目が覚めて、誰かがこの世界のどこにもいなくて、呆然としない者はまずいない。 ルッテンベルグの獅子が影に憑かれた事を誰が責められるだろう。 もう、戦は終わっているのだ。 いちばん憎い相手の首をとってこようかと、本気ともつかず言い出したヨザックに、コンラートは呆れたような溜息と視線を返した。 「いると思うか、そんなもの」 「まー俺は悪趣味だと思いますけどねェ、そんな物」 「趣味が一致して嬉しい限りだよ」 酒の傍らたのしげに笑ってはいるが2人とも目は醒めたままだ。 それぞれに、何にともつかず苛立っている。本当は、こんなくだらない場所から一刻も早く抜け出したいのだとでもいうように。そうしてそんな互いの胸のうちまで知った上で、飲み続けてもう二時間がたつ。 「…それで」 「はァい?」 「おまえは欲しいのか」 何が、なんていわなくてもわかる。 ヨザックは少しも酔わない目を細めて幼馴染を見返す。なんだか無性に笑いたくなるから、もしかすると頭の中だけアルコールがまわっているのかもしれない。 「とてもじゃないが。…その程度じゃ足りやしない」 半ば吐き捨てるように投げつけられた言葉に、コンラートも唇だけ歪ませる。 「ああ、俺もだ」 おなじころ、は剣の手入れに没頭していた。捨てようと思っていたのだが、ひっぱりだしたら急にできなくなった。惜しむというよりなにか恐ろしかったのかもしれない。 磨くたびに戦の傷痕が、ひとつ、ふたつと削られ消えていく。 剣は誰かの命を奪うために、しらじらと研ぎ澄まされていく。砥石を置き、布でこすると、鋼は徐々にぬくもりをおびる。そうしてあかりにかざせば、曇りのない刀身がそこにある。 しばらく己が成果を凝視して、彼女はやがて鞘を拾い上げる。興味を失った無造作さで収め、部屋の隅に立てかける。 傷痕は消えても憎しみは消えなかった。 憎悪の温度を何度測っても、あんなに簡単に人を殺せる自分自身への恐れは消えなかった。 それでも、あの戦は終わっている。 くすぶり続ける熱を、それぞれの胸にのこしたままに。 |