天邪鬼

ととと、コテン。
「あ、索」
廊下でころんだ二人目の弟に、兄の関平が駆け寄る。
膝を折って助け起こす兄の心配を他所に、やっと三つになったばかりの関索は顔色ひとつ変えず平然としている。
「痛くなかったか?お前は本当に強い子だな。兄がお前くらいの頃はもっと泣いていたものだぞ」
埃をはらってやるとコクリと会釈して、またよちよち歩きだした後ろ姿に唇を綻ばせ、縁側に腰掛ける。
にこにこと微笑んでいる関平の背中に、ちいさな温もりがぶつかる。
振り返らなくても誰なのかわかっている、関興だ。
いつも遊びにばかり精をだしているくせに関索を構うと、いつの間にか側にきていたりする。
自分に下の兄弟はなかったのでよく分からないが、関索の兄という立場が邪魔しているのだろうか、素直に甘えず背中をあずけるに留めている。
実家の兄も、こんな気持ちだったのだろうか。
「なんだ?お前も構ってほしいのか」
「―ち、違います!」
からかうと、そっぽを向いてしまうが離れようとはしない。

 可愛いものだ。

「この天邪鬼め。こい」
「違うと言っているではないですか!」
逃げる小さな背をつかまえて、膝の上に抱くと観念して大人しくなるのだが。
「なにをするのですか、兄上!興はもう子供ではないのですぞ!」
まだ、口では反抗する気らしい。
「なにを言う、まだ子供ではないか。素直に甘えても罰は当たらぬぞ」
「あ、兄上がそうしてほしいのなら・・・仕方ありませぬ」
仏頂面をつくりながらも、肩に頭を預けてくる。
「全く、いらぬ所まで父上そっくりだな」
「似てなどおりませぬー!!」
途端に暴れだした関興を難なく抱き竦め、なだめるように髪を梳く。
まだ細く柔らかい髪からは日向のいい匂いがした。
「兄は好きだぞ?」
「・・・・・・・・?」
どういうことだろうと怪訝な顔をしたが、一息つき。
「兄上がお好きなら、それで良いです」
「・・・ッククク」
「! なぜ笑うのですか?」
「す、すまない。あまり可愛いことを言うものだから・・・ククク、あはっ」
「笑わないで下されよ!」
ムキになって首にしがみ付かれて押し倒してくる弟を抱きとめながら、しばらく笑いが止まらなかった。

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