事に戻れよ、と俺は食堂を後にした。
続く。
**************************************************************************
バレンタインデーノベルです。
こういった行事でノベルを書くのは初めてなんで結構ドキドキしてます。
アリキタリですけど、結構楽しいもんですね☆
お話の設定としては、ムウさんが大尉から少佐になる間の時期ということで、
書いていたんですけど、どうやら、去年の今頃は既に砂漠編に突入していました。
ま、その辺の細かいところは無視なさってください(願)
|