記憶―Loss of Memory
昔、誰かをとてつもなく愛していて。
その人無しでは生きられなくって。
だけど、目を一回閉じたら誰を愛していたか忘れてしまった。
それくらい人間の愛は儚いものなのだろうか?
「ロイ・・・・・ここどこなの?」
「病院だ。」
「なんで?」
思い出せなかった。
なんで自分の手首と足首に包帯が巻かれているのか。
なんで自分の右目が使い物にならないのか。
「思い出さなくていい。」
ロイは顔を青く染めたまま私に抱きついてきた。
記憶
「もう3ヶ月か・・・・。」
何かを失って。
誰かを思い出せなくって。
もう3ヶ月が過ぎた。
手首や足首に巻かれた包帯も取れて、腕が軽い。
ただ、右目が使えないだけだった。
「いつ退院だ?」
「明後日だってさ!」
ロイは毎日会いに来てくれた。
「・・・。」
「何?」
「もし良ければ、私の元で働かないか?」
ロイの申し出は嬉しかった。
「嬉しいけど・・・・でも・・・」
断る理由は無かった。
どうせ、家に帰っても職は無かった。
今まで誰かに養ってもらっていた気がした・・・。
忘れた 誰かに。
「断る理由はないだろう?」
「ないけどさ・・邪魔にならない?」
「ああ、平気さ。」
「そうじゃなくて、リザさんの手間が増えちゃう。」
私はいつもロイの傍に居る女性の顔を見た。
彼女はリザと言ってとても綺麗で冷静で完璧な人だ。
「私はさんが来た方が大佐の仕事がはかどると思いますよ。ねぇ大佐?」
「・・・本当?」
念には念を!
私は石橋を叩いて渡るやつだ。
まぁ、時々叩いて渡っても失敗するけれど・・・。
「嘘はつきませんよ。」
完璧な人が私に笑いかけてくれた。
それだけで心が軽くなった。
「なら、喜んで。」
「リザさんっ!!」
退院して、この職について2ヶ月が経つ。
私が何かを忘れて。
誰かを失って。
5ヶ月が経つ。
すっかり私はこの職に馴染んでいた。
「補佐官・・・どうしたんですか?」
「近所の方においしそうな果物を貰ったんです。お昼一緒に食べませんか?」
大佐補助なんて役柄、ハッキリ言えばロイの世話係りだ。
でも、リザさんが居るから私は何もしない。
ただ、みんなのお茶入れたり、お菓子差し入れしたり、ロイやハボックさん達の愚痴を聞いたり。
それくらいの役だ。
「いいですね。」
リザさんが微笑んだ。
私も微笑んで張り切った心とは裏腹に。
「では、いざ!昼食へ!」
私は誰を忘れたのでしょうか?
神様
もし思い出せるなら
私は左目さえ見えなくなっても
恐怖を感じない。
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