「影武者ぁ!?」 ってお銀とか弥七とか飛猿とか…いや、でも御老公に変装してたことあったっけ?どちらかといえば桜吹雪の御奉行が下町に出ている間城内に残っているひと、のほうが正しいかもしれない。 コンラートが頷いた。 「申し訳ないんですが、予測に限界がある以上、百パーセントの安全を保障するのは無理なんです。いつどのような事態が起こるか判りませんからね。肩代わりできる存在があればありがたい」 「そう言ったってさあ…たしかに身長とか何とか、他の皆さんより俺に近いよ?でも顔も髪の色も全然違うじゃん。あっわかったもしかして凄い変装アイテムがあったりすんの!?」 「いえ、残念ながら」 苦笑するようにが答える。 「ただ、陛下の特徴として一番知れ渡っているのは『双黒』の御方であるという事です。そこさえ抑えておけば、まあ、六割方どうにかなるでしょう。さすがに御顔の再現は難しいですけれど、化粧次第で『なんとなく』程度には似せられます」 「襲撃時に一瞬ためらってくれれば、それで充分だ。要人の影武者なんてそんなもんですよ」 プロの意見に素人の高校生が口を挟めるはずもない。そんなものかと頷くおれに、ウェラー卿は貴族らしからぬ含み笑いで「現に今だって」と続けた。 「ユーリはに騙されていると思うけど」 「閣下!」 抗議の声を上げるをちらりと見て、コンラッドが軽く肩をすくめる。 「俺だって引っかかりそうになったんだから、せめてそのくらい言わせてくれ」 「仕事の一環であって自分で意図した結果じゃありませんよ。…まさかとは思いますがどこかの誰かと一緒にしないでくださいね。私にはあんな妙な職業病はありませんから」 「…あのーおれには話がサッパリ見えないんですけどー…」 「これは失礼を。陛下、先にお断りしておきますが、騙すつもりは毛頭ありませんので」 「嘘と変装は諜報の花だっけ?」 「それは私じゃなくて…ああもう、閣下はちょっと黙っててください!」 気のせいか饒舌になったが眉を寄せて息を吐く。まぜっかえしてからかうコンラッドなんてはじめてみたが、何なんだ、その格言は。 「改めまして陛下、私の名前は・と申します。同じ名前の男性がまったくいないとはいいませんけれど、というのは女性名です。ちなみに私は多数派のほうで」 「あーそうなんだ…って嘘だろ女ァ!?だってその服、男、男じゃん!」 の服装はといえば、デザインとしてはヴォルフラムの普段着を簡素したものにちかいかんじだった。コンラッドほど機能的というわけでもないけれど、とりあえず男物だ。短い髪の下、ほとんど黒みたいな濃紺の瞳が苦笑する。 「まぎらわしい格好で申し訳ありませんでしたね。この髪型にしてからというもの、まっとうな服を着ると同僚がうるさくて」 「ああ確かにその髪じゃ仕方ねえよな。おれが女物着たって変態だし…ん?でもは女だけど男物着て普通に似合うんだよな?あれ?」 「だからそこが技術なんだよ、ユーリ」 とても説得力のある笑顔でコンラッドが答えた。 「演技も変装も彼女の特技です。背格好だけじゃなく、髪と瞳の色も陛下に近い。とりあえず俺としては最高の人材を選んだつもりだ」 「そういうわけで陛下、どうぞお傍に置いてくださいませ」 きわどい台詞に胸ときめかせる高校生に、あくまで爽やかに保護者兼ボディーガードは言う。 「寝所はきちんとわけてありますからね」 「はは…なんだー残念…」 まったく含みのない笑顔でも言う。 「ええ、さすがに御婚約者様方の寝所に立ち入るのは、私も遠慮させていただきたいですし」 「何の遠慮だよ何の!」 それ以前に男同士で婚約が成立するのかというツッコミをいれてくれ、誰か。 |