G線上の感情


最近雨が続いている。
なので、必然的に室内筋トレ、素振り、ストレッチという味気ない練習が行われている訳で。
梅雨に入るにはまだ早すぎる5月半ば。今日も雨が降っていた。

「よし、本日はここまで。クールダウン後各自解散!」

「はい、お疲れ様でした!」

クールダウンする屋内から、雨を見つめた。
キュッキュッという室内履きの音が響く室内と、ザアァーッと激しく降り注ぐ雨。
ここ何日ずっとその状況を見て聞いていて、正直少し苛々が募っている様に感じる。
思いっきりコートで走って、ボールを追いかけて、ジャンプしてスマッシュを決めたい。
しかし、雨とか雪とかそういう天気に関してはどう足掻いても無理なものは無理なのだ。
とにかく出来ることと言えば、明日晴れろ!と思って願うのみ。

クールダウン終了後、部室に戻って早々と着替えを済まし一人外へ出た。
いつもならチャリだが、雨の日は歩きだ。
雨の日のチャリは滑りやすいし、怪我でもしたら大変なので乗らない様にしている。
ウォークマンを聴きつつ、鼻歌を歌いながら歩く。相変わらず雨は止む気配はない。
と、10分ほど歩いただろうか。見覚えのある奴が、電柱下に佇んでいた。

「お前何やってんの?」

雨の音で聴こえなかったのだろうか。真後ろにいるというのに、奴は振り向かない。
俺は少しムッとして、ずいっともう一歩進んで声をかける。

「海堂!」

そう呼ぶと肩をビクッと震わせ、勢いよく振り向いた。

「お前、雨降ってんのに何や……」

俺は海堂の背中で隠れていた所を覗き見して言葉を止めた。

「何だ猫かよ。首輪あるしこいつノラじゃねーなぁ……」

俺はニャーニャー鳴く首輪付き猫の、首根っこを掴んで抱え上げた。

「桃城、お前そんな乱暴な抱え方してんじゃねー!」

ギロッと海堂が睨んでくる。
確かに少々乱暴だったかとも思うが、じたばたされて逃げられでもしたら面倒だ。
俺はその言葉を無視して、バッグの中からタオルを取り出して猫をタオルで包んでやった。
そうすると、海堂の表情も幾らか和らいだ様に俺には見えた。

「…で、海堂。この猫どーすんだよ」

「…オイ、お前が勝手に抱きかかえといて何いってんだ」

いつもの調子で問いかける。そうしたら、奴が気分を害するのは解り切っているのに。

「…悪い悪い、冗談だ」

「冗談?本当、てめぇその猫の事考えてやってんのか!?」

遠まわしに遠まわしにしか言う事が出来ない。何て不器用なのだろうか。

「…はいはい、ごめんなさいね〜俺はこーいう奴だから諦めろって」

「…もうお前と話す時間が無駄だ。かせ!」

海堂がタオルごと猫を奪い取った。そして、愛おしそうな顔をして猫を見つめた。
ほんの一瞬だった。その一瞬から俺は猫に嫉妬を覚えた。

「おい海堂待てって!俺も交番まで一緒行ってやるから」

「テメェは来なくて良い。さっさと家帰りやがれ!」

猫を抱えているので、傘がうまくさせずに若干ふらふらして海堂は歩いていた。

「…だから、強がってんじゃねーっての」

俺は海堂の左手に握られていた傘をぶんどり、俺の傘で海堂を満たしてやった。

「…桃城!何しやがる!!」

「これも猫のため。それなら両手で猫抱えられるだろ?」

その言葉に海堂は黙って頷き、両手で猫を抱き抱えた。
そして、俺は最大級の嘘をついた。猫のためなんかじゃない、この行動は自分の『エゴ』だ。

無事交番に猫も預け終わった頃には、雨脚も収まっていた。

「明日、晴れると良いなぁ…」

ぽつりと俺がそう呟くと、海堂が空を眺めながらこう言った。

「明日は晴れる。猫が…顔撫でてなかったからな……」

「…撫でてなかったら何で……」

と揶揄してやろうかと思ったが、途中で止めた。
何故なら、あまりにも見上げた空が澄んでいたから。


□ □ □


そして、次の日。天候は雲一つない晴れ。待ちに望んだ快晴だった。

「良かったな晴れて」

着替えてコートに出ると、珍しく海堂から話し掛けてきた。

「何言ってんだ。お前が良かったんだろ?」

俺がそう返事を返すと、海堂は眉間に皺を寄せていた。

「…誕生日に晴れて良かったなって言ってやってんだよ」

後ろを向いたまま、振り向くことは無理だ。これが今俺の精一杯。

「…あぁ、まぁ…そうだな……」

海堂も俺に背中をむけたまま返事をした。


互いに目を見て、正直になれる日は来るんだろうか。


その日が来れば幸せに俺はなれるんだろうか。


その日が来れば奴も幸せになれるんだろうか。


この背中合わせの状態から、脱する勇気が欲しい。
そう、考えながら、思いながら、今日一発目のスマッシュを決めた。


了

かなり久々の更新…。11日という日付をみていて、何かとても大切な事を忘れている気が…と思っていて。
ある方の日記を読んで思い出しました。いかんいかん…本当、焦った。今度からカレンダーに赤丸つけておきます…あうう。
今回は桃城一人語りですね。ライバルとは違う感情に気づき戸惑い、素直になれない状況です。
けど、誕生日おめでとう位は…と思ってる癖に結局は素直におめでとう言えてないんですよね。嗚呼、これでこそ青春ッ!
こういう一歩踏み出せない二人が良いです。沢山悩んで傷つけ合って、最終的にはラブラブでいて欲しい。
因みに猫が顔を手で撫でていると次の日雨ってかなりの確立で当たります。天気予報より正確です。
しかし、やっぱりライバルって良いな〜お互い意識しあってるって素敵すぎ! 20060511 陵灯呂

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