DAYS GONE BY
前の俺やったらどうしてたんやろなぁ…? 季節はもう冬、そして十二月に入った。 十二月と云えば、中学三年にとっては受験に追われる時期だ。 冬休みなんてない。勉強勉強勉強で体の鈍ってしまう時なのである。 しかし、俺にはそんなん関係ない。だって、エスカレーター式の学校なんやから。 そこそこの成績やし。ま、でもそんなこと云っとってもなぁ…下手な成績やと危ないねん。 やから、最近岳人と図書室で放課後勉強するようになった。ま、所謂学内デートって感じやな。 「あ〜明日から期末試験だと思うとウゼ〜なぁ〜…」 岳人が大欠伸をして大きく両手を上げて伸びをしながら愚痴を溢した。 その岳人の愚痴に俺は頭をポンポンとして宥めた。そうすると、岳人はいつもの笑顔の表情に戻った。 これで一安心である。俺はこの笑ってる岳人の顔がめっちゃ好きやねん。 「…げ、俺図書室に辞書忘れてきたっぽい…侑士、ちょっと先歩いててくれ〜すぐ追いつくから!」 もう少しで下足箱だという所で岳人がそう云った。しゃーないなぁ…と呆れつつも顔は苦笑いというより笑っていた。 自分一人だけ一足早く下足箱に着いた。そうすると、観に覚えがある人物が二年の下足箱前に立っていた。 「あ、忍足先輩。今日も図書室で勉強ですか?お疲れ様です!!」 ニコニコ笑顔で俺に挨拶してきたのは鳳だ。本当、しみじみコイツの笑顔って爽やかやなぁ…と思う。 俺もこんな爽やかな笑顔…出来へんな。あぁ、考えただけ無駄や。止めややめ! 「…それにしても、おっそいなぁ〜日吉……」 俺はその言葉を聞いて今まで考えていたアホな事が吹っ飛んだ。 日吉という単語を聞くだけでこんなにも感情を露にし、気持ちが揺れる。余裕が無さ過ぎる。 「そうだ、先輩日吉見ませんでしたか?本返しに行くって図書室に行ったっきり帰って来なくて…って先輩!?」 鳳の話を最後まで聞くことが出来なかった。本当、つくづく最近の自分の余裕の無さに吃驚しっぱなしだ。 俺は図書室に走った。とても嫌な予感がする。そういえば今日は…日吉の……。 ――ドクンッ! 心臓が激しく音を絶てて鳴った。ドクドクと血液が逆流するような感覚に襲われる。 どうしてこんなにまで俺は日吉に対して怯えているんだろうか。自信がないのだろうか。 ――ガターン!! 図書室の扉の前に着いたら中から凄い物音がした。 顔面蒼白とはこの事をいうのであろうか。血の気が一気にひいていっている。立ちくらみがする。 だが、ここで倒れるわけにはいかない。この室内に入って事実に向き合わなければ。そうしなければ…負け犬だ。 ――ガラッ!!!! 俺は扉を開けた。そうしたら、案の定予想していたようなビジョンが目の前に飛び込んできた。 無言でつかつかと中へ進む。日吉の表情は冷たく、岳人の表情はとても混乱しているように俺には見えた。 「…に…しとき……」 俺は小さな小さな声で呟いた。二人には聞き取れていないだろう。 俺にもよう解らん。それくらい、自分自身も己を見失った状態だったから。 「…いー加減にしときぃや、日吉…ッ!!」 その小さく呟いて数秒も経たない内に俺は日吉の胸倉を掴み、大声で叫んでいた。 その声はというとホール並みに広い図書室に響き渡るくらいの凄まじい叫び声やったろうと思う。 「俺は岳人が好きで岳人は俺が好きなんや!よう覚えとき!!」 大きな声でこんなに感情を出して叫んだのは初めてじゃないだろうか? そんな叫んでいる自分を客観的にみる内なる自分がいた。混乱している自分がいたのだ。 「…もう、邪魔するんやないで…解ったな?」 どこからこんなにも低い声が出ているのだろうか。背筋が凍る様な低い低い声。 胸倉を掴まれた日吉は首を縦に振っていた。そりゃ、こんな声で言われりゃ誰でも振るだろう。幾ら好きな言葉が下克上な日吉でも。 ■ ■ ■ 図書室を後にした俺と岳人。下足箱で日吉に待たされている鳳に日吉の保護を頼み帰路についた。 岳人は一言も喋ってくれない。どうしたんやろか…俺…何も拙い事云ってない思うんやけどなぁ…何でや? 「なー侑士ぃ〜」 岳人がやっと口を開いた。俺は岳人に目線を落とした。 「ありがとな…嬉しかった……」 上目遣いで岳人は俺を見つめた。そして、背伸びをして俺の口に軽くキスをした。 「こんなん、感情露にするん岳人だけやで」 「そーでなきゃ、困るっての」 冬空の帰り道。 空はどんよりとしているが、俺達の心は澄み切っていた。 ■ ■ ■ 以前の侑士のままだったら、俺はどういう選択を下していたのだろうか? それは俺だけが知っている。これからも誰に告げるつもりもない。云う必要性もない。 だって、過去のことよりも現在が大切に決まってるから。 俺には忍足侑士が大好きだという現在だけで十分だ。 終。 日吉誕生日祝ってるって云えるのか?あ、でも誕生日にこういう事がちゃんと決着ついてるからある意味…ね? とにかく云っておこう!日吉若くんお誕生日おめでとう!鳳くんの胸をかりて大いに泣いてくれ!(え) 以前の忍足ってのは中篇でちらっと出てきてた「女を何人泣かせてた〜」とかそんな感じ?後、感情を出さない忍足ね。 今回の話はとにかく彼氏の癖して全然自身ない、余裕ない忍足を描きたくて。相当、感情を表に出して頂きました。それが出来て満足だ! 岳人と忍足の二人はラブラブってことです。忍岳ラブvvなのです。結構甘々な感じで終わったと思うのですが…どうでしょか? これからは中途半端なのを細々と解消予定。駅伝マラソン大会、いい加減頭ん中で出来てんやから更新しろよ自分…。 20040124戒堂訛音