船が港から離れ行く頃、貴賓室ではひと悶着が起きていた。
「だーかーら、とおれとで交代すればいいだろ!?ヴォルフが床で寝たりしたらそれこそ翌朝が大惨事だって」
「だからといって陛下を床に寝かせるようなことはできません」
「床で寝るのは日本の伝統文化だから何も問題ないよ」
「陛下に問題が無くてもわたしが気にします。ここはニホンではありませんし、まして野営場でもない。何度も言いますがね、陛下、女だから床に寝てはいけないなんて理屈はないでしょう?」
 当初の予定では三人旅、ベッドがふたつ、コンラートとの2人が交代で扉際での不寝番だったのだが、ヴォルフラムという予想外の人員が増えたうえに「二名分」として用意されたのは新婚向けダブルベッドだったのだ。リンはコンラートと同様おおきなソファーで雑魚寝を希望したのだが、妙なところでフェミニストな有利の猛反対にあっている。
「ないけどさあ。女の子をそういうとこに寝かせるのって、やっぱこう、悪い気がするよ」
「ですからわたしは問題ないと…閣下からも何か言ってくださいよ」
 壁にもたれたままなりゆきを静観していたコンラートは、本気で困惑しているらしいと不退転の決意もあらわな有利をみくらべ、いつもどおりの笑顔で口を開いた。
「俺としちゃ、仮にユーリとがいれかわったとして、婚前の男女がひとつのベッドで眠るほうがよっぽどマズイと思うんだけど、そのへんは考慮されてるのかな」
 しまった、と大書きされた顔で有利が硬直し、なにをいまさら、と呆れた顔でが息を吐く。
「…閣下が仰いますか、その台詞」
「健全教育推進派でね。さて陛下、俺からひとつ提案なんですが」
「何!?さすがカクさん、こんな状況まで想定」
「…はしてなかったですけど。まあ、ベッドをこころよく提供してくれそうな心当たりはあるんだ。にはそっちで寝泊りしてもらいましょう。時間になったらこっちにきて俺を起こしてくれれば良い。これで問題ないな?」
「ありません」
 さっさと決着を付けたかったらしいは何も文句を言わずに両手を挙げ、見事な仲裁にユーリはほっとしたように笑っている。コンラートから「心当たり」の素性がまったく提示されていないことに気づいたヴォルフラムだったが、もういいかげん何度目か知れない不快な感覚に、彼はもう口を開く気力も無かった。
 

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