第1回  2月第3週 「脈絡がなくてナンセンス」



読了本
  宮内勝典『宇宙的ナンセンスの時代』(新潮文庫)
  高田崇史『月に酔 麿の酩酊事件簿』(講談社ノベルス)
  林泰広『見えない精霊』(カッパ・ノベルス)



 まず「週間読書日記を書こう」という意識だけが先行してしまい、「記念すべき第1回はこんなものについて語ろう」とい
う具体的なビジョンを何も持っていなかった。なのでこのような脈絡のない読書をしてしまった。この3篇をもとに文章を
書くというのは、三題噺みたいなものだ。来週からは1週間である程度テーマに沿った読書をしようと思う。
 上記の3冊を、それぞれ種類で表すと、取材ノート的ルポタージュ・ミステリ(ライト)・ミステリ(本格)となるか。

 とにかく1冊目のそれが異彩を放っている。というより、僕のこれまでの読書遍歴の中でも異様な本であると思う。紀
行文というのは嫌いじゃないのでけっこう読むのだけど、一筋縄のそれとも異なった感触がある。この本は『ぼくは始祖
鳥になりたい』という長編小説のフィールド・ワークらしく、それはまだ読んでいないのだが、取材ノートの段階でこれほ
どの感動を与えてしまってよいものなのだろうか。
 内容はというと、著者が前世紀末のアメリカの様々な場所に行き、いつでも地球を破壊することのできるほどの大量
の核を抱えこんだ、このナンセンスな現代世界について、個々人の意識を訊ね、その現代を生きる肯定的なヴィジョン
を捜し求める、というようなもの。しかしまあ、要するに『宇宙的ナンセンスの時代』について語った本である。題名の通
り、それ以外に言いようがない。
 書かれたのはもはや20年近くも前で、もう世紀末でもないのだけど、しかしこの本で語られるナンセンスさというのは、
今現在においてもほとんど変わっていないと思う。というかこの時代よりも現代のほうがもっと雰囲気は悪くなっている
のではないだろうか。
 このひっちゃかめっちゃかな世界で、僕らはしっかりと自覚を持ち、模索していかなければならない。そうしないと、生
きているのって本当に無意味だ。ナンセンスだ。しかしその一方で、模索すればするほど、やはりこの世界は不可解な
のだ。考え出すと、文明なんてものを持とうとする人間は、地球という場所で生きちゃいけないのではないかとさえ思え
てくる。「幸福」って結局のところなんなのかまだ特定できていないのに、便利さを追求したり、邪魔なものを排除した
り。それってなんてナンセンスなんだろう。
 宇宙へ進出しようとする動きは、戦争で地球を破壊するよりはよっぽど有意義……いや、果たしてそうだろうか? こ
れまでの歴史ではナンセンスさなんて言及されなかったのに、最近になってそうなっているのは、人間が地球を手篭め
にしてしまったからだろう。地球は支配してしまったから、ようやく「人間の活動」というもののナンセンスさに気が付い
た。けれど、だから宇宙に思いを馳せるというのは、なんだかそれも違う気がする。進出(というよりも侵食)こそが人間
の生きる意味──それこそ不毛でナンセンスじゃないか。宇宙を支配し尽くしたとき、人間はどれほどの虚無を感じる
だろう。もちろん、だから人間なんて死滅すべきだ、なんては言わないけれど。
 あー、ナンセンス。
 著者の小説、読んでみよう。


 そういう本とミステリを同じ俎上で扱う、というのもよく分からないな。しかし本分というか、ミステリこそが僕の基盤とな
るジャンルではある。
 この2冊は、両ノベルスの現在を比較する上でなかなかよい。傾向がよく分かる。
 まず言いたいのは講談社ノベルスの衰退だ。そう、衰退と言ってしまおう。僕にとっての講談社ノベルスのイメージは
やはり新本格ミステリということになるのだけど、最近のこの叢書のコミック化ときたら。もはやその進行ぶりは潔くて
清々しささえある。「うちはもう、マンガみたいなライトミステリに徹底しよう」って取り決めたんだろうか。たしかに初期の
新本格でデビューした輩はあんまり書かなくなったけど、それにしてもこんな方向にばかり突き進むことはなかったので
はないか。決して上質の本格を書ける人材がいなくなったわけではないだろう。その証拠が、カッパ・ノベルスのKAPP
A−ONEだ。今ここにはかなり勢いがあると思う。メフィスト賞も最盛期はこんな感じだったのではないか。「えっ、こん
なに才能のある作家がいたの?」って驚いてしまうような。
 これはきっと編集者によるものなんだろう。きっと講談社のほうは、書く前に「内省的な話を書け」とか注文されるん
だ。「ファウスト」を担当している輩あたりに。高田崇史という作家は、「ファウスト」の話とは微妙にずれる位置にあるけ
れど、やはりこういうんじゃなくて、いくらでもガッツリとした本格ミステリを書ける作家だと思う。
 とにかく講談社ノベルスの最近のヤングアダルト化は見ていてつらい。そんな、「マンガなのかヤングアダルト文庫な
のかweb日記なのか、いやミステリってことはないだろう」みたいな文章、読みたかないのである。そんなものはweb上
に公開しとけばいいと思う。
 その点で、『見えない精霊』は純粋なる論理的な本格ミステリであり、原理的なものを感じた。KAPPA−ONEは最盛
期のメフィスト賞どころか、新本格ミステリ繁栄期の匂いを感じさえする。

 なんだか三題噺どころか、それぞれの本の内容についての言及もせずに、僕の「ライトノベルスをなんとなくミステリに
しようとする姿勢が嫌い」という立場を露呈しただけだったな。
 ほんと、来週からはもうちょっと脈絡のある読書をしよう。



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