石鹸のにおいがしていた
 場所柄、それがどんな意味を持つのかは、重々理解している。
「仕事、ソープ?」
 たった二つの単語で言いたいことは充分に伝わってしまう。
 何度も、生活の一部になるほど慣れた行為なのかもしれない。話題にするのはそれほど難しくもない、はずだ。それでも何も問えなかったのは未練があるからか。

 

 

「シケた面ァしやがって、」

 昼時のファミレスは満員御礼で、不本意ながら甘んじた禁煙席に、当然ながら灰皿はない。物足りないのかストローを噛みながら修兵は恋次を目線だけで見上げる。自然とやぶ睨みのような状態になったが、恋次はこれといった反応も見せず、そーすかね、と呟いた。
「うぜぇんだよ。メシぐらい、何も考えねーで食いやがれ」
「…修兵さん、いつも何も考えずに食ってたんスか」
「馬鹿、寝る時と食う時ぐらいは気ィ抜かねえと疲れるって話だ。おまえ食わねぇんなら俺が食うぞ?」
「わー!駄目駄目駄目、食います食います!」
 あわててかっこんだ丼飯だったが、器官にはりつく米粒に、おもわずむせる。
 汚ねーと顔をしかめつつも修兵はちゃんとコップの水を差し出す。ありがたく受け取って口をつけ、恋次はようやく息をついた。

 窓の外を歩いていく、スーツ姿の男にしなだれかかる有名女子高の制服の女。
 日は高く、徒歩で行けそうな場所といったらラブホテルぐらいしか思いつかない。

「修兵さん、どう思います?」
「おめーが俺に喧嘩売ってんのかと」
「いや、あーいうの見て、っすよ」
 視線で示す先を見て修兵は「ああ」と無感動に相槌を打つ。
「別に何とも。当人同士が売買契約に納得してんなら良いんじゃねえの。ま、法的なモンを抜きにしての話だけど、俺を巻き込まねえように勝手にすれば?」
「…んじゃ、知り合いが、あんなんやってたら?」
「知った時点で手ェ切る。知る前の話だったら流す。…私見だけどな」
 

 修兵の言うことはとても正しい世渡りの方法だと思ったけれど、なかったことにはしてしまえないくらい、あの瞬間、石鹸のにおいは綺麗で柔らかくて彼女に似合っていた。

 恋次はもう何も言わずに残った食事を平らげた。
 今すぐに、何かとてつもなく大きなことが起きて、あの甘くてふわふわした香りなんてどこにもなかったことになってしまえばいい。

 

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