文化祭の回 10月9日 暦先生の結婚式から5ヶ月・・・。季節はもう秋。 そして秋といえば大イベントの一つがある。そう、文化祭だ。 祭り好きな風見学園のことだから(クリスマスの時といい卒業式の時といいパーティーが多すぎる) また大いにやるだろう。 かったるい・・・そう朝倉広樹は思いたかった。 広樹:「・・・で、またこの季節が来たと。」 ことり:「うん・・・。」 広樹は声楽部である部室である音楽室に来ていた。 声学部のメンバーは四人。まず学園のアイドルであり、広樹の恋人である白河ことり。 ことりの友達であるともちゃんとみっくん。そしてマネージャーである広樹。 声楽部が文化祭でやるのは卒業パーティーと同じ生演奏だ。 ことりがボーカルを担当し、ともちゃんとみっくんがアコースティックとピアノを担当する。 卒パ(めんどうなのでそう呼ぶことにする)の練習の時に何度も見た光景。そして野郎どもの的である。 広樹:「んじゃ、俺はあの時みたいにギャラリーの奴らを排除すりゃいいんだな?」 ことり:「排除ってのは物騒だと思うよ・・・。」 ともちゃんにみっくんもうなずく。 広樹:「まぁ、冗談はさておき、とりあえず卒パみたいにやっときゃいいか。」 ともちゃん「ごめんなさいね。こんな事ばかり押し付けちゃって。」 広樹:「いや、別にいいさ。こいつは自分からすすんで引き受けたことだしな。それに・・・。」 みっくん:「それに?」 広樹:「ことりを護るのは俺の仕事だろ?」 それはマネージャーとしてでもあり恋人としてでもある。 ことり:「それじゃあ練習始めようよ。時間がなくなっちゃうよ。」 ともちゃん:「そうね。早く始めましょ。」 みっくん:「うん!」 広樹:「じゃあ俺は廊下の方を監視しとくわ。」 こうして文化祭に向けての練習が始まった。 ここからは朝倉広樹の視点で書かせてもらう。 広樹:「ほい。」 買ってきたクレープをことりに渡す。 ことり:「あ、ありがとう朝倉君。」 時間いっぱいまで練習した後、校門前で二人と別れ、俺とことりは桜公園に来ていた。 今となっては桜公園の桜も全て枯葉だが。 広樹:「ことり、やっぱり今日もあそこで練習すんのか?」 ことり:「うん。あの二人も家で練習してるだろうし、私だけ休めないもん。」 広樹:「前も言わなかったか?それ・・・。」 ことり:「気にしないの。」 卒パの時もことりは練習の後、一人で練習していた。(俺も一緒にいたが) だがことりは体調を崩してしまい、俺は幾度か看病した。 その時だったよな・・・。俺がことりのことが好きだって気づいたのは。 広樹:「無理・・・すんなよ。」 ことり:「うん・・・。」 ことりに無理をさせるわけにはいかない。 ことりが苦しむ姿を見たくない。 だから俺が守る。マネージャーとしてでなく、恋人として。 広樹:「さてと、そろそろ行くか。」 ことり:「うん。そうだね。」 ベンチから立ち上がる。 広樹:「ことり。」 ことり:「何?」 俺はことりにあることを指摘した。 広樹:「・・・・・鼻にクリームついてるぞ。」 ことり:「ふえ!?」 桜公園から幾つもの桜の木を通り抜け、俺とことりはある場所に来た。 枯れずの桜。かつてそういう名前があった場所。 俺が昔秘密基地と呼んでいた場所であり、ことりにとってもお気に入りの場所。 他の桜の木より一際大きいこの桜の木は枯れてもその存在感は一切変わらない。 広樹:「ホント・・・変わんないよな。」 ことり:「そうだね・・・・。」 俺とことりがクリスマスパーティー以来に再会した場所。この枯れずの桜の前でことりは いつも歌の練習をする。 ことり:「みんな・・・私になにを望んでるんだろう・・・。」 広樹:「・・・・・・。」 ことりの歌に、姿に、性格に魅了され、何人もの男子学生が彼女を学園のアイドルと呼んだ。 彼女を高嶺の花とした。 だがあの日、音楽室でことりは体調が良くなく、危うく倒れそうになった時、あいつ等は 失望したかのような視線を送った。 そんな奴等の視線が嫌で、俺は自分がことりのマネージャーなんて嘘をつき、追い払った。 そしてそのままマネージャーとしてことりをサポートする事になった。 そして今は・・・ことりの恋人だ。 ことり:「わ・・・。:」 ことりを後ろから優しく抱きしめる。 広樹:「大丈夫だ。俺がいる。俺がことりのそばにいる。俺がことりを守る。マネージャー としてじゃなく、ことりの恋人としてな・・・。」 ことり:「朝倉君・・・・。」 広樹:「だから・・・心配すんな。」 ことり:「うん・・・ありがとう。」 ことりを抱いていた腕をそっと放す。 ことり:「うふふ・・・・勇気づけられちゃった・・。」 広樹:「勇気づけんのは恋人の仕事だろ?」 それでも多少勇気が必要だったが。 広樹:「じゃあ始めよう。あの二人のためにも。」 ことり:「朝倉君のためにもね。」 広樹:「・・・それは盲点だった。」 ことり:「ではでは、ことり、行っきま〜す。」 なんだか聞き覚えのある台詞を言ってことりは歌い始めた。 その綺麗な歌声で・・・。 10月16日 あれから何度も練習を繰り返し、ついにこの日がやってきた。 風見学園文化祭。希望と野望が渦巻く大イベント。 広樹:「今年は二人で回らんとな・・・。」 卒パの時は手芸部主催のミスコンのせいでことりと回れなかったし・・・。 広樹:「・・・まさか今回もやるのか?」 隣にいる学園一の秀才にして学園一のバカに話しかける。 杉並:「無論だ。ミスコンをやらずして、なにが文化祭か。」 広樹:「はぁ・・・。」 杉並は古い友人、というよりは腐れ縁の悪友だ。 理解不能で神出鬼没で馬耳東風。こんなヤツが学園トップの成績なんだから世の中 間違ってるったらありゃしない。 杉並:「フッ、だが安心しろ。友よ。」 広樹:「安心できるか。」 杉並:「お前のためにミスコンはこの文化祭のフィナーレにしておいてやった。つまり、 声楽部の生演奏までの間・・・。」 俺とことりは文化祭を回れる! 広樹:「よし!!」 嬉しさのあまり叫んでしまった。 杉並:「さて、俺は計画を実行に移さねば。」 広樹:「・・・お前は一体何をする気だ?」 訊いたところで無駄だと思うが。 杉並:「フフフフフ。気にするな。」 広樹:「気にしたところできりがないっての。」 杉並:「あ、そうそう。お姫様は中庭でお待ちだ。早く行ってやれ。」 広樹:「知ってる。」 杉並:「そうか。」 それだけ言うと杉並は去っていった。 杉並:「フフフフフフフフフフフフフ。」 ・・・・・・野心たっぷりで。 広樹:「さぁて、善は急げだ。」 俺は中庭まで走っていくことにした。 ことり:「あ、来た来た。」 ことりは中庭のベンチに座って待っていた。 広樹:「すまん、少し遅れた。」 ことり:「遅れたって、たったの1、2分くらいだけど・・・。」 時計を見ると確かにたったの1,2分くらいしか遅れていなかった。 広樹:「まぁ、遅れたことに変わりはないだろ?」 俺は結構時間に細かい男であった。 ことり:「ははは・・・と、とりあえず行こうよ。」 広樹:「あぁ、そうだな。」 ことり:「おいしいね〜このたこ焼き。」 広樹:「そうだな。たこも結構でかいし味もなかなか。」 俺とことりは出店の定番、たこ焼きを食べていた。 辺りには幾つもの出店が並んでいた。 お好み焼きにチョコバナナ、さらには射的まである。 広樹:「豪勢でんなぁ・・・・。」 ことり「朝倉君、その口調なんか変だよ・・・・。」 広樹:「あぁ、気にするな。いつものことだ。」 いつものことでいいのか俺? ことり:「朝倉君、次どこ行こっか。」 広樹:「ふむ。そうだな・・・。」 辺りの出店を見回すと目に入った出店が一つ。 広樹「ドネルケバブ・・・・・?」 ちょっと待て。 普通祭りの出店(それも文化祭のだぞ)にケバブなんか出すか? などと考えてもそこにあるんだからいいんだろう。(なんつーアバウトな) ことり:「ケバブかぁ・・・行ってみようよ、朝倉君。」 広樹:「は!?い、いいのか?」 ことり:「気にしない気にしない♪れっつらご〜♪」 ・・・んで結局二人してドネルケバブを買ったのだが・・・。 ことり:「朝倉君、チリソース辛くないの?」 広樹:「辛い・・・。でもうまい。」 俺はケバブにチリソースをかけて食べていた。チリソースのこの辛味がうまくて好き なのだ。 広樹:「でもことり、普通のトマトソースでよかったのか?」 ことり:「うん。ほら、私って辛いの苦手だし・・・。」 この通りことりは甘党である。 広樹:「それはわかってるが・・・ヨーグルトソースもあったぞ。」 ことり:「さすがにヨーグルトソースはちょっと・・・。」 広樹:「確かにケバブにヨーグルトソースはなぁ・・・。」 まぁ、世の中にはそのヨーグルトソースをケバブにかけて食うのは当たり前だと言う 砂漠でアロハな格好をした人もいるんだが・・・。 広樹:「ま、うまけりゃいっか。」 ことり:「なんか、単純な答えっすな。」 広樹:「自分でもそう思った。」 ことり:「ははは・・・。」 そんな会話をしながら俺とことりはいろんな出店を回った。 お互いに最高の時間を楽しみながら・・・。 ことり:「結構楽しかったね〜。」 広樹:「あぁ、おまけに色々食えたし。」 学校からの帰り道、俺とことりは二人きりで桜並木を歩いていた。 広樹:「にしても大成功だったよな。生演奏。」 ことり:「うん。練習の成果だよ。」 生演奏は大成功だった。卒パの時と違って本番の時に聞いたのは初めてだったが卒パ の時以上だと俺は思う。 ミスコンに関してはあえて語らない。かったるいから。 まぁ、今回は音夢がいない分多少不評だったらしいが。 ことり:「ねぇ朝倉君。」 広樹:「ん?」 ことり:「今度・・・いつデートしよっか・・・。」 広樹:「そうだな・・・。」 俺とことりにとって今年の文化祭はデートだった。それはお互い言わずともわかっていた。 広樹:「俺はいつでもいいぞ。ことりが望む時、望む日に。」 ことり:「じゃあ・・・・明後日。」 広樹:「やけに早いと思うんだが・・・。」 ことり:「ふふふ。気にしないの。これが私の望む時、望む日。」 広樹:「そっか。んじゃ仕方ないな。」 ことり:「ふふふふ。」 俺の隣で微笑む少女。 その少女の笑顔を見る事が、 一緒にいることがとても幸せだった・・・。 |