『嵐の夜』
海の天気は変わりやすい・・・
ハイドが、しばらく船の近くで、またさっきの人が顔を出さないかと思って待っていました。
すると、突然波が荒れだしました。
風が吹き、雨が降ってきました。
それらは、次第に酷くなっていきます。
さっきまでの船から聴こえてきていた楽しそうな音楽が消え、
人々の明るい笑い声は悲鳴に変わっていました。
「さっきの人大丈夫やろか・・・」
ハイドが心配そうに船を見つめていた、その時です。
「あっ!!!」
大荒れの海は、船に牙を向きました。
船は耐え切れずに、高い波に海の中へ引き込まれていきました。
海にはたくさんの人が、
船の残骸に必死掴まっている人。
助かろうと必死に泳いでいる人。
そして、中には溺れ死んでいる人も・・・
「・・・酷い」
ハイドはしばらく唖然とその様子を見ていました。
自分達人魚には無くてはならないこの広い海が、
突如、何にもしていない人間に牙を向く・・・
それを、ハイドはとても悲しい事だと思いました。
「・・そうや!!あの人っ!!」
ふと、ハイドは我にかえり、
さっき見たあの人を探し出しました。
でも、この嵐の中探すのは困難です。
しばらくしてハイドが諦めようとしたその時です。
目の前に波にのまれ今にも溺れそうな人が見えました。
雨でよく見えなかったけど、確かにあの人でした。
ハイドは気を失っていたあの人を素早く抱きかかえると、岸に向かって泳ぎだしました。
「お願いやから、死なんといてっ・・・」