「すげー…俺の船旅経験って、箱根の海賊船とディズニーランドのマーク・トゥエイン号しかないからなー」
「前者はどうか知りませんけど、マーク・トゥエイン号とはまた、えらく短い旅でしたね」
「おれはどっちも知りませんけど、たしか陛…兄さん、前にハコネは山だって言ってたでしょう、なんでそんなとこに海賊がいるんです?乗った経緯は聞かないでおきますが」
「うーん、実際は湖なんだけどさ。ついでに実態は旅行客向けの観光船。全部で四種類あったんだけど、やっぱ西武ファンとしては、ここは北欧の獅子バーサ号だろと思って。…それにしても、おまえほんと…」
 『仕事の一環』で髪を切った女の子は、現在おれと似たような服装をしている。瞳の色はこっちが父親似でむこうが母親似、同じ色に髪を染めれば即席兄弟の出来上がりだ。
「なんです?」
「…いや、なーんでも。特殊技能に秀でた弟を持って兄ちゃん嬉しいよ」
「それはどうも。棒読みじゃなく言ってほしいものですが」
 あたりの人気をざっと確認してからコンラートが苦笑して尋ねる。
「『どうせなら妹がよかった』ですか?」
「なんだ、入れ替わったときにスカートはいても良いのなら、今からでも着替えますよ?」
「あああいやそれは困るッ!」
「残念。おれとしては是非兄さんの雄姿も見てみたかったんですが、まあそれは次の機会にでも」
 したたかな猫みたいな顔で肩をすくめ、彼女もとい彼はタラップの手すりに右手を掛けた。
 どうも耳がくすぐったい一人称にも、きっとこの船旅が終わるころには慣れているだろう。
 

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