夜、テレビを付け、いつも見るニュース番組を見ていた。ソファーに腰掛け、膝を組み、腕を交差させる。 何時の頃からだろうか、政治家なんかがインタビューに答える時の風景が変わった。 昔は一言一句を聞き漏らさないと云わんばかりの表情をした、記者たちが映し出されていた。 目線を政治家にやったと思えば、手に持つメモ帳に凄まじいスピードでメモを取っていく。 今はどうだろう? ICレコーダーという便利な物が開発された関係で、政治家の顔の隣にはICレコーダーと記者の手が映るのみだ。 味気ない光景だ。あの記者の必死な表情が、ニュースを作るだとか新聞を作り出す緊迫感の様な物を感じさせていたのに。 だが、そんなことも云ってられない。世の中は変わったんだ。時はもう21世紀になってしまったのだ。 実際、俺の部室にも、世界遺産物よりも明らかに近未来物の方が溢れている。しかも、一人一台の割り当てだ。 「贅沢だ」 アイツの言葉が頭をよぎった。その事により、無性に奴の声が聞きたくなった。 get away 「何だよー今すっげぇ〜良い所なのに」 神尾の事だ。今日から始まった新番組の連続ドラマでも見ていたのだろう。 以前、「あの子超可愛いんだぜ〜」と云っていた女優が主役だったはずだ。コイツが観損ねるなんてヘマはしないだろう。 「用件があるなら早く云えよ!ドラマ終わっちまうじゃねーか!!」 やはり予想した通りだ。その予想が当たって何か俺はとても嬉しい気分になった。 神尾のない頭の事くらい、想像するなど容易い事なはずなのだが、今日はとにかく嬉しくて仕方なかった。 「あーとーべー!お前嫌がらせで電話してやがるなーッ!」 苛々した神尾の口調で、耳が擽られる様な感覚を覚える。 その苛々した声から怒っている表情まで想像できるから、尚更面白く、楽しい。 「明日、お前の市にある図書館に行く。夕方六時までに来い」 さらっとそう告げると神尾は焦っていた。もう一回云え!もう一回!と促す。 スピーカーから何か探すような、ガサガサガサガサという物音がし出した。 「メモ、メモ…あーっ!このペンつかねーッ!」 メモ紙とちゃんとそのメモを取ることが出来るインクが十分入っているペンを、必死に探しているらしい。 その様子を聞きながら、ふとテレビに目をやると、ICレコーダーに囲まれる政治家が映し出されていた。 「あった!あった!跡部、もう一回さっきの云ってくれ〜」 何だ、ここにいるじゃねーか。 「…あぁ、テメェの市の図書館に六時だ。遅れるんじゃねーぞ」 味気ない、殺伐とした、そんな状態を神尾から感じることはない。 生活環境とかそういうことではなく、神尾自身、神尾アキラという人間に対してだ。 「遅れる訳ねーだろ!あの図書館なら不動峰からリズムに乗れば10分かからねーぜッ!」 だから、俺はコイツに興味を示して、今の関係に至るんだ。 嗚呼、今更ながら解った自分が我ながら恥ずかしい。頭は良いはずなんだがな。 「それじゃー明日なー跡部〜」 明日、俺は神尾に会う。神尾も俺に会う。 明日、俺は年を一つ重ねる。神尾との同い年も今日迄だ。 明日、俺は明日神尾を抱きしめる。神尾も俺を抱きしめる。 何時の間に、こんなにも想いが募った? 俺の心レベルは、まだまだ近未来に近づけそうもない。 己の素直な想いに対して、鈍すぎだ。 了
跡部景吾くんお誕生日おめでとう〜!これからも俺様で居てください。
凄く久しぶりのssの更新…それが跡部の誕生日なんですけど…どうなんだろう?な文章ですね(苦笑)
自分的にはまぁ…こんな跡部も有だろうと思うんですけど。神尾に恋する、けど素直な気持ちが自分で中々気付けないみたいな。
そういうのを書きたかったんですけどね〜読んで下さる皆様にそれが伝わればこれ幸いです。
宜しければ是非、感想などweb拍手や、メールフォームからお知らせ下さいvv 20041005陵灯呂