こういう歌はひどく好みである。
洗練された言葉であるはずの短歌は、当然ながら普段目にするような文章とは異なった言い回しであるべきだと思
う。というか本当に洗練されているならば、普通の文章と違ってくるのは当然だ。なにしろ短歌は一千枚使って説明する ことを31文字で言い切っているのだから。
ただ文章を5・7・5・7・7にしたのみ、みたいな短歌にはなんの価値もない。
そんなわけでのこれである。
これは、まるで「われ」という大長編小説の目次のようではないか。「第一章 男の子(おのこ)」「第二章 意気の子」
みたいな。
ただもうそれだけなのである。目次を読み上げただけのような短歌。
それなのに、というかそれだからこそ物語が膨らんでくるのだ。思い浮かぶ主人公の姿には、愛着が湧かずにはいら
れない。夏目漱石の三四郎にも似たその姿は、様々なエピソードを想起させる。
つまり、もはやこの31文字をじっくりと噛み締めると、一冊の良質な小説を読んだような気持ちになるのだ。これこそ
短歌の醍醐味だろう。
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