たとえば花束を抱えて玄関先まで来てくれるようなひとがいたら素敵。
それで、たんじょうびおめでとう、と少し笑ってくれれば幸せ。

 注釈を加えるのなら別に彼氏がほしいってわけじゃないんだけど、とは言う。真剣ではないけれど、ふざけているようなところはひとつもみあたらない。きっとこれは「中庸」というやつなのだろう。倫理の教科書をめくって覚えた言葉をあててみる。どちらにも偏りの無い、最高に理想的な平均値。
 自分をふりかえってみたら、ベクトルは好きに向かってどこまでも、どこまでも。
 気がついたらの話はいつのまにか一段落していた。
「どう、この、バースデー企画」
「…主題がまったくみえていなかったんだけど、それが誕生日を祝うためのイベントの概要だと仮定して聞こう」
「仮定じゃなくて決定のほうがいいと思うな。何?」
「誰の?」
 はすうと息をすいこむと、やだなあ、と真顔で首を傾げた。
「そんなの決まってるじゃないか牛尾君」
 君の誕生日だよ、だって。

 そうやって単純な僕は思わず舞い上がってしまう。
 あんまり甘くって花束なんかよりよっぽどむせかえるよ、その台詞。

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