いいわけ

「にじゅうし」
 真顔でぽつり、呟くと、間をおかずに尋ねる。
「早いと思う?それとも、ボクがボクに対して抱いとった価値より、遅いんやろか」
「…ご質問の意味を図りかねます」
「ボクなあ二十四で死んだん」
 ひゃは、と笑って市丸は左手を振った。
 沈黙したから、視線をそらして言う。
 
 
「なんでもないわ。忘れたって」
 
 
 死んで失う最大のものは、誰にも等価だ。
 だけどそのあと、生きるべき世界において強弱をきめるものは何なのか。等しく失ったはずなのに、目覚めて与えられるものはどうにも不平等である。
「…夭折されたものと思っておりました」
 興味をなくしたような声で、ふぅん、と市丸は相槌を打つ。
「最初にお会いした時は、もっと幼い姿でいらっしゃったでしょう」
「ボクの意思やない。気がついたらアレやった」
「では、今のお姿は、隊長ご自身の意思によるものなのですか」
   
 
糾弾か

 
と思う。
 
 
「どういう意味」
「成長されたのは。それは、隊長の御意思によるものなのかと」
 眩暈を覚えるほど真摯な目をしては問うのだ。
 成長するためには霊力を蓄えなければならず…結果として生きていることは、何かを食べたことの証明になる。持っているだけで消耗してしまう。だから、喰わなければ死んでしまう。
「…せやかてなァ」
 
 
 生きたかったん。
 死にとうなかったん。
 しゃあないやろ。
 ボク、生きてもうたんや。
 しゃあないやん。
 
 
 そういう本音の色々は、どうしても吐き出せずに別の言葉を口にする。
「もう済んだことやないの」
 逃避だと知りながら笑って答えた。
 済んだことだから、もう、何を言ったって戻らないし変わらない。
「そうですね」
 苦笑するように微笑んだ彼女は糾弾などしていなかった。
 そして市丸はその素直ですこやかな表情を息苦しく思う。
 たくさん殺して、という非難の言葉を何度となく聞いてきた。けれどそのなかで、無駄に血を流して、と影で嘆かれるのには、違う、と言いたかった。
 何もかも、食べれば食べた分だけ血や肉になり、この身を生かす。
 そうしないと食べられないから殺すのだ。
 穏やかなこの死神ならば喰らわずとも生きられるのだろうか。
 御伽噺であることは理性が知っていて、現実であることを深い所で願っている。
「せやかて」
 先程と同じ台詞を繰り返して、市丸はもう笑えなくなってうつむく。
 強く、なりたかったのだ。ひとりきり生きてゆかれるほどに。
 せやかて殺さな喰われへんやないの、と言うのを、は黙って聞いていた。

 

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