精神安定剤
精神安定剤
昼寝していたら、指の先に何か当たって。
目を覚ますと、アキラが隣で寝ていた。
顔が、近い。
こっちを向いて、寝てる・・・・。
ケイスケが知っていた昔のアキラは、
・・・昼寝なんかしなかったと思う。
無防備な子供みたいな寝顔。
目はすっかり覚めてしまって。
アキラの唇に指先で触れて、すぐに引っ込める。
一瞬、びくりとアキラが動いたが。
まだ眠ったままなので。
そっと唇を重ねた。
すぐに離してもう一度。
・・・柔かくて、暖かくて。
もう一度重ねて、ほう、と小さくため息をつく。
頬が熱くなって、口元がにやけるのがわかる。
アキラと一緒にいると、自分が薄皮一枚で
この世につながっているという感覚が薄らぐ気がする。
精神安定剤 そんな言葉が浮かぶ。
もう一度、いいだろうか。
顔を近づけると。
どたどたと、廊下を歩く足音。
慌てて顔を離して、寝たふりする。
「あ、なんだ・・・寝てるのか、２人とも」
・・・同居人の源泉。
音が遠ざかって、また戻ってくる。
ふわりとしたものが、上から被さって来る。
あ、毛布かけてくれたんだ。いい人だ。
ケイスケの瞼がぴくぴくして。
・・・早くあっちの部屋に行ってくれればいいのに。
酷いことを思う。
「気持ちよさそだなあ・・・」
そうつぶやくのが聞こえて。
アキラを挟んで向こう側にごろりと寝転んで。
すぐに寝息が聞こえて。
起き上がると、源泉がアキラの腰を抱くようにして・・・寝ている。
熟睡。いびきまじり。
昼くらいまで徹夜明けで仕事してた、そういえば。
「むう」
源泉の手を剥がしたいけれど、我慢して。
かわりにアキラの手をそっと包むように捕まえて。
冷たいと思った指は、暖かくて気持ちいい。
アキラと自分と源泉の今の状況は、歪んでいると思う。
それでも、一緒にいられるなら。
指先に唇を寄せて、小さな声で好きだよ、アキラ。と囁いた。
それから。
まだ意地でも寝てやる、と思った。
「ふぁ・・・・っ・・ん・・・・・・・・・・・・・」
アキラが暑苦しさと、変な感触に艶めいた声を上げて目を覚ます。
ケイスケの妙に幸せそうな寝顔を見ていたら、自分も
眠くなってきて隣に寝たのは覚えているのだけれど。
何故ケイスケと源泉が自分を枕代わりに寝てるのか。
暑い。重い。
「・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・やめっ・・・」
ケイスケが、服の上から人の胸をいじっている。
目を覚まさせた、変な感触。
片手で押さえると、今度は源泉の手が腰から下の方に。
慌てて開いた手で捕まえる。
・・・ぐったり疲れる。寝た意味がない。
何故この２人はこうなんだろうか。
アキラが好きだといっては、かまいたがる。
全部欲しがる。
アキラにそれを受け止めるキャパが育っていないので、
暗黙の了解でなあなあになっているが。
いつかどちらかが好きだ、と言うのだろうか。
何とか引き剥がして上半身を起こし、２人の寝顔を見る。
あまりに幸せそうな寝顔を見て、嬉しいような気がするのは。
好き、なんだろうか。２人とも。
喉が渇いて、台所へふらふらと向かう。
コップに注いだ、よく冷えたミネラルウォーターを飲み干して少しだけ、生き返った気がした。
机にぐったりもたれかかって、ため息をつく。
肉体的な解決なら、知識として３人でも出来るのは知っているが。
死ぬような気がする。
自分ひとりが。
精神安定剤なんてものを、のんだらこの動揺は止まるんだろうか。
ケイスケと源泉には、アキラが精神安定剤代わりなのだけれど。
その日の夕食時にアキラがぐったりしていて、
ケイスケと源泉が輪をかけてぐったりしていたのは。
アキラは考え疲れで、後の２人は起こしに行ったら
抱き合って寝てたからだろうか。
２人とも、気まずそうに目をあわさない。
アキラは味噌汁をすすりながら観察していて。
（こいつらがくっつけば、ラクなのに・・・）
酷いことを考えていた。
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