アレな剣をとりに坊ちゃんと次男殿と国外へおでかけしてきます、旅先でお会いしたらよろしく。
 先ほどまで聞いていた会話の大筋をまとめて書簡で送ろうと、現在、は苦戦していた。最終兵器の魔剣だとか具体的な国名だとか、細部が万が一にも流出してはあまりに危険だ。同僚に送る手紙でも暗号化は欠かせない。…の、だが。
「どうせなら閣下自分でやってくださいよー…」
 、眞魔国立軍学校卒業生。
 軍学校だけあって芸術系の授業なんてほとんどないのだが、その数少ない詩歌の授業時間に、教師から「おまえは文官を選択しなくて正解だった」といわれた経歴の持ち主である。同級生以外には知られていない秘密は普段まったく重みを持たないが、こんなときには恨めしい。
 ちらりと時計を見れば、出航予定まで残すところ二時間。準備を考えたらもういいかげん机から離れないといけない。短い付き合いではないのだし、もちろんこのままでも先方は理解はしてくれるだろうけれど。
「…笑われる、絶対…」
 だいぶ前に「お土産」と称して持ちこまれた、目と口の強調されたウサギの絵を眺め、は複雑な溜息を吐き出した。「なんか奴に似ていたもんだから思わず」とコンラートは笑っていたが、それを自分の手元に置かないところにいろいろと文句を言いたい。
 どうせ渡すなら本人に渡せばいいものを。
 そう言ったら「じゃあおまえから渡しておいてくれ」と返るのだ。これでまったく含みが無いというのなら、本格的な人間不信に陥りそうな予感がする。
「ああもう!」
 ウサギを睨みつけ、は常日頃の彼女らしからぬ乱雑さでペンを掴んだ。
 新稿の書き出しは数年前からお決りの一説だ。
 
「拝啓ロジャーラビット。ご機嫌は如何?」
 

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