体中が痛い。焼けるようだ。 意識さえもがときおり揺らぐ。なぜ、ここにいるのだろう。 それでも握り締めた得物だけは離さなかった。単に筋が固まってしまっただけかもしれない。それはそれで幸運だった。剣を取れなくなったら、最期だと覚悟している。 目の前で驚愕に歪む顔を見る。 ひゅう、と呼吸音さえも聞こえる気がした。血に塗れた男の、口から、声が。 「なぜ、生きてッ」 続く言葉はなかった。 確認もしないけれど、おそらく永遠に失われたのだろう。そういう繰り返しを数え切れずに積み上げて、それでもどうにか崩れぬように、危うい均衡だけを保って、歯を食いしばる。 やがて 荒い呼吸の果てで、 小さな声が呟いた。 「悪いか」 周囲にいのちの気配はなかった。 すべてが赤黒くぬめっていた。 膝が痙攣する。地に伏す。つめたい水が高いところから落ちてくる。 もはや立ちあがる気力もなかった。 「…生きて悪いか…」 戦場では皆が立ち上がれずにいた。死体と生者の区別は誰にもつかなかった。本人でさえも命の存続を疑っていた。次第に激しさを増す雨は人を魔族を隔てなく洗い流してゆく。あらゆる証を。争いの痕跡を。 たたかいは終わったのだ。 やがてふらりと人影が立ち上がり、歩き出す。 握り締めたまま手放せない剣に、縋り、ふらつき。 |