「あたし君のこと好きなの」
 
 野球部マネの中で一番可愛いっつー1年わかる?…そーそー。俺もさーあのこ苦手なんだよね。何てーか、言動に下心見えてんじゃん。ちょっと何笑ってんのさ御柳。…で、俺はきみのこと嫌いだよ、って言っちゃったの。ほら俺ってば正直だから。どうなったって、そりゃーもー先輩達クレイジーだからね。ん?…うん、そうそう。今追っかけられ
あーやべ発見されちゃった

 
 
 
 今まさに目の前でリンチが繰り広げられてるっていうのに静観している俺はたぶんどうしようもないくらい薄情なんだろう。
 被害者はクラスメイトで、加害者は主に2年、あと1年も何人か。
 アンダーシャツを頭からかぶる。腕を通す。
 そうしている間にもバックミュージックは盛り上がってるみたいで、どうやら加害者側のものらしい呼吸が荒くなる。ヤローの息遣い聞いたってキモいんすけど。こんな状況でどうせ聞くなら女の喘ぎ声のがまだマシでしょう。
「ッん…!」
 ああ、うん、こっちのがマシ。
 我慢して悲鳴も出ねーようにして、たまに漏れる声。って表現だけならやばくねえ?つぅかって声変わりしてねえの?場違いだけどエロすぎ。ああ現実なら知ってるがそれがどうした、どうせ女じゃねーけどな!
 着替え終わって振り返る瞬間に奴と目が合う。
 
 
 切れた唇が
 
  動 く 「…こっち見んな 馬鹿」
 
 
 こともあろうに笑いやがった。
 
 
 
 その目が悪い。非暴力とか不屈の精神とか、そういう綺麗なもんじゃない。自分を殴ったり蹴ったりしている奴を完全に軽蔑して傍観者を哂っていた    臆病者  と。
 んな顔させるぐらい生温いリンチに意味なんて無いっしょ。
 むしろ俺はすげえ不愉快なんですけど。
 
 だから
 
 あいつの
 
 
「うぜぇんだけど」
 
 
 その場の視線が一斉に動く。
 俺の唇は勝手に動いて笑ってる。意識は床に近い場所を見ている。
 靴底でこめかみを踏まれながら、は、しずかに目を逸らした。
 
 
「てめェら全員死ねや」

 
 
 火をつけたのはまぎれもなくあいつの目だ。

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