好きでもないのに抱き合ってキスしてたまに寝たりする。汚いのは合うたびお金をくれるひとじゃなく、テーブルの上の札束をバックにつっこむあたしの手だ。ああ、汚い汚い汚いきたないきたない

 

洗わなくちゃ。

 

 ホテルから出ると道路の向こうには黄色い小さな車が停まっていた。
 横断歩道で信号待ちをしていたら、いつのまにか隣には恋次がいた。
「おう」
「ひさしぶり」
「つーかおまえ、何でこんなとこいんの」
「いーでしょーべつに」
「よくねえだろ、平日の昼間に、」
「恋次こそ、」
 まったく、平日の昼間だというのにあたしたちは何をやっているんだろう。
 そういえば恋次の仕事は最近やたらと夜が遅いとこぼしていたルキアの口調をふと思い出した。やさしいあのこに、ここは、どうしても似合わない場所だ。
 石鹸のにおいだってルキアにはきっと、ただただ清潔なものなのだろう。
 恋次がこのにおいにきがつかなければいい、と思う。
  「ひとのこと言えないじゃん」
 まーなー、と恋次は言った。
 否定して欲しかった訳ではないけれど、そうやって肯定されたことに少しのショックを受けた。もうこの話を打ち切りたくて話題を探す。
「ね、あの車可愛い」
「買えば」
「幾らするの」
「知らねえけど、金、貯めようと思ったら貯まんじゃん?」
「ご協力をお願いしますー」
 恋次は困ったような呆れたような顔をしてポケットから何か取り出した
「ガム一個でよければ」
「…いらないって」
 何事もなかったように、恋次の手は包み紙を破いて、小さなつるつるした固形物を口に放り込む。
「あーもーおまえほんと馬ッ鹿じゃねえの」
「恋次に言われたくないよ」

 

 笑って別れたあと私は薬局で一番小さい石鹸を買った。
 ほのかに人肌色をした石鹸は、小さい頃に見ていたものにそっくりだった。だけどにおいはやっぱり嗅ぎ慣れた人工物のそれでしかなく、浴槽のふちですこし泣いた。

 

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