桃城の試合を見ている時に、海堂はどう思って見ているのかなーと思っていて。その妄想がこの話を作りだしました。Hope Kon futuristic
流れる血を観た時、真っ先に浮かんだのは己自身。 目の前に自分が立っている様で…否、あの時の自分自身と重ねて観ていたのだろう。 血を拭い、奴は試合に望む。目の離せない白熱した試合が繰り広げられた。 そう思わせる試合をしている奴を、心のどこかで認めることが出来ず。 一時、目を瞑ろうとする自分がとても子どもじみていて「…バカか」と鼻で笑ってしまった。 だが、現実は瞬きをするのも勿体ないと思い、一度たりとも目を瞑る事はなかった。 ゴクリと音を立てて息を飲む。フェンスを握る手が強く、手にじわじわと汗が滲み出ているのが感じ取れた。 「ウォンバイゲーム忍足 6−4」 その審判の声を聞いて、フェンスを握っていた手の筋力が全て抜け落ちた。 掌には、握りしめていたフェンスの形がくっきりと残っていた。そして、その形をじっと俺は見つめる。 こんなにも熱く…何を思っていたんだ。 こんなにも熱く…何を考えていたんだ。 こんなにも熱く…何を観ていたんだ。 自己嫌悪、苛立ち…そして、何よりも大きいのは羞恥心。 掌を見つめ続ける事によって、誰にも今の状態を観られることはない。 自分は今、途轍もない表情をしているのが解る。自身で解るから顔を上げる事が出来ない。 しかし、そんな時間はない。そんな時間稼ぎはできない。 「…すみませんでした……」 と、その時、俯いていた自分の目の前で力無い声が聞こえてきた。 自然と顔を上げて、その声を発した先程まで試合をしていた人物を見つめた。 瞬間、今までの気持ちがまた違う気持ちに打ち消された。 「…早く救護テント行ってこい」 俺は頭を下げる桃城にスポーツタオルを被せた。 「…っせーな、んな事言われなくたって解ってるっての」 桃城は、俺が被せたスポーツタオルで血をがしがしと拭いながら目線を向けてきた。 「…手当が終わったら、黙ってベンチに座ってろ」 バンダナを締め直し、先程フェンスを握りしめていた力より強くラケットを握りしめる。 「…俺は、勝つ……」 カリは返すだとか、恩着せがましいことは言ってやらない。 そんな言葉は、俺もお前も嫌いだという事は良く解っているから。 「…あぁ……勝てよ」 俺もお前が目を離せないと思える試合をしてやる。 そして、俺の試合が終わった後、頼むからそれ以上情けない顔をしないでくれ。 「勝利」という結果を必ず残すから。 認めたくないし、考えるだけで吐き気がするが、お前はやっぱりそんな表情は似合わない。 今俺はお前の笑顔が無償に観たい。 了